――愛で満たされよ。
――愛で満たされよ。
広大な大広間だった。
天井は高く、石柱が幾本も並び、その周囲を――数え切れないほどの人々が取り囲んでいる。
正面には、王とその側近である騎士たちが立ち、こちらをじっと見つめていた。
「……ここは……どこだ……?」
ユサカの声は震えていた。
次の瞬間――
「勇者だ!!」
「魔族から我々を救う勇者が来たぞ!!」
歓声が、爆発した。
希望に満ちた声。
喜びに輝く瞳。
「勇者召喚は成功した!!」
「世界を救う者が、ついに現れたのだ!!」
王が、誇らしげに宣言する。
ユサカと凛は顔を見合わせた。
状況が理解できない。
胸を締めつけるのは、恐怖と混乱だった。
「――静まれ!!」
王の一声で、騒然としていた大広間が、波が引くように静まり返る。
「……あなたは誰ですか」
ユサカは王冠を戴く男を見据え、問いかけた。
声には、わずかな震えが滲んでいる。
王は落ち着いた口調で答えた。
「我はこの王国の統治者。
レヴィシア王国国王――レグルス・レヴィシアだ」
威厳に満ちた声だった。
「この世界の理を語る前に――」
王の視線が、凛へと向けられる。
「そちらの女性は何者だ?
召喚された勇者は一人のはずだが」
「それなら……なぜ――」
王の表情が僅かに強張る。
不安が、胸中をよぎった。
人々がざわめき始める。
「……分かりません」
ユサカは一歩前に出た。
「でも、彼女は俺の友達です。
鈴見 凛。
そして俺は――黒瀬ユサカです」
その声は、不思議なほど落ち着いていた。
――そのとき。
「聖女も現れたぞ!!」
一人の声が響いた。
「これは神の慈悲だ!!」
再び、大広間が歓喜に包まれる。
やがて静まり――
「勇者よ」
レグルス王は静かに告げた。
「この世界の歴史、そして――お前たちに与えられる力について話そう」
――千五百年前。
この世界には、人と神のみが存在していた。
神々は人を導き、
人は神の教えのもと、繁栄していた。
古代の人類は、一国を滅ぼすほどの力を持っていた。
だが――
永劫を生きた“古代竜”が滅びたことで、世界は狂い始める。
古代竜は純粋な魔力を吸収し、
世界の均衡を保つ存在だった。
その死により、溢れ出した魔力は行き場を失い――
魔族を生み出した。
理性を持ち、
人語を解し、
悪意に満ちた存在。
やがて――
魔王が誕生した。
彼は多くの王国を滅ぼし、
神々を封じ、
古代人類を根絶した。
魔族のための世界を築き、
人類を“遊び”として弄ぶ存在。
「旅をすれば、滅びた王国の遺跡、封じられた神々を見ることになるだろう」
王はユサカを見据え、告げる。
「そして力についてだ」
「お前たち二人には、神々の加護が与えられる。
女神自らが、お前たちを導く」
やがて――
光が差し込み、二柱の存在が現れた。
光の女神――レナ。
虚無の女神――アリア。
「この者たちが、召喚された者ですか?」
「そうだ」
「……こちらの女性が、例外ですか?」
「その通りだ」
ユサカと凛は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「我は光の女神アリア。
勇者よ、魔王討伐へ導こう」
「虚無の女神レナです、聖女様。
共に使命を果たしましょう」
その夜。
城の一室。
「……同じ部屋、なんだね」
凛は頬を赤らめた。
「う、うん……」
バルコニーに出る二人。
月が、静かに照らしている。
「……寒いね」
ユサカは黙って上着を差し出した。
「……ありがとう」
「……なあ凛」
「本当に、俺と一緒に戦うつもりなのか?」
「うん」
「危険だ。死ぬかもしれない」
「分かってる」
「……それでも?」
凛は微笑んだ。
「……分からないの?」
そして――告げた。
「好きだよ。ユサカくん」
沈黙。
「……俺は」
「お前を守る」
「何があっても」
凛は笑った。
二人は、そっと抱き合った。
「……ずっと一緒だよな?」
「うん」
――五年後。




