023 【三天の輪】
「勇者召喚、か…」
王が呟く。
「まずいな。儂らは勇者召喚を持っていない。」
白髪の眼光の鋭い老人、ノア=セアドールが言う。
「持っていたとしても、使うわけには行かないだろう。」
「それでも、儂たちが力を示すことはできないのだぞ?」
「そこまでの問題はないはずだ。だが、何が目的だ…?単純な戦力強化か?」
勇者に対比される存在として、魔王がいる。それは魔物を統べる王だ。別に魔人族の王が魔王という訳ではない。ちなみに、この世界には獣人、エルフ、魔人、人間、ドワーフ、竜人の5種族が暮らしており、昔はいがみ合っていたらしい。今では平和条約をそれぞれと結んでいるのだが。
話を戻すと、魔王は今この世界にいる。その強さは確かに脅威だが、魔王がいるのはこのタレス大陸の外だ。海をまたいで遠くにいる魔王は、代替わりしてから人間を攻めてきていない。攻めるどころか、不可侵条約を申し出てきたのだ。それを人間は承諾。かくして、全く接触のない日々が続いており、今はかなり平和なのだ。
「たしかにそうだ。だがしかし、どうやって対抗するのだ?確かに四大強国は互いに争うことはない。どれかがを追い詰めすぎたことによって相手がなりふり構わなくなれば、世界が亡ぶからだ。だが、その中でも、いや、戦争をしないからこそ四大強国は民衆のイメージによって序列が決まる。」
横でウラノス魔法学院学院長レイヴンが言う。
「何のための七魔戦、ひいては何のための授与式だと思っているのだ?」
「ああ、本当に今年の生徒は素晴らしかった。だが、それだけで勇者を上回るか?」
レイヴンが笑う。
「私自ら占星術を行い、それの結果をお前が見に行って引き入れた生徒ではないか。」
「確かに、あのテト=スプライトとルナ=フレアナイトは驚異的だ。それぞれが圧倒的なオリジナル魔法を生み出し、詠唱破棄まで実現している。だが、勇者は才能の塊。それに勝てるか?」
「ノア、考えてみろ。ルナはまさに才能の塊だ。一度見ただけであのレオの固有魔法をアレンジして自分のものにしている。」
「だが!」
ノアが声を荒げる。
「落ち着け、まだ話の途中だ。本当に恐ろしいのはルナではなくテトだ。彼に才能はない。」
「そんなバカな。あれほどの魔法を…」
「本質を見ろ、ノア。才能というものは恐ろしい。才能のないものが何年かけてもできないほどのことを一瞬でできてしまう。だが、才能には必ず限界がある。どんなにすばらしい者でも、その限界は必ず訪れる。しかしな、もう一度言うがテトには才能がないのだよ。努力のみであの境地へと至っている。だから、もともと才能によるものではないため、才能による限界は彼には訪れない。そういう意味で言えば、彼はまさに化物だな。」
「才能、か。残酷な言葉だ。どんなことでも、才能がなかったで済ませられてしまう。その点儂らは恵まれているが…」
「三人で世界中を駆け巡った頃が懐かしいな。だが、今は弱くなった。もう、虚級の魔法は使えない。なあ、”閃火剣”ゼファー」
王(ゼファー=カストル)が言った。
「嘆いても変わらんぞ。そういうお前はどうなんだ、”賢者”レイヴン?」
「もう使えないといっただろう。それに私たちの青春時代は終わったんだ。いつまでも引きずる意味はない。そこにいるジジイだってもとは世界一の戦斧かつ盾使い。”絶壁”ノアだぞ?」
「はっはっは、確かにな。私たちも老いたものだ。それにしても、勇者とはどのくらい強い者なんだろうな?大昔に魔王を倒したらしいが、魔王なんてそこまででもないぞ?」
「知らん。一定ラインを超えた者は民衆から見ると全員同じだ。」
「そこからが一番差が出るものなのにな。」
「そんなものだ。それに、儂らはこれから弱くなるばかり。簡単にやられるつもりはないが、儂らのパーティー【三天の輪】も忘れ去られるじゃろう。」
§
人類史上最強パーティー、【三天の輪】。伝説のパーティー。冒険者に憧れたものが最初に知るパーティー。その偉業はあまりにも壮大すぎる。接触禁忌である古龍に勝ち、その上で友好関係を得たり。同じく接触禁忌の魔王と互角に戦ったり。海を開拓し新大陸を発見したり。そして、最後にはカストル王国王都で目撃情報があった後、完全に消息不明となった。
それは、アタッカーの”閃火剣”ゼファー、タンクの”絶壁”ノア、そして魔法使いの”賢者”レイヴンの三人で構成されたパーティーで、この三人でパーティーになった理由は幼馴染だったからなどという理由だ。
彼らはひとしきり世界で暴れ切ると、王都に戻ってきた。王子ゼファーはそのまま王位を継ぐことになったため、その他の二人は魔法学院学院長とギルドマスターをすることになる。
そして、この世界には唯一彼らに出来なかったことがある。それこそが、天狼迷宮の攻略だ。
天狼迷宮。それは、この世界で最も深い、というよりも底にたどり着いたものは存在しないという超大規模迷宮だ。
迷宮。それは、謎に包まれた存在だ。ふつうの、小規模迷宮は100層までだ。
次に、中規模迷宮。これは約200層ほどあることが多い。
そして、大規模迷宮。これは500層以上の階層があるもののことを言う。
最後に、唯一の超大規模迷宮、天狼迷宮。探知魔法で測ったところ、1000階層以上あることだけがわかり、そこから先はわからなかった。
彼らはこの迷宮を983層まで攻略し、それ以上の攻略をあきらめたという。
§
「話を戻すぞ。それで、結論はテトがいるからなんとかなる、と?」
「私はそれで問題があるとは考えていない。七魔戦においてもかなりの意味があっただろう。」
「それでは足りない。」
ノアは心配性だ。
「それなら、アレをやろう。」
「お主、まさか、いや、時期が近いとはいえ…」
「権威が足りないというなら、やるしかないだろう。世界中の冒険者を巻き込むぞ。」
「ったく、お前はいつも乱暴だな。」
王がつぶやく。
「何か言ったか、ゼファー?」
「いや、何も。」
「そうか。さて、いよいよ始めよう。覇王祭をな。」




