人魚の秘め事
風崖は謎の少女オーシャに出会い命拾いしたようだ。彼は体の構造上泳ぎが苦手であまり水は得意ではなかった。海に落ちて意識を失ってしまい起きたのは二日後の昼間で修羅たちのいる大陸のサンドウィンドゥの海岸に横たわっていたらしい。彼が気付けば鎌や楽器は全て彼女が助けようとして重い荷物から先に彼女の小屋に運んでしまい彼も行く他ない状態だ。
「すまない。手間をかけた」
「いいよ。あたしも一人で暇だったし……お兄さんの名前は?」
「名は風崖、軍名は風切り白虎」
「軍人さんなんだ。オウガ族が人前に出てるなんて珍しいね。訳あり?」
「確かにそうだな。そちらの名前は?」
「ごめん、ごめん。あたしはオーシャよ。一応はこの近くの海で魚を取って売ってるの」
「そうか、一つ聞いてもいいか?」
「勿体ぶらなくていいよ。あたしは風崖が気に入ったし」
「そうか、なら遠慮なく……白銀の長髪で鎧を付けた人を見なかったか?」
「噂なら聞くけど……。どこかまでの推測や情報は無いなぁ。大陸にそんな人が来たって噂はよく小耳に挟むから多分有名になってるはずよ」
「ありがとう。俺はその人を追わなくてはならない」
「ちょっと! まだ動いちゃダメよ! 海水にかなり揉まれてたし岩礁で体を打ちつけてるんだから!」
しきりに止める彼女の小屋の中で少しの間過ごしている。確かに彼はすぐには立てずオーシャの肩を借りなければ歩けなかったからだ。髪の毛で隠しているオウガ族特有の角を隠しついでに服を乾かしながら食事をする。海の幸が中心でたまに野菜が入る程度だった。
「丁寧にたべるんだね。作法なんて気にしなくていいのに……どうせあたしと二人なんだから」
「癖でな。作法がわかるのか……聞きづらいんだが没落貴族かな何か?」
「う、うん。そんな感じ……」
「体も動いて来た……。何か手伝えることはないか?」
「え、別にいいよ。そんなにすることもないし」
「俺の主は礼節をつくすことに関してうるさくてな。そのこともある」
「なら……、あたしも連れて行ってくれない? この大陸に不慣れみたいだし。案内もするからさ」
「別に構わないが……危険だぞ?」
「決まりね」
オーシャの突然の申し出に困り顔の風崖だったが街に出て情報を集めつつ修羅の行方を探す。この周辺では知れた顔らしく周りの人に気軽に話しかけては笑うオーシャは背中に三つ叉の鉾を担ぎ小さな袋を腰につけている。
「おじさん! 白銀の長髪で鎧を着た人を知らない?」
「あぁ……最近内陸に美しい女の武家さんが来たとは聞いたよ。なんでもな、大神官の聖刃様と結婚なさるらしいよ」
「ありがとう! 凄いのねその修羅様って」
森の内……すなわち陸の内側では雷軌の力で乗り物を入手し前より軽快に走る。彼の放つ雷をその機械にためてエネルギーに変えている……という原理らしい。前後二つの車輪で軽快な走りが可能だがうるさいのが玉に瑕だろう。
「速い! 速い! 月光ちゃん! とっても速いよ!」
「姉様! 静かにしてください! 少々はしゃぎ過ぎです!」
「バイクと言うらしいな。燃料がないと言うがこれなら速く行けるだろう」
「やった!」
「聖刃様……ご無事で」
「大丈夫だ。修羅様がいれば安心出来る。あの方はお強い」
その時、一陣の風が吹き大きな真っ白い虎が走り抜けた。美しいその虎が雷軌の姿に気付きすぐに引き返しその近くに降り立った。毛並みが整い真っ白な気に巨大な体躯と二本の牙……まるで御伽草子の中の四神獣である白虎だ。
「雷軌殿か!!」
「風崖! 久しいな」
風崖は背中の少女に降りるように告げたあと徐々に体を戻した。小さくなり背中に大きな飾り鎌を担いだ少年の背中に少女が隠れるように立ったのに気付き雷軌が気を利かせたらしく自己紹介を始める。雷軌の動きに合わせまだ幼さが残る二人がバイクから雷軌に手を借りて降りていき彼女らも自己紹介を始めた。
「驚かせてしまったようだな。俺は風崖殿の軍友の雷軌、軍名は雷轟」
「私は日光」
「妹の月光です」
「すまないな。こちらも事情があって」
「な、なんで聖の三大星がここに? あんたたちは国の執政のために中央にいるはずじゃ……」
「そのピアス……あなた……もしかして人魚?」
「……」
この大陸にも慢性的な問題があるらしい。彼女達の辿ってここに至ったかを語ってくれた。風崖もオウガ族の受けた仕打ちをあわせているようで怒りが強く現れる。
「この大陸にも腐った形が有るみたいだな。あんたらはこの大陸の上層部か?」
「元ですね。今は追われております」
「私達も軍の重さに負けてすぐに首都から逃げ出し今に至るしだい……」
「そうか……なら、あなた達に罪はない。俺が能力を解放して助けに行かなければ危なかった」
彼らに起こったことはあまり人道的とは言えない。言うまでもなく彼女は人魚だ。この大陸では人魚は迫害を受けており海から拉致され売り飛ばされる。その美しい容姿から若い人魚は観賞用に……年を取ればこの大陸のいわれから肉は不老長寿。血は美しさを保ち髪は布に織り込み高級な素材として……上げればきりがないが彼女らはあまり良い扱いは受けない……いや、最悪だ。
「あたしの友達に捕まった人は居ないけどあまりいい噂はきかない。だから、あたしみたいにあえて陸にいる人魚は危険を伴うけど夢もあるの」
「ここからは伝承でしかないがな……」
「太古の昔、私の祖先は陸にいたの。だけど、民族の争いから私達の一族は陸を離れて海に帰り……魚と共に今のように海底に降りたの」
「陸には俺たちオウガが残ったんだ。二族の多くは争いを憎み心から愛するものと引き裂かれ叶わぬ愛の形を再び立ち上げたい者もいた」
「だけど……叶った恋もあった。私もそうなりたかった」
「陸に上がってオウガと結ばれれば永久の愛を手に入れられる……」
「ここからは事実、奴隷にされれば私達に未来はないの。風崖とはぐれちゃってからは死ぬかと思った。さっき話した私の目標を達成するために長い間陸にいたから人攫いの奴らに私は目をつけられてたし」
街ではぐれた二人は互いに探し合ううちにオーシャはよからぬ奴らに出くわし捕まってしまったのだ。人狩りとは言うが刈るのはヒューマン、ログヒューマ、エーテリオン以外の近人種。人に近いが肉体の一部に違うところがあれば肉や奴隷として売られる。中でも一番高値を飾るのはガイザー、オウガ、マーメイドだ。彼らは希少で見ることすら珍しい。ユートピアではギアが執政を執り行い闇市は殆どつぶされた。その関係からこちらで多くなり危ないことには変わりない……むしろこの大陸では悲惨な事実が増えている。さらに追い討ちをかけたのが現在の政状だ。この国は軍部の権威が高く軍備には金を出すが治安などには金を出し渋る。それどころかそちらに足を踏み入れる下級の軍人も多いと聞く。オーシャに傷が多いのもそのせいだ。
「風崖殿……貴方の痛みも解るが……まさか……無益に人の命を奪ったのでは?」
「あぁ、闇市の会場をつぶしてしまった……俺も感情に走ったことに関してはくいている」
「やはりか……血の匂いがする」
「やめてよ……風崖を悪く言うのは! それにその血はヒューマンじゃないわだから! 人魚の血なのよ……もぅ、手遅れも多くて」
「そうか、なら致し方ないか。しかし、怒りで人を幾人も殺めたのには感心しないな」
キツい苦言を呈された風崖の足取りはこうだ。酒場でいかがわしい男たちを脅しオーシャが捕まった情報を手に入れ捕まった場所からは彼の……オウガの力を解放し匂いを頼りに街をかけた。しかし、長居はせず力任せに邪魔する者は殺し、手錠などをされている人魚やオウガ、カイザー達を解放しオーシャを背中に乗せて高く飛び上がり森に入って逃げたのだ。
「さすがに能力を解放してもあれだけ数を相手にするのは無理だったからな。軍が海側から来るのを見て森に入ったから……」
「軍が海から? それはありません。姉様……ですよね?」
「えぇ、海側は人魚の攻撃を度々受ける関係から防戦は有りますが基地はありません。それに……防戦はそんなに強固ではないですから」
「おそらく……」
「白銀の長髪の鎧武者……その修羅様でしょうね。おそらくは義兄様も一緒でしょう」
「聖刃大神官は一緒だろうないくら修羅様でもこの大陸ではそこまで早く軍を作れはしない。ならば後で俺が走る。雷軌殿はオーシャを頼みます」
「いやよ。風崖は泳げないもの。また、海に落ちたら誰が助けるのよ」
「……」
「だそうだ。風崖殿も気をつけていくがよい」
「わかりました。雷軌殿も二人を守りながらでけっこうだが情報収集を頼みたい」
「無論……そのつもりだ」
二組は別々に動いていった。風崖はオウガの中でもギアと同等の希少さを誇る幻獣種の白虎だ。彼は猫化の能力のためか水は苦手らしく海に落ちた後は記憶がないらしい。その話を背中から投げかけるオーシャが顔を風崖に近づける。彼が即席だが簡易の命綱を作りオーシャは落ちても宙釣りになるだけで済む。だからと言って身を乗り出していい訳ではない。
「人魚姫って童話をしってる?」
「あぁ、最後に泡になる話だろう」
「うん。あれは……少し違うけど泡になっちゃうのはホントなんだ」
「……?」
「人魚はね……一定の年齢までに一度海から上がりまた戻るの。戻らないと……体が保てないのよ。あたしのこの体だって相当危なかったんだから……。まぁ、ギリギリあの日の夜にこの海域で波に揉まれてる風崖を見つけて潜ってるからあたしは一回海に入ってる。だから、肉体的には今はそんなに関係ないけど」
「で、何が言いたいんだ。人魚姫様は……」
「バレてたの? 風崖……って頭いいかも」
「なら、なんでお前は俺に人魚姫の童話の話をした? 俺がこういう発言をすることを見越してお前もはなしてるんだろう? しかも、作法が解る人魚だからな。相当官位は上の方だろうな」
「う゛……。あたしは風崖が王子様ならいいよ? ちょうどあなたもオウガだしさ。あたし……ホントは家に帰ってなくちゃいけないんだけどさ。実は……お姉ちゃんと喧嘩して家でしちゃったの」
「…………」
「あたしじゃ、嫌?」
「別にそうじゃない。俺はいつ死ぬかわからない。そして、戦いを好まず各地を流浪するようなヤツだぞ?」
「いいよ、私は楽しければさ」
その頃、修羅と聖刃が人攫いが集まりオークションを執り行う市場の残骸に現れていた。風崖が見た軍隊とはこの革命軍らしい。聖刃が亡骸を抱き上げ悲しそうな顔をする。人魚の亡骸と上半身と下半身が別れた大量の人間の死体……。修羅が槍を地面に突き立て怒りを露わにした。我慢していたらしい怒りを落ち着いてはいるが気迫で解るほどの声で出したのだ。聖刃以外の幹部や護衛は縮みあがった。
「このゲス共は何なのだ? まさか……人狩りではあるまいな?」
「そのまさかですよ。ですが、この軍人の人狩りは別の相手に命を断たれたらしいですね。こんな力の強い者はこの大陸にはカースの上位種程度の者しかいません。しかし、彼らは大きくこんな街に出てくることは難しい」
「これは……おそらくは俺の家臣の仕業だ。こんなことができるのはヤツしかいない。刃物ではこんなに綺麗に人を断ち切れるはずがないからな」
「風崖殿……ですか」
「あぁ、アイツはオウガでこういうことに関しては敏感だからな。感情の高ぶりが抑えられなんだようだ。やつらしくないと言えばそうだが……」
「修羅。どうやら、敵のようです。最近は敵の動きが激しい……義妹たちが心配だ。我々も動きましょう。全軍に戦闘命令を!」
修羅の巨大な薙払い槍が猛威を振るい街自体には被害は少ない。そして、修羅や聖刃たちの動きはかなり大きくなり始めた。それに合わせるように敵も動きが激しくなり雷軌や風崖も力を発揮し始めている。彼らも統率力や呼びかけの力などはとても高い。
「今こそ立ち上がるべきではないのか!! 暴軍の圧制に屈するなら自らの手で未来を切り開こうとは思わないのか!!」
海辺地区の村や町には風崖がとびその地域にある軍基地や駐屯地をつぶし反乱をかり立てた。雷軌も同様に山中を動き戦う意志のある人間を集めつつ走る。その波紋は大陸中に広がりついに大戦争の勃発を予期した者もいる。ここで所変わり大陸、ユートピアのギアたちに焦点を合わせよう。ついに全面的に攻撃を開始したギア軍は一本しかない道を閉ざした海上の城を落とそうとしている。籠城には耐久戦がいいがそうも言っていられない事態に発展しつつあるのが今の彼の状態……だんだんと志気が下がり戦闘に意欲がなくなって来ているのだ。
「いつまで待てばいいんだ」
「確かにな志気も下がりつつある。アル……一当てやるか?」
「別に構いませんよ」
「アルが矢を敵の前門に当てた瞬間にフィトは単身で敵の大将の誘拐を頼む」
「誘拐……ですか。わりました」
「岩鉱は手はず通りに頼む」
「御意」
アルの矢に雷が凝縮されアークリーの時とは比にならない威力になっている。巨大なエネルギーが圧縮されるたびに小さい波動を起こす彼女に向けて敵も弾を撃ち込んでくるがフィトが全てをはじき落とす。近距離での高速移動なら彼はお手の物。彼女の合図があるまで拳を繰り出し続ける。
「どうした? この数年でなまったのか。碧独の美女はだてになったのかよ。アル!」
「バカ言わないでよ! あたしだって……いつまでも力を強くなんて無理なんだから!」
「なら、そいつで引退しろ。腹の子供のこともある。いつもお前は無理をするんだ。こう言うときくらい俺に頼ってくれよ」
フィトはアルが矢を放った直後に走り出し敵の城郭の焼け落ちた橋へ走った。矢はみごとに敵の天守閣の一段下の階層へ突き刺さり爆発しそのパニックに乗じて高らかに飛び上がり物見櫓を軽々と抜けたフィト。敵兵はいきなりの大将の侵入に驚き下級の将兵がフィトを取り囲む。外では彼に続き二人の大将が壁を乗り越えて中に侵入した。指揮をアルに任せ久々に大鎌を担ぎ上げ空中で一回転するギアと高さは足りないものの木造の前門を背負っていた大槌で薙ぎ倒して入り込んだ岩鉱。残り二人はビーストの亜種である氷鑓が形態を変化させ紅蓮を背に乗せて城の裏側の防壁にタックルし彼女を中にいれ恐るべきジャンプ力で彼も中に侵入する。他の将兵はアルの指揮で自棄くそになり銃を乱射する将兵を遠距離から確実にしとめていくのが役目だ。
「ギアさん? ここに来たからには暴れるんですか?」
「どうだろうな。岩鉱はどうする?」
「フィト殿の背中を守ります」
「だろうな。フィト! 嫁さんが身重で働けない分暴れてこい! 俺と岩鋼でここを抑える。後方は二人に任せて内部の機関を破壊しろ!」
「了解!」
風崖とオーシャは敵の中隊に囲まれていた。機動兵が幾隊か茂みに潜んで居たのだ。オーシャは水辺では強いようではある……しかし、森の真っ只中では彼女は戦力外でしかない。風崖がいきなりオーシャを空高く投げあげ背中の細い装飾の派手な刃が各所に突き出した鎌を振り上げた。彼もギアと同じのオウガで体を変化させることができる。今回は完全な白虎ではなく半人半虎のようなビーストに近い形態に変化した。
「風の四聖獣の力を今ここに解き放ち我に従いし風の力を呼ぶ……鎌鼬!」
オーシャの視点から見ると近くの半径百メートル程が丸坊主になった。風崖は高く飛び上がり空中でオーシャを抱きかかえ風の魔法で力を吸収し綺麗に地面に着地した。音もない着地は華麗という言葉がふさわしいだろう。
「怪我はないな?」
「一瞬……死ぬかと思ったわよ」
「言ったろ? いつ死ぬかわからないと」
「それ……あたしも?」
「俺と添い遂げたいならいついかなる時も死を覚悟しなくては……」
「何だかんだ言って乗り気じゃない」
「確かにな。俺の記憶ではこんなことは初めてだ」
聖刃と修羅も動き出した。大軍が彼ら革命軍と対峙するなか修羅が特徴的な槍を構えて一人きりで歩いていく。聖刃は気が気でないが彼女の声が聞こえたところでその心配も消えたようだ。彼女も本気を出したから……戦の運気はこちらに傾き止まることを知らない。
「これより……我ら人民解放戦線とホーリ・プリセクト騎士団の連合軍は大陸の軍事勢力に宣戦布告をする!」
敵の第一陣の戦車大隊が大槍から放たれた波動状の斬撃で壊滅し修羅のなおの攻撃に対処仕切れずに退いていく。その頃風崖たちは森の中で休んでいた。人魚のオーシャは海水でなくてもいいと言い彼女は湖に飛び込んだ。風崖は水が嫌いであまり水に触れない顔を洗い布に浸すと鎧を取って体を拭き始めた。体に傷は一つもなくギアとは違いかなり華奢だ。これで武将が務まる方が不思議……という程度だろう。
「ガリガリ……」
「猫科の動物はみんな細身さ。太らなければな」
「私……魚なんだけど」
「俺は菜食主義だ」
「そうなんだ。水が嫌いなのはそのせい?」
「あぁ、俺は水が大嫌いでな。修羅様にでも命令されねば絶対に水攻めの大将などしない」
「でも、水も気持いのに。魚とりなら任せてよ」
「共食いか?」
「一応、魚と人のハーフでもビーストの魚人種とは違うのよ」
「そうか」
戦場とは思えない和やかな空気が流れる今は身を隠すために海につながる鍾乳洞にいる。ここは軍の人間や狩人すら入ってこない聖域らしく隠れるにはもってこいなのだ。それに風の通りは最近の地震でできた大穴のお陰で悪くない。風崖が鎧を取りそこに座っているのだ。オーシャは水に入ると体が変化する。人魚の尾ひれが生えるというよりは人魚は元々陸上生活できるようになったマーマン、つまりは魚人がたのビーストと人のハーフでどちらかというと人に近いため魔法の力で水中に入ると脚がひれになっているというほうが正しいのだ。……と彼女は説明している。
「もちろん昔の住んでた環境から水に一定期間入らないと細胞が形態を保ってられずに溶けていくけどね」
「不便なのか便利なのか解らないな」
「オウガだってそうでしょ? 寿命は幾百年あるのに力を使うと細胞の酷使で縮まるなんて」
「俺はそうは思わないな。普通の人間のように生きるための力だと俺は思う」
「ふーん、風崖はなんでいつも大事そうに竪琴をもってるの?」
「母上の形見だ」
「あ……ごめん」
「問題ない。オウガの女性は子供の出産と共に衰弱が早まるからな。寿命で亡くなってしまったんだ。彼女も戦士だったから……彼女の願いで俺は争いを拒み吟遊詩人として生きて来た」
「ねぇ、あんたのギルドって訳ありがたくさんいるの?」
「訳ありかどうかはお前が見ないことには解らないが種族で見ればほとんどいる。それに特別な力の人々も多い」
オーシャが目を光らせて岩に座って風崖に問いかける。彼は竪琴を取り出し軽く爪弾きながら語った。そのうちに日が暮れていることに気づき二人はそこで夜を明かすことにした。
『戦の波にのまれ生きる。
我の力は小さくとも人は守れる
いざ、行かん戦場へ
命かけた戦いを見せ
散る花のように命散らせぬように
剣を交え心の恐怖知る
対峙し向かう敵も同じであると
守るための戦ならば
失わぬように行く
全てをかけて守り抜くため』
オーシャが寝たと思っていたらしいがそうではなかったようだ。彼は竪琴でメロディーを作りながら歌う。肘をついてオーシャはそれを聞いていた。
「起こしたか?」
「ううん。違う。綺麗な声だなと思ってさ」
「修羅様も同じことを申された。そして、あの方はおっしゃった。『お前は戦を憎むが戦はどういう物か知っているか?』とな」
「で? 答えは?」
「教えてはくれなかった。ただ、守りたい者ができればお前にもそれが見えると申され俺はそれにも気付けなかった」
「今は?」
「解らない」
「わ、わかんないの!?」
「あぁ、俺は幼いころから一人で過ごし知る感情は少ない。恋などと言う物はどうすればよいか……解らない」
「なら、あたしが教えたげる」
そういうと隣に座りそろそろ寝るように声をかけるオーシャ。その頃、そとでは大きな作戦が練られていた。その作戦名は首都奪還作戦。修羅の統率力と聖刃の人脈で子とは運ぶ。そして、この国の秘宝がよみがえり彼らに力を与えるらしい。作戦途中に出会い革命軍に参加している雷軌と月光、日光も何かしら関係してくるようだ。
TO BE CONTENEW