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第七章:破壊兵器を作ります?(6)

* * *


 ジュリアン・ヴァサルがジュリー・アンセントの変装だったとエステルに明かし、深々と頭を下げて謝罪した。まるで両膝を床につけ、平伏するかのような勢いだった。


 エステルは驚きと混乱に目を白黒させたが、ジュリアンが置かれた複雑な立場を理解し、彼女を助けようとしたセドリックの行動も、なんだかんだで許したようだ。


 ただ、ヘインズ侯爵への謝罪はエステルに対するもの以上に大変だった。セドリックはエステルを事件に巻き込まないために婚約を解消したはずが、結果的に彼女をヴァサル国の改革派に囚われ、人質にされるという大失態を犯してしまったのだ。


 エステルの居場所を突き止めたのは、ヘインズ侯爵の功績だった。エステルからもらった『でんわ』から発せられる魔導回路の位置情報を解析し、彼女の声を拾ったのだ。


 侯爵は娘が開発した『でんわ』に強い興味を持ち、分解と再構築を繰り返す中で、エステルが持つ『でんわ』からの微弱な信号を捉えた。


 それが、エステルとアビーが攫われたと知るきっかけとなった。


 その直後、アドコック領から伝書鳩が届き、ギデオンから「エステルがいなくなった」との報告があった。ギデオンも気が気でなかったようだ。


 ヘインズ侯爵がエステルとアビーの無事を確認すると、改めてギデオンから謝罪が届けられたという。

 あの事件で、ヴァサル国の改革派と呼ばれる関係者を芋づる式に捕まえた。ただし、王弟本人が関与していなかったのは幸いだった。


 彼が直接命じたわけではなく、王位をジュリアンに継がせたくない一派が勝手に王弟を担ぎ上げていただけだったのだ。これを機に、王弟は王位継承権を放棄し、ジュリアンが正式に王太子となることが決まった。


 継承問題を曖昧にしてきたことが問題だったという意見も上がり、ヴァサル国の情勢は一歩前進した。

 セドリックはエルガス学園を卒業し、卒業生代表として壇上で堂々と挨拶をこなした。


 一方、ジュリー、つまりジュリアンは卒業間近に自国へ戻る形となり、学園を卒業しなかった。そして、もちろんエステルも卒業には至っていない。


 しかし、セドリックが学園卒業後すぐにエステルに再び求婚したという話は、ターラント国中に瞬く間に広まった。


 セドリックとジュリーの関係を知る者からは反対の声も上がったが、エステルが彼を受け入れたことで、次第に非難の声は収まり、むしろ彼女の寛大な心に賛辞が寄せられた。


 それから三か月後、ヴァサル国の王城でジュリアンの立太子の儀が盛大に執り行われた。

 隣国ターラントからは、セドリックとその婚約者であるエステルの姿もあった。


「何年後になるかわからんが、おまえがヴァサルの王か……」


 セドリックがジュリアンに軽く毒づくと、エステルが笑顔で彼をたしなめる。そんな二人のやりとりは、もはや見慣れた光景だった。


 ジュリアンはそんな二人を眺め、ほんの少し羨ましそうに目を細めた。王太子という重責を背負いながらも、心に余裕が生まれた証拠だろう。


 その後、ターラント国とヴァサル国の間では、魔導具の輸出に関する新たな取り決めが結ばれた。ターラントからヴァサルへ輸出される魔導具には、使用目的の申告と軍事転用を禁じる条項が設けられた。つまり、「魔導具は正しく使いましょう」という約束だ。


 さらに、ヴァサル国内でも魔導具の開発や製造を学べるよう、ターラント国が技術者を派遣する体制を整えた。これは、ヴァサル国への魔導具の技術支援の第一歩だった。


 こうした国と国を結ぶ関係で、必要不可欠となったのがエステルの開発した『でんわ』だ。今では、各『でんわ』に番号が割り当てられ、相手の番号を打ち込むだけで、どこにいる誰とでも会話ができる。


 エステルが『でんわ』を思いついたきっかけは、当時、婚約者とおやすみの挨拶を交わしたかったからだという話が、まことしやかに広まっている。そのため、恋人同士が『でんわ』を持ち、寝る前におやすみを言い合うのが流行り始めた。


「そうすれば、将来は幸せな結婚生活が送れる」とまでささやかれ、エステルの発明は国境を越えて人々の心をつなぐ象徴となっていた。


最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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