蟠りと柵
彼らはまだかろうじて無事だった。イオは完全に失神しているがウィルとクルーエルの努力とクライスのミラクルがありなんとか絶体絶命を切り抜けたのだ。数時間後、夜襲に備えようとしたイオだが自分の体に起きている事が理解できていないらしく能力を解放しようともがいたようである。だが、それもむなしく疲れ果てた末に眠ってしまいクルーエルとウィルは傷だらけだが意識を高くもち交代で仮眠をとりつつ見張りを続けていた。そして、彼らがレイの率いる捜索隊にも見つからない理由は悲しくも芳納だったのだ。実は芳納は攻撃的な魔法が苦手である。それでも防御や介抱に役立つ魔法には長けており今は藪の中にカモフラージュして作った簡易の小屋の中に居た。
「くそう……あいつ等俺を本気で殺しにかかってんな」
「アイツらって?」
「知らない方がいい。俺は昔にバカやってな。家を追い出され……馬鹿のする事には際限はないのさ。ある悪の象徴みたいなやつに手を貸しちまって足を洗えばこのざまだ」
「お互いやってることは変わんないな」
「あん?」
「俺もな。母親に縁を切られたんだ。母親の名前の重圧に耐え切れず非行にはしり……挙句の果てに普通の一般人を何人も殺した」
「確かにかわんねぇな」
「あぁ」
その横では芳納に抱かれるようにクライスがすやすやと寝息を立てている。彼らは先ほどスケアに襲撃され絶体絶命の所を彼女の起したミラクルに救われたのだ。確かに魔法の制御はできていないが状況を彼女の生物的習性などの観点から理解したのだ。両親は二人とも名高い実力者……、その血族は伊達では無いのだろう。起きている二人もそう話していた。イオは夢でうなされているのか今でも苦しみ続けている。クルーエルの知識から彼女について解っていることで言えば彼女はまだ19歳であることくらいだ。その年齢の割にはオウガ族である関係から成長段階は早い。そして、ファンにも負けず劣らず美しい。
「よく寝るなぁ……三人とも」
「あぁ、しかし、当代の最強の魔術師と軍師兼剣士の娘か……まさか運まで味方につけるとはな」
「あぁ、ちがいねぇ。あの魔法……どうやったんだろうな。光線みたいだったが」
「解らん。無意識……か。だが、呪詛を述べずに魔法を扱うには相当な訓練が必要だ。それを……はは、考えても無駄か。最強の血筋なんだろう」
「そうだな。だが……、そそられるねぇ」
「場をわきまえろ。それから、イオに手を出したら本人に殺されるぞ。イオはな寝てても人を殺せるくらいの腕力有るし……」
「俺は打撃じゃしなないぞ」
「ははは、ちげぇねぇな」
捜索隊は各々に戦闘をしていた。敵はかなり数が多いらしい。しかも、それは明らかに近代の規制された力などでは無く何か禁じられた物を使っていた。ファンはそんなことが出来る者を一人知っていると言うがギアにも口を開かない。それほどの術を使っているのだ。肉弾戦であるため数でおされれば流石の彼らでも退避せざるをえない。一番最初に引いたのは風崖とライムズ&光狼の組だった。実は彼らはスケアの布陣していた本陣にぶつかってしまったのだ。それにいち早く気づいたのは……憤怒したギアだった。その男を確認する度に彼は我を忘れてその男の命を奪いにただその手に携えた武器を振り回し無造作に命を奪っていく。その凄まじさを目にしたのは近くにいたファン、風崖、光狼、ライムズとクルーエル、ウィルだ。彼の形相を見れば誰でも対峙したいとは思わない。
「兄さん……まだ、あんたとの決着をつけていなかったな。大人しく命を捨ててくれないか?」
「決着など着くものか。貴様と俺はまた出会う。しかし……いいだろう。前に“氷土妃”やられた借りを返させてもらおう!」
クルーエルの機転で最悪の事態は避けることに成功した。しかし、ギアとスケアの攻防でその周辺のいろいろな物が薙払われ彼らが隠れる場所すら見当たらない。そして、面倒だったのは……動けないはずのイオが槍をついて歩いていく。ウィルもクルーエルも気づけず行く末を見守る他……ない。
「ギ……ア」
「イオ!!」
「ふっ……馬鹿め」
ありがちな人質事件に発展した。イオを人質にスケアは無防備なギアに攻撃をしかけようとしたのだ。結果的には……今度は……彼女の意志でその状態の打開を図りイオもギアも助かった。そこにオニキスが現れたのが少々面倒な点ではあったが……。それにはファンと一時的な覚醒状態にあるクライス、あまり機嫌のよくないマナが収拾をつけてくれた加えて奮闘したのはウィルとクルーエルだ。オニキス・カーン……。イオの話によれば禁呪を専門に扱う魔導士で死体や生きた人間の意志に関係なく『意志のない無限兵士』に変えるという残忍ささえあるらしい。他にも『命』という概念を曲げ、思いやりの欠片も無いような行動をし魔法においては実験で生きた生物を利用するという。クルーエルも年齢を重ねるごとにそのやり方に端を発し協力を拒絶……。イオも途中から忠誠を見せないまま失踪していたのだ。今、スケアとオ二キスが現れている簡単な理由は彼らの『後始末』のために現れているということであろう。
「ギア! 私のことなどいい。この男を殺せ! 早く!」
「それはできない。……他の策を考えよう」
「選択の余地などあるわけなかろう。あの時……相討ちになった瞬間に俺もお前も瀕死の重傷を負った。しかし、皮肉にも……」
ギアが放つ黒く細い光線と似た物がどこからともなく放たれスケアの背中側からイオの首の横を抜けてスケアを貫いた。年端も行かない幼女の攻撃とは誰も思わない強力な破壊力を見せる一撃に一瞬周りが膠着した。……が、すぐに状況は動く。クルーエルとウィルが動く前に芳納が防御系の魔法を発動しイオを樹木の壁で包んだのだ。その芳納の周りには敵兵が集まりかなり危険な状態だったが……。クルーエルの能力を発動し残忍では有るが彼なりに守ろうとしたのだろう相手を再起不能にした。
「やっぱり足手纏いだな! 芳納!」
「クルーエル……ありがとう!」
「早く立て直せ! ウィルが向かったがあの壁も長くは保たない」
「うん!」
上空ではマナとファンがオニキスと対峙している。レイはギアが周りの兵を片っ端に倒している間に手負いではあるがスケアと戦闘をしていた。しかし、スケアは敗色が強まると部下とオニキスを残して一人退却してしまい残された人形のような無限兵士は意志無くして戦い続ける。そんな中驚くべき事態に発展した。オ二キスは実は先の大戦でも剣や武器はおろか魔法すら当たらずダメージすら受けなかったはずだ。それがダメージを受けたのである。
「ぐふっ……な、何だと? 浮遊霊体のわしには攻撃は……ガキ? 貴様ぁ!」
「ちっ! 大丈夫なのか? 魔法に対しては生身同然だろう?」
「ぐっ……大丈夫だ。俺にはこれくらいたいしたことない。母さんに鍛えられたからな」
ウィルとクルーエルが間一髪のタイミングで滑り込み防御をしてなんとか危機は切り抜ける。オ二キスは兵士のほとんどがやられたことに気づき直後、彼女も退却した。負傷者三人で済み何もないとはいかないが……蟠りや柵を抜け出した者もいるだろう。本城に帰りマナは酒が癖になったのか少しの間飲み続けていた。修羅は……その後の猛烈な二日酔いで懲りたらしく少ししか飲まないようだ。
「どうした覇王妃よ」
「うん……? どうも……しないよ」
「嬉しい時以外の酒は自棄酒でしかないからな。俺にもそれくらいは解る」
「ねぇ、闇剛ちゃんと喧嘩したことある?」
「幼少時代は多かったな……おお、一度だけあるぞ」
「どんな喧嘩?」
「男のことだよ」
「は?」
「アークリー……。あの男のことは元々知っていたからな。だからあのような落ち着いた結果になり正直ホッとした。一カ月間ぐらいか? 何度大きな口喧嘩なり城を破壊したか……」
「ねぇ……今更さ、十年越しの仲直りってできるかな?」
「それは覇王妃しだいだな。俺はそのクルーエルとかいうやつのことは知らんから何とも言えん」
「ありがと」
修羅は酒の席を後にし次はアルが現れた。お腹の子供のためと酒は控えているが修羅に言われマナの話し相手をし始めたのだ。確かに……温厚なマナがここまで荒れるのは珍しい。レイが話題に触れようとすると「クルーエルの味方をするんでしょ?」と言われてしまい相手にされず……ファンは娘とイオに付ききりだしゼシはクルーエルのことを未だに疑っているから話す気はないらしい。ただ、好意的にクルーエルの近くに向う者もいる。その物がクルーエルを高い塔の回廊に居るのを見つけた。クルーエルは空を眺めているらしい。
「ここに居たの」
「芳納か……何か用か? 用なら手短に……」
「用事も何もないよ。ただ、一緒にいたいだけ。私も……今は父上や母上、姉上、義兄上がいるけど……祭り上げられたときは誰も信用できなかった。信頼していた侍女ですら敵に見えた」
「そうか……で?」
「だから……私も一人だった。何人も私の毒味役の女官が死んだ。私は誰かに狙われていた……でも、今は違う」
「そうか……俺は、姉様しか……逃げ道を知らなかった。あの人はある日突然いなくなり……俺は荒れた。そして、『月』から下天し昇天する権利を奪われた……だから俺はここでは……あの人に認められない限り……一人でしかいきられないんだ」
そこに……ギアが現れた手には二本の剣を握っており片方をクルーエルに投げ渡した。難しい表情をした後に付いてくるように伝える。クルーエルも彼を敵視している気配はないため素直について行く。
「蟠りや柵はため込むな。お前のためにならん。お前が吐き出せないなら誰かに頼れ……俺は、イオに関しての責任がある。あまりお節介はできんがな」
彼らは道場で剣を振るう。太刀筋が安定したギアの剣を見ているクルーエル……は未だに上の空だ。その脇にはいつの間にか芳納とクライスを抱いたファンがいた。ファンとギアは夫婦になりだいたい五年が経つ。そのためかお互いのことをよく知っている。ギアは気を紛らわすために鍛錬がてらに剣を振るうのだ疲れた時も少し情勢が悪い時もファンと喧嘩した時もすぐにここへくるらしい。その間に話し相手として既に道場にいたレイとクルーエルが選ばれたのだ。
「なぁ、何で俺を呼んだんだ?」
「お前は……一族を追放なんかされてないよな。確かに無断で月を降りたのは間違いだが……姉さんが心配だったんだろ?」
「ああ、だが、プルトンと組んだのにはかなり後悔が残る。月にいればまだまだ俺や姉さんは10やそこらだ。プルトンにさらわれたって聞いて焦ったから……ついこちらに来ちまったが」
「それで? 何故戦場に居たんだ?」
レイに問われすぐに弁明をし始めた。この時の彼の表情を読心術さながらにレイは読み取っている。レイは彼の……クルーエルの真意が知りたかったのだ。
「言い訳にしかならないが俺やイオは魔術で洗脳されていたに近い。イオはギア、あんたに関しての情報と身柄をやると言われて唆されたんだ」
「……たしかに、それならあの時のあの台詞も理解できる。お前も目の光が違うからな。城で会った時はキツい言葉を向けてしまったが……」
「仕方ないさ。それに関しては俺もわかっていたよ。元々敵だったんだ。形だけだったとしても立場もあるし、警戒しないわけはないからだろうとは思ってたよ」
「なら良かった」
三人にファンが言葉を告ぎその場をまとめた。ファンの腕の中で抱かれたまま寝ているクライスは戦場に出ていた時の姿ではなく幼児のような姿に戻っている。彼女は全く新しい新種の血を持って生まれたため誰にも能力はわからない。把握しようにも父と母も希少種で彼らの経験しかデータがないのだ。そして、今はかなり不安定な時期である。ギアが言うにはオウガ族の子供は10歳までに数度の変身……つまりは変体を繰り返し……蛇で言えば脱皮だが……彼らの場合は体表の変容のみではなく容姿、外面、能力、体機能の向上が主な物らしい。クライスも非定期にこれから起こるとは言い切れないが起こる確率は高いだろう。何しろ彼女は二歳半にして父親が15の時に習得した技を使っている。突発的にしても彼女にはかなり速い成長がみられるのだ。……加えオウガ族は元々かなり成長が早くカイザーの神経の発達の速さも加算されると……いや、早さは個々の個体値にも違いがあるから一概には言えまい。とにかくクライスは今かなり不安定だ。それをクルーエルも解ってあえて深く触れないでいる。
「そろそろ気は晴れただろう? ……お前にもイオが世話になった。礼を言おう。クルーエル」
「気にするな。それを言うならあんたんとこの嬢ちゃんには二回も助けてもらったからな……」
「いや、この子は解っていない。自らが何をしたのかな。ガイザーとオウガの血を受けて新たな種族として生まれてきたこの子は……力が不安定すぎる」
「事実は事実だ。で、あんたはイオの何が聞きたいんだ」
「いや、聞きたいことはない。ただ、あの子は……罪の意識どころか記憶すら曖昧だった……。さっきのことは本当なのか?」
「俺の知る限りでは仲間になったっ直後のイオは血色もよく優しい顔立ちだった……。いつからから……冷たい顔立ちになっちまったがよ」
その頃……イオは目覚めていた。部屋にはウィルが様子見で残っているだけで誰もいない。彼も複雑な顔をしている。母親のことを思い出していたのだ。クルーエルを見ていて思い返したらしい。自分がどこで道を踏み外したのかを……。彼は……。
「ぶよぶよ、お前が辛気くさい顔をする必要などないだろう。義姉様は私を許してくださった。お前は……私を二度も助けてくれた」
「ぶよぶよはどうやら定着したみたいだな。俺が悩んでんのはそこじゃない。昔、昔のこと……俺はな。母さんを殺したんだ」
「……」
「クルーエルだったなアイツも姉さんとの間に大きな蟠りがあるらしいが……俺は消えないさ。あの幸せ夫婦と娘のクライスが羨ましいぜ……。ホントによ」
「確かに……暖かい家庭だったな……私も羨んだよ」
「だろうな。だが、アンタはまだ良いだろう洗い流せる罪ならな。洗い流せない俺は罪の意識を持ってこれまで生きた。父を事故で亡くし独りで俺を育ててくれた母と意見が合わず……最後には殺しあって……俺は……」
「お前は……振り返ることしかできんのか? 私には……本当の家族の記憶などない。むしろ無い方が今まで幸せだった。お前にも道はあるだろう。前を向けばいいではないか。今なら私もいる。お前が望むのなら助けてやる。一緒に居てやる。ウィル……前を向け」
「最初っから覚えてんなら使えよ。俺の名前を……」
クルーエルは芳納と彼女の家についた。ずっと待機を命じられていた紅蓮は家にいたようすだ。外にいた氷鑓も一陣を退いてからは本部の手伝いをするくらいだったようでずっと屋敷にいる様子。芳納が帰宅したと奥に声をかけると沢山現れた侍女達を押しのけるように紅蓮が飛び付き涙を貯めて抱きついてきた……。氷鎚はクルーエルの頭に手を置き奥へ来るように伝えゆっくり奥に二人で居なくなる。残された二人はクルーエルと氷鎚を探し中で……。
「と……言うことだ。文句はあるまい」
「おいおい。いきなり敵だったヤツを召し抱えるなんて無理じゃないのか?」
「問題ない……。お前はマナ様の弟君だ。政略結婚に見せれば粗方の素性も隠せよう。その話し合いは既に覇王妃様直々に俺にあった事実。そして、マナ覇王妃様はこう申された。『我が弟、クルーエル・ムーンライトはわたくし覇王妃が推挙する娘と婚約を結び我が忠臣として覇王宮に迎え入れる。元老院の阿蘇が娘、芳納と我が弟、クルーエル・ムーンライトの婚約を早々に行いことの終末とせよ』とのことだ」
「マ、マナ様……」
「……なぁ、すぐに姉さんとは会えないのか?」
「解った。取り次ごう」
動けるようになったイオは松葉杖でウィルの補助を受けながら道場に現れた。そこでは木刀と果敢に格闘するクライス、厳密には木刀にかみついているのだが……それとギアにせがみ剣の稽古を受けているシドとゼシの息子のアルファ、そして、ファンに魔法を指南してもらっているミシィがいる。それにシドとゼシの本人も居た。シドは既にギアから話を聞いて居たため問題なかったがゼシは少し拒絶反応を見せる。
「ゼシさん。彼女に罪はありませんよ」
「ギア……」
「確かに……私も刃を交えた記憶はある。だが、それは本意ではない」
「お姉さん!」
「ん……」
「相手をしてあげなさい」
「すまない。どうしたクライス」
「お姉さんは何で戦うの?」
「私か……私は……槍で戦う」
「じゃぁ……教えて!」
無言でファンを見返す。ファンは無言で頷きにこやかに笑いかけた後にウィルに向かって木製の槍を投げ渡した。意味を解すると『お前が変わりをして体を動かせ』ということだ。ギアが笑うと彼が笑うのが珍しいらしくシドやゼシの顔も自然に綻ぶ。ギアが敵意を見せない相手にはゼシも攻撃的に接することはない。それどころかにこやかに眺める程だ。その頃のマナとレイは……。
「マナ?」
「ごめんなさい。少し家族のことになって荒れてただけなの。私……、クルーエルももう一度信じてみようと思うの」
「そうか……。それで解決されるならそれに越したことはないよ」
そのラブラブオーラを外側から冷や汗と変な笑いで西洋風の甲冑をつけた状態をして見ていたのはクルーエルだ。まぁ……直ぐに気づいたらしいマナがレイに席を外すように頼み頷いたレイは奥に消える。奥には芳納、紅蓮、氷鎚がいた。そこにレイが混ざっただけだが……。
「レイ様。マナ様のご様子は?」
「問題ないよ。ただし、酒癖がつかないように制限しなくちゃな。それから氷鎚。ありがとう」
「いえ、覇王妃様のご意志を的確に伝えたまで。我が義妹も喜んだ様子ですし」
「されどよろしいのか。我らが一武将の家に王族の血を入れるなど……いえ、光栄なのですが……恐れ多いと言いますか……」
「それしか今はできなかったからな。大きく表沙汰にせずに貴族の男児としてクルーエルを保護し権威を落とさないような上手い話を考えれば」
「彼を好いていた我らが義妹が……たまたま居たと」
「ま、これもそちらが言うようにマナの采配だ。俺は手続きをしたにすぎない」
窓辺で話す二人にこの会話は聞こえない。だが、この二人にも大きな蟠りがあった……。
「まだ、許さないんだから」
「……そうか」
「でもね。レイにも言われちゃった。いつまでもグジグジしてるのはいつもの私じゃないって……」
「姉さん……いや、覇王妃様は覇王様と……」
「幸せよ。それに、あんたが無事で良かった。また、姉さんと呼びなさい。あんたは私のただ一人の弟なんだから……でも、芳納を悲しませたら私は容赦なくあなたに罰を与えますからね」
「あ、ああ……変わったな。姉さん」
「えぇ!! これから大変よ。あなたは覇王の義弟にもなるんだから」
「確かに……頼むよ。姉さん!!」
二人の蟠りが解決したのだろうか? いや、まだこれからだろう。新しい生活に向けて大きな変化を要する。話は変わるがめでたいことは続くものでアルとフィトの間に長女が生まれたと言うことだ。しかも双子らしい。マナや同年代の彼女を知る女性陣の高官が集まる……。男性陣は……下町の飲み屋でフィトを囲んで飲み始めていた。子の生まれたペアはこれで3組目だという。
「へぇ、めでたいわね。次はアルの子供かぁ。私はいつになるやら」
「変なぼやきは入れないでよ。オーシャ」
「にしてもそっくりねぇ。二人とも女の子?」
「うん。フィトもギアさんに負けじと名前を考えていてくれたみたい」
「羨ましい限りですね」
「ルナはまだそんな年じゃないでしょ」
「で、アル。名前はどうなんや?」
「右側のフィトに似た白髪の方がリューレ。左側の碧色の方がライネス」
「二人とも書きにくそうな綴りね」
「仕方ないわよ。フィトったらそれで寝不足になったんだから」
『アハハハハハハハハハ!!!!』
そして、その二・三日後に早産で少し緊張感が高まったが……無事に元気な男の子を出産したルミ。柄にもなく一番心配したらしいヴィヴィアは大泣きして出産後の面会時に姉に抱きついたという。シェイドは周りの男性に振り回されることなくゆっくりと彼のペースで名前を決め聖刃のアドバイスらしく漢字の名前にしたという。母のルミの特徴と父のシェイドの特徴を織り込んだそのままの名前らしい。
「名は影斧という」
「兄さんはまたストレートに決めたね」
「あぁ、己の名となる物に二重も三十も意味を要さんからな。俺の主義はこういう事である」
「へぇ、影は兄さんで、斧は姉さんか。ま、二人のトレードマークみたいなもんだしね」
「そうね、レイ君ももう子供は作る気なの?」
「ルミ……まだ、気が早いぞ」
「えぇ……どうした? マナ」
「ゴニョゴニョ……」
「実はアルの出産の日に解ったんだけど……子を宿した?」
「恥ずかしいんだから大きな声で言わないでよ!」
「めでたいではないか! マナ……それは胸を張って良いことだぞ」
「そうだよぉ。おめでと! マナちゃん、レイ君」
式典の騒ぎからまた一段落着いたようにうれしい事実が解った……。その日から数日間の間はお祭り騒ぎが続き新たな役職も生まれクルーエルやイオも馴染んだ。これからまた和やかな毎日が続くのだろうか……しかし、気になるのはあれほどの部隊を軽々とこの土地に侵入させるだけの力を瞑王、プルトンが付けているのだ。気は抜けないだろう。
……TO BE CONTENEU……