狼少女と師弟の出会い
南の大陸でクーデター鎮圧に助力しその後すぐに行方をくらましたレイとアルの二人。以前より平和になったジャングルの中を抜け二人はレイのギルドに向かって歩いて行く。その途中である鮮烈な光景を目にした。それは言うまでもなく戦闘部族間での抗争だった。彼らも敵対している部族があるらしくつぶし合いもままあるらしい。
「なぁ、アル。あれって巻き込まれたりしないだろうな?」
「あぁ……大丈夫だよ。多分ね…………」
近くには切り立った崖があり木は横向きになって生えている。底までたどり着くために必要な距離はだいたい水面までで50メートルくらいある。他にもあまりいい状態ではない要素がいくつかあり危険な場所なのは確かだ。谷川の様になっているこの土地を谷沿いに進んで行けば中央大陸の入口付近に位置するタージェが運営するギルドにたどりつける。
「レイ! 危ない!」
「うおっ!」
ビーストの筋力は並大抵ではない。10歳の子供のビーストであっても握力の平均が40程度はある。肉体的な観点から普通の人間では起こりえないことが普通に起きてくれるから恐ろしいのだ。特に戦闘部族のビーストは日々の鍛練を重ねたうえに野生環境が作った身体能力でもはや、人知を超えたパワーをもつのと同じようだ。そして、その内容とは同じ位の身長の槍を持った少女が吹っ飛んで来たのだ。対岸の壁に激突し谷川に吸い込まれて行く。
「ぬぅぅぅぅん!」
「来んじゃねぇよ!」
間一髪で少女をかわしたレイがなおも追って来ていたらしい肉付きのいい大柄なビーストの男に対して大剣を振り下ろした。流石はビーストの戦闘部族といったところだろう。反射神経は相当な物だ。だが、他と唯一違う所は…………。
「来んじゃねぇってんだよ! クソデブ!」
ビーストには魔力がない。一部の亜種を除いてそれは全大陸に共通した点だ。レイの体に宿る魔力は“炎”。彼の力はあらゆる気持の高ぶりや沈下を利用した増強。先のクーデター鎮圧の際には“闘争心”と“怒り”が重なった物だったが今回は“怒り”そのものようだ。本来は密林の掟で滅び去る一族は皆殺しが原則だが。もう、時代の流れはレイの中では違う。“共存”だ。彼の理論では恐らくこうなるのだろう。“確に対立するだけなら許せるがそこに殺戮は加わってはならず生き物が無駄に争うことは許されない”この現象や非人道的な行動が許せないのだ。途端に人が変わったように猛然と狙った相手を攻め続ける。ビーストは魔法に対する術がなくそのために森の奥地に住んでいる。レイもそれは重々知っていた。
「貴様! 森の掟を破るきか?」
木製の巨大な棍棒に大剣の刃を食い込ませた状態で直立するビーストがレイの目を見た瞬間に身震いし武器を捨て逃げ出した。
「お前…………。まさか」
アルの驚愕を帯た言葉が終わる前にビーストの男は薮に姿を消したが怒り狂い姿を豹変させたレイは追おうとする。その姿はまるで悪魔だった。炎はあり得ないはずなのに固体化し背中には気味の悪い翼、耳の上には一周グルリと巻いた角。爪は赤黒くなり異形は更に進化を遂げようとしたがアルが腕を掴みその手が火傷を負おうとも身じろぎせずにただ険しい目付きで制止を促す。蒸気が上がり彼の体から炎が噴きあがり消えと繰り返しこの現象が続く。
「…………」
やがて感情の起伏が平行線のように一直線になったのかそれとも単にエネルギー切れか気を失いレイが倒れアルはその付近の安全そうな所で休むことにしたようだ。アルは症状のひどい火傷を負った手を清流で洗いその場で少し座っている。
「う…………ぅうん…………。アル? その手は……」
「やっと起きた? まぁ、反応からわかるけど記憶はないようね」
「済まない……。何があったのか覚えてるのは急にムカムカしてきたとこまでなんだ」
「アタシの予想だけど…………。レイ、アンタは多分“マスターカイザー”だと思う。突飛で悪いと思うけど……」
「おいおい。寝起きなのは俺だぜ? そんなバカなことあるわけないって。俺が“純血種”?」
“純血種”それはある一定の基準を満たした一族を表す総称だ。未だに発見は難しいため研究が進んではいない。言えることは古の昔より伝えられた血族がそれに当てはまりやすいこと。これまで見つけられた“純血種”はビーストとヒューマンのみでカイザーの“純血種”など前代未聞だということ。だいたいカイザー自体が混血種のためどこがルーツなのかは言うまでもなく解らない。しかし、アルが言いたいことはこちらの別識だ。学識上では“マスターカイザー”に当てはまる部類の記述がもう一つ存在する。ヒューマンの容姿に、正負の魔法つまりは攻撃的な直に使う魔法と付加的に生物に与える対局の特徴を持つ魔法を共に使え、ビーストの様な体機能を持ち、オウガのような変異能力、カイザーの既知と清らかな心情のある特異体が稀に存在すると。
「加えて、覚醒するのは数十代に一人でその殆どが何事もないように一生を終える」
「…………」
「アタシもまだ信じられないけど。条件がここまで揃うと……」
「確に。…………だけど! することは一つさ。無駄に暴れない。いつかはコイツを制御するってところかな?」
「フフフ…………。そうだね。『時々、レイの前向きさには驚かされるわね。何か偉大なことでもするのかな?』」
夜があけ日の出とともに出発した二人。そのころギアとファンがタージェのもとにたどり着き話をしていた。まずはファンの自己紹介から始まりタージェのギルドにおいての説明などが雑談混じりに続く。
「シド殿! 只今帰還しました」
「おっと。お前が早かったか。で、その後ろの娘が前から言ってたいた秘密兵器か?」
「はい。ファン……自己紹介してくれ」
「はじめまして、スフィア・ファン・アイリスです」
「こちらこそ。俺はシド・タージェ、ここの管理者だ。まずは寛いでくれ、堅苦しいのは嫌いでな」
「ご丁寧にありがとうございます」
ギアから借りていたマントを脱ぐとタージェが目をしばたかせた。それもそうだ彼女はきちんと畳んでいた翼を軽く開き形を整え髪の絡みをただしているところを見たからだ。
「こりゃたまげた。“カイザーエンジェル”に生きてる間に出会えるとは……」
「確に珍しいでしょうね。わかります」
「気に触ったかな?」
「いえ、慣れっこです。それに貴方も相当な力がお有りのはずですよね?」
「それならよかった。では、今からギルドで生活する上での細かい規約を説明するがよっぽどのことがないかぎり大丈夫だから気にしなくていいぞ」
ギアが部屋のすみで目を閉じて壁に持たれかかり話をきいている。再びアルとレイの二人に視線を戻そう。アルは右手に火傷を負ってしまい弓を引けないため戦闘は極力避けたい。あったとしても戦闘部族が多く住んでいる森の中は危険なためになおも開けた川沿いを進む。
「そんなに申し訳無さそうな顔しないでよ」
「だけどよぉ……」
「レイの悪い癖の一つだよ? 心配しすぎる。この目よりは軽傷だしアタシが無理しただけだから」
幸いにして川の水は清流と呼んでいいほどに綺麗だ。タージェに渡されていたウエストポーチには消毒薬変わりの酒、手当用の道具に小さなナイフや裁縫用の小袋、財布が入っている。手のひらの化膿は避けたいため短時間で包帯を変える。やはり魔力は人体に大きな影響を及ぼしている。アルの手のひらは数時間経過しただけだが痕は残るだろうが既に水泡は消え傷も塞がりつつある。
「しっかし。魔力ってのは凄いな」
「確に、これは凄いよね。あの火傷がもうこれだし」
およそ半日かけてゆっくりと川沿いを進む。ゴツゴツした岩場を注意深く歩く。滑り落ちれば助かる道は無いだろう。眼下には流れの複雑な急流がありそれは深さがしれない川を龍の様に滑り降りる。他にもアルの話では肉食魚や巨大な爬虫類、最終的には同じ人類に食われるだろう。このあたりにはビーストの魚人種がすんでいる。彼らはどちらかと言うと魚に近い種のようで共通語が通じない。そのため意思の疎通が出来ないと彼女は言う。
「アル……。手のひら大丈夫か?」
「32回目だよ……」
「そんなに言ったか?」
「うん」
出発して二日目。渓谷もなだらかなになり森が開けて川幅が広がりを見せる。ギアとファンの二人には周辺の警護任務につきタージェが言うままにレイの帰還を待っている。ファンは背中の翼に魔法を使い上空を滑空しながら警備をしている。ギアは大鎌をさやに収めて警護をする相手の近くにいる。この周辺は以前にも話した通りタージェの努力の甲斐があり最近は治安が安定しつつある。
「オーガさん。有難うございます。今日はこれまでです」
「わかりました。お疲れさまです」
顔面に一本の斬り筋が入っているが顎が細く目がキリリとしているなど綺麗に整った顔の少年は少し微笑みを浮かべ銀行の運搬員に頭を下げ隣に天使のような風貌をもつ少女が着地するのを待ちギルドに帰って行く。
「お疲れ。ファン」
「下はどうだったのだ、ギア? 相変わらず退屈だったか?」
「楽しみでたまらなかったよ」
「ほぅ……。珍しいこともある物だな」
「弟子になる少年はどんな奴なのか……」
「フフフ…………そうだな。私も見てみたいものだ。運命の申し子にな」
森が完全に開け湖のような場所に出た。そこは霧が濃く進むのに注意が必要なエリアになって来ている。その中で驚くべき事実に遭遇した二人はすぐさま行動を起こしていた。
「レイ。あれってさ…………。さっきの女の子?」
「……!! 本当だ!」
「レイ! この娘まだ息があるわよ!」
レイにぶつかりそうになって谷川に吸い込まれて行った少女だ。ビックリするのは彼女は槍を離していない。ずぶ濡れでぐったりしていて動く力すらない。アルが背中を叩き水を吐かせてコートを脱いで枕にしレイに指示を出して焚火を焚かせた。槍には部族の文字らしき複雑な文字が彫ってある。その少女が呻き声すら出さないことから危機を感じているが二人とも落ちて行動していた。
「酷い傷だな。アル、一応俺の着替えがあるから着替えさせて置いてくれ」
「わかった」
「さて、薬草探しに行くか」
体中に切傷や打撲傷を受けていて普通なら死んでいてもおかしく無い状態だったがビーストの戦闘部族だということで体が強い、そのため何とか命はもっている。幸い傷は深いものは少ないためすぐに縫わなくてもいいようだ。それでも冷たい急流にもまれて体には相当な負荷がかかっているに違いない。そこは配慮すべきところだろう。
「レイ! 着替えさせたよ!」
「わかった」
木の影で石を使い草をつぶしていたレイが石を持って近寄る。即席の薬のためあまり効果があるようには見えない、それでも使わないよりはましだ軟膏のような濃い緑色のペーストを引き延ばし包帯の上から塗って行く。黒い薄手のシャツをめくりアルが軟膏を塗っていくなかレイはまわりに警戒の視線を送るがまだ戦闘部族は近隣にきていない様子らしくレイも一安心といわんばかりに腰を下ろした。結局二人は足をとめ休むことにしたらしく荷物を置きレイは鎧や防具をとり小手を重ね枕にして横になった。アルは金属を入れて防具替わりにしていたジャケットを脱いでたたみ近くに浅い水溜まりを見つけ薄手のワンピースを脱ぎ水浴びを始めた。霧が晴れ始め月明かりで姿が鮮明に見え始めたがまわりを全く気にせずに浴び続け最後に長い碧色の髪を束ねて絞り再びワンピースを着て先ほどのジャケットを枕に横になった。
「懐かしいね。レイ……何歳のころだっけ二人で森に入って野宿したの」
「まったく……。いくら幼なじみだからって無警戒はないだろ?こっちのことも考えてくれよ」
「ごめん。久し振りにあったのに覚えててくれたし、名前で呼んでくれたから……すこし調子に乗っちゃった」
「少しじゃないだろ? とりあえず俺が起きてるから寝ておいてくれよ。そろそろ手も使えるだろ?」
「うん、わかった。お休み」
夜の内に襲われるなどの最悪の事態は避けた。レイは夜通し見張りを続け、翌朝まだ動けないであろうビーストの少女についてアルと話し合っている。このままギルドへの到着を遅らせる訳にはいかないからだ。そのあとアルが食料を収集して戻って来た数時間後にビーストの少女が目を覚まし明らかにレイたちを警戒しているという低く耳障りなうなり声を上げた。
「グルルルル…………」
「警戒するのは仕方ないがあまり動くと傷に触るぞ」
目は綺麗な鳶色で髪も同じ系統の色だ。短めに切り上げられ飾り気はないが目も大きく小麦色の肌をしており意外と綺麗に整った顔立ちをしている。そして、その容姿にマッチしたアルトの住んだ声が一言つぶやいた。
「ウチの……」
「お? どうした?」
「ウチの槍はどこや?」
「ここにあるわ。だけど、アナタはまだ傷が癒えてはいないのよ」
「うるさい!! ウチは戦わなあかんのや! みんなの敵を……」
「言いたいことはわかるが……もしも、もしもだ。俺がお前の父親だったら復讐なんてしてほしくない」
「お前何様や!! 人の家のことに首を突っ込むと命落とすで! ウチは狼のビーストなんや! たとえ一人でも……」
「なら、この俺を倒していけ。あの森に行きたければな。だが、俺に負けたら……。俺の言うことを何でも聞くと約束しろ」
鼻を鳴らし立ち上がった少女がアルから彼女の矛槍をひったくりレイに向けて構えた。戦闘の形はできている。レイも鎧は付けていないが三本の剣をフルに使う構えを見せている。
「ふんっ!! 臨むところや! 死んでも知らへんからな! 覚悟しい!」
いきなりの槍の猛襲を軽々と避けるレイは中剣を握り応戦態勢になった。少女は突きでの猛襲が読まれていると解ると槍の石突き付近を片手で持ち彼女の頭上で振り回し始めた。軸足を右左に美しく切り替え持つ手もまるでダンスを踊っている様にリズムよく変える。中剣は近距離戦闘用の武器で中距離には向かない。そこでレイも考えた。
「はっ!」
大剣を抜き地面に突き刺し峰を抑え突っ張り、彼女の槍が激突して衝撃に耐えきれずひるんだ瞬間をついて少女の槍を握る手の付近を中剣の腹で叩き腕を痺れさせた。だが、流石は戦闘部族と言えよう……スタミナも半端な量ではない。加えて鍛錬のおかげなのか慣れているかのように落とされた槍を手で直接掴まずわざと蹴り上げ高くジャンプして握り直し今度は体をすべて使って雪崩のような技を打ち込んでくる。一発一発が重く回しや突きが絶妙に噛み合う相手にとっては対処が難しい技だ。
「ヤァァァ!!」
とどめとどめ言わんばかりに声が響いたが一瞬遅かった。突きの組み合わせの中に喉を狙う技が含まれていたがそれを利用されたのだ。レイが視界から消え空中には中剣のみが踊った。レイが少女の足に回し蹴りを当て倒し落ちてくる中剣を右手でつかみなおも槍の柄で押し返そうとしてくる少女の槍を左手で掴んだ短剣を押し付け相殺し倒れて仰向けになった彼女の上に乗った形から中剣を鼻先で止めて一言呟いた。
「勝負あり」
殺されるとでも思ったのか目の隅に涙を浮かべた少女の腕の力が抜け槍が河原の丸い小さな石が転がっている地面に落ちた。短剣を腰の鞘に収め同じく中剣、大剣と武器を収め鎧を再び付け直し少女に向き直った。
「行く宛は?」
「ない……」
「食い扶持は?」
「ない……」
「なら、俺たちと一緒に来い」
「ふぇ?」
訳が分からんといった顔で少女がレイを見つめる。それまで黙って見ていたアルが転がった矛槍を拾って手を差し伸べ立たせた。小柄なビーストの少女は二人の行動に混乱し話が読めない状態らしい。顔は明らかに混乱していて諸手で頭を抱えている。
「俺の名前はフェンク・レイ・スウォード」
「アタシはボア・アロウ・ルース」
「レイと……アロウ?」
「アルでいいわ」
大きな目が警戒を含んだ鋭い光から安心感と信頼を含んだ優しい光に変わった。次は少女の自己紹介の番だった。少女は槍をアルから受け取り腰につけていた袋を刃先に被せ背中にあるバンドに通した。
「ウチはリーン・ハルバート。これからよろしゅうな」
「あぁ、いこうか。これ以上長居は無用だ」
「確かに。他の連中に追いつかれたら厄介やしな」
新たな仲間のリーン・ハルバートが加わり賑やかになった一行は足取りを速め川沿いをさらに進む。その頃、亡国の若い将たちは散り散りになってはいたがそれぞれが確立した道を進んでいた。最初にレイを気遣っていたフィトはどうなったのだろうか。いずれ経過を追っていこう。他にもいろいろな要素が絡んでくる。アルと山中でクーデター鎮圧をしたさいの謎の男などがいい例だ。これからどう絡んでいくのか。川を下り街が見えてきた。以外と大きな街のはずれにその建物はある。古い教会を改装したもので寮、食事付きの割のいいギルドだ。
「見えてきた」
「意外と大きな街だな」
「レイ、アル。ウチはどうしとればいいんや?」
「そのままでいいのよ……」
これだけの広さの街に来たことのないリーンは気後れと不安があるらしい。その途中に荒野を抜けていくのだがそこでレイが止まり上空を睨んだ。その数秒後に太陽の中心に黒い点が出来、すぐに見分けがつき人が降ってきているのが解る。空から降ってきている時点でただの人ではないが鎌を右手に持ちレイの前方に落ちた。アルとリーンもそこから飛び退き各々の武器をつかみ砂煙が収まるのを待った。砂煙が収まると見えてきたのは中剣と短剣を鎌の柄に押し付けて力を相殺しているレイと片手で鎌を押し付ける謎の男だった。
「何ものだ!」
「さぁて? 当ててみな」
レイが付加魔法を使用し筋力を増強。同時に左手で大剣を抜き中剣と合わせて振り回して始めた。独特な刃形の大鎌は謎の男の流れるような体捌きとリンクしじわじわとレイを圧し始めた。程なく中剣が弾かれ大剣で必死にガードするも鎌の奇妙な動きについていけず弾かれた。そこに三本の矢が撃ち込まれレイは隙をついて地面に刺さっている大剣と中剣を回収し飛び退く。そこに入れ替わるようにリーンが突きを繰り出し今度は鎌の男が圧されている。レイも短剣と中剣に切り替えて前進しリーンの動きに出来る微妙な隙を埋めるように両手の剣を繰り出す。その間にアルが矢を撃ち込み隙を作ろうと努力しているが一向に進展しない戦闘は10分程続いた。
「ハァハァ……、なんてヤツだ!」
「レイ!! リーンを連れて一度退いて!」
アルのお馴染みサンダースパイダーネットが炸裂し一時的に起きていた砂嵐が重なって粉塵爆発が起きた。普通に食らっても死亡確定な技だが爆発が加わりさらに威力は増した。
「今度はこちらから行くぞ!」
レイに向かって大鎌を振りかざすその男の動きがさっきまでとは格段に違う。まるでバトンを回す様に柄の長さが150センチはあり異様に刃が大きな鎌を回し先ずはレイに向け攻撃を繰り出す。だが、その男は一頻り振り回すと鎌を使わず腰に付けていた短剣を抜きレイに突きだしていった、どうやらまだ鎌は不慣れらしく扱いにくいようだ。
「腕は強いが足ががら空き。あと、右側の反応は早いが 左は一瞬遅れてる」
レイの右足に重い蹴りが入り怯んだ瞬間に額に重い空気の玉の様な物がぶつかり10メートル程とんだ。次はリーンが持ち前の身軽さと腕力で抑えようとするが全て短剣の刃先で流される。最後には槍を突き出した時にかわされそのまま首に素撃ちが入り意識はあるが動ける状態ではない。
「君は猪突猛進すぎる。体術や間合いは完璧だからまた教えるよ」
リーンの頭のなかでクエスチョンマークが数個連続して浮かび最後に弓を使い矢を放つアルの方へ歩いて行く男を見ていた。地面に刺さっている例の鎌を抜いた男が近くにあったさやを拾い鎌を収めアルに話しかけ何やら手帳らしき物をみせている。アルは鎌を受け取り溜め息をついた。
「君は力みすぎ。あとは経験だけかな?」
レイを立たせているその男からは敵意が全く見えて来ない。どちらかというと親近感すらある。レイに肩をかしリーンを引っ張り上げ岩陰に座らせた。
「さっきは手荒な真似をして悪かったな。君達の実力に興味があってどうしても確かめておきたかったんだ」
「もしかして貴方がシドさんが言ってた……」
「話を聞いているなら話は早い。俺の名はオーブ・ギア・オーガだ。レイ、今日から君の師をすることになった」
TO BE CONTENEW