003 旅立ち Vs.変異種の大鬼①
転生してから二年。
僕も月夜さんもかなり強くなり、また最初よりは連携もうまくなり、それなりに仲は良い。そして、何より僕たちは「刀」をゲットし、その鍛錬に一日の多くの時間を費やすことで、かなりの戦闘力を得ているといえるだろう。ちなみにこの刀は月夜さんが鍛えてくれたものだ。僕たちの住む家の南に広がるとても高い山脈の奥のほうから僕が見つけてきた魔法鉱石?のようなもの(ヒヒイロカネのようなものやその反対の淡い瑠璃色を帯びた鉱石、得体のしれない真っ黒な鉱石、白銀に輝く鉱石など)を月夜さんに渡して刀を作ってもらったのだ。
朝ごはんを食べながら月夜さんと話す。
「月夜さん、そろそろここから離れない?今この近くで僕たちの相手になる魔物ももういないし。」
「いいんじゃないですか?またのんびりしたくなってきたらここに戻ってくることもできますし。」
「じゃ、今日はいよいよアイツを討伐しようか。」
「ええ。ようやくアイツにリベンジをする時が来ましたね。」
「そうだな。じゃあ、ご飯も食べ終わった事だし、行こうか。」
自分たちの装備を確認する。
刀よし、皮防具よし(皮なのは今回戦うほどの相手になってくるとたいていの防具があまり意味をなさないからだ。一応、使っている皮は僕たちが倒した中での最強格の魔物のもの。)、腕輪型魔法補助具、(要は魔法使いが使う「杖」)よし。
「月夜副隊長、魔力量は足りているな?」
「はっ足りているであります、隊長殿。」
「そうか。それではいざともに征くぞ副隊長。部下を連れてまいれ。」
「恐れながら隊長殿。私たちに部下はおりません。」
「「あははははは」」
月夜さんは始めこそかたかったが、話してみるとこういうアホらしい冗談にものってくれるいい子だ。
「さて、さっきは茶化したけど、気を引き締めていこう。」
「はい、そうですね。一年前の戦いで生きていたことが奇跡ですし。」
___一年前、僕たちはアイツ、すなわち山奥にいた一匹の変異種の大鬼に負けたのだ。あのときの僕たちは驕っていた。大鬼など大したことはないと驕り、大鬼の村に攻め込んだ。始めは何の問題もなかったのだ。確かに、僕たちはすでにかなり強くなった時期だった。しかし、村の最奥に現れた変異種はあまりにも強すぎたのだ。その変異種の大鬼は大剣の一振りで僕たちを吹き飛ばし、僕たちの魔法はその大鬼に当たっても何の意味もなくはじかれた。
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大鬼の村に到着する。
「じゃあ、月夜さんお願い。」
それだけの言葉で月夜さんは意味を理解した。二年間同じところに住んでいた連携力は伊達ではないのだ。
「わかりました。火災旋風」
月夜さんの魔法陣が策で囲まれた大鬼の村を覆い、焼き尽くしていく。「魔法陣」は僕たちが作った素晴らしい魔法の使い方だ。これによって詠唱をして行わなければならないイメージ構築なども省略でき、無詠唱で魔法を放てるのだ。そして、魔法陣はただの0と1の魔力回路を組み合わせただけのものなので、魔法の強さにムラがない。その炎は螺旋風により新たな空気が供給されて消えることはなく、さらに大鬼たちの呼吸すらもできなくしていく。
ようやく炎が消え、火災旋風が収まった。
「あいかわらず月夜さんの魔法の火力はすごいね。アイツ以外は全部死んだね。」
「そうでしょうね。今回の魔法は外だったこともあってかなり強かったですし。」
わずかに燃え残った空気が揺らいだ。咄嗟に僕と月夜さんは右後ろと左後ろに跳び退る。すると、燃えていた空気が真っ二つに切り払われ、突如僕たちの間にアイツが現れる。
筋骨隆々な肉体。背丈ほどもある大剣。そして、ほかの赤い大鬼とは全く違う青い皮膚。さらに、去年とは比べ物にならないほどの魔力をまとっている。
「こいつ、やばいな。」
「そうですね。今の私たちでも勝てるか怪しいほどです。」
「フッ」
口から力を込めたことによる息が漏れる。
「ハァッ」
居合抜刀術。緋璃刀を一気に抜き放つ。この速さには簡単には対処できない。たいていのモンスターなら一撃だ。しかし、この大鬼にそんな生ぬるい手は通用しない。大鬼はその緋璃刀に対して大剣を俺との間にいれ、緋璃刀を止める。もとよりそんなことは予想済みだ。すぐに刀を戻し、もう一度抜刀術の構えに入る。そもそも、武器としての性能がこの大鬼の大剣と緋璃刀では圧倒的に緋璃刀のほうが高い。大鬼が持っているものはただ鉄製の大剣に大鬼の魔力をつぎこんだだけ。大鬼の魔力下に長い間あったため、若干材質が変わっているが、こちらの刀は月夜さんが三ヶ月かけて作った相反するイロカネ?の合金にオリハルコン?のコーティングを施された魔剣だ。なんどもこの一撃を受けていれば大鬼の大剣は壊れる。それがわかっている大鬼は当然俺を止めようとしてくる。
「月夜さん!」
「蒼炎針弾」
月夜さんの貫くことだけに特化した超高温の蒼炎が大鬼へと迫る。
当然大鬼はそれに対応する必要があり、半身になってかわす。だが、その一瞬があれば抜刀は可能だ。瞬時に緋璃刀のさやの周りに螺旋状に魔法陣を書き、大量の静電気を作り出して刀を誘導し、加速させる。
ザンッ
大鬼の青い体に一筋の赤い線ができ、緋璃刀の力によって斬られた場所から氷ながら燃えていくという謎の現象が起きる。そして___
斬られたはずのオーガが何事もなかったかのように戦闘を続行する。八センチほども深く斬られた傷はボコボコと泡立ちながら治っていくのだ。
ある程度の再生力は予想していたとは言え、これは予想外だ。
「マジかよ…。再生速度が圧倒的に速い。これ、ただでさえ防御力がバカ高いのに一撃で倒さなきゃいけないとかいうクソボス系のモンスターかよ」
「そうでしょうね…。少し魔力が減っていましたが、かなりの速度で魔力が回復しています。このまま斬り続けても倒せないでしょう。」
本当にやりにくい相手だな。こいつを無視してここから離れることもできたけれど、それではやはりだめだよな。けれども、そんなことで命を失うのは意味がない。
「ガアアアアアアア」
大鬼が雄たけびをあげる。一瞬思考にとらわれたすきに俺の腹へとその丸太のような足が叩き込まれ、吹き飛ばされる。
「四条くん⁉大丈夫ですか?」
「ゴホッゴホッ、問題ない、そのまま戦ってて。」
一年目の途中で見つけた魔法箱から急いでポーションを取り出して飲む。
僕は、何を弱気になっていたんだ?こんなことで無駄な怪我をしていては月夜さんが危ないし、僕が弱気になるのは月夜さんに失礼でもある。
空中に魔法陣を描く。
「下降超気流・変向」
横向きの超威力の突風を大鬼に横向きに打ち出す。さすがにこの突風には大鬼も耐えられず、月夜さんに仕掛けていた攻撃を強制的に中断されて吹き飛ばされる。そりゃそうだ。この風は竜巻でいうEF5。風速は120m/sを超え、列車さえも空を飛ばすほどだ。
「ゲームセットだ、変異種。月夜さんに軽いとはいえ傷を負わせた代償、高くつくよ?」




