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風属性の最高火力  作者: 白河 夜
第二章 ウラノス魔法学院編 七魔戦
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013 固有魔法-①

「ふわぁ」


そういえば、学院に入学したんだった。ということはここは寮か。どうやら昨日魔法の開発をしている間に寝落ちしてしまったらしい。


「よいしょっと。」


ベットから体を起こす。ようやくボーっとしていた頭がまわりだす。


「朝食は、大食堂で食べるんだっけ?」


顔を洗ってパジャマから制服に着替え、その上から僕のお気に入りのローブを羽織る。

扉を開けて廊下に出ると、ちょうど隣の扉が空いてシドがでてきた。


「おはよう。」

「ああ、おはよう。昨日は災難だったな。」

「あはは、まぁ大丈夫でしょ。この世界の価値観を知らなかっただけだし。」

「そんなものか…」


食堂に着くと、既に多くの生徒で賑わっている。どうやら朝食はビュッフェ形式のようだ。


「じゃあ、とりあえず席を確保しようか。」

「そうだな。」


奥の方へと歩いていくと、席の空きがあった。そこに荷物をおいてそのまま立ち上がる。


「じゃあ、料理を取ってくるよ。」

「おお、行って来い。」


料理をみてみると、かなりの種類がある。さすがはこの国最高峰の魔法学院だな。

適当な料理を持って席に戻る。すると、シドも既に料理を取ってきていた。


「いただきます。」


ご飯を食べてみると、かなり美味しい。僕は紗奈の手料理のほうが好きだが。


「今日の授業はなんだっけ?」

「確か、メインは攻撃魔法だったと思うぞ?」

「そうなのか。」

「あとは、試験についての説明だったか?」


この世界にも試験があるのか。どんなものなのかな?


▨▨▨▨▨


「さて、今日は私、アーツ=クロムウェルが一般攻撃魔法についての講義を行う。皆も知っているだろうが、魔法には主に三つの種類がある。それは、属性魔法と固有魔法、無属性魔法の三つだ。」


全然知らんかった。転生する時に属性だけ聞かされたからそれだけだと思っていた。


「そして、固有魔法は基本的に非常に強力な場合が多い。私の授業ではこの固有魔法を発現することを目的とする。ただし、固有魔法の習得はそんなに簡単ではない。このSクラスといえども、最終的に習得できるのは⅔ほどだろう。そもそも固有魔法とは霊魂の発露であり、その人間の象徴だ。そのため、危機的状況に陥ったときなどに固有魔法を発現することもある。ちなみに固有魔法は属性魔法ではないので、どんなものが発現するか予測をすることは難しい。

また、固有魔法を発現してもこの授業の意味はある。それは、固有魔法の進化だ。自分の霊魂に対する理解を深めていけば、いずれ固有魔法はさらに強力なものへと至る。」


そうなのか。この固有魔法を使えるか使えないかでまずふるいにかけられそうだな。どうやら、昨日レクサさんが使った氷ノ世界(パーマフロスト)も固有魔法だったようだ。それならあの詠唱破棄というばかげた性能もうなずける。ちなみに公爵令嬢のサリーさんも固有魔法を使えるようだ。


「それでは、まず君たちには自らの霊魂を見つめ直してみろ。自分にすら分かっていない自分の本当の気持ち、深層心理を理解し、それを抽出しろ。それと、固有魔法は必ずしもただの魔法とは限らない。例えば、そうだな。私の固有魔法は”海王ノ御力”だ。これは海王、つまりクラーケンの権能を一時的に使えるようになるもので、ぶっちゃけクソ強い。このように、~王とつく固有魔法は強力なことが多い。それに、俺のがクラーケンのものであるように、幻獣や何か強いものの象徴が固有魔法となることもある。だが、そうではなかったとしても悲観することはない。始めなくとも、固有魔法として進化すればさらに強くなる。まずは自分のことを理解しなければ始まらない。しかし、自分を知るというのは簡単なことではない。なので、この授業ではこれを使う。」


そう言ってアーツ先生は無色の水晶玉を取り出した。


「一人一つ取って席にもどれ。」


生徒たちが次々と立ち上がり、その水晶玉を受け取って席に戻る。

僕も取りに行き、先生は全員が持っていることを確認すると口を開いた。


「それでは、その水晶玉に魔力を込めてみろ。」


言われた通り生徒が魔力を込めていくと、水晶が赤や青、白などに染まっていく。


「その水晶玉は込めた魔力の持ち主の霊魂を示す。色がついた状態の水晶玉を手に持ち、目を瞑って呼吸を整え、ゆっくりと水晶玉に、魔力を流せ。」


僕も周りの生徒のように軽く魔力を流し込むと、水晶玉が染まっていく。黒く、限りなく黒く。最早、目にその色は映らない。この黒は光を反射しないから。暗黒星雲のように、ぽっかりとその水晶玉のところだけが抜け落ちたかのように、漆黒へと染まっている。その水晶玉を手に持ち、ゆっくりと魔力を流し込む。


▨▨▨▨▨


ここは、どこだ?


そんなことを訊かなくても本能が分かっている。


なぜ、僕はまたここに?


水晶玉の力だろう。直前にやったことは水晶玉に魔力を流すという作業だからな。


頭上に広がるのは宇宙(そら)。どこまでも孤独で、前を見れば荒野が広がっていて、地平線の端には丘のようなものがある。そして、水平線の端には、楽しそうに笑う僕の目の前で殺されたはずの両親。後ろにいるのは、学校の友達の、死んでしまったお爺さんかな?皆が皆、楽しそうに笑い合っている。嗚呼、僕も行きたいな。あの輪に混ざりたいな。


けれども、僕には届かない。どれだけ歩いても、どれだけ手を伸ばしても。


彼岸世界(イデア)。文字通り、死後の世界。すべての人類が笑い合う世界。生者の僕にはたどり着くことのできない、僕を置いてけぼりにする世界。



§



2188年。日本の首都東京で、ある事件が起きた。


快楽殺人犯により二人が刺されて死亡、子供一人が重傷。それは、起こり得ないはずの事件だった。文明が発達したこの頃の人類は、小さな戸建てでさえも生体認証が完備されており、不審者が家に入ることなどあり得なかった。


しかし、その犯人は巧妙な手を使った。まず、その一家を通報して警察に取り調べを行わせることでドアを開けさせ、後ろから警察二人を刺殺した上で、家族を殺そうとした。そして、そのまま両親は殺され、瀕死の警察が連絡をしたことで子供が一太刀刺され、最後のとどめが行われる直前で特殊部隊が突入。


子供はすぐさま保護され、発達した技術もあり、何とか一命を取り留めた。しかし、子供は重傷を負っており、通常生活はできるものの、それ以上のことはできなくなってしまった。子供は剣道を習っており、その時にはすでに四年間続けていて、大会でも成績を残していた。その診断結果を聞いた時、子供は喚くでもなく、泣くでもなく、

ただ、その瞳から輝きを消したという。


彼が彼岸世界は見えるが、決してたどり着くことはできない「失楽園(エデンの園)」にたどり着いたのはその時だ。

両親が死に、自分自身も生死の境を彷徨った。そして、彼岸世界(イデア)へと半端な形で引き込まれた。


たどり着くことのできない皆が笑い合う世界、そして無限にも思える時間の中で、ただ意味もなく歩き続ける。決してたどり着けないと理解しつつも、彼はただただ歩く。彼の霊魂からは何かが欠け、抜け落ちていた。



§



両親を殺され、自分自身も重傷を負った、あの時から僕は、何かが欠けたまま無意味に生き続けていた。表面上は明るく見える。なぜなら僕の感情は空虚だから。「感情」というものの表し方は知っていても、感情は存在しない。


それでも、今の僕はあの時とは違う。空虚のみを背負うのではなく、心から信頼できる紗奈の存在がある。


そもそも、僕にとって「生」というものに価値はなかった。だから、クレーンが倒れてきても、何のためらいもなく助けようとする。まるで死に場所を探しているかのように。


僕の心は空虚。無意識に「死」を求め、ただ絶望が広がる。それが、僕の本質。だから、この水晶が僕にこの世界を見せるのは当たり前だ。それこそが、僕の本質だから。


だが、僕は紗奈に出会った。


そして、両親が死んだあと初めて欲求というものを感じた。紗奈を見守っていたい、紗奈がこの世界を歩いていく様を見てみたい。紗奈は天才だ。魔法の練習の合間には鍛冶によって魔剣を作り、生活の環境も整える。僕とは一線を画すポテンシャルを持っているのだ。だから、紗奈という人の人生を見守りたい。そんなエゴイズム。

僕は、紗奈の存在がある限り、生に執着する。


絶望と死への願望の中に生まれた特異点。それが、紗奈だ。


だから、僕は僕のエゴイズムに従う。僕は紗奈という存在を守らなくてはならない。そうしなければ紗奈を見守り続けることができないから。だから、僕は固有魔法を習得しなければならない。

本能が教えてくれる。あの丘に何かあると。


§


そもそも、テト、つまり誠が入り込んだこの世界は地球とは別の位相にある。

失楽園(エデンの園)。それは、既に滅びた、完璧な世界。しかし、既に滅びたこの世界に物質ごと入り込むことはできない。そのため、精神のみの存在する精神世界なのだ。

ここでは地球のある世界をスフィア、転生した世界をトーラス、この精神世界をマインドと呼称するが、そもそもマインドは多数のスフィアの人間の願望や憎しみなどの感情によって形作られた世界なのだ。

誠がいるのは負の世界。そこには多数の負の感情が渦巻く。力を求めたもの、復讐を求めたもの………その大量の人間の負の願いによって形作られた世界。

別位相の精神世界であるということは、この世界で誠に実体はない。そのため、ダメージが入ることはありえないはずなのだ。一つの理由を除いて。

マインドでダメージが入る可能性、それは精神にダメージを受けるということだ。もともと誠が抱えていたのは絶望と空虚。そして、既に負に染まりきっているものが負の感情を向けられたところで何かを感じることはない。しかし、誠は紗奈という特異点に対して正の感情を持った。そのため、渦巻く負の感情に対してダメージを負うのだ。

例えば、もしマインドで自分が死ぬと思えば死ぬ。逆に言えば、自分は何の問題もないと思えば何も起こらないのだ。

さらに、それは何も誠のみに言えることではない。マインドはすべての人間の負の感情によって形作られた世界だ。

そして、その負の感情は多くの人に信じられている「宗教」と結びつく。そして出来上がるのは、歪んだ最後の審判。



§

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