011 シド=ルストリア
ルーク魔法学院からウラヌス魔法学院にかえました。そこまでの支障はありません。
今回のシド=ルイストラ視点はかなりわかりずらいと思います。地球で使われる「魔術」なのですが、まあ今回の話について、そんなに深く理解しようとする必要はありません。魔術の原理について、一応構想は練ってありますが、それを知らなくても、
・強すぎる魔術を使うと「霊魂」つまり自我が崩壊する、
・それとA.R.A.っていうのは人の記憶を情報化して術者に返す機械で術者はA.R.A.がなくても魔術が使えるけど、めっちゃ使いずらい
・神崎蓮真は人類最強で、今回のダンジョン攻略ですべてのダンジョンは消え、魔術は世界に認められる。人類はダンジョン攻略が失敗したら絶滅してた
とだけ思っていてくれればと思います。
ガアアアアアア
ああ、俺は死ぬのか。せめて仲間の皆は逃がしたいな。
俺専用のA.R.A.である「秘石の煌杖」を構える。ダンジョンの守護者のドラゴンが俺にブレスを撃とうとしているのがわかった。どうせ俺は死ぬ。それなら最後に一矢報いてやるよ。「秘石の煌杖」に記録された「固有記録」の中からある術式を選ぶ。「固有記録」参章九節ある術式の第零章のものだ。これを使ったら、もう後戻りは出来ないだろう。俺の第零章の魔術は、情報が多すぎる。魔力を絞りだし、霊魂に限界を超えた量の情報を入力して世界を観測し、術式を実行する。
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2835年。人類は、第四次産業革命を迎えた。それは、一人の日本人科学者が発見した「霊魂」の存在だ。
「霊魂」とは、人間の人格を形作る自我だ。そして、本当の産業革命はこのあとだ。「霊魂」を発見した科学者は、量子力学の応用によって人間は超常現象を扱えると提唱した。
霊魂によって事象を意図的に観測しながらエネルギーを与えることで、超常現象を起こせると考えたのだ。しかし、霊魂による世界の観測を行うにはその与えるエネルギーが足りなかった。
その問題を解決したのが通称「魔力」。正式には「純粋なる力」だ。
人間の有り余る余剰生命力を純粋なエネルギーとして変換し、このエネルギーを利用して超常現象を起こせたのだ。
実は、このやり方は古くから行われており、いわゆる魔女の魔法や忍者の忍術などもこのようなやり方で魔術を使っていたのだ。しかし、このままでは万人が使えるものではない。そのため、ある装備が作られた。
それが、A.R.AすなわちAkashic Records Attachment[神代記録装備]だ。これはオーダーメイドで作るもので、その人の記憶を解析し、その人にとっての「固有記録」を抽出し、そのぼんやりとした記録を具体化してA.R.A.に情報を刻む。
そもそも固有記録はその人にとって印象の強い記憶をA.R.A.がその人に思い出させることで世界の認識をゆがめ、観測することで魔術となる。
術者がA.R.A.に信号を送ると、A.R.A.が該当する魔術を情報化・術式化し、術者はそれを霊魂回路に入力、世界にある魔素を霊魂によって観測し、魔力の注入をすることで事象改変するのだ。
この「固有記録」は、基本的には各々で章と節に分類する。
また、A.R.Aには「汎用記録」も記録してある。ある程度霊魂に演算能力があれば使えるもので、代表的なものには「ファイアボール」や「アースランス」などがある。
そして、このような超常現象、通称「魔術」の行使は「厄災」を引き起こした。世界を意図的に観測することによって行う魔術は、世界に拒絶反応を引き起こさせたのだ。世界からの拒絶によって、「ダンジョン」が生まれる。ダンジョンは魔物の巣窟であり、最奥の「守護者」を倒さない限り消えることはなく、時たま魔物たちが溢れてきて人間に被害を及ぼす。
2841年、一人の子供が生まれた。その子供には、特別これといった特徴はなかった。ただ一つ、その完全記憶能力を除いて。完全記憶能力、それは一度見たものすべてを覚えるもの。それだけなら、何の問題もなかった。だが、あるとき彼に悲劇が訪れた。魔物の氾濫が起き、彼の両親は、彼の目の前で殺されたのだ。その光景を忘れることはできない。完全記憶能力があるから。
そして、彼は自分の心を守るため、記憶を書き換えた。親は魔物に殺されたのではなく、何か途方もない闇に吸い込まれていったという記憶を捏造する。自分の心を守るための記憶に。
そして、その子供は最強の魔術師となる。その子供の固有記録は、重力に関するもの。その極みがすべてを引きずり込む闇だ。しかし、その魔術を使うことはできない。人間の霊魂の情報処理能力には限界がある。そのため、強すぎる魔術は霊魂を摩耗させ、最悪の場合霊魂が崩壊し、自我がなくなる。
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「第零章 零節。術式名《無限の枷》実行。」
霊魂が焼き切れるのがわかる。
霊魂が耐えきれない程の情報量をもつ特殊な魔術。それは相手を強制的に超重力場に閉じ込めるものだ。そして、この魔術はそれだけのものではない。重力が強ければ強いほど時間の流れは遅くなる。つまり、この魔術は相手が崩壊し、押しつぶされるまで終わらない、文字通り無限の枷なのだ。
ドラゴンの姿が歪み、崩壊していく。どうやら仲間は守れたようだ。
「ワアアアアア」
歓声が聞こえる。このダンジョン攻略の様子は、全世界の人間が見ているのだ。世界の拒絶によって生まれたこのドラゴンが倒れれば、人類は助かる。そして、そのドラゴンは死んだのだ。
ああ、霊魂が崩壊し始めているのがわかる。このまま守護者を失ったこのダンジョンは消えていくのだろう。
「やりましたね、蓮真さん…」
誰かが話しかけて来る。でも、もう俺の体は動かない。体にダメージはないが、霊魂の崩壊によって、体を制御できないのだ。
「蓮真さん?大丈夫ですか?」
話しかけてきた誰かが俺の異変に気づく。
「蓮真さん、もしかして、さっきの魔術は…」
「あきらめろ、坊主。蓮真が最後に使った魔術、遺式魔術だ。使えるならもっと早く使っていただろう。霊魂壊すつもりでやったんだろう。」
「それでも…蓮真さん、答えてくださいよ。あなたがいなくちゃ、僕たちは…」
俺が答えることはない。
自我である霊魂が崩壊し、体を離れ始めてしまっているから。じきに意識もなくなるだろう…
<………一定以上の霊魂強度を確認。称号《英雄》の発現を確認。勇者召喚の術式の資格を承認。《英雄》所持者の意識がありません。よって、術式に対する承認と仮定。勇者召喚を実行します。肉体と霊魂の転移を試みます。失敗。
霊魂が破損しています。召喚術式のエネルギーにより霊魂の修復を試みます。成功。肉体転移分のエネルギーが足りていません。固有名称「秘石の煌杖」の転移を試みます。成功。霊魂の転移を行います。成功しました。>
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「ここ、は…」
俺は、死んだはずだ。最後の「無限の枷」を使って…たとえ生きていたとしても、ここはどこだ?先ほどまでいたダンジョンとは明らかに異なる。それに、魔素の量も圧倒的にこの世界のほうが多いようだ。
「この身体…誰のものだ?」
ここはどこなんだ?どう考えても魔素量が地球より圧倒的に濃い。
もしかして、死ぬ前に聞こえた「霊魂を転送します。」という声は、異世界に転生させると言うことだったのか?
俺は今何か学校のような大きな建物の横に立っている。取り敢えずこの身体が誰か分からないとな。「秘石の煌杖」もあるみたいだし、取り敢えず魔術で調べるか。
「汎用記録・系統外章 三節《解析》」
俺が乗り移った身体を調べる。
途端に、大量の情報が身体に流れ込んで来た。
どうやら俺の霊魂がいるこの身体は、シド=ルイストラという名前らしい。シドは俺の目の前にあるウラヌス魔法学院に試験を受けにきたようだ。幸い記憶は引き継がれているので、どのように暮らせばいいか分からないということはない。取り敢えずはこいつの意思通り試験を受けてみるか。秘石の煌杖を握り、中に入っていく。
すると、後ろの一般枠の方から視線を感じた。
そして、日本語が聞こえる。
振り向くと、目が合った。
そして、離れる。はじめはこんな学院などつまらないと思っていたが、俺以外にも転生者がいるのか?それなら面白いな。
奥に進むと女性が立っていた。
「魔法の威力と精度、発動時間の試験です。そこの的に攻撃魔法を当ててください。ちなみに的を破壊できれば高めの点数が入ります。」
恐らく、状況に適した魔法を使えるかどうかも試しているのだろう。
「それでは、どうぞ。」
順番が来たので前へ出る。何の魔術を使おうかな?俺は魔法など使えない。しかし、魔術なら簡単に破壊できるだろう。
「固有記録・第三章 二節・《宇宙の淵》」
秘石の煌杖を的に向け、ブラックホールを放つと、的をすりつぶし、エネルギーを放出しながら魔術が終了する。的は塵も残さず消えた。
奥へ行くと今度は模擬戦をするようだ。それも相手を重力場で押さえつけ、終わってしまう。
まあ仕方ないだろう。さすがにそう簡単に負けるわけもない。
用語解説
・ダンジョン 世界を意図的な観測によって歪めることにより生まれた世界からの拒絶反応。中には人を襲う魔物がたくさんおり、たまに外に出てきて人を襲うこともある。宝石や魔法の道具など中にはないが、魔物の氾濫を起こさせないため「探索者」が中にもぐって最下層へと行き、守護者を倒さなければならない。
・魔術 世界を意図的に歪んだ認識をすることで量子力学の観測論により起きる超常現象。霊魂によって世界を観測するため、霊魂が処理できる限界以上の情報量を持つ魔術を使った場合、霊魂が崩壊することがある。
・固有記録 章と節によって分類される本人が抱えるトラウマや記憶を解析したうえで抽出し、その記憶をA.R.A.に記録したもの。本人がこの魔術を使う時には、A.R.A.が意図的にその記憶をフラッシュバックさせて魔術とするため、普段使いをしていると廃人となる可能性がある。しかし、神崎蓮真はすでにトラウマである「両親の死」という記憶を改ざんして心を守ったため、普段使いしている。
・汎用記録 人間にとっての一般的な魔術のイメージ。ファンタジーなどの定番魔法であるファイアボールからストーンバレットなど、さまざまなものが記録されている。これも章と節によって記録されており、ファイアボールやストーンバレットなどは汎用記録の中で四元素章に分類されるが、系統外章では「解析」や「身体強化」などがある。
・遺式魔術 魔術を使う上で霊魂の情報処理が追い付かず、自分の霊魂が壊れると理解したうえで使う、正真正銘最期に使う魔術。




