008 王都へ
「ふわぁ」
隣には誰かの寝顔があった。
「え?」
徐々に意識が覚醒していく。そういえば、昨日は紗奈さんの隣で寝たんだった。それにしては距離が近い。
体を起こすと、自分たちの状況が分かってきた。要は雑魚寝状態なのだ。紗奈が僕のベット、僕が紗奈のベットに入れ替わっている。
「んぅ、誠くん、もう朝ですか?」
紗奈が寝ぼけたまま僕に抱きついてきた。
「もう少しだけ寝かせてくださいよ…」
これは、どうすればいいんだ?僕は今人生の岐路に立っている。この状態から紗奈を起こすのはかなり大変だし、かといってこのままでも紗奈が起きてくれば状況は悪化する。
僕が動揺していると、
「ふわぁ、おはよう、ござい、ます?」
紗奈が起きた。僕に抱きついた状態で。
「紗奈さん、起きた?」
首だけ動かして振り返る。すると、目の前に紗奈の顔があった。抱きついていたから当たり前だが、とそんなことを考えているうちに紗奈は状況を把握したようだ。
紗奈が僕から手を離し、耳まで真っ赤にして何か言ってきた。
「え、えっと、これは、その、人恋しくなったというか、その、」
「いや、紗奈さん、もう言わないでいい。取り敢えず今回のことは記憶から抹消しよう。」
「はい」
紗奈さんが少し不満そうに頬を膨らませて言ってきた。かわいい。でも、何が嫌なのかな?
「えっと、今のだとだめだった?」
「知りません!もういいですよーだ。」
なぜか紗奈に怒られたが、仕方ないので話を続ける。
「それじゃ、そろそろ出発したいんだけど…」
「そういえば、誠くん、何か忘れてませんか?」
「え?」
特に忘れたものはないと思うけど…
「昨日の罰ゲームですよ。誠くんは私の言うことをなんでも聞くんです。」
「やばいっ完全に忘れてた。」
これは何をやらされるかわからんぞ。
「さ、さて、じゃあ誠くんには、私を抱きしめてもらいます。だ、だって私だけ誠くんを抱きしめるのは不公平じゃないですか。」
急に紗奈さんが早口になった。ってかそんなことするの!?
「え、えっと、紗奈さーん?判断能力は正常ですかー?」
「う、うるさいですね。正常です。四の五の言わずにやってください。誠くんは私に負けたんですからね。」
くっ、これは、もう僕の意識は完全に冴えているのに…
「わ、わかった。」
自分の顔をみたら真っ赤になっているだろう。
なぜか罰ゲームの内容を指定した紗奈も顔が紅い。
「ほ、ほんとにやる気?」
「早くしてください。」
「ゔっ」
紗奈を前から抱きしめる。何かいい香りもしてきた。それに、暖かい。思えば、人と触れ合うのは久しぶりだ。地球での15歳から3年間人肌に触れることはなかった。紗奈は好きだが、これはさすがに恥ずかしい。
三十秒ほど抱きしめたあと、体を体勢をもとに戻す。
「はぁ。」
さすがにあんな状態でいたら恥ずかしい。呼吸が乱れた。目の前にいる紗奈さんも恥ずかしいならやらなきゃよかったのに真っ赤だ。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「はい、行きましょうか。」
まだ七時なので朝食は出してくれるだろう。二人で階段を降りる。
「女将さーん、ご飯もらえますか?」
「ああ、出すからそこに座っときな。」
「はーい。」
紗奈と一緒に席に着く。まもなく料理がでてきた。スクランブルエッグとウィンナー、バターとパン。
「「いただきます。」」
「パンを食べるなんて久しぶりだね。」
「そうですね。さすがにあんな森の奥で小麦は育てられませんし。」
卵やバターを味わう。すごくおいしいな。最後の方は紗奈さんの料理がおいしいから何とかなったが、魔物のお肉ばかりだったからな。
炭水化物が美味しく、すぐに食べ終わってしまった。
「「ごちそうさまでした。」」
「それじゃ、女将さん。僕たちはもう出発するよ。」
「なんだい。なんか忙しいやつらだね。気を付けて行ってきな。お前彼女泣かせたら承知しないよ。」
「え?ま、まぁ彼女じゃあないですが…」
「「ありがとうございました。」」
宿をでて、門番のところに行く。
「昨日は、どうもありがとうございました。今から出発しようと思います。」
「もう出ていっちゃうのか。寂しいな。たまには帰ってこいよ。」
「わかりました。それでは。」
門番にあいさつをしたあと、門を開けてもらって外に出る。
「それじゃ紗奈さん。飛ぼうか。」
「はい、いいですよ。」
魔法陣を描いて魔力を流す。飛竜の魔法を見てそれを改良した術式を起動し、背中に風の羽根を生やすと同時に、羽根や体の周りから風を出す。
「あれ?これ、僕から離れたところでの起動ができなさそう。」
「本当ですか?それだったら、結構やばいんじゃ…」
「入学試験に遅れちゃうかもしれないよね。」
仕方ない。少し強引だが…
「紗奈さん、ちょっと我慢してね。」
紗奈をお姫様抱っこの状態で抱き上げる。
「えっ?え?」
とまどっているようだが、仕方ない。
紗奈さんに僕の魔法陣を描いて起動してもいいのだが、この魔法陣は結構制御が難しいので危ないのだ。
「ま、誠くーん?」
紗奈さんを落とさないように抱きしめながら飛んでいると、紗奈さんが顔を赤らめながら話しかけてきた。今日照れてばっかりだな。
「二人で飛ぶんじゃなかったんですか?」
「実は、魔法陣の付与と制御が難しそうでね。紗奈が危ないからお姫様抱っこで飛ぼうかと。」
「なんでその発想になるんですか。(べ、別に嫌というわけじゃないんですけど、心の準備というものが…)」
さすがに僕も最初はお姫様抱っこは考えていなかったのだが、この魔法すごく制御がめんどくさいのだ。慣れていない紗奈がやると危ないのでお姫様抱っこにするしかなかったのだ。
「王都まではだいたい3時間くらいだね。」
「大丈夫ですか、誠くん。魔力足ります?」
僕の全体の魔力を1000とすると、だいたい一分間に3ほど回復する。この魔法にで使う魔力は一分間に約4くらいなので、3時間程度なら余裕で飛べる。
「だいじょうぶ。最大十六時間くらいは飛べるよ。」
「それなら大丈夫そうだね。」
そもそもこの飛翔魔法は本気で改良しており、魔力の消費を最低限にしているのだ。そりゃ飛ぶだけで魔力は使っていられない。
「空から見ると王都の広さがわかるな。」
「そうですね。そもそもこの世界では滅多に高い建物がありません。」
「そういえば、ウラヌス魔法学院には貴族が入ることが多いから名字を考えとけって言われてたけど…」
僕は一応決まっている。
「私は、ルナ=フレアナイトにします。」
「火属性と夜をつなげたのか。僕はテト=スプライトにしようかな。」
「雷、ですか。確かに誠くんは風属性だけど雷を使いますもんね。」
まぁこれで二人の名前は概ね決まったな。
「お、王都が見えてきたぞ。」
「おーすごいですね。遠くから見てもかなり大きな城門です。」
中に見える城はつなぎ目がない。土属性魔法というものがあるからこそだろう。
「じゃあ、そろそろ降りるぞ。」
「わかりました。」




