征く者……ユクモノ・上
ギア、シドはそれぞれ陣を張ってそこに止まり動かない敵を睨みつける。一人奥地に分け入るリーンも岩塩が照りつける光を乱反射させる峡谷を抜けるのに苦労していた。
「くそぅ……眩しくて目が開けられへん。それにこの暑さや……体力が奪われてまう」
修羅も隣の大陸であるサンドウィンドゥに足を下ろし砂嵐が吹き荒れる中で一人走っていく。砂の荒野には獲物を付け狙う獰猛な獣がひしめいており修羅を襲うのだった。
「こんな時に風崖が居れば……」
雷軌は未だに海の真ん中あたりで航海をしている頃ですぐに駆けつけることはできない。数が多すぎて流石の修羅でもキツいようだ。その時に救いの手を差し伸べたのは白い立派な法衣を着た痩せ型の男だった。彼は修羅を見るや背中の日本刀を抜き構えると瞬時に修羅が見ていた反対側に移動し鞘に刀をおさめていた。修羅は自分に見えない動きをする男に視線を移し呆然としている。
「奇刃……疾風雅」
野獣が奇声を発し次々に倒れていく。修羅は今は黒いフード付きのマントに身を包んでいるうえに意外と身長はあるため男に見えないこともない。法衣の男は男と認識しているらしい。声をかけてくるが厳しい口調だ。
「どなたか存ぜぬが……何故このような荒野に? わたくしが駆けつけねば命……を落とすところでしたぞ」
「ふむ、その節は助かった。心より礼をつくそう。ありがとう、そちらの名前は?」
「わたくしの名は聖刃。官名は天の群雲です」
「俺は修羅。軍名は戦鬼魔神」
「修羅……殿か。どのような用向きでこの荒野を抜けようと思われた? 腕の細い女性が一人で」
「首都まで向かう。そこでこの国を統べる者に直接友好を求めたいのだ」
「かなりの重官殿のようだが……何故戦わなんだ?」
「戦場以外では無益な殺生はせん。このとおり武具もあるからな。力を解放すれば野獣は近寄るのみで命が無かろう」
聖刃と名乗る男は次第に興味を持ち始めたような目つきになり背中の大槍を始め武具、銀色の髪、瞳華奢な体躯、容姿などを確認すると握手を求めてきた。彼の身長はだいたい180センチくらいだろう。修羅は170程、少し小さいが女性ならば大柄に見えないこともない。
「わたくしが首都までお送りしましょう。」
「あなたが……助かる。これからお願いするぞ」
何に突っかかったか知らないがいきなり修羅に倒れ込み起き上がった修羅に平手打ちを食らった。いくら武具の上からでも女性の胸に手を突くのは感心できない。リーンは果てしない道を一人進んでいくソルト・バレーは大きな岩塩の山で水分はかけらもない。ビーストのリーンでなければ今頃は死んでいたに違いない。その彼女もだんだんと疲労と脱水に悩まされている。
「うぅ、流石に厳しいで……水が欲しい。それに石に反射して暑い……」
彼女はまだ10歳にも満たない過去の自分自身に問いかけていた。彼女が探して居るのは紅の巨人と呼ばれる種族だ。その名は“赤剛”とも“ジャイアント”とも言われもはや伝説級の種族であり存在すら危ういはずだ。だが、彼女は父親とのつながりのある者を求めてひたすら歩く。父から受け継いだのは槍、たったそれだけ……もっと記憶に留めておきたかった幼い頃の自分を再び思い出す。実はリーンは幼い頃にも他族の攻撃を受け祖父に引き取られていたのだ。だから家族の記憶はない。
「たしか……『宵の頃、西の大陸奥に沈みし日を目指し歩め。向かい合う龍の岩に登り我らを呼べ。さすれば我らは答えよう。我らが作りし貫きを持して現れる者。即ち孤狼の王とみなす』」
彼女も記憶に薄い言葉を追っているだけあり暗中模索の言葉が似合う曖昧な探索だ。足取りは重くついにその日の探索は打ち切り近くにあった洞窟の中腹辺りで横になって眠りにつく。その頃の修羅は更に奥地へ分け入っていた。夜が更けても彼女の足取りは軽くむしろ昼間よりも数段軽い。聖刃の案内で砂漠地帯を縦断していくさなかに彼女は星を見上げ過去を思い出しているようだ。彼女もまた、重い過去がある。
「父上……この修羅を加護してくださらずに眠りについてくだされば、俺はどのような人生を歩んだでしょうか」
「先を急ぎますよ。修羅」
「すまない。懐古をしていた」
彼女は未だに腕の皮膚ですらも誰にも見せたことはない。たとえ、妹の闇剛でも……それには何かしら理由があることはわかる。だが、彼女は明かしたがらずこれまで一人で生きて来たのだ。
「聖刃! 屈め!」
「はい!?」
盗賊などの生易しいものではない。どの大陸にもいる人であり人でない生き物。それがカース……悪魔のような風貌のそれらは人を狩りその肉を食らうという。真意はさて置きこの大陸では聖刃の話が正しければ火薬の力が強く銃などの殺傷能力もずば抜けている。修羅は力を解放し撃ってきた銃弾を全て弾き返した。
『あの女……ただ者じゃない……』
『……あぁ、美しく……強い。仲間集めろ』
『殺せ……殺せ……』
「ふん……くだらん。聖刃よ。少々伏せておれ。すぐに形はつく」
確かにすぐに決着は付いたが双方の被害は大きい。敵の狙撃隊の中に大型の弾を撃つ兵器を持つものと剣を扱う上で手練れと呼べる敵が居たことが修羅の体に傷を負わせたのが理由だろう。敵は傷を負わせたにも関わらず全員首をはねられ死体と化した。
「来い……」
戦闘の経過を見ていこう。最初に仕掛けたのは敵の狙撃隊。一斉に掃射をかけたが当たった弾数はたったの三発。右肩に龍撃砲と呼ばれる竜の鱗でも突き破るという大型の大砲をもらい怯んだ瞬間に右腕と右足に銃弾を食らった。だが振り払った大槍で狙撃隊の半数は即死。残りの半分は二振り目で吹き飛ばされたり叩き斬られたりなどしてほぼ全員が死亡。剣兵は運良くできた隙に乗じて裏から斬りつけ右腕を肩からごっそり落とし背中に切り傷を与えてからヒットアンドウェイの戦法で一度飛び退く。それが命取りになり修羅の瞬間移動さながらの動きに反応できずに一人を残して全員が亡き者に成り変わった。最後の一人は一騎打ちで修羅に完敗し首、腰、膝に斬り込みが入って血を流さずに息絶えた。
「しゅ、修羅……大丈夫……なのか?」
「また死ぬことができなかった」
「な、何を……死ぬことができない?」
「聖刃……今、寄ればお前の命もないぞ? 所詮は生きる屍よ。俺は他人の魂を食らい生き続ける」
殺したカースから白い糸を引く球体が修羅のもとに集まる。切り落とされた腕からも無数の白い魂が糸を引き彼女に絡まっていく。
「俺の肌を見ないでくれ。醜い死の紋章を受け継いだ女などの肌は誰も見たくないとは思うがな」
地面に武具ごと落ちた腕は白い煙をだしながら砂に帰り元通りに腕が修復された。背中の傷も全て修復されたが修羅はその場に倒れてしまい聖刃は彼女を背負って歩いていく。翌日の朝早くから行動を起こしたのはリーン。岩塩の森のような地形をひたすらに歩くのだ。それでも希望は見えずに絶望は彼女の体を蝕む。既に足は鉛の重りをつけたように重く暑さで肌は乾ききり汗も出ない。その途中に獣の足跡を見つけそれをたどり歩いていた。
「狼の群がいる……」
彼女は一縷の希望に思えそれをたどり歩くが日が照り最後には槍を握りしめたまま細い道いっぱい体を広げた状態で地面に倒れてしまった。
『おとん! はよう、うちにも槍術を教えてぇな!』
『リーン。まだまだや、早すぎる。10になったら教えたるさかいまだ待っとりや』
『う……。うん! わかった。約束や!』
懐かしい思い出が蘇るが目は霞んで何もみえなくなる。死期を悟ったように小さく呟き意識を失った。
「おとん……今、そっちに逝くで……。うち、約束守れへんかった。長生きできへんかった……」
その頃のライムズは他の種族に助けられていた。ビーストの知り合いが次々に援軍として駆けつけてきてくれたのだ。種類は様々……日本鹿、アイデックス、山羊、蛇、兎、犬、ライオン、キリンなど様々。彼らはアルとの友好があるのに加えリーンとも面識がありライムズが放った調査隊のうちで出会った者が森中に呼びかけたのだ。それでも数の上では十分の一ほど話にならない。再び修羅に移る。
「…………ここはどこだ?」
「起きましたか」
「また、手をかけたようだな」
「その体全体にある入れ墨のような物が死の紋章ですか?」
「見たのか?」
「ええ、いくら怪我を一瞬で治癒しても魂の傷は癒せませんからね。あなたは……その典型的ですよ。誰も頼らず生きるなど不可能です」
「ふん……人の心内などしれたものか。醜く生きる俺はいつも嫌われ一人だったからな。それに、俺が一人で重荷を背負いさえすれば他の魂が重荷を背負うことはない」
「あなたは勘違いをしている。ならば、わたくしと夫婦の関係を結びますか?」
「面白いことをいうな。何故、いきなりそちらにとぶ?」
一瞬、顔を赤くし目を泳がせたがすぐに白い瞳で聖刃を睨みつける。軽はずみな発言の大嫌いな修羅はすぐに怒るが聖刃がいたって真剣なことに驚いたようだ。すぐに視線を彼の目に合わせる。
「わたくしの言う“夫婦”とは助け合い心を通わせることのできる存在というものです。あなたが拒絶するならどこまでもついていきましょう。わたくしの本職を先に伝えておきますか……わたくしはこのサンドウィンドゥの大宗教であるブッダ教の本殿につかえ、神の御心をお伝えする役柄“大神官”です。ユートピアのギルド、ホーリ・プリセクトの魔王さん」
「知っていたのか……」
「その誰に対しても威風堂々とし礼節を怠らない白銀の髪の将の噂はかねがね聞いておりましたとも。よもや女性とは思いませんでしたが……」
「ふん、くえんヤツめ。しかし、礼はしたい。何か言え」
「わたくしをあなたのギルドに属させていただくこととあなたが欲しい」
「前者は快く受けよう。だが、後者はならん」
「はは、そうおっしゃると思ってましたよ。あなたも頑固な方だ。ですが、わたくしも負けはしませんよ」
聖刃が床の板に突っかかりもろに修羅の胸に手をついた……。胸倉を掴まれ冷や汗が一筋流れた後彼の左の頬には彼女の拳の跡が綺麗に残されていたという。リーンは死んではいなかった。冷たい洞窟で目を覚まし起きようとした瞬間に額が獅子鼻に触れ力なく柔らかな干し草の上に倒れた。槍が無いことに気づき手探りで探していると優しい声で話しかけられる。そちらに目をやると大きな銀狼が一頭。その奥には更に大きな片目が抉られた銀狼がいた。
『お姉ちゃんやっと起きはったでおとう』
『おお、わかっておる。して……そこの少女よ。名は?』
「リーン・ハルバートや」
『ハルバート……その槍……。お前はコウルの娘か?』
「おとんを知っとるんか?」
『知っておる、知っておるとも。ワシとヤツは相棒を超えた仲じゃった。しかし、ワシが村を離れておった隙に攻め落とされ皆殺しにあったと聞いた』
「うちは……おとんに言われて必死に逃げたんや。だからこの通り生きとる」
『お姉ちゃんはどこに行きたいんや? これからもここに居るんか?』
『桜牙。少し静かにしいや。聞きたいことはあとでゆっくり聞き。リーン……おそらくは、お主は最西の民、赤剛を探して来たのだろう』
「そや、ちとまずいことになっとってな」
『ならば、奴らに会わせよう。しかし、条件がある』
「条件?」
『何……簡単じゃ。この子を桜牙を他の若い牙と共にそなたに付き添わせこの谷から連れてゆくことじゃ』
「あんたは?」
『ワシはここで朽ちるのみじゃ。体は魂を失った時に死ぬ。ワシはコウルという魂を失った時、既に死んでおる。娘や牙達を頼むぞ』
一際大きな狼が一声吠えると周りの岩だなや奥から次々に同じ毛色の銀狼が集まり首長らしき彼の最後の言葉を聞きそこからリーンを導くようにその場をあとにする。桜牙も別れを告げリーンを見つめていた。
『忘れるところであった。コウルよりお前に託すはずだが今はワシが父代わりだ。受け取れ。銀狼の牙をあしらった首飾りだ』
「ありがとうな。名前は?」
『我が名は風牙』
「ありがとう。風牙はん」
『うぬ。早く行け。胸騒ぎがする』
桜牙が腰を落とすとリーンがまたがり彼女を先頭にその先の山に向かう。彼らの軽快な駆け足の音が心地よい中その岩山は見えてきた。確かに双龍の岩は存在したのだ。
『これで良かったのか? コウル』
「あぁ、ええんや。これでな……あの子ならやれる。俺の娘や必ずやれる」
『我らも引退じゃな』
「そうや、次代に引き継いだんや」
修羅の体調が回復ししだい発つことにした聖刃は相変わらずよく転ぶ。そして、修羅に殴られる。彼女と聖刃は現在の足取りとして大砂漠地帯を抜けオアシスの村であるチナにいた。そこは彼の友人が多く身を隠すのには持って来いらしい。なぜなら、彼は軍の圧力に負けた国家体制に反対し神から選ばれたはずなのだが『仕事が面倒になった』と官を辞し現在は過激ではあるが革命的思想を持つ友人を頼りそこに席を置いているのだ。彼にも修羅をかくまうことで良い点がいくつもある。
「ほぅ、お前は革命家だったのか」
「そうではありません。確かに革命的思想はありますがわたくしは信教の十分な加護を民が受けられる国であることを願う……さしずめ懇願者といったあたりでしょうか」
「俺からすれば変わらぬがな。う……、腰回り……の計測器で絞めすぎだ……少し緩くたのむぞ……」
「は、かしこまりました」
鎧を作り直している修羅はまだ本調子ではない。それでもその土地の多くの文献を読み知識を吸収していく。側には必ず聖刃が付き添い身を案じていた。修羅は肩甲骨辺りまである髪を束ねることはしない。だが、今はその地域の女性が好んで着る服を着ているため一つに縛り女性らしくすごしていた。そんな彼女は良い意味で嫌でも周りの目を強く引く。聖刃は誠実な人柄に加え少しドジなことを除けば完璧な人間だった。が……修羅は鬱陶しいらしい。
「聖刃……何故、お前は自ら国を治めようとは思わないのだ?」
「わたくしは神につかえる身ゆえ。そのように人を差別してはならないと思っているのです」
「面白いな。俺はそうは思わんが……まとめられる人間が居なければ人間など私欲の塊だ。統制し妥協を覚え、上に立つ俺達が誠実ならば国は右肩上がりに良政が成り立つのだ。それが定理で今は上が暴政を行う……それが悪化の理由だ」
「そう思われるなら……それについて問いましょう。あなたは何故一人で背負いたがるのですか?」
両肩を掴まれ真剣な眼差しで見つめられてしまい思わず赤面し右斜め下に視線を送る。いつになく弱い調子で彼女が答えた。声も細く少女のような面影がでている。
「夫と子を残せば必ずその子には重荷がつきまとう。死の紋章は免れられない。ならば私が長生きさえしていれば……」
「ならば、あなたは身勝手だ。一人の男の愛を無駄にするのだから……。本当にあなたはわかっていない。あなたが迷惑をかけたくないと感じることこそこちらは心配し心が揺らぐ要因……あなたはそれでもひとりでいますか?」
修羅の表情が凍ることなどそうそうない。それを初めてみたのは聖刃だった。いつもの堂々たる雰囲気と威厳は萎縮し弱い心の波さえ感じられる。聖刃が床に押し倒しても反抗しないのはそのせいだろう。
「どうしたんですか? いつもならわたくしの顔に拳が飛ぶ行為をしているというのに」
「あ、あまり……調子に乗るなよ。私の何がわかると言うのだ。武家に生まれた一人娘などは結婚以外に有用性などなかろう。たまたまだ、私が腕っ節でその辺の男に引けを取らないことから今の型にはまったのはな」
「わたくしも同じとは言わないが……あなたと違いがないわけではない。一度信じてくださるのもよいではないですか」
「信じていいのか?」「えぇ」
「ホントにだな?」
「はい」
いきなり目力が戻り下にいた修羅が馬乗りになり聖刃の胸倉をつかんで恐ろしい笑いを浮かべた。その後に顔を引き寄せる。笑うと右側の八重歯が目立った。それが妙にはっきりと言葉を伝え聖刃の喉に手を当てて何かを言っている。
「俺は嘘つきは嫌いだ……。嘘をついたら……さっきの言葉が嘘なら……その首が胴から離れても文句はないな? まぁ、今更撤回できる事柄ではないからな。既に後戻りはできんぞ」
「あ……はぃ」
上から退くと立ち上がりその後に立ち上がった聖刃の顎に一発……強烈なアッパーが入った。また、見事に決まったものだ……。
「ぐぁ!! な……何故」
この後告がれた言葉は更に恐ろしい凄みを効かせていた。それは魔王に相応しい……この世の中においてもっとも……恐ろしい笑いだっただろう。
「それは……押し倒してくれた礼だ。ひ…じ…り…ば…。二度とあのようなまねはすまいぞ?」
本当に恐ろしい限りだ。一発で聖刃の脳を揺さぶりその優美な後ろ姿を見せつけながら書庫を後にした。真に恐ろしい限りだ……。重ね重ね……。
『ほら、リーン姉。呼びや』
「わかってるがな。せやけどうちはこういうがらやないし……だぁ! もぉなでもええわ!」
リーンの特徴的な澄んだアルトの後に銀狼族の戦士である「牙」と新しい首長になった桜牙の遠吠えに合わせて一斉に吠えた。
「我が名はリーン・ハルバート!! 最西の民赤剛に助けを求めんとこの地に赴いた。我の意を伝えるため首長殿との面会を求めたい!!」
すると地面を揺るがし巨大な脚がリーンの目の前に現れた。その男は頭に髪などないがすぐにわかる程の赤銅の肌をしていた。体長はおよそ4メートル、腕は太く巨人という名が相応しい。
「孤狼の王の証を……」
「あ、証?」
『それですよ姉さん。銀狼の打ち切り槍』「こ、これなんか?」
「確かに見極めた。孤狼の女王よ。我らはあなたについて行く。まずは首長に会って頂きたい」
「わかったで」
大男について行くと途中で案内役が若い男に代わり彼について行くと首長が三人椅子に座っていた。
「ワシは知恵の大審。ギルジ」
「俺は闘いの大審。バルラ」
「最後の私が心の大審。サラです」
「代表し知恵の大審のワシがあなた様への忠義の印に供物を……」
「皆はんには悪いでっしゃろうが儀式は遠慮して欲しいんや」
「ほう、急ぎの用と見えますが……」
「うちの夫となる男が大軍に相対し危ない状態なんやはよう行きたい」
「わかりました」
「サラ殿……」
「いいのか? 儀の短縮は神への無礼……」
「問題ないでしょう。今はこの方の思い人を助けることを優先せねばなりません。神などに頼らず、目の前のこの勇敢な女王に付き従うが良策かと」
「知恵の大審は意に解する」
「闘いの大審も認ずる」
どこからともなく巨人が現れ次々に武具を揃え銀狼達の群れに加わって地鳴りをお越しながら走る。太陽の光を受けリーンの髪が金に輝いたように感じ雄叫びと共にソルト・バレーの大地を抜けて行く。行きに比べその速さは各段に違い勢いづいた軍はおよそ200。数の上では劣るが強さは比ではない。その更に後ろからは女、子供、老人もついて来る。……修羅とリーンは勢いをつけ己の征く道を切り開いた。その頃、新たな動きを受けて海外に渡った者が4人。
「ふぅ……まさか船に乗るなんてな」
「あら、船は苦手なのかしら?」
「茶化すなヴィヴィア。落とすぞ」
「お二人ともそこまでにしてくださいよ。ルナ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ……おぇぇぇ」
「重症ね。船酔いは慣れで何とかなるものでもないし……」
それ以外の海外組の動きでは雷軌も大陸、サウスウィンドゥに足を進め海に落ちた風崖もなんとか生きていた。
「修羅様は無事であろうか……殺気!」
雷軌は軍事交戦区域に入ってしまったらしくあわただしく動く。
「ゲホッ……お、俺は……生きてるのか?」
「お兄さんは誰? 一応は助けたけど……その頭……オウガ?」
「お前は?」
「あたし? あたしはオーシャ。この近くに住んでんの。お兄さんかっこいいし家に招待するわ」 風崖は謎の少女オーシャに出会い一応命は取り留めた様子だった。これからどうなるのかは誰にも予想できない。これからも経過を見ていこう……。変動は更に続いて行くのだから。
征く者……ユクモノ・下へ