020 七魔戦‐⑥
寮に戻り、軽くご飯を作って食べる。うーん、紗奈のご飯がいかに美味しかったかわかるな。僕も一応地球では社会人をやっていたので、食べられるご飯を作ることはできるが、美味しいご飯を作ることはできない。
「ごちそうさまでした。」
ご飯を食べ終わったら、緋璃刀と界雷剣を取り出し、手入れをする。特製の砥石で刃毀れを直し、魔法の付与をやり直す。
これらは元々の鉱石の性質に加え、魔法陣を金属の配置によって描くというとても精緻な作業によって作られている。そのため、僕一人では一から作ることはできない。今僕がこの刀と剣に対してするのは、歪んでしまった魔法陣を電磁力で整えるくらいだ。
緋璃刀に高圧かつ精緻な電流を流し、立体的に描かれた魔法陣をもとに戻していく。この作業はかなり神経使うんだよな…
「ふー」
ようやく終わった。次は界雷剣だ。これはかなり特殊で、魔法陣を作るのは同じなのだが、界雷権能の魔法付与なので、「界雷権能」という大きな括りの魔法に別々の機能の魔法陣として描いていくので、連結した複数の魔法陣を描かなければならない。
そもそも魔法という物は、使う魔力(余剰生命力)の精製と量の設定、使う魔法の性質、世界の承認の3段階の手順によって成立すると僕は考えている。そのため、魔法陣を描く時には、
まず、魔力の精製。人間は魔法を使うとき、無意識的に生命力を精製している。これが、詠唱の第一の意味だ。どんなに頑張ってもこの世界の人達が詠唱をしなければ魔力が使えなかったのは、この魔力精製の過程が必要だからだ。
次に、使う魔法の性質。これはそのままの意味だ。例えば僕の場合、風系の嵐の〜とか、雷系の直接攻撃タイプ(雷撃砲など)か間接攻撃タイプ(灰銀コインを飛ばす超電磁弾など)か、とかを指定する。
ちなみに、僕は雷系の魔法を多用するので、元々は静電気の発展である「雷」の定義をすることで、いちいち静電気が集まって、雷が〜などと指定しなくてもノータイムで描ける。
そして、最後の魔法にとって一番大切な部分、世界の承認。まぁ世界の承認などと言っているが、要はこの世界特有の物理法則だ。
元々、この世界は地球のある世界と物理法則が似ていることが既におかしいのだ。だから、地球で言う「科学文明」が「魔法文明」に置き換わっただけのことだ。
つまり、この世界に存在する「魔力」によって魔法を使うという概念は、地球において物が落ちるというような極当たり前のことなのだ。
この世界の物理法則は、物を押すとそれは動くように、魔力を規則的に流すことで「魔法」として世界に出力される。これを補助するのが詠唱なのだ。そのため、完全な詠唱をできるなら、何も考えていなくても魔法は発動する。しかし、完璧に詠唱するのは難しい。それでも魔法が使えるのは、イメージにより無意識的な魔力操作があるから。これを逆手に取ったものが、アイリスさんなどがやっていた詠唱をほぼせず、強くイメージをすることで術式名を言って魔力精製をするだけで魔法を使う短縮詠唱だ。
話を戻すと、結局魔力を規則的に流すことによって魔法が使える。だから、その魔力の規則配置を詠唱によって行うのではなく、魔法陣として配置するのが僕の魔法だ。
そして、界雷剣に大元の界雷権能という魔法に枝葉として様々な術式を刻んでいく。
渦雷結界、紫電万雷、蒼雷燼滅、特別強い超高層放電、etc…。貫突槍雷は界雷権能の魔法ではないが、別の魔法陣として刻んでおく。これでだいたいの工程が終了だ。普通の魔法使いが使う杖は魔法補助具として、空気中に存在する魔力を集め、使用者へと送り込むものなのだが、この界雷剣はこうして魔法陣を描いているため、詠唱が必要なくなる。
まぁ、緋璃刀には魔力を効率よく吸収する金属と、魔力結晶を融解させて緋緋色金や璃璃色金に混ぜ合わせることで結合させ、鉄と炭素で鋼を作るように魔化色金を作り上げ、それで作られている。というか、魔力を集める仕組みを作らないと、魔力を流さなければ魔剣としての効果を発現出来ない魔剣なんて意味がない。魔力を流さなくとも炎が出たり凍てついたりするから意味がある。魔力を使うなら始めから魔法を使ったほうが早い。
同様に界雷剣も、極少量だけ見つかった希少な神鉄を「雷」の定義の魔力を流し込んで魔化させることで、魔雷神鉄にしてそれの濃度の差によって魔法陣回路を作っている。
「やっと終わったー」
刻んである全ての魔法陣の調整が終わる。それでようやく気を抜くことができた。ちなみに今はある程度強い特に補助を必要しないし、強い魔法は界雷剣を使うので、腕輪型魔法補助具は使っていない。
「さて、後は魔法の改良と作成かな。」
今日即興で作った神殺しの槍を一つの魔法として、最も魔力消費が少なくなるよう魔法陣に置き換える。
「後は、神話からなんか取ってこようかな?」
神話はイメージがしやすいため、魔法として使いやすい。
「うん、アレがいいね。」
新たな魔法を思いついたので、魔力配列を実験しながら調節していく。通常、新しい魔法の開発はかなり大変なのだが僕の場合、魔力配列の法則がある程度掴めてきた。そのため、魔法に対して具体的な内容を思いついていればかなり効率よく魔法陣を作れる。最初の頃は滅茶苦茶大変だったけど。
「さて、だいたい出来たし今日はもう寝るか。」
新たな魔法は、____だ。まだ完成はしていないのでこの七魔戦の間には使えないだろうが、切り札はあったほうがいい。
「そろそろ寝るか。」
いつの間にか時間がかなり経っていた。明日に影響しないように、早めに寝るべきだろう。
▨▨▨▨▨
「さぁ、ついに七魔戦第二部の始まりだぁあああ」
今日も朝から実況の声が響き渡る。今日はいよいよ、七魔戦第二部、つまり一年生から三年生の代表者で戦う。
「やあ、昨日は見事だったな、テトくん。」
「レイヴン学院長、何のようですか?」
ウラノス魔法学院学院長、レイヴン=ライオネル。年齢を読めず、さらに全くどのくらいの実力が感じ取れない先生だ。
「私はどうやら嫌われてあるのかね?」
「いえ、違いますが、学院長が直接生徒に声を掛けることは普通ではないでしょう。」
「学院長である前に私は教師だ。生徒に声を掛けるのは普通のことだろう。」
「よく言いますね。」
本当に胡散臭い先生だな。それでも、学院長をしているのだからかなりの実力があるだろう。
「それじゃ、僕は先輩方の方に行ってきますので。」
「ああ、行ってくるといい。」
よくわからない先生だ。まぁ今はそんなことを考えている暇はない。
ウラノス学院の出場者控室へと足を進める。
「おはようございます、生徒会長ローラ先輩、副会長オリオン先輩。」
「おはよ、テトくん。昨日の試合見たよ~。すっごく強いね~。あ、私のことはローラでいいよ。敬語も要らない」
生徒会長。それは、魔法学院においては特別な意味を持つ。まず、生徒会員になるには最低Bランクの実力が必要で、さらに選ばれるためには学校の出す試練を超えなければならない。しかし、その生徒会長が持つ権力はかなり大きく、署名を集めれば七魔戦の内容さえを変えたり、校則を変えたりすることができる。
「君がテト=スプライトか。昨日の試合では随分活躍していたな。今日も期待している。今日は予定通り、君が先鋒で俺が中堅、そしてローラが大将だ。今回は1年の部で君が優勝したため、戦う相手は昨年の覇者、サターン魔法学院だ。」
この七魔戦において、二日目は一年の部の順位によって戦う相手が決まる。最近は生徒に恵まれず順位を落としたが、元々はウラノス学院が覇者だったらしい。
「今回、君は既にサターン魔法学院の1年代表に勝っているからな。試合は二年生で火属性のレオと三年生で水属性のアストラだ。」
「僕は、とりあえず勝つことを目指して戦えばいいんですよね?」
「ああ、そのまま勝ってしまえ。だが、レオは強いぞ。三年生のアストラよりも強いだろう。」
「それは、いいですね。」
もし僕が負けても、できるだけ削っておけば水属性のオリオン先輩と大地の聖女とまで呼ばれるローラ先輩が倒してくれるだろう。




