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WARS&WARS  作者: OGRE
戦の始まる序章……覇王降臨
2/29

剣と楯の出会い

 未だ魔法が存在する現代。力を有するものはのし上がり、おごれる者は食われる。そんな弱肉強食の世界は生物的観点から土地や宝など“物”としての価値観を見出しそちらに利を求めた世界に変わりつつある。人の心は完全に忘れ去られたのだった。そんな世界に嫌気がさしたこの紅の髪の少年戦士、少年フェンク・レイ・スウォードは小国の最良といわれた王に仕官した。しかし、その王は病で崩御、死後に戴冠した王に国をまとめる力はなく彼らは振り回されるばかりだった。そんな狂った状態でも彼らはまだ国を諦めてはいない。


「レイ……。本当に行くのか? あそこに行けば帰っては来られないかもしれないんだぞ……」

「確にな……。だが前王の大好きだった土地を奪われ黙っている訳にもいかないだろ?」

「その気持はわからなくもない。だが…………絶対に生きて帰って来いよ。来なかったら地獄の果てまで追いかけてってやるからよ!!」

「ははは。わかった」


 彼、レイは笑っているが勝目など無いことは解りきった戦争なのだ。大臣の中には隣国と繋がるものもいる。軍兵の鍛錬はもはや地に落ちた。食料もなく、税金を取れる住民達も逃げて行くしまつ…………。この大陸、ユートピアは五つの大きな島が古の昔に人工的に作られたこの中央大陸によって接続された大きな島だ。東西南北の名将はこの中央大陸を欲し、また野心ある者は国を作り崩れつつある王をその椅子から引きずり落とす。そんな不安定な場所での戦闘は死にに行くような物なのだ。まして彼はまだ訓練兵で実戦を経験していない。


「フィト。後は頼んだ」

「まかせとけ。ルミ教官と帰りを待ってるぜ……」


 彼はフィト・ソニック突撃隊長。レイの同期の中でただ一人部隊長格までのし上がった男だ。今回は本土の防衛のために突撃隊長という格からはなれ城に残るらしい。そして、軍の中階級を除いた上ではレイの親友だ。レイは剣兵で近距離戦闘が得意な部隊の訓練兵。先程も言っておいたがこの世界には魔法が生きていて誰でもとはいかないが安易に使用できる。戦争の武器であることは勿論のこと日常であっても使われる。話を戻し戦況は芳しくない。敵は隣接する国の全てでいくら守ったところで意味がないのだ。レイが派遣された前戦地は最も危険で勝目のない場所……普通ならだれもいきたがらないところに志願して出陣していく。それに加え指揮官に経験がなく陣張りも上手く行かない。そろそろ衝突しようかという所に差し掛かったがもはや勝敗は見えたも同前の状態。敵前逃亡をする兵士も少なくはない。


「あの国も堕ちるか。ギア、あの中からよさそうなやつを選べるか?」

「あぁ…………。ここは様子を見ます。タージェさんは宿で待っていてください。この俺が人材を見つけて来ます。……状態が状態ですので俺もここが一日持たない場合は西の国の友人の元に一度向かいます」

「わかった。確にお前一人のほうがここは動きやすそうだな。俺も危なくなったら見つけたよさそうなやつを連れてギルドに向かう」


 武器を持った男が二人戦場の近くに現れた。一人はギアと呼ばれた細身で普通くらいの身長。もう一人のタージェという男はがっしりした大男200ほどはあろう。どちらも黒いマントでフードを被り遠目に戦地を眺めている。


「突撃命令か…………。指揮官がどさくさに紛れて逃げる。フィトには悪いがここが俺の死に場のようだ」


 戦力比は2:5でレイ達の軍が劣勢。加えて兵の質も士気もないこちら側、防衛軍は言うなれば烏合の衆なのだ。対する敵は元この土地の住民や義勇兵など士気も高く武器や訓練の度合いも違いすぎる。それでも一部の前王を慕う兵士達が立ちはだかり進撃をよしとしない。だが、負傷し次々に戦場から姿を消して行った。彼らの仲間も次々と後退しレイのまわりからもついに見えるだけで数人の味方しかいなくなってしまったようだ。


「くそ…………このままだと……グァッ!!」

「大丈夫かレイ! お前は逃げるんじゃ! わし等老兵が時間を稼ぐ若い芽が摘まれるのは好ましくないからの。もうこの国はしまいじゃ! 急げ! 長くは保たない!」

「ぐッ。大臣……だけど」

「行くんじゃ! わし等老兵の屍を超えて生きるのだ…………。お前にはまだ未来が有るのだから無駄にするでない!! 前王の意思を受け継いで生きるのだ!」

「大臣…………済まない!」


 レイはその周辺に少し不振感を持ちながら力の限り走った。同じ歳くらいの兵士が誰一人として見当たらない。死体すら転がっていないのだ。数名の足跡は見つけたがあとは見当たらない。そこに運悪く敵の補充部隊に遭遇してしまったようだ。彼は止まり息をひそめようと隠れる場所を探したがそんな場所は無い。すぐに敵からの攻撃合図を聞き取り武器の剣の柄に手をかける


「全体止まれ!」

「チッ……新手か」


 ログヒューマンの容赦ない弓矢には雷属性の付加魔法が付加されていて少しでも触れば体が痺れ動けなくなる。対するレイの属性は炎で相性は五分五分、だが盾や弾ける物は周りになくあるのは大振りな大剣が一本と細身の中剣が一本。ここで重要になるのはこの世界に存在する魔法の力だ。ここの生命体には玉、魂が存在しその魂には螺旋状の記憶糸と呼ばれるものがあるという。それに生まれながらに記された火、雷、氷、風、岩、光、闇などが強く関係しているのだ。彼は先ほど説明したとおり属性はふりではない。だが数の上で違いが大きく絶体絶命であることは言うまでも無い。その時、近くの林から黒マントの大男が現れマントの下にレイを隠した。


「ウワッ! …………なッ何が」

「小僧、一丁前に鎧着けてるわりには諦めが早くないか? そんな重荷は捨ててしまえ! 俺が守ってやる!! 少し協力しろ」


 近くの林から先ほど近くにいた黒マントの大男が現れマントの下にレイを隠したことで敵兵の動きは鈍くなった。いくら訓練されていても同様は隠せないだろう。


「あ……アンタは……何者……」

「話は後だ。半分減らしてから答えてやるからとりあえずコイツらを黙らせる。お前、剣は使えるよな?」

「あぁぁ…………」

「俺が奴らの真っ正面から突っ込んでやる。途中までは後ろで隠れながら走れ。その後は右側から敵陣の横っ腹を崩せ……いいな?」

「……(コクッ)」


 妙な覇氣のある大男の指示に圧倒され頷くしか出来ないレイは指示通りに動く。戦闘区域から少し離れた林のエリアでまばらに生える細い幹をかわしながらその大男は猛然と敵の中隊と真っ向からぶつかる。三人程その太い腕が繰り出すラリアットで遠くのほうに投げ出されていった。敵が陣形を変えこちらに口を開くようにV字に並び三列に整列していく。そこへ特徴的な形の大剣とそれに似たデザインの中剣を持ったレイがタイミング良く踊り込み敵の陣はパニックに陥った。


「『ただのガキかと思ったが……なかなかどうして。剣のみなら使えそうだ。コイツを連れて行こう』」

「らぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 その頃の前戦地では老兵部隊が壊滅し退却しながら敵を減らして行った。その中には先程の細身の黒マントがレイに逃げるように指示した“大臣”と呼ばれた老兵に肩を貸しながら走って行くのが見えた。この戦争の敗色は濃くもはや立て直しは不可能になった。本土に攻め込まれ雑兵は逃げるばかりで全く纏まらない。


「済まぬな。ギア殿よ……。わしはいいからお主は逃げ延びてくれ。城にいる将兵は強靭かつ頭のいい者ばかりじゃから後は期を見て上手くやろう。それより先程鎧を付けた少年兵士に会わなんだか?」

「いえ看取ったのは老兵の皆さんばかり……。解りました御身が無事であることをお祈り申し上げる」


 そう言い残し戦場から抜け出したギア。方向はタージェ、レイがいる方向とは反対に砂漠の広がる方向に向かって走って行く。何か思惑があるらしい。再び戦闘をしている二人の方へ視点を戻そう。


「グァッ!!」

「雅月緋双刃!」


 レイも魔法を剣に使用し斬撃を炎の弧に変え次々に放つ。美しいが切れ味や温度は相応に高く当たった者は出血せずに各部位を切り落とされる。肉が焼ける生々しい臭いと部位によっては苦しみ悶えながら死んで行く。


「ふぅむ。小僧! お前は行く宛てはあるのか?」

「ありません……けど! それが?」

「俺の所に来んか?」

「アンタに仕えるのか?」


 大男の方も面倒になったらしく背負っていた独特な形で木製のハンマーを握り敵の集団を蹴散らしていく。


「俺のギルドに来るかということだ! ふんぬっ!」

「……国は?」

「見ただろう。お前の仲間が身を呈してお前を守ってくれた所を。諦めろ。男は前をみろ! この俺のようにな!」

「アンタ……何者なんだよ」

「我が名はシド・タージェ……元西の平原の王だった男だ」


 絶句するレイをよそに最後の一人が顔面にハンマーの柄をくらい近くにあった木の太い枝の上に乗った。綺麗に空を切るように描かれた弧を目で追ってしまうレイの目の前にフードをとって顔を明らかにしたタージェが立ち右手を差し出してくる。ゴツゴツした筋肉質の腕はたくさんの傷がありいかにも歴戦の猛将といった空気を帯びている。頭は髪の毛がないスキンヘッドだ。


「お前の名前は?」

「あ、はい。フェンク・レイ・スウォードです。出身は南の高山地帯の麓で16歳」

「では、行こうか。早く行かねば日が暮れてしまう。おっと……改めて名乗ろう俺はシド・タージェだ。よろしくな」


 少し歩いたところでレイがタージェに問いかけた。


「何かまずいことでも?」

「もう少し頭を働かせろ。敵がなぜ今の状態で兵を待機させていると思う? 夜襲と逃げた兵士を夜の闇に紛れて放った隠密機動に殺させるためだ。今頃はバカな現王が逃げるために慌てふためいているころだろからな」

「現王はどうするつもりでしょうか?」

「逃げるも残るも首撃ちでそのあと曝し首だろうからどっちにしろ死ぬだろうな。今日中にこの街を出るぞ」

「は、はい。わかりました」

「着替えや荷物は後で揃えてやるから安心しろ。まずは隣の国に入らねぇとな」


 中央大陸は情勢が不安定でかなり危ない場所だ。非合法な商売が横行し人拐いや人身売買、他にも薬、武器の密輸、闇不動産などが例としてあげられよう。現在はその中でも最も情勢不安が深刻な中央精霊都市区にいる。その由縁はこれも古の昔にこの大陸が出来た時に作られた帝都の城があったという過程からそこを治めた者は天を治める。つまりは世界を治める権利と義務を得るというバカげた話なのだ。それがそれから厳密な数字として表すことは出来ないし解らないが役千年前から続いているというからいよいよバカらしくなってくる。考えが柔軟な将は各地に城を築き地盤を固め治安、生産、行政の均衡を既に考えているというのに。…………などとレイに説明してくれたタージェが再び首を振った。


「だがな、そろそろだ……その地盤が砕け再び戦乱は広がるだろうがな。最近の魔法科学ってのは凄いもんだぞ? 俺は聞いただけだがこの土地の有用性を見つけた輩は手を出すような物がこの土地に眠っているんだ。戦乱は終わらないのさ」

「あの、タージェさんはなんでそんなことを?」

「連れが居たんだよ。ソイツがそっちの方面でやり手でな」

「その人は?」

「ギアは多分近くのこれの館に行ったのだろう。おぉ、聞き忘れていたな…………。お前の想い人は近くに住んでいるか?」

「いえ。そんな女の子はいません…………」


 あからさまに小指を上げてギアの相手をさすタージェが次はレイに矛先をむけレイはするりとかわし直ぐに背中を気にしはじめた。


「うッ…………。タージェさん触らないで下さいよ」

「触らなくては手当は出来ん。かなり浅いが健康骨から肋まで背中をザックリか…………なかなか上手く避けたな」

「ありがとうございます。ですが当たっては意味がないです」

「ふむ。後々稽古を付けてやる。それにどうやら想い人では無いようだか探したい人はいるようだな」

「なんでわかるんですか? …………はい。正直に言えば一つ年上の女の子ですが昔この奥の山に隠れてしまったんです」

「おぉ。意外と頭の構造は素直らしいな。まずはギルドに行くぞ。その傷を縫ってからお前にはその少女を任務として探してもらう」

「は、はい。わかりました」


 火がくすぶり黒や灰色の煙が立ち込め兵士やかわいそうな一般人の死体が転がる街道を歩く二人。レイは身長165くらいでタージェは200弱だ。遠目に見れば普通の親子が逃げているのに似た情景に見える。レイにはタージェのマントの換えを渡してもらい姿を隠している。なぜなら彼は敗残兵で見つかれば即、打ち首だ。この中央大陸のど真ん中で起きた小規模な国取り合戦は徐々に拡がりを見せるとタージェは言う、出来ればそんなことはないほうがいいが次々に侵略する暴国と中立を保つ牽制大国、侵略される哀れな国。大まかにはこの三つに別れ大乱は五大陸全土に拡がる。


「もう、誰にも止められないんだ…………この戦の波は。死を招く心の渦が見えてくるようだ」

「あの、どうしてタージェさんは国を?」

「今更だがシドでいいぞ」


 直ぐに顔色が変わり嘆かわしいような悲哀を含んだ表情になった。


「レイ、覚えておけ。俺は本当に信用した人間にしかこんなことは言わない。恥ずかしい話だが俺は家臣に裏切られて王座を退いた」

「…………裏切り?」

「そうだ。この世で俺が最も嫌いな言葉のうちの一つ。ところで俺は何歳に見える?」

「30歳ですか?」

「そうか。正直でいいがそこがまず違う。俺は20歳だ。確に老けているがあまりあからさまに言わないでくれ」

「あ、はい『気にしてるんだ』…………」

「話を続けるぞ。俺は13で一国の王になったんだ。親父の七光りと言えばそれまでだが実質国は傾いていた。尽力し試行錯誤し汚職を追求し…………挙げればきりがないがそんな国王はまだ外界を知らない青二才でしかなかったんだよ。いつの間にか奴の支配が増大し最早手がつけられなかった。俺は退くことすら出来ない。そんな中ある本を読んだんだ。迷信なんか信じない俺だったがその時は藁をも掴んだ。そして闇に紛れ城を抜け流浪の旅路につき今に至る訳だ」

「その本とは?」

「バイブル…………創世の書」


 レイとタージェが歩きながら話しをしている。遂に危険区域を抜けて幾分か安全になった太い街道を抜け細い路地に入りクネクネと入り組んだ下町を進む。レイの大剣は目立つためタージェが独特な形のハンマーを包んでいる袋に一緒にいれ担いでいる。中剣はレイが担ぎなに不自由なく中央紛争地帯を出た二人だった。その頃のギアはというと敵の隠密機動に奇襲をかけられ数に押されていた。


「…………ふっ」

「何を笑っている」

「貴様等は30人もかかって人、一人殺せんとはな」


 ギアの攻撃は手のひらからの光線で闇に紛れた敵でであっても攻撃が当たっていく、その攻撃は訓練された兵士や隠密機動だったとしても見分けること、ましてや見きるなどという行為は不可能だ。だが彼も完璧ではない。大人数で攻撃を受けると流石にてこずるらしい。夜の市街地近郊の荒野でそのような死闘が繰り広げられていることを住民たちは知らない。


「ギア! 腕が落ちたんじゃないか?」

「その声は……ファン?」


 透明の光の幕が垂直に降りギアを包んだ。次に光は何重にもドーム状の結界となり敵を包んで行く。普通はバリアや結界は防御魔法だがこの少女によって、それは攻撃魔法に変わるのだ。


「マジックドーム。スピアフォルム!」


 形としてはサッカーボールのように五角形と六角形の板が綺麗に区画されている結界を構成している面が次々に中心から尖り始め釣り天井の容量で距離や面積も狭くなった。


「流石、当代最強の魔術師か……」


 白髪の少女はにこりともせずにギアを見つめている。敵は退路を塞がれ徐々に近づいて来る光の鋲の壁に貫かれ息絶えていく。中心の円柱上の結界の中にいたギアはすぐに近寄ってくるファンの方をじっと見つめながら負傷したらしい肩を押さえている。


「肩見せてみろ……」

「あ、あぁ……」


 身長は165ぐらいの少女は背中に折りたたんだ翼があり天使のように美しい。細い指が切り傷のついた肩に触れると“シュー”と小さな音と白い煙を出し傷を修復していく。完全に傷を修復するとすぐに彼女の小さな拳がギアの頬を捉え“パンッ”と音が鳴りギリギリでギアが受け止めた。


「ふん! お前は昔から女を泣かすのが特技だったな? 今まで何をしていた?」

「西の国の暴落を看取り元西の王とともに旅をしてきた……。死んだとでも思ったか?」


 先ほどは右の拳、次は左の拳が頬を狙う。馬乗りになった状態のファンが激憤しギアの腰にあった短刀をつかみ両手で握り締め喉笛ギリギリで止めた。


「お前、全然変わってないな……。人の心を察することは出来んのか?」

「変わったら俺ではないだろ?」


 レイの短刀を地面に突き刺し、ファンがギアの上からどいた。その次にギアの思考が働く前にファンがギアの胸座を掴み上げ、声高らかに叫んだと同時にこちらも綺麗な音を放って平手打ちがクリーンヒットした。だが彼女の声はそれまでの威厳のある少し厳しさを含んだ声から少し幼さを含んだ叫びのような大声に変わっていた。本当の彼女はどちらなのだろうか。


「馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」


 ノロケ話はこれくらいにしてレイとタージェの動向に再び目を向けよう。


「傷が熱を持ち始めてる。少し痛いが我慢しろよ?」

「あ、はい」


 現在はレイとタージェが出会って半日が経過した夜。宿でタージェがレイが逃亡前に受けた傷を看ているがあまりいい状態ではないようだ。消毒薬代わりにアルコールの強い酒を浸したガーゼで優しく拭う。痛みは尋常じゃないだろうがレイも動かずにずっと座っている。この世界は魔力の影響か骨折すら二、三日で完治するがレイの体は治癒が遅い。深くない傷だから半日で治ると踏んでいたタージェの予想が外れた形になった。不振感を煽るのは良くないためあえて話題には触れないことにしたらしい。


「明日にはギルドに行けるだろうな。そしたら縫ってやる。あとは入隊に関しての説明をしておくからよく聞け。俺のギルドはまだお前を含めてメンバーが三人だけだ」

「え!? それって」

「大丈夫だ。資金と施設は充実してる」

「良かった」

「で、だ。お前にはまずメンバーを集めてもらうことを任務として行ってもらう。使えそうならとりあえず連れてこい」

「はい。シドさんはその間に何を?」

「俺も俺で街へ挨拶まわりに警護任務だ。そして、お前の先輩兼師匠のギアは今一人連れに行ってる」


 淡々と業務的な説明をしているタージェが立ち上がりレイに立つように促した。どうやら下の食堂で夕食を食べようということをいいたいようだ。レイが数秒間悩んだ後に“わかった!”というような顔をしてすぐにタージェに追いついた。意外ときれいな内装の宿は広く充実していた。


「もっと食えよ。レイ。まだ16歳だろ?」

「元々、少食なもので…………。それにあまり食欲が」

「食べたい物だけガッツリ食え! お前にはさっき言った通りだ。悔やむなら直後だけにしろ。男なら前を向け……確かに過去も必要だが俺たちは今は前を向くしかないんだ。いいな?」

「はい」


 16歳にして死戦をくぐり抜けた彼にとっては辛いだろうが確かに現状はそうするしかないのだ。仲間は散り散りになり生きているかすらわからない。生きているなら後にでも会えるはずなのだから前を向いて進むしかない…………とレイも考え直したらしくすぐに目の前に出された料理をたいらげていった。「お前を見ていると昔の俺を思い出す。やんちゃして国中の悪党をこのバックボーンで制した時代を」

「どうしてですか?」

「真っ直ぐな目だよ。懐かしく羨ましくもある。明日の午前中に出発するそれまで良く休んでおけよ!」

「はい」


  TO BE COTINUE

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