<2> 遅れたのは誰のせい?
俺たちの向かう学校、天河学園はこの街、天河市の唯一の高校だ。
将来やりたい事やなりたいものをまだ考えていない俺と怪也は、通学の手間だけを考えこの高校を選んだ。偏差値は高くもなく低くもなく。
中学でそこそこの成績を取れていた俺には入試はたいしたことはなかった。苦戦していたのは怪也の方だ。中学ではバスケ一筋だったあいつに学力というものはなかった。三年になって「文字式?」なんて言っている中学生がいていいのだろうか。
「怪也を合格させるために勉強を教えてやって欲しい」
と怪也の母親に頼まれた事もあったな…。あいつもそろそろ自覚して勉強してほしいもんだ。…なんか親目線になってるな。
歩いていたら、俺たちと同じ制服を着たやつらを何人か見かけた。恐らく同級生か、もしくは先輩たちだろう。
中学での先輩にはかなりいじられた。時には襲われそうになった事もあった。その時には相手は地面にうずくまる羽目になるが。
そのような感慨にふけっていたら、いつの間にか学校が見えてきた。白い外壁は日の光を反射し、その新しさを物語っている。
天河学園はまだ設立して10年と経っていない。つまり、俺たちが小学校の頃くらいにはまだ工事中だった。それが将来自分の通う高校なのだと当時の俺は思わなかっただろう。
気が付いたら大人しく後ろをついて来ていた怪也と共に、校門をくぐった。どうやらここには桜が植えられているらしい。粉雪のごとく舞い散る花びらが俺たちを迎えてくれた。
「桜…綺麗だな」
「だな。久しぶりに見たぜ」
怪也が案外まともな回答をするので少し戸惑ったが、そう言えばこういう景色などが好きと言っていた事を思い出し、笑ってしまった。その図体でロマンチストかよ。
桜吹雪を抜けると、昇降口は新入生で溢れかえっていたのを見て、思わず怪也を睨んだ。
お前が今朝あんな事するから混んだだろ!
そんな俺の視線にも気づかず、怪也はその中に入って行こうとした。飛び蹴りを食らわせてやりたい所だったが、さすがに場所が場所なため諦めた。
「新入生はこちらで生徒証明書を提示して下さーい」
奥で案内する声に従い、顔写真付きの生徒証明書を見せた。確認していた担当の女性の目が見開いたのは、この際もう気にしなかった。