闇姫恋路
海外での状態から今度は大陸内の闘いに目を向けよう。アルはギアと合流し岩鉱は雷軌から預かった大隊を加えた軍で相も変わらず睨み合いを続ける。三軍が動かぬままに戦闘は行われない。そして、東でついに動きが出た。革命軍がこちらになびいたのだった。理由はいたって簡単でアルの弓一つが決め手だ。弓を構え雷を凝縮して敵……特に革命軍の大将に向ける。その矢は恐ろしいスピードで敵の放った同じ雷をまとった矢を打ち負かし敵の弓に雷を流した。
「何をする気だ? アル、攻撃的に触れれば向こうはいきり立つぞ?」
「解ってるんでしょ? ギアさん。あそこにいる大将。ボア・アークリー・ルースは私の弟だと」
「確証がないだろ?」
「またまた、貴方ほどの人がろくに調査もしないはずないでしょ? これでもひとりの男の妻をしているのでね。それくらいはわかりますよ」
その夫はそのすぐ近くにいたしかもほとんど目と鼻の先に居る。そのエリアに出るまでは実は小さな丘陵をいくつか超えるだけで赴ける。そこに向かった理由は闇剛の体調が回復したからだ。森の中で彼女の案内を受けながら弓を構える妻のもとに歩く。その時、戦場の方向から眩い光が一瞬だけ光り、三軍が陣張りをする中間辺りで小さな爆発を生み出して消えた。闇剛が走り出そうとするのを彼は笑いながら止めている。戦闘経験はやはりフィトの方が多くそう言ったことに関しては感がいい。
「あ、あれは!! フィトさん!」
「待った、待った。大丈夫だよ。家のかみさんが一発だけ撃ち込んだんだろうよ。そこまで心配することは無いさ」
その頃、革命軍の陣では大騒ぎになっていた。大将の碧髪の少年が呟きギアの軍につくことを決めたからだ。彼の手には二つに折れた弓がありそれは綺麗に真っ二つに焼き切られている。そして、彼の足もとにはアルの放つ特別製の矢が突き刺さり廃船に引火してチロチロと弱い火が周りを舐め始めた。
「あ、あれって……碧独の美女じゃないか? 長い碧色の髪……間違いない」
「あの雷撃を弓に纏わせられるやつなんてあいつしかいないぞ。大将……大丈夫ですかい?」
「あぁ、手加減されてるからな……。それにしたって姉さんも手厳しいことするねぇ。ひでぇじゃねぇか。実の弟に矢を射ろうなんてよ」
「ね、姉さん? 大将! もしかして!」
「そうだぞ? 言う必要がなかったから言わなかったが……これで、後には退けないな。全軍は武器をまとめ向こうに行くぞ。攻撃の意思を見せるなよ? 向こうには軍神ギアがいる。下手すりゃ皆殺しだぜ?」
フィトと闇剛も合流し近くにいた者のほとんど皆がその場に揃った。アルの目の前に彼女と同じくらいの身長で細身の男がいる。特徴的な碧髪に瞳も深い碧だ。男性としては少々頼りないが頭はきれそうに感じられる。気さくに笑いかける彼のもとにフィトが現れ話しかけた。どうやら親しみが持てるような関係らしい。
「話は聞いているよ。アークリー」
「義兄さんになるのかな? こんな粗野な姉だがこれからも……イデデデデ! 死ぬ! 死ぬ! その電圧はキツいから! 止めてくれ姉貴!」
「そ、その声は! アークリー!」
「あれ? なんでこんな所に闇剛が居るんだよ……聞いてないぜ。くそ……バカ姉貴のせいで」
「ほぅ、まさか弟をこの手にかけることになろうとはねぇ。アークリー?」
「じょ、冗談だって!!」
闇剛の顔がほころびかけたがすぐにいつもの物悲しい瞳に戻った。それに気づいたアルがギアに進言しギルドの守りをアークリーに任せ闇剛をギルドに連れて帰らせた。フィトもそれには気づいておりそれに加えた彼女の体調のことも付け添えたおかげでギアも折れようだ。ギアはそのエリアにいる味方をかき集め攻撃に先んじて軍議を始める。そんな中の帰還のためか少々動揺も隠せない兵士たち。ましてや本拠に向かうのは元々敵であった革命軍の雑兵だ。信用が置けないこともうなづけない訳ではない。
「あんた……革命軍だったんだ」
「あぁ、俺はあの二朝政の歪んだ国を正すために立ち上がった内の一人だ」
「私を騙していたの? あの頃のあの言葉は嘘だったの? そうよね、バカみたいでしょ。忍びの女が恋をしてその男は敵で……面白かったかしら? 手の上の私は」
「今は何を言っても信じねーだろうから否定も肯定もしねーよ。まぁ、一つ言えるのは俺は駆け引きは嫌いだ」
レイとアークリーも知り合いだ。懐かしむように握手をした二人を先頭に城へ入る革命軍の兵士たち。皆警戒をしていたが逆に兵士が居ないことに気づいた。よからぬことを企もうとする者もいたようだがアークリーに止められ思いとどまる。今のレイであれば目を瞑っていても人を倒すことなど容易い。そして、彼らもレイのただならぬ覇気に関してはうなづけるようで武器を収め全員がおとなしく整列した。
「レイ兄も懐かしいなぁ。その人が兄さんの嫁さんかい? へぇ、けっこう可愛いじゃねーか」
「あんまりちょっかいだすと噛まれるぞ? マナは華奢に見えてここの大戦力の一人だからな」
「お褒めの言葉と受け取っておね。レイ君……。闇剛ちゃんもお帰り。顔色悪いけど大丈夫?」
「はい、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
「アークリーは部屋割りが決まるまでは闇剛と同室にいけ。何やらつながりがあるようだしな。他の皆さんは一度広間で寝泊まりしてもらうがその内決めるつもりでいるから安心してくれ」
アークリーは闇剛に案内され内部に入っていく。他の皆は新しい城を見て回りたいらしく武器を置いてそこら中に散らばっていった。展望台や弓兵が多いことから櫓、食料、周りの土地の様子などを確かめ彼らは皆思い思いのところでくつろぎ始めている。
「へー、なかなかいい暮らししてんじゃねーか」
「……」
「何だよ」
「答えてよ。私を騙したの?」
「確かに最初はそういう目的で近づいたよ。だけどな、同じ目のお前を見てたら……いつしかほっとけなくなっちまってよー。そお、そのお先真っ暗って目だよ」
「そんな目はしてない」
「バカ言え。知ってんだぞ? 俺との夜は必ず俺の胸の前で泣いてたろ。狸寝入りで卑怯くさいが……お前が苦しい過去持ってんのは見てりゃ解るんだよ」
闇剛の拳がアークリーの頬を狙ったが受け止められた。涙が頬を伝い腰の短刀を無造作にソファへ投げつけて一言怒鳴りつけ部屋を出ていってしまう。アークリーはこういうことが苦手らしく頭をかきむしり低くうなっていた。そこにレイが図ったように現れソファに腰掛けた。もちろん闇剛のもとにはマナが付き添い話を聞いている。彼らはシドから命ぜられ城の防備をする関係からそこから出られない。それが仕方なく退屈なのだ。
「人をバカにするのも大概にしなさいよ!! あんたなんかにこれまで抱え込んできた私の苦しさなんてわかるわけないんだから!!」
「………………う゛ぁぁぁぁ! 女ってのは……解んねーなぁ」
「早速、喧嘩したな?」
「レイ兄。どうしたんだよ」
「俺はこの城に居るだけで暇なんだよ。闇剛とはどういう関係なんだ?」
城の裏手にある花畑に闇剛が丸まって座っていた。そこにマナが近づき一瞬、彼女は腰に手を当てたが短刀はホルダーごとソファに投げつけたことを思い出し顔をうずめたままマナに問いかける。灰色の瞳は憂いを帯びると黒っぽく見え髪は灰色に近いくすんだ色をしていた。長い髪は結うことをしないがまとまりがあり綺麗だ。
「何かご用ですか? マナさん」
「闇剛ちゃんをいじめに来たの。ずっとお城にいるのもつまらなくて」
「……アークリーのことですか?」
「貴方も人だから怒るのもわかるけど……理解しなきゃダメよ? 特にアークリー君みたいな粗野でストレートな性格の男の子はね」
「無理です。柔らかいところを針でつつかれた感覚になってしまって。バカですよね…………。私が……任務で怪我をしたときに助けてくれたのがアイツでした。バカで粗雑で解りやすいほど感情は面に出るのに……不器用なのに隠そうとする。……最初は何でもなかったです。でも、いつからかあのバカがいないとやっていけなくなって。夜を共にして、愛し合って……なのにアイツは革命軍だった。しかも大将で私は北朝の隠密機関の一人……今は違ってもその頃にはアイツは解っていたはずなのに……正体も知られていて……バカみたいじゃないですか。愛したと思った男に弄ばれるなんて」
「それは、う~ん……。考えすぎだと思うよ。彼、さすがはアルちゃんの弟君だなぁと思ったもの。大切なことも不器用だから話さないのよ……彼」
「……」
「解決には時間が必要なのはわかるわよ。だからよく考えてね」
「はい……」
レイの方も状況は同じ感覚だった。男女と立場、主観の違いで少々異なる点もあるがアークリーも順を追って説明しレイがそれを聞いている形だ。レイは一通り聞くと部屋を出て行き自分の屋敷に歩いていく。マナと途中で出会い肩を並べて歩いていった。
「嫁さん……だって」
「どうかした?」
「私、嬉しいの。16歳の私が見たら羨むだろうなぁ」
「どうして?」
「だって……毎日、思いを伝えられた貴方と一緒にいられるから……愛する人と一緒に居られるほどうれしいことはないから」
「そうだな。俺もそれは同じ。18歳の成人の義の時に剣を受けてくれたことも嬉しかった。あの頃は忙しくてろくに一緒にいたことはなかったし」
「そろそろ……本当に……お嫁さんになりたいな」
「あと少しさ。きっとみんな、無事に帰ってくるから」
闇剛は部屋にまっすぐ帰らず二人をつけていた。何を考えたのか知らないが後ろからずっと見ていたのだ。レイにはすぐに気づかれていたが……彼女の心持もあまり穏やかではないためそれにすら気付かない。
「……まだ、疑ってるのか?」
「えぇ、貴方が証拠を見せなければ私は信じないから。近寄れば……」
「どっちがバカで不器用だよ……。この堅物陰鬱女め。言ったろ? その目なんだよ」
「堅物陰鬱……私は堅物でも陰鬱でもない! 離せ! 寄るな! このバカで粗野で不器……ん!」
「……」
肩を抱き胸に押し付けて彼女が怒鳴ろうとするのを抑えた。体は華奢だがしっかりした力はあるようだ。アルのように少し小麦の入ったような肌ではなく色白の彼は腕も細い。だが、やはり彼も混血種の血を受け継ぎ体は強い。
「……信じないなら。無理やり信じさせるまでさ」
「な、何を! う゛っ!」
「悪いな。体の自由は奪わせてもらったぜ。いくら闇姫でも人間なのには変わりないからな」
「は、はな……せ。……この、破廉恥……野郎」
闇剛を寝室に送ったアークリーはソファで横になった。昔を思い出すように上へ視線を移し考えている。闇剛は首筋に電撃をくらい体が言うことを聞かない。彼はその間に時間をかけてレイに言われたことについて考えているのだ。何故、闇剛を動けなくする必要があったのかは解らないがそこには触れないことにしよう。
「あの人もひでーよな。茶化すだけ茶化しといてあとは俺が全部まとめるのか。アドバイスとかないのかよ。解決には時間が必要か……確かにそうだけどよー」
闇剛は夕日を受けながら寝てしまった。アークリーもそのまま考え込んでいて話にならない。ここで西に目を向けよう。ライムズ以下ビースト部隊は多すぎる敵の対処に追われていた。倒しても倒しても湧き上がるように十重二十重に攻めてくる敵に圧されないはずはないこちらの手勢は敵の二十分の一ほどだ。それでもライムズの指揮は完璧で否のつけどころは見当たらないが味方の被害が出始めた。だからと言って後退できない彼らは襲い来る敵の猛威を猛威ではねのけ今まで戦線を保ってきていた。しかし、それもこれまでと言わんばかりに敵の大隊が何隊か連携して彼らをグルリと囲み退路を塞いだ。ライムズも他のみ皆も体力の限界で戦えるほどの余裕はない。既に絶体絶命で本来なら降伏を宣言する状態だがリーンの来るまではと皆踏みとどまっている。
「ライムズ殿。最後の賭けに出よう」
「ダメだ! アレは使えば肉体を強くするがこんな時に使うべきじゃない!」
「されど……一人でも多く生きるならそれしかない。リーン殿があらわれ……な、なんだ!」
更に西の荒野エリアから地なりと砂ぼこりが巻き上がり銀に輝く隊列が見え始めた。その後続には赤銅の巨人が続いていて力の限り猛進する。敵の大隊はそちらに首を向けたり感のいい者は戦おうと武器をふるうが無意味に敵の猛攻を受けて跳ね飛ばされていく。全長四メートルの巨体に全長二メートルの白銀の巨大な狼が走ってきたのだ。普通の人間なら足がすくむ光景だろう。
「バルラ殿は赤剛部隊を前面に槍陣で展開した後に無理やり横開きしてくれんか?」
「うぬ! 行こう!」
「サラ殿はもう半分を率いて反対側に入り込んで同様に道を開いてください」
「相解った」
バルラの隊が展開し道を開くとサラの隊がその奥に攻撃を仕掛ける。敵は赤剛の巨体と力に圧倒され見事に一直線に道が開いた。反対側にはバルラの息子であるビクトールが赤剛の若年衆を集めてリーンたちが“牙”の力でビースト部隊を救出したあとの殿を務めた。
「ビクトール! 頼むで!」
「解ってる! リーン殿も急いで!」
銀狼が集まり中心にいるアレンたちは銀狼の背に乗って駆り出す者や怪我人の救護をする者、赤剛の女、子供衆を守る者も現れた。アレンは最初にリーンの横に並んで駆け出した。銀狼たちはとても軽快に走り敵が攻撃してくるのであればその鋭い牙で鎧ごと噛み砕く。彼らほど仲間にして心強い味方はいないだろう。
「リーン……ありがとう」
「何を言うとんの! 戦はこれからや!」
「そうだな……。銀狼! 名前は?」
『俺か? 俺は光狼だ』
「光狼はリーンから……」
『私は桜牙や』
「……桜牙について行け!!」
『お、桜牙様に……か』
『早ようしぃ! ライムズ殿が遅れてしまう!』
『御意!』
その後ろから様々な毛色の種族や人種が狼に跨りついてくる。先頭はリーンとライムズだ。ライムズの念糸は特殊な加工がされエネルギーの伝道が速く大きい。その武器を扱える彼もまたとても強い。
「石弓隊前へ!!」
赤剛は鎧をつけている訳ではなく当たれば人並みに怪我をするためライムズは光狼に命じて隊列から飛び抜けて彼らの前に念糸を張って腕を振った。妙に耳障りな金属が細かく振動する音が響き石矢が次々に落とされていく。念糸が全てを落とすとリーンが踊り出し頭上で槍を振り回してその隊を桜牙と二人で殲滅した。ライムズも光狼が走り抜けて行く途中で空に身を躍らせて念糸で敵を絡め捕り再び光狼に跨る。光狼は気は弱いがかなり逞しい銀狼で彼がライムズで足りない力を補い絡め捕った敵を無造作に念糸で引きちぎる。
「撤退!! 撤退!!」
『どうする?』
「赤剛部隊は四隊に別れて主力をビクトール、バルラ親子が率いて回り込んで行くんや!」
「おう」
「いいだろう!」
「銀狼とそれらの皆はバラバラになったらあかんで! 五人一組を作ってや! そこから確実に攻め立てつつ囲んでくで!」
「オオオオォォォォォォォォォォォ!!!!」
敵は慌てふためきバラバラに逃げるが銀狼の持久力と速度に押され完全に敗色に染まる。彼らは更に追い討ちをかけられるように左右に分かれて回り込んでいたビクトール、バルラ親子が円陣を作って完全に包囲することで退路を失ったようだ。赤剛は無抵抗の敵には手をあげずになおも武器を振るう者のみに鋼の拳をぶつけた。……それから四時間過ぎ皆で話し合ったすえ敵は数を十分の一に落としていたためか戦意がないと考えて武器を取り上げて解放した。加えて赤剛や今回の戦いで戦線に参加したビーストの戦闘部族で意欲的な者の起用と銀狼たちの住処などを決めて一度ギルドに帰って行く。
「ほんまに死ぬかと思うたわ」
「無事で良かった。突然だけど……レイさんには悪いが俺は自分の騎士団を開こうと思うんだ」
「何でや? 銀狼は皆一人のままでも十分、闘えるっちゅうのに」
「馬より速く、攻撃的で理解者として……かな? 俺はこの光狼に惚れ込んだんだよ。コイツとならどこまでも行ける。勿論、リーンも団長として来てもらうがな」
『あぁ、その考えええなぁ。私、気に入りましたで。姉さん! 狼雅騎士団! どうですか?』
「狼雅騎士団……。うん! 悪うないやろ! 結成や!」
赤剛達も一度レイを見たいと本城に現れた。三大審の挨拶をうけレイが三人に後日全員が揃う時に連絡すると伝え彼らなりに目を付けた岩山や森に姿を消して行った。
「リーン、ライムズお帰り。わかってる。二人で頑張れよ。俺は本隊を率いるからな。お前等はビースト部隊を指揮しろ」
「わかったでぇ。う~~~ん!! ほなうちは寝させてもらうで」
「ライムズ。お前はどうするんだ?」
「銀狼達の住処を探します」
「この城の後ろにある建物なんかいいだろう。広いが誰も使わないからな」
「ありがとうございます」
そこにいつになく軽い服装の闇剛が現れた。レイに挨拶しくらい面持ちでまた花畑に行ったのだ。すかさずマナが追いかけて行く。レイはライムズと別れて彼の行動に出た。明らかにアークリーをからかいに行くのだ。
「頭はキレるがどんだけ不器用なんだか……と、言うより怖いのか? 関係が一気に砕けるのが……アークリー」
「レイ兄。わかってんならなんで何も言わねーんだよ」
「俺は誰も助けるなんて言ってない。それにお前にはいい訓練になる。あらゆる可能性を探って……結局、怖くて手を出さない。一端の大将になりたいからその弱さを捨てろ。アルにも笑われるぜ?」
「……あんたはどうやってあの人とあんな関係になったんだよ」
「マナか? 自然にだ。お前等はお前が動かなければ始まらないだろう。仕官を目指して革命軍か……しかも隠れてばかりときたからな」
「動かなければ……ってそれだけかよ!」
「あぁ、お前はお前の生き方がある。自分に勝ちたいなら……弱さを捨てろ。無謀なことはしてはいけないがな。どうだ、本音を言ってみたら」
彼はそこから立ち上がり居なくなった。レイも自室に戻り書き物をしている。マナが現れ後ろから手を回した。短い髪がレイの頬に触れる。
「どうした?」
「リーンちゃんとライムズ君。無事で良かった」
「だな、あとはあのバカがどうするかだが」
「彼も真っ向勝負をしないから……闇剛ちゃんはそれを待ってるのに」
「それに関しては大丈夫だよ。手は打った」
闇剛は何を見るとなしに花畑のそばにある水路の水面に目を落とす。誰も見てないと思って上着の服をはだけさせ薄着になり羽が抜け落ちて小さくなった翼を開いた。そして、人の気配に気付き後ろを振り向けばアークリーの姿がある。彼は彼女の背中のことについてはしっていたためさして驚かずに話しかけていく。
「まだ、気にしてたのか?」
「何か用?」
「お前、俺のこと知らないだろ? お前は俺のことを聞こうとせずに自分のことを教えてたからな」
「今更なによ。聞いても私にいいことはないでしょ?」
「頑固だよなぁ。お前」
「悪いわね。どうせ堅物陰鬱で頑固よ。……ちょっと! 止めてよ!」
「バカだな。お前に気がなかったら手当てした夜には帝の首は上がってたよ。たとえお前の兄さんがいてもな」
「……」
「それに……背中の矢傷は俺の放った矢だ。本当はすぐに殺して情報を奪う気だった……。そしたらよー可愛い子がうずくまってるから……」
「止めてよ! 今更、そんな……本当のことなんか」
「急に思ったんだ……馬鹿げてる。なんで……こんな可愛い子に矢を射らなくちゃならないんだよってな。俺もバカだったんだなんで言葉で命を無駄にしないようにできないのかって考えた。だから、だから! お前と居たんだ」
「バカばっかり……私だって」
「言うな……また、やり直そう」
「本当にバカ。やり直しなんてしなくていいわよ。私はもう、離れない……あんたが本当に私を愛してくれていたのか知りたかっただけだから」
「ホント……馬鹿ばっかだな」
ギルドの一番高い鐘楼に登って見ているレイとマナは笑いながら見ていた。背中に黒い翼がある理由は解らなかったがおそらくこの先に明らかになるだろう。現在城にいるのは新しいメンバーを含めて7人だ。それらが皆集まるのはどれほどかかるかまだわからない。ただ、東のギアには大きな変化が出ていた。アークリーと闇剛もそちらに走り援軍に行くと言っていたが……もう全軍が動き出し援軍は必要ないところまで状況は進んでいた。
……TO BE CONTENEW……