遺跡の少女
レイが隊長になり中央大陸のさらに中央よりのエリアである“聖霊森林区”に向かっていく。遺跡が点々とし中にはエーテリオンの村が点在するだけの寂しい場所だ。そのうちの一つの村が何でも依頼を引き受けるという噂のタージェが運営するギルドへ悲痛な叫びを訴えてきたのだ。彼らの依頼もかなりオカルトじみていて怪談のような感が強かったが……成程、ここはさらにその話の信憑性を上げてくれる。なぜなら……。
「リーン。そんなにくっつかないでくれ」
「あぅ……。ごめんなさい」
「しかし、深い森だな。迷いそうだ。レイ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。アルの戦闘の跡を追えば問題ない」
聖霊森林区は昔は庭園だったエリアだ。その森には聖獣が住み獰猛な魔獣と凌ぎを削っいる。危険な生物が多いためアルが通ったらしい道を進んでいる。
矢が刺さり電極に飛電したらしい焦げ跡が残る道には無数の死んでいる生き物が見えた。幻獣、龍、大型の昆虫や動物、他にもこの世のものとは思えない生物がうようよいる。
「流石は碧独の美女……ってとこか」
森と言ってもかなり鬱蒼とし暗く靄がかかった密林であちらこちらに湿地がある。いつかは定かではないがこの奥の城を本拠としていた魔法科学の王国が何らかの形でこのエリアを守っていた物の名残だ。舗装されていた道、湿地の水を水源にした堀に明らかに人工物のクリスタルに兵器の残骸。下手なお化け屋敷よりも怖いだろう。そして、機械のような音声で鼻歌を歌い続けるギアが作り出した小型のゴーレムがレイの肩の上で羽をぱたつかせている。
「フ~ン、フフフ~ン。フフフゥ~」
「なぁ、マーク01。よくこんな空気の重い所で鼻歌歌えるよな?」
「一応、魔界の生物な物ですいません」
「そうやったな。マーちゃんはゴーレムやったな」
「はい。荷物の格納運搬はお任せ下さい」
「お前、ここに何が居るか見当はつくか?」
レイの問いかけに対しマーク01は唸りながら答えた。何やら良くない事らしい。そんなことはとうに解っていたがかなり暗く彼がつぶやいてくる。
「レイ様……。申し上げにくいことながらここの生物はすべてこの第三階層の住民では無いんですよ」
「第三階層?」
「ご存知在りませんか? ならば私の不徳がいたしたしまつ……申し訳在りません。ご説明いたします。この世界つまり第三階層はその名の通り三階層に在ります。そして、交わってはいけない世界との扉がこの奥に在るのです」
「じゃあ、お前はどうやってこっちに来たんだ?」
「私は魂と体が分離した言わば“死人”魔界でも同じなのです。それを貴方の師匠のギア様に錬成魔法を元に構築して頂き復活した次第にございます。そして、先ほどの続きでございますが“四界の秩序”という掟があるのです」
「四界? あのお伽噺によう出てくる天界、宙界、地界、魔界のことやろ?」
「リーン様。お察しが早い。それが実在しておりその世界との繋がりを持つ三つの扉が奥の城に……」
「それまずくないか?」
「はい。昔の人類はあまりにも横暴でした。我々を捉えては実験の道具にしていたのです。ですが、私は皆様が大好きなのです。純心でまっすぐ、優しさもあり私のような異物ですら受け入れてくれたのですから」
マーク01の角に注意しながらフィトが彼の頭なのか動体かは解らない場所をなでた。丸いソフトボール代の大きさのボディは光沢を帯びていていかにも機械という質感を持っていた。
「俺はまだ力は弱いがお前や強いギアさんやギルド長さんがいるから大丈夫だ。それに俺たちも強くなる」
今、レイ、リーン、フィトの三人はこの世界の戦乱を起こす理由の根源にぶつかっていたのだ。この聖域は確かに何かある。マーク01の話からしてまず危険なのは確かだ。湖らしきエリアまでたどり着きその美しさに一同は感嘆の声を上げた。湖面には白い雲の様に霧が流れどこからか空気の流れが感じられる。だがフィトが一同に注意を促した。そのすぐ後にレイも気がつき水面を睨みつけ始めた。
「皆……。変だぞ」
「この綺麗な湖のどこが変なんや?」
「確かに……生き物の気配が強すぎる」
レイが目を凝らし湖面を見ている。その時、マーク01が声を上げた。頭を出した生物はこの世のものとは思えないものだった。
「魔界の生物が接近しています!」
湖面から姿を表したのは多様な姿の水性生物らしい。蛙の化物、八又の大蛇、魚人に他には説明が難しく気持ち悪いジェルのような生き物? が数個体。彼らの脚元や湖の湖面に加え巨大な岩の上にひしめく。
「リーン!」
「ひぃぃぃ! 近寄るなぁ! 気持ち悪いぃ!」
蛙の化物が大きな弧を描いて撥ね飛ばされ“ボチャンッ”と大きな石を投げ込んだような音と共に姿を消した。幸いアルが走って回避したらしい足跡が苔の上に沢山残っておりそちらに走りながら陣形を作り応戦を開始した。
「フィト!」
「おう!」
「殿を頼む!」
「了解した」
「リーン!」
「何ぃ! 用が在るなら早くしてぇな!」
「俺が突き開きをするから真ん中に入ってマーク01を護れ」
「うん! わかった……。また来たぁ! 気持ち悪いぃ!」
両生類が苦手らしいリーンは集中を乱され戦力にならない。フィトはモンスター狩りはしたことが無いためこちらも切り崩しには向かない。本来ならば俊敏な動きと風の魔法で霧を晴らしてくれるフィトが前進してくれた方が楽なのだがそうも言っていられない。リーンは右手に矛槍を持ち左手でソフトボールの三号玉ほどの大きさのマーク01を胸に押し付け泣きながらレイの真後ろを猛進する。
「レイ! 気をつけろ! デカイのが来るぞ!」
「わかった!」
大剣を抜き細い森と湖の境の苔むした道を走る。どうやらアルの矢が見当たらないのはこの水性生物のせいらしい。数多いる敵のうちの数匹だが矢が刺さっている生き物がいる。そして、奥まで進むとサンダースパイダーネットを使ったらしい八角形の跡と彼女が木伝いに駆けていった跡が残っている。その中心には焦げた巨大な魚が横たわっている。その近くの水辺から更に巨大な魚が現れ口を開きレイに向けて突進してきた。
「イィヤァァァァァァァ!!!!!!!! レイ! 何とかしてぇなぁ!」
「解ってる! 炎斬! “三日月炎舞”!」
口を開けて突っ込んで来た巨大な魚はレイの炎の斬劇で一刀両断され焦げた香ばしい臭いを漂わせた。後ろではフィトが音速のラッシュを打ち込み八又の大蛇を打ち倒し付加魔法で速度を上げて追いついて来た。アルの足跡を追って走る。すると途中から湖から離れ蛙の化物が数ひき追ってきたが絶叫しながら矛槍をバットのように振るった彼女に打飛ばされた。それからも追い続けてくるしつこい生物の対応に追われたが何とかそれも振り切り森の中に再び動いた。
「ふぅ、アルのやつ。よくこんな所を抜けたな」
「確かに、碧独の美女の本名は何と言うんだ?」
「ボア・アロウ・ルースだ。因みに俺の幼馴染み」
話ながら歩いていると先頭を歩いていたレイが止まり後ろの二人が玉突き事故を起こした。レイの鎧にコツンと音を立てマーク01がぶつかりその後ろのフィトもリーンにぶつかって最後尾だったため後ろに倒れた。ついでに立ちあがった瞬間に後ろにさがって来ていたリーンの槍矛に鼻をぶつけた。
「あてっ!」
「ウオッ!」
構わずマーク01がレイが凝視している物を調べ始めた。それは透明だが不思議な光沢を持ち光の反射などに関係なく七色の筋が動く結界だった。ただ、その結界は触れようとすると何らかの防衛措置としてだろうか紫色の電流が流れ焼き殺されてしまうようだ。じじつ周りの草むらには獣の死体や骨が多く散らばっている。
「結界? ですか」
「多分な。師匠の彼女がよくはっていたものと似ているが少し違う」
「こんな密度の高い結界は魔界でもそんなに見れません。何者かが意図的に張っています」
「解ってる。解く方法は?」
「強力な魔力で中和するしかないでしょう」
「わかった」
レイが両手の鎧から肩の鎧までを取りはらい意識を集中させ始める。魔力が腕に集中し遂に両目の瞳が赤く輝いた。結界に触れると電流のような物がレイの腕にまとわりつくが気にせず発達させた爪で巨大な結界の一部を魔力で中和どころか侵食し赤くなっている爪と同じ色に変えて行った。そのままに巨大なエネルギーが波のように結界全体に広がり大きな結界が一度赤く輝くと粉々に砕けた。
「……マジかよ」
「レイ、凄い……」
その頃、ギルドの執務室で帳簿の整理をしていたギアが巨大な魔力を感じ取り気づいていた。遂に能力の一つをレイが制御しはじめたことに。彼の手にも共鳴の印が浮き出ており巨大な魔力を持つもの同士が感じ取れる信号を受け取っていたのだ。
「覚醒が早い……。そろそろ“アレ”を教えないとな。アイツの体もかなり不安定なはずだ」
結界が砕け散りレイが腕を戻して鎧を着け直した。フィトやリーンは“アレは何なんだよ? 教えろ”と言いたげな顔をしている。レイは落ち着いたまま二人に一言告げ先を急ぐように告げて剣を背負い直す。
「レイ……アレは?」
「俺にも話したことないよな?」
「すまない。俺も最近知った力でよくわかってないんだ。帰ってから話す」
「わかった」
「……レイ」
結界の内部にはまた森が広がっていたが今度の森は生き物の気配がしない。アルの足跡が少し薄れてきている。この当たりで少し速度があがったらしい。理由はすぐにわかった。
「レイ! 走れ!」
「うぉっ!」
今度は昆虫だ。蜂、芋虫、ムカデ、蜘蛛に大きな蟻など形態はさまざまだ。走り走り何とか引き離しているといきなりレイが屈むように指示し三人はスライディングする格好でそこを通り抜けたが蜂は蜘蛛の巣へそして、地面で脚を進める昆虫などはとても巨大なねとねとする液体を分泌していた草の上を通ろうとしておいしく食べられたようだ。レイがスライディングさせなければ三人も同じ運命だったろう。今回ばかりはこの食虫植物にも感謝したい。
「ふぅ、なんとかだな」
「あぁ、見てみろ遺跡だ」
「なんかお化け屋敷みたいでイヤやわぁ。ウチ……」
「一人で残るか?」
「ついて行きます……」
広いエントランスがあり四方八方に伸びる大小の階段がある。ここはアルの足跡が見当たらない。代わりに一人の物ではない血痕がある。量からして100人前後だろう。その中に滴るように落ちている血痕がある。まだ新しいようだ。三人はそちらの方向に武器を構えて歩き出した。その頃、流浪し人を探していたタージェが遂に西の国の中心部にたどり着き情報を頼りにその人の家の前にたっていた。
「留守か……」
隣に住んでいるらしい老夫婦がタージェに声をかけた。優しそうな老夫婦は荷台に工房で作った武器や装飾品を乗せて市場に仕出しに行くらしい。
「あぁ、一足遅かったねぇ。ゼシちゃんなら先日ここを出てったよ」
「何ですって!? 行き先等は聞いていませんか?」
「中央大陸に友人がいるからそこを尋ねるとは言っていたよ」
「ありがとうございます」
「おぉ、ちょっと待ちなさい。忘れる所じゃったわい。これを大柄な男が来たら渡してくれと言われとった」
「重ね重ねありがとうございます」
老夫婦は丁寧なタージェに会釈をしそのまま仕出しに行ったらしい。渡されたのは手紙だった。しかもかなりの年月がたっているらしく黄ばんでいてインクが黒から変色し紫のような色になっていた。
『覚えてますか? 私と貴方の時間があの時で止まっていることを……』
短い文章を読みズボンのポケットにいれ来た道を引き返し始めたタージェ。再びレイ達一行の動向に目を向ける。城に入ったリーンとレイ、フィト、マーク01はトラブルに巻き込まれていた。機械の兵士に追い回されていたのだ。四足歩行のこの時代の物とは思えないデザインや機動性と素材。何より動き方だ。
「嘘だろぉ! レイ! 何とか出来るか?」
「無理だ! アレは俺の鎧と同じ魔法反射装甲だ。固いし魔法は効かないし……」
その時、リーンが一番後ろにつき、矛槍を握りしめ敵の四足歩行のロボットの首を断ち切った。両生類やオカルト、お化けなどが苦手な彼女でもここでは力をふるってくれた。両腕に力を込め次々に押し寄せてくる機械兵をなぎ倒す。
「ウチなら行けるで! お化けはでぇへんようやしな!」
「済まない! 後ろは頼んだ!」
機械兵は一定のルートを守っているらしい。真新しい血痕はレイ達が逃げる道沿いにある。……というよりは行き止まりに追い込まれそうになっているのをよけて何とかここまでくるとち血痕と同じ道をたどっていたのだ。どうやらアルと同じ道を通っているらしい。血の量が徐々に増えていることから傷は広がっているようだ。急がなければならない。
「クソが! なんちゅう速さだよ」
「血痕が右に向かってます」
「わかった。行くぞ!」
「早ぅしぃ! 敵の数がどんどん増えてるんや!」
たどり着いたのは遺跡の中心部らしい巨大な広場だ。そこには巨大な機械のような模様が書かれた壁がありよく見るとその下に碧色の髪の毛少女が踞っていた。明らかにアルだ。だが綺麗な碧色の髪には右側の頭部を損傷したらしく血がべったりついている。
「アル! 大丈夫か」
「大丈夫に……見える? この状……況でさ」
「君が碧独の美女か……噂通りだな。だが、その目は?」
「アンタは……確か亡国の将。フィト……ソニックね?」
ぐったりしている彼女に応急手当てを施し、レイ達は巨大な壁に目を移していた。それは美しくもあるが不気味な光沢を帯びている。強力な魔力が使われて封印されているらしくレイ以外の人間が近づくと先ほどの紫色の電流が放たれ拒絶してくる。
「……っ。つこれは? 何だろうな?」
「多分、封印器ですね。これだけ大きな物になると力が余程強かったのでしょう」
「ねぇ……、レイ。その丸くてギアさんに似てるやつは何?」
「申し遅れました。私はゴーレムのマーク01です。以後宜しくお願い致します」
「ご丁寧に。アタシはボア・アロウ・ルースよ。こちらこそよろしく」
するとリーンが入ってきた入口の近くで石盤を見つけたらしく取り外して持ってきた。明らかに壊してきたようだが……。
「ねぇ! これ何かのヒントじゃない?」
「どっから外して来た…………リーン?」
「あそこ」
指差す入口を見ると機械兵がウヨウヨしていたが何故かこの部屋には入って来ない。四つある入り口は全てこうなっており何ともならないようだ。出たいが出られない。思案しても仕方ないが何かをしなくては出れもしない。
「レイ……これ、古代文字だ……」
「『我、眠る。
勇ましき力と優しき心、高き既知の者を待ちて。
我が体は眠る。
魂は…………。
我を救いし者には苦難の後大いなる幸せが訪れるであろう。
我が心を虜にしたくば我を見つけよ。
それ即ち勇者なり』
訳わかんねぇな」
「俺の方が訳解らんは! 何でお前が読めてんだよ!」
「解らん」
「……。まぁ、確かにお前には昔から不思議な要素は結構あったが……まさか、古代文字が読めるとはな」
レイが壁を触りだした。周りのメンバーは驚きを隠せない様子だ。だんだんと形状を理解し始め各部を触り始めた。すると壁から反応があり右手を右側の丸い場所に当てると左側が光り、左側の文字が書いてある所に左手を当てると右側の光が消える。逆の手順でやっても光の点灯の仕方が変わるのみで何も進展は見られない。
「まさか……。はぁ……」
意識を集中させ先に左側の文様を抑え次に右側に力を込めて手のひらを抑え付けた。先ほど結界を崩した時とは違い両目とも金色に光り、壁に描かれていた模様が広がって壁全体が光り出した。そして大きな文様がはがれるように天井を抜けて空に浮いていき砕け散った。
「レイ! 何したんだよ!」
「さっきの結界と同じ容量で力を込めただけさ」
『た……す…けて……。こ…………こ…から……だし…て』
「声?」
「は? いったい何なんだよ!」
「ちょっとレイ! ウチには何が何だか解りゃぁ……! レイ? レイ!」
レイが壁に向けて歩き出すと壁に吸い込まれて行った。周りの仲間やマーク01が唖然として止まり。ただ、ただ壁を見つめるばかりだった。大きな壁は白いただの壁にしか見えない形になっている。
『何処だ?』
レイの声が響き中から声が聞こえて来た。自分の声だ。そこは真っ白な空間で大きな空間なのかはたまた小さいのかすらよくわからない。異質な雰囲気であるということは確かだ。
『お前の力を示してみろ』
『黙れ……。俺はお前と剣を交えるために来た訳じゃないんだ』
『ほぅ、ならば俺は貴様を切る。言っておくがお前と俺は一つ、切り抜けるためなら何にでも立ち向かう力を見せて見ろ』
大剣を振るう敵の攻撃が鼻先を掠め血が一筋流れ出した。どうやら虚像などではない。レイは偽りの自分の奥に扉が在るのを見つけた。だからと言って剣を交える気は彼にはないようだ。
『はぁ!』
『……』
右手の指で器用に刃先を掴み押し付けられても退かれても離さない。彼の剣技は彼が一番よく知っている。弱みも強みも……。
『お前は俺と一つと言ったな?』
『その通り』
『仮に一つだったとしても俺とお前は違う』
『何故だ?』
『礎としての心技体、全てが違う今、お前と戦う気にはなれない』
『フフフ、やはり無駄でしたか。合格です。私の体を貴方に預けます』
姿が変わり同年代の少女に変わった。リーンとは違うが短めの髪だ。そして、綺麗な顔に華奢に体型。レイに話しかけた少女が周りをヒョコヒョコ歩き回り“フ~ン”だの“ヘ~”などと小さく言いながら再び目の前に立ち大きな金色の瞳を輝かせニコリと笑うとレイに再び告げた。
『名前はフェンク・レイ・スウォード君ね? 今から言うことをよく覚えて。私はマナ。訳あってここに閉じ込められてるの。だからあなたに私の体だけ預けます。その体から今の私の記憶は消去しこの遺跡の力を封印します。あなたは私の名前を覚えていてくれればいいの』
『待ってくれよ。話の流れが掴めないんだが……』
『そうね、今は知る必要はないわ。あなたはこの私を助けるだけでいいの。新しい人生が待ってる新しい私をね』
『答えになってないんだが……君は誰だ?』
『そう……今はそれでいいの。名前を知ってるだけでね。記憶がない状態で助けられたかわいそうな女の子でね。時間も無いわそれじゃ、さようなら』
『待ってくれよ! おい!』
レイが気がつくとフィトの上に倒れ込んでいた。さらにその上には夢のような出来事で話していた女の子が同じく倒れ込んでいた。リーンが一歩下がってよけたせいでフィトが潰されたらしい。アルも目を見開いてレイとその上に十字を作るようにうつ伏せに倒れている女の子をみている。
「う、うぅぅん……? ここは?」
「まずはどいてくれ……」
「あ! ごめんなさい!」
「よっと……フィト? 大丈夫か?」
「何とかな」
「あぁ……で、お前あの子は誰だよ。あの子は」
「すみません。私の名前は……えっと……」
「マナ?」
「そう!マナです。出身は……あれ? 思い出せない……」
「そんで何でお前がマナちゃんの名前を知ってるんだ?」
「石碑さ書いてあるんだよ」
次の瞬間に入り口にたまっていたロボットが動きを止め建物全体が揺れ始めた。アルをフィトが背負いリーンがマーク01を持ちレイがマナを背負って走る。外に出るとすぐに建物が崩壊が極限に達し崩れ落ちた。
「何だったんだよ」
「わからない。とりあえずギルドに帰ろう」
「そうだね」
次の瞬間にレイが持っている中剣とそっくりな剣が崩れてボロボロになった建物の残骸から現れた。マナが走っていき柄に手をかけたが抜けずにレイが近付いていき引き抜いた。
「ありがとうございます。レイさん」
「あれ? 俺、名前言ったっけ?」
その頃、ギルドでは魔法学校から帰って来たファンと晩酌をしていたギアが話していた。
「久しぶりだな。二人きりで話すのは」
「そんなに話したいなら俺も魔法学校に行ってやろうか?」
「いや、止めておけ。オウガはただでさえかこのある一族だからな」
「確かにそうだな」
「変だぞ? ギア。元気がないな」
レイ達一向は大回りにギルドに向かった。非戦闘員と怪我人を抱えてはあの数の敵には立ち向かえない。謎の少女のマナを仲間に加えさらに賑やかになった一向はギルドに向かってひたすら歩いていく。まずは一直線に抜け南の街に出た。そこからは森伝いに西へ歩く。レイのマントを借りたマナは華奢で体も明らかに弱そうに見える。しかも記憶が全くないのだ。
「ハァハァ……」
「休むかい?」
「いえ、もう少し」
「無理はせぇへんほうがええで……マナ」
「そうよ……。アタシとリーンは森育ちだからいいけど」
「せや、マナはどう見ても華奢すぎるで。本当ならレイに背負ってもろうた方がええとおもうよ? 脚も細いし色白やし……ホンマ羨ましいわぁ」
「そうですか?」
「リーン、今はそこじゃないだろ? 俺は別に構わないからさ。脚辛いんだろ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
華奢で筋肉が薄い彼女は軽い。少し歩いて居ると上空から聞き覚えのある声が聞こえた。ファンである。彼女は魔法さえ使えば自由に空を滑空できる力がありとても便利だ。
「やっと見つけた! 何してたんだ? こんなに時間がかかるとは…………って何だ……。その仕草は」
全員がファンに向かって“静かにして!”とジェスチャーしレイの背中を指差した。ファンはなっとくしたように自分も降り立ち一緒に話し始めた。森のこと。遺跡のこと。マナとレイのこと。その他諸々全てをマナを起こさないように話しているのだ。森を抜けるなら半日程でいいが周りを歩くとなると話しは別らしい。遠回りになっているため先にファンが出来るだけ荷物を持ってギルドへ帰りギアに詳細を伝えギルドの前に立ってまつことにしたようだ。
「お帰り……みんな」
「師匠……遅くなりましたが只今帰還しました」
その時、後ろから女性の声がしギアとファンに声をかけた。大きなリュックが陰になり最初は皆不気味に思ったようだがよく確認すれば人である。
「出世したようだなギア。それと久しぶりだなファン」
「ゼシさん」
「……お久しぶりです」
他のメンバーは緋色のローブを着た女性に目をしばたかせ混乱している。その頃タージェもこちらに向かっていた。
TO BE CONTENEW