表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第六章「平和」の代償

大総統府、円卓議場。

重厚な大理石に囲まれたその場所で、大総統レグルスは、深まる疲労を隠すように眉間を指で押さえていた。


「レグルス様。先日のエセリアル召喚に対して、第二隔壁の住民から抗議の声が殺到しております…。いたずらに武力に頼らず、まずは和平の使者を送るべきなのでは?」


『倫理の光』党首プロキオンが、確信に満ちた声で告げる。

レグルスは冷めた目で彼を見つめ、静かに問い返した。


「……プロキオン。我が国が城塞国家となって以来、両魔王へ4度に渡り和平の使者を送った歴史を忘れたわけではあるまい? その全てが一笑に付され、4度目の使者に至っては、樽に詰められた肉塊となって突き返されたのだぞ」


「レグルス様、それは30年も前の、先代大総統の話です!」

若手の急進派議員が、他国の成功例を記した書類を提出した。


「わが国も、隣国スピカのような中立国は目指せないのですか?彼らは複数の周辺国や魔族たちと不可侵条約を結ぶだけでなく、活発な交易さえ行い、経済を潤しております。壁や神に頼らずとも、平和を維持しているではありませんか。なぜ我々は同じ道を歩めないのですか?」


重く、沈痛な沈黙のあと、レグルスはゆっくりと口を開いた。

「……スピカか。確かに、あそこは平和で美しい国だ。だがな、その『平和』が何の上に成り立っているか、君は本当に知っているのかね?」


レグルスは、軍事報告書を議卓に叩きつけた。

「スピカでは、15歳以上の国民全てに5年の兵役と、魔道具の携行が義務付けられている。重武装の大型トロール程度なら簡単に消し飛ばすが、使用者の寿命をごっそり削り取る死神のような武器だ」


静まり返る議場。大総統の言葉は、冷徹に続く。

「有事になれば、全ての民家が軍事拠点になり、全ての国民が兵士となる。彼らは『話し合い』で平和を得たのではない。『我々を怒らせれば、一兵残らず貴様らを道連れにする』という、凄まじい殺意と覚悟を突きつけて、魔族を交渉のテーブルに座らせたのだ」


レグルスは議員を射抜くような目で見据えた。

「君たちが憧れる平和の裏側には、そういう血生臭い対価がある。ひるがえって、我が国の国民はどうだ?どんなに啓蒙活動をしても、 守り手である騎士団を軽視し、自らは武器の持ち方すら知らず、エセリアルの盟約に不満を漏らす。……彼らに、スピカのような『覚悟の平和』が務まると思うかね?」


議場に冷ややかな沈黙が流れる。

プロキオンは唇を噛み、若手議員は黙り込んだ。

レグルスの発言は、正に言葉の暴力だった。

しかしそれこそが、崩れゆくシキシマを繋ぎ止めている楔であることに、気づいている者は少なかった。


(…儂も毎晩のように夢を見るよ。昔のように人間と魔族が共生し、笑い合っていた平和な時代を。…だがもう、あの頃には戻れぬのだ……)

レグルスの瞳には、海よりも深い悲しみが宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ