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第七章 二つの「正義」

シキシマの北、常に黒雲が渦巻くチャンナの王城。

その広場を埋め尽くしていたのは、飢えに苦しみ怒りを燃やすトロールたちだった。


「いいかテメエら! よく聞けッ!!」

演説台に立った魔王ベヒモスの咆哮が、軍勢を震わせる。


「俺たちトロールは大喰らいだ! だが『双魔の冬』前から、この枯れた土地じゃあ作物一つ満足に育たねえ。国の食糧庫は底をつき、今この瞬間も、ガキどもが飢えて泥を啜りながら死んでいってやがる! テメエら、そんなのが望みか? ――ちげえだろぉ!!」

地を割るような鬨の声。ベヒモスは拳を天に突き出した。


「今こそシキシマの壁をブチ破り、痩せこけたガキどもの腹を満たしてやれ! 持てる者から奪うのは『正当な回収』だ! 全員、命を燃やしやがれッ!!」


熱狂に沸く軍勢を見下ろしながら、ベヒモスは胸の内で自身に言い聞かせる。

(……間違っちゃいねえ。奪わなきゃ俺たちは飢えて死ぬんだ。強者が奪い生き残るのがこの世界の理だ。俺たちが生き残るためなら、俺は何だってやってやる……!)



一方、永久凍土に閉ざされたルーシャの氷の宮殿。

数多のオーガたちが静まり返り、一人の王を見上げていた。


「皆、心して聞いてくれ……」

魔王スリュムが、静かに氷の長剣を抜き放った。

「いにしえより我らの領土の多くは氷に閉ざされていた。だがこの数十年、その氷は広がり続けている。今や民の住処は雪に埋もれ、我らオーガは滅亡を待つばかりだ。……我々はこのまま、静かに凍え死ぬべきか? ――断じて、否だ」


巨人たちの瞳に、悲痛な光が宿る。

「今こそシキシマへ侵攻する。彼らは豊かな土地を独占し、我らの窮状をあざ笑っている。その傲慢を正し、我らが生き延びる地を確保せよ。これは生存を賭けた唯一の道、我らの『聖戦』である!」


慟哭に似た咆哮が宮殿を揺らす。むせび泣きながら武器を取る巨人たちを見つめ、スリュムはその瞳に冷酷な覚悟と、民への慈愛を宿した。


(……我が民に罪はない。ただ不運なだけだ。 この呪われた凍てつく地で、住処さえ失い、子供たちが凍え死ぬのを黙って見ているわけにはいかない。 ならば、地を持て余す者からその権利を剥奪するのが、世界の摂理。人間よ、恨むなら我を恨め。これが我が民を救う唯一の手だてなのだから……)


両魔王軍の咆哮が、それぞれの城を震わせた。

シキシマの空に、遠くから地響きが届き始めた。

それは、飢えと凍えの果てに生まれた、 もう止めることのできない、侵攻の足音だった。

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