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始まりのその先で生きる

五歳になる頃、

Yusakaの力の第一の欠片は、まだ部分的にしか目覚めていなかった。

それでも――

その存在感だけで、彼は周囲から際立っていた。


澄み渡る雲。

晴れた空。

強くも穏やかな風。

太陽は高く、眩しく輝いている。


花が一面に咲き誇る野原の中に、Yusakaは立っていた。

右手を掲げると、静かに何かが薄れていくのを感じる。

白かった髪が、ゆっくりと黒へと変わっていく。

新しい人生へと溶け込んでいく感覚に、

Yusakaはかすかに微笑んだ。


――その瞬間。


Kuroseは目を覚ました。


(……夢、だったのか?)


右手と右目を閉じたまま、心の中でそう呟く。


しばらくして――


部屋の扉が開く。


右手に数枚の書類、

左手に果物籠を持って、Helyが入ってきた。


「Kurose!」


落ち着いた声。

穏やかな表情。

そして、ほんのりとした微笑み。


「はい、母さん。

どうかしたの?」


Kuroseは同じく落ち着いた声で答えた。


「ええ、Kurose。

この書類と果物を、村長補佐のところへ届けてくれる?」


「分かったよ、母さん」


Kuroseは笑顔で頷いた。


「お昼は何を食べる?」


Helyが尋ねる。


「……僕の好きなもの、作ってくれる?」


少しだけ強気な声。

だが、その瞳には期待が満ちていた。


(本当に、この子は欲張りね……)


そう思いながらも、

Helyの表情は柔らかく緩む。


「いいわ。

帰ってきたら、好きな料理を用意して待ってるから」


Helyは書類と果物籠を机に置き、微笑んだ。


「じゃあ、お願いね」


そう言って、部屋を出ていく。


――ほどなくして。


Kuroseは書類と果物籠を手に取り、家を出た。


澄んだ雲。

穏やかな風。

黄金色に実った畑が広がる道。


(この世界は……静かで、平和だ)


(……なんだか、好きだな)


Yusakaの記憶が、心の奥で囁く。


(原初の不死者たちは、今どうしているんだろう……)

(元気にしているだろうか)

(ちゃんと、食事はしているだろうか)


――彼らは、まだ人間だ。


(でも、大丈夫だ)

(僕がいなくても、やっていけるように創ったんだから)


「いい家族がいる……

優しい父さんと、母さん。

それに、もうすぐ新しい家族も増える……」


(この人生で……

僕は、そこに辿り着けるのだろうか)


Kuroseは、静かな希望と疑問を胸に歩き続けた。


やがて――

村の入口が見えてくる。


門の両脇には、二人の衛兵が立っていた。


「あと二年、だよな?」


「そうだ。待ちきれないな」


「誰が選ばれるか、予想してみるか?」


「いいね、賭けよう!」


そんな会話を交わす中――


「おっ、Kuroseじゃないか」


「こんにちは」


少しだけ緊張した声で挨拶する。


「準備は進んでるのか?」


「え、えっと……

まあ、それなりに」


(言えない……

全然準備できてないなんて)


「まあ、頑張れよ!」


「ありがとうございます」


Kuroseは門をくぐり、村へ入った。


(あと二年……か)

(僕も、準備しないとな)


しばらくして――


村長補佐の執務室に到着する。


「おや、Kuroseじゃないか」


「こんにちは、Helveinさん」


書類と果物籠を差し出す。


「母に頼まれて、届けに来ました」


「いつもありがとう、Kurose」


満足そうに微笑むHelvein。


「訓練の手伝いが必要なら、言いなさい」


(この人もか……)


「……え?」


「何か言ったかい?」


「い、いえ!

必要になったら言います!」


「そうか。じゃあ、またな」


「はい!」


Kuroseは執務室を後にした。


道を歩きながら、左を見る。


「……すごいな。

みんな、もう訓練してる」


(そこまで、やる価値があるのかな……)


(……いや。

僕も、やってみよう)


やがて村を出て――

家へ戻る。


「母さん!」


「書類と果物、届けてきたよ!」


「ありがとう!

もうすぐ行くわ。

好きな料理、もう用意してあるから、先に食べてて!」


台所から声がする。


机の上には――


「……蜂蜜パンだ!」


嬉しそうに声を上げる。


「ありがとう、Kurose」


「大したことじゃないよ、母さん」


「今すぐ食べていい?」


「もちろんよ」


籠を持ち上げて尋ねる。


「庭で、一人で食べてもいい?」


「……ええ。

でも、本当に一人で大丈夫?」


「うん。

今までもそうだったでしょ?」


自信に満ちた表情に、Helyは小さく微笑む。


「分かったわ。

でも明日は、一緒に食べましょう」


「うん!」


夕暮れが近づく庭で――


Kuroseは寝転がり、空を見上げる。


(いつからだろう……

一人で食べるようになったのは)


(この体では、まだ二年だけど……)


(……一人の方が、落ち着くんだ)


目を閉じると――


温かな灯りの部屋で、

YusakaとRinが二人、向かい合って食事をしている。


「ねえ、Yusaka-kun。

質問してもいい?」


「何でも聞いていいよ。

結婚式の場所でもね」


「ば、馬鹿!

早すぎるでしょ!」


「二年後だから!」


「うん」


「……もし、私が死にそうになったら、どうする?」


「もちろん、助ける」


その直後――

Rinは、消えた。


静寂。


天井を見つめるYusaka。

かすかに微笑み、食事を続ける。


――現実へ戻る。


Kuroseは息を吐き、

蜂蜜パンを一口かじる。


空を見上げ、静かに呟いた。


(受け入れて生きるって……

簡単じゃないな)


「……本当に、難しい」

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