表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第十章 静寂の街

空からは、雪のような白い灰が静かに降り続いていた。

かつて数万の軍勢であったものが、風に乗り、シキシマの街を染めていく。

街は墓場のような静寂に包まれていた。

衝撃波でひび割れた窓には厚いカーテンが引かれ、市民たちは家を固く閉ざした。

あの理不尽な光を見た後に、外に出る者は皆無に見えた。


宿舎へと戻るリゲルの前に、プロキオンが現れた。

彼は、キノコ雲が消えゆく地平線を見つめ、掠れた声で問いかけた。

「……これが、お前の正義なのか? 多くの命を、ただ一瞬で奪い去っただけではないのか…?」


リゲルは、自分の震える手を見つめたまま、力なく答えた。

「俺は…魔王軍から皆を救いたかっただけなんだ。だが、俺のしたことは間違っていたのか……?」


その時…路地の隅から、かつて会った少女が、震える足取りで現れた。


「おじさん…」

彼女は目に涙を溜め、恐怖に腰を引きながらも、リゲルのもとへ駆け寄ってくる。


リゲルは反射的に顔を背けた。

「来るな!…俺を見ないでくれ…!」


だが、少女の小さな指先は、迷うことなくリゲルの汚れた籠手に触れた。


「…怖かった。あの光、すごく怖かったよ…」

少女はしゃくり上げ、大粒の涙をこぼしながら言葉を絞り出す。


「でもね…今おじさんが、一番怖がってて、辛そうに見えるの……いつも、一番頑張ってくれてるのに……」

少女の嗚咽が、静かに響く。


少女に続くように、次第に多くの人々が姿を表す。

以前粥を振る舞ってくれた人たち以外にも、子供たちや老人、家族連れの市民たちが、 恐る恐る近づいてくる。

第三隔壁で、魔族の咆哮と無慈悲な炎を、誰よりも間近で見た人々。

皆一様に不安な表情だが、その眼差しは優しさを帯びていた。


「リゲル様……」

数人の女性たちが、リゲルの傍らに跪いた。

「私たちは、知ってしまいました。エセリアル様は、私たちを愛してなどいない。あの方はただ、契約のままにそこにあるだけ。……そんな恐ろしい重荷を、あなた一人に背負わせ、私たちは安全な場所でただ平和を享受しておりました…」

女性の震える声には、深い自責の念が宿っていた。


プロキオンが、耐えきれないというように叫ぶ。

「だが……これほどの数の命を殺してしまったことは事実だ! 」


その言葉に、一人の女性がプロキオンに迫る。

「何が『殺した』よ…!」

女性は涙を浮かべ、声を震わせながら続けた。


「リゲル様がこんな決断をしなきゃいけなくなったのは誰のせい?…… 私たちが、平和に無関心だったからじゃないの…?」


プロキオンは言葉を失い、少女に抱きつかれて震えるリゲルの背中と、自分を糾弾する女性たちの瞳を見つめた。

「……これが、お前たちの選んだ答えか」

プロキオンはそれ以上何も語らず、灰の降る闇の中へと静かに去っていった。


アンタレスが、リゲルの隣で静かに告げた。

「リゲル様…。皆、平和を愛しております。ですが、その愛し方があまりにも違いすぎた。…もう、この地における我々の役目は終わったのかもしれません」


リゲルは、静かに頷いた。

白い灰が降る静寂の中、彼はある決意を宿した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ