新たな道に……
街が徐々に復興を始めた。大きな城下町のようになったギルド、ホーリ・プリセクトの周辺の市街地は活気にあふれた執政の中心地ということもあり人の流れがとても大きい。そして、その街ではギルドのメンバーがヒーローのような扱いを受けていて周りからちやほやされはするが誰一人それで奢ろうなどと言う者は居なかった。それは……幸せを作れるのが彼らの喜びであり誇りでもあったからだ。城下町にはたくさんのメンバーがいる。一人の動向を見てみよう。
『姉さんも大変やな。うちらも同じやけど毎日街の見回りの仕事があるんやから』
「そうやなぁ。でも、気分ようないか? うち等のお陰で守られてるんやで」
『そうですな。なら、もうひと頑張りしましょう』
リーンの後ろに数名の狼牙騎士団を率いて街の内部を通り抜ける。治安維持のために狼牙騎士団が一役買っているのだ。その他にも……。
「リーン殿!」
「闇剛! そっちはどうやった?」
「異常はありません。忍び屋敷のみなも変わりなく治安は『優』を維持しています」
「やっぱり、平和がええなぁ。これまでずっと戦い詰めやったし」
「はい、WARS&WARSの連鎖は今は小休止でしょうが私たちよりもここや他の地域の民衆が安心して暮らせるようにしなくてはならないですから」
「そやな」
「リーン! 今日は第二班に交代だ!」
「おおきに! すぐいくでなぁ! と、いうことやうちも幸せに浸ってくるわ」
「ごゆっくり」
闇剛の横に屋根の上からくノ一が現れ周りの現状を伝えたのち交代を進言し忍び屋敷と呼ばれる一般には隠れた交番のような場所に帰って行った。闇剛は軍の間諜部隊を率いるシェイドとは対照的に市街地の治安維持を主に行う組みに別れたのだ。
「私も休みか……」
「よう、闇剛。暇か?」
「そういうアークリーは姉上の補佐をしなくていいのか?」
「姉さんはフィト兄さんに止められて家に居るし今は昼休みだ。別に問題ないだろう?」
「……で、何をしに来たんだ?」
「つれないな。デートくらいしてもいいだろ? 俺達ももう公認なんだし」
「あ、あぁ。解った。服を着替えたいんだが……」
城内ではレイの横にマナが付き歩いている。レイの仕事は物事の決定だ。書類や立案はこの街の選挙で選ばれた議員や阿蘇を含む元老院。それに加え修羅が指揮を執る防衛軍、シドの率いる特別攻撃騎士軍団などが席を置く会議で欠点を抑え長所をいかす。そういう執政体勢を取っている。
「レイ様。最外殻の濠の建設に関してなのですが……」
「ゆっくりでいい。住民の士気のままに行え。急いでいる工事でもないしな。他には?」
「は、二日後の婚姻の儀に関しましてマナ様をゼシ様がお呼びです」
「うん。じゃぁ……私はいくね」
「あぁ、行ってらっしゃい」
同時に婚姻を上げることになった聖刃と修羅。修羅は色合いを考えれば黒を好む。白色は嫌いその類の色いろのドレスをかたくなに拒んでいる。そこにマナが入ってきたため先にマナのドレスを作るゼシ。彼女は家事教室を開いておりその生徒さん方である若い主婦達が見学や実習に来ているのだ。
「嫌と言ったら嫌だ! わ、私は断じて着ないぞ! そんな真っ白な衣服など着れんぞ!」
「もう! そんなダダをこねないでよ! うちの子じゃないんだし!」
「嫌だ!」
「もう……」
「失礼します」
「あ、マナ! いいところに来たわね。あの21歳になってもダダこねる子供みたいな子に手を焼いてたのよ」
「え、あ、修羅ちゃん?」
「そんな目で見るな! 俺は白色のドレスなんて着ないぞ!」
「マナは真っ白でいいな?」
「はい」
「あ、あのどうせなら金のラインと紋章を入れてはどうですか?」
「あ、それ採用。修羅のドレスは間に合うか微妙だけど真っ黒に将軍家の家紋を入れてちょうだい。これでいい?」
修羅がやっと納得したようにうなずき髪を翻し外に出て行った。マナはドレスのサイズを計測しすぐにレイとマナの家に帰る。最近の近況を伝えよう。オーシャの姉のゼピュロが城に訪れガンとして海に帰らないと告げるオーシャの気持ちに折れ海から上がりこの城に住み着いた。
「まさか俺も結婚することになろうとはな」
「ふふふ、あたしだってそうよ。お父さんから国を受け継いで陸で結婚するとは」
「確かにそうだな。いつでも困ったことがあったら教えてくれよ?」
「うん、解ってるわよ」
ギアとファンの娘が生まれてその子はやはり両親に似て知能の発達が早く一歳に満たないが声を発し単語を述べる。白い髪に大きな青い瞳で黒い龍の翼に三本の角、耳の横の羽毛が親によく似て愛らしい。シドの娘であるミシィが世話を焼き母親のファンも付き添ってよく遊ばせていた。そういえば母の後を継いだルナは軍名を修羅から貰い新生七人衆に任命されている。ちなみにデルはレイの盾になり剣であるアレンと共に青騎士の称号を得た。アレンは赤騎士に任命されその数日後には恋人であったヴィヴィアと結婚し既に新居もギルドの構内に構えた。
「クライスはいいなぁ。青い綺麗に澄んだ目……白くてフワフワな髪なんか最高です」
「子供の内だけだよ。私のように長くすれば必然的に重くなるさ。ミシィも十分美しいではないか。きっとお母様のように美しくなるだろう」
「えへへ……」
「ミシィ!! 母さんが呼んでたぞ! マナさんと修羅さんのドレスをつくるってよ!」
「わかったぁ! じゃぁ、失礼します。バイバイ、クライス」
「バイ……バイ」
ギアも途中に前線軍官からは外れたがシドからの要請を受けて新たに四天王を組み。当主、覇王を兼ねた大元帥のレイ。前線総司令部総帥をシド。先程述べた四天王にギア、風涯、雷軌、岩鋼と着任した。他にも政務官や騎士団、警察組織、隠密秘密警察、法聖官などと各部類に分けた役職ができほとんどが彼らに任されている。
「レイさん!」
「どうした? デル」
「寄り道しちゃダメじゃないですか。マナさんが探してましたよ」
「悪い……少し気になる物を見てな」
「何ですかそれ?」
「ん、まぁ、なんだ。男ならわからんだろうよ。マナにやるのさ」
「あ、いたいた! レイさん! マナさんをひとりにしちゃダメですよ」
「アレン……。マナも居るか。とりあえずお前ら二人は職務に戻れ執政と軍備の通達にはお前らを起用してるんだ滞らせたらただじゃすまないぞ?」
「心得てます」
「俺は今し方、法聖官の聖刃さんに書類を届けてきたところですよ。それより家の嫁を見ませんでしたか?」
「ヴィヴィアちゃんなら多分、風涯さんとこのオーシャちゃんと一緒に歩いてたよ。西側の回廊の入り口辺りで見たからその辺りかな?」
「ありがとうございます。では、これで」
「僕も休憩にします」
「ああ、行ってこい」
レイが握る物に興味を示したらしいマナは反対側に回り込もうとしたが先手をレイにうたれ石畳の道で躓いて逆に支えられた始末だ。目の前にその青い箱が来て目を寄せるマナをレイが立たせ箱を持った手と反対の手を差し出している。マナはニコッと笑うと手をとり歩き出した。
「それなに?」
「これか? いい物」
「教えてくれないの? 意地悪」
「教えてもいいがホントは明日見せるつもりだったんだ。ほら……」
「何だろ……わぁ! 指輪! あれ? でも私、もうレイから指輪をもらってるはずだよ」
「最初にあげたやつとそいつは意味が全く違うんだ普通の指輪より太めで厚みがあるからつけるのは少しキツいと思って……」
金でできた指輪の片方を手に取り軽く捻ると輪切りになって二つに割れた。宝石の形は一般のカットダイヤモンドではなく少し特殊な形状に削り出されている。それに目が行っているらしく気づかないが割れた切り口の内側にかなり小さな文字が掘ってあることに気づきそれを読もうとすると……。
「我、覇王。金色の輪にかけて誓う。この輪を共に受ける者を我が生涯の妻と認め永久に寄り添い離さず……共に生きることをここに宣言する」
「……は、恥ずかしいよ。いきなり真剣に見つめるんだから」
「真剣だからさ」
「え……あ、うん」
「手、出して……」
「こう?」
レイが指輪をマナに付け跪いて手の甲にキスをする。周りには人はいないためみる者などいないのだろうがマナは赤面しうつむいてしまった。大きな金の瞳もいつにもまして大きく見開き凝視されているのに気付くとさらに顔を赤くしてうつむいてしまうのだ。そこにルミとシェイドが通る。レイも兄と認識しているため最近のシェイドはそれに準じた態度を取るように心掛けているようだ。ルミは最近身籠ったことが解りこれまでのように無茶はしなくなったという。出産予定はまだまだだが彼らも一時とは言え幸せなのだ。
「レイ……花嫁殿をあまり困らせてはいけない」
「兄さん。どうしたんですか? 二人お揃いで」
「えへへ、この子のためなの。私小さいから赤ちゃん産めるか不安だったけどお医者様は大丈夫だって言ってくれたし。不思議だよね。レイ君は私の弟になるのよ」
「不思議でもなんでもなかろう。俺の弟はお前の弟だ。そして、マナ殿も俺の妹となるのだ」
「そうだねぇ。マナちゃんが私の妹かぁ。家族って大きいね」「そうですね。マナ、行こうか」
「うん。ではまた明日」
「あぁ、今宵はゆるりとすごせ。レイも執務は少し控える事を覚えたらどうだ? 仲間や家族への配慮も必要になるであろう」
「解ったよ。兄さん」
シェイドとルミと別れ家に帰って行く二人。そこに新たな官職を受けた少女三人がキャイキャイいいながら歩いてくる。言うまでもなく日光、月光、芳納だ。年齢の近い彼女らは仲もよい。日光、月光姉妹は聖刃の補佐を務める巫女になり芳納は役職的には法政官に近いマナの秘書をしていたのだ。その秘書の変化にマナが気づいた。彼女が見慣れないペンダントをつけていたからである。
「芳納ちゃん?」
「あ、マナ様。どうかされましたか?」
「そのペンダント……」
「さっき、そこで芳納ちゃんに白馬の王子様が現れたんです!」
「姉上……黒い馬に乗っておられたでしょう?」
「そんなこといいじゃない!」
「クルーエル……」
「マナ……今、何て言った?」
その男はマナの実の弟であるクルーエル・ムーンライトだったのだ。そして、周りにある気配が一点だけ抜けたエリアにレイが険しい視線を向ける。クルーエルと言えば一時期はプルトンの配下につき彼らと戦った中でもかなり腕のたつ男で年少ながらもその異質な力は並みの戦士では瞬殺されかねい力だという。
「そんなに警戒しないでくれよ。義兄さん」
「クルーエル……今更、何?」
「わかってるから俺は戦意を全く見せずに現れたんだよ。俺だってただ一人の姉の婚儀を祝いたい訳だ。それもダメかい?」
「マナ、それくらいにしておけ。お前たちの過去に何があったのかはわからないが……そんなときではない」
「さっすが義兄さん」
「調子には乗るな。下手に動くなら俺は全力でお前の首を落としにいくからな」
「……」
少し険悪な空気を流してしまったのがあまり気分のよくないらしいマナは小走りにレイの手を引きながら彼らの屋敷に向かった。残された三人の内の二人はマナの方に目をやったが……芳納は、俯き物悲しそうな表情をしているクルーエルを見ていた。
「あ、あの。私の家に来ませんか?」
「いや、君が疑われるだろう。証を立てなければ俺は認められない。俺はそれだけのことをしてきたんだ」
「あ、じゃぁ……」
芳納が一度考えるように下を向いた時には既にクルーエルは姿を消していた。そして、別の場所では……。
「な、何なんだあの兵隊は……正規の軍のものでは無いな。うん、エンブレムが違う」
「私のこと……など、ほぉって……おけ。お前が……死ぬぞ!」
「ば、馬鹿! デカい声を出すな!」
『居たぞ!』
「畜生!! 動くなよ……、まぁ、動けねーだろうが……」
「な、何を……」
その男は強力な魔力をその周辺に散布し……地面から水分を抽出して敵にぶつけていく。本人も銃で撃たれたり剣で斬られても全くダメージを受けず戦い続けている。そこに通りかかったのが……。
「デ、デル!!」
「僕が行く! ルナは後衛を頼むよ!」
「うん!!」
デルとルナの二人だ。剣とロッドを構えデルは斬り込みルナは先程から魔法で攻撃し続けていた男を防衛する。防衛とは名ばかりで敵の内、彼に近づき過ぎた者に強力な白い光球をぶつけているのだが……。
「た、助かった……。ありがとう」
「さ、次が来るわよ」
「あ、ぁあ……」
その場を片付けルナとデルはぐったりし意識の無い女性をギルドに連れ帰ることにした。ここからはデルが開発した『車』で移動してもまだ時間がかかる。二人はレイとマナの結婚式のために何かを取ってきていたのだ。何かは後からのサプライズらしく同乗する男にも教えようとしない。
「マナ……今更昔のわだかまりを蒸し返すこともないだろう」
「私は今でも覚えてるわ。あの子と対峙した時の嫌な感覚を……人じゃない……」
「混乱するかもしれないがリーンやライムズの報告だと何やらアイツ等はプルトンと離別したらしい」
「え?」
「これ以上は混乱するだけだ……花嫁さん、心を落ち着けて……」
その言葉を聞いた瞬間にマナの顔がほころび次は赤くなってレイを見返した。次の日は彼らの結婚式だ。人によっては第二の人生のスタートと考える人も居るだろう。恐らく彼らもそのくちだ。その頃……彼らには知らされなかったがギアが驚く程の事件が起きた。波乱は止まないようでなかなか収まらない。
「う、嘘だろ……」
「どうしたギア! ……ルミ。クライスを頼む」
「え、いいけど……」
「イオ……何故こんな所に」
「イオ・イニシス。まさかな……」
「何を早とちりしているのか知らないけど嬢ちゃんは生きてるぜ」
「……君は?」
「俺か? 俺はギュンター・ウィティルード……しがない賞金稼ぎさ。たまたま嬢ちゃんが瀕死で横たわってるのを見つけて介抱していたら……変な兵隊に囲まれるは攻撃されるは……大変でよぉ。その次は正規軍の大将の一人とその彼女が現れるし……」
「ギュンター……その名前は聞き覚えがあるぞ。確か、ん? だが、女性のはず」
「あぁ、じゃぁ、あんたが母さんのライバルだった大天使さんか」
「母さん? それではお前が! ウィル! 久しぶりではないか!」
前振りが長くなったが彼らには接点があるらしい。ギアがイオの顔についた血で固まった髪を払おうとしている最中に話していたのだ。彼は先に名乗ったように名前はギュンター・ウィティルードといいファンと双対をなす程の実力者だった者の息子らしい。その大きな声でイオが起きてしまいさらに面倒になったが……。
「こ、ここは!? ギア! 離せ!! 私を捕まえてどうする気だ!」
「落ち着けっての……姉ちゃん、落ち着きなよ。運んだのは俺だ。そこの武家さんとファン姉さんは悪かねぇよ」
「……そう言えば……余分なことを」
「だから落ち着けてぇ。お前さんを助けようとした訳じゃねえしさ」
ギュンターの言葉で幾分か落ち着いたイオを驚かせたのは……二人の娘だ。クライスはオウガの恐ろしいまでの成長の速さで既に2歳半程の体格になり知能は……既に10歳程度の知能を示し体機能は安定しないまでも体が安定しつつある。1日での成長が早すぎるためか親の二人がかなり困っている程だ。
「父様! 母様! 飛べます! 私、飛べますよ!」
「と、父様……母様? まさか」
「ああ、俺とファンの娘だ」
「あれ、お姉さんは誰ですか?」
「……」
「イオ!」
「心配するな。私だって既に成人した。もう、あの頃のような無知な子供ではない。」
「お姉さん?」
「私は……イオだ。お前の父様と母様は幸せそうか?」
「はい! お姉さんは?」
「私か?」
「はい!」
「今は幸せだぞ。兄のようだった友がこのように幸せそうであるならな。大天使よ。私はもう干渉はせん。安心しろ」
そういうとベッドから立とうとする。しかし、ギュンターが抑えてまたベッドに寝かせた。そして、彼が面倒を見ると言って三人を部屋から出るようにいい時間が過ぎていく。
「泣くほど悔しいなら……何で今、言わなかったんだ?」
「私は……ギアが幸せならそれでいい。義姉様が……幸せならばそれで……いいのだ」
「そうか」
レイとマナに視点を返そう。二人は公務が無いことの方が稀で時間が相手しまい暇になったようで引っ張り出したチェスなどのボードゲームをしている。レイはこれもギアから習ったのか相手の出方を読むのが上手い。にこやかに微笑みかけるとマナは赤面して手を狂わせるのだ。その内に手を読まれてしまうらしい。わかってはいるがなかなか対応できずレイに連敗中だった。
「フフ……」
「うぅ……それ、反則」
「何のこと?」
「レイは私に微笑みかけて手を読んでるでしょ」
「どうかな? いつか言ってたけどマナは難しい。全部は見えないんだよ。だから、見たくなる」
「……はっ!! また、やられる所だった。レイの魔力ね」
「誰にでも効く訳じゃないけどな」
琥珀色の液体の真ん中に大きな丸い氷を浮かべてひっかけているレイ。マナの次の手を読んだらしく次の手を手厳しくさした。すると唸るように息をもらすマナがにこやかに笑い……次にレイがコマをさすと、うなだれた。
「また……負けた」
「だからさ。ボードゲームは俺には勝てないよ」
「んんと……私が勝てる物かぁ。なんだろう」
「寝る?」
「ば、バカ!」
「え……いや、夜も更けてきたし」
「あ、ゴメン。てっきり一緒に添い寝するかって……ふぁぁぁぁ!!」
「いや、……婚前の夜は神聖な夜だからな。そういうことはやめよう。どうしてもなら別だけども……」
「もう、意地悪!」
「ははは、それじゃ。寝るか」
「うん。お休み」
二人の寝室で別々のベッドに入る。その屋敷の周りに視点を広げよう。彼らの屋敷の周りには矢倉や見張り台などが充実していて防衛にはとても向いているのだ。今、矢倉にはアレンが詰めている。実は彼のお気に入りの場所でもあり風通しがよく眺めも悪くない。今日はもう一人詰めている人がいたようだが……。
「で、何?」
「ほら、飲めよ。ヒューマンのお前だと寒いだろ」
「ありがと……。……用件は?」
「あ、ぁぁ……お、俺とだなぁ……あ゛ぁぁ!! いざとなると言えねぇ!」
「クスッ……ハハハハ!!」
「な、何だよ」
「アレン……結婚しよ」
「お、おい……」
「あたしだって……ふぅ、酒の勢いがないとダメなんだから堅いあんたなんてもっと無理よ」
「……た、確かに」
西にある高い塔の奥にある割に大きな和風な屋敷……では。
「レイさんも結婚か……」
「どうしたのよ。図面とにらめっこは楽しいんじゃないの?」
「今は……少し違うかな」
「な、何が?」
「わかんない」
「……」
「……」
「黙らないでよ」
「そっちこそ」
城の中腹にある修羅の屋敷付近では……。
「ついに、明日か」
「どうかされましたか?」
「どうもせん。早く寝る。私は血圧が低いのでな!! 早く寝ねば明日の式に遅刻してしまうかもしれんのだ!!」
「『口調が女性口調の時は……本音でしょうがタイミングがタイミングですから……まったく素直でない』」
その近くの屋敷の集まりには七人衆が集まっている。ルナ以外ではあるが……いつでも主の召集に答えるためだとか。
「旦那様……」
「どうした?」
「いえ……」
年の差が大きな二人も……。
「修羅様も御身を固められる。この紅蓮……しかと目に焼き付けましょう」
「姉様……兄様のお部屋へどうぞ」
「ほ、芳納……まだ子は授かろう時では……や、止めい」
幸せなツンデレ嫁やら……。
「陸の宴は初めてです」
「そうか、なら楽しもう」
「はぁ、まさか妹に先を越されていたなんて……」
新たな幸せを得た者……
「月が美しい」
「風涯……そろそろ、ね?」
「わかってはいる」
「だが、今宵はいいだろう。こんなに月が美しいのだ」
……何とも幸せな男も……。
……皆、幸せに浸っている。また、大きな波乱が押し寄せるまでにはまだ期間があった。しかし、それは刻一刻と迫りつつあったのだ。レイがプルトンを退けてから約半年が経過した。大きな波は新たな新地でその巨大な全貌を明らかにするのだった。
まだ……形すら見えてはいないが……時は止まらず訪れるのだ。
……TO BE CONTENEU……