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第四章

 家についてからも、しばらくは何も手につかずに時間が過ぎた。いや、「何も」というのは嘘だ。いつもどおりお風呂に入ってメイクを落としてパジャマに着替えて、明日の準備を一通り済ませてから、歯を磨いてベッドに潜り込んだ。傍から見れば至って普通に、滞りなくこなしている。ベッドに寝てからも、遥貴さんのことを考えてはうるさい心臓の音に困惑していたものの、そのうち睡魔が勝って眠りについた。年を重ねるというのは、感情よりも何よりも習慣とか生理現象に抗えなくなることかもしれない。意識を手放すとき、そんなことを思った。

 翌日のリモートワークを終わらせて、自炊をして、時計が洋食店の閉店時間を一時間ほど過ぎた頃、私はもらった番号に電話をかけた。ツーコールをする間も与えずに呼び出し音が途切れる。

「はい、相澤です」

「こんばんは。長谷川です。えっと、昨日お夕飯のときにカクテルをお願いした」

「こんばんは! お電話ありがとうございます。遥貴です」

 電話口で衣擦れの音がした。姿勢を正したみたいだ。私はとりあえず、と疑問に思っていることを聞いてみることにした。

「その、番号をいただいて驚きました。これはどういった」

「はい、デートのお誘いをしたくて」

 ぐっと声が喉で詰まる。デートのお誘い。こんな方法で誘われることがあるのか。

「ご迷惑でしたか? もちろん無理にとは。でも、できれば今までどおりお店に来ていただけると嬉しいです」

 最後になるに従って、彼の言葉は萎れていった。私は慌てて答える。

「いいえ、驚いただけです。私も、お話したいと思ってましたので」

 顔が熱くなるのを感じる。こんなのでデート

「それじゃあ、週末のどこか。今週末とか如何ですか」

「今週末……大丈夫です」

 かばんの中から手帳を出しながら確認する。

「それじゃあ、十一時に駅前で待ち合わせはどうでしょう」

「十一時ですね……わかりました」

「楽しみです」と言う遥貴さんの声は弾んでいた。


 電話を切ると、緊張が解けて、どっと疲れが押し寄せてきた。遥貴さんとデート、俄には信じられない。でも、直ぐ側に置かれた手帳にはきちんと予定が書かれているし、なによりこの耳には彼の声が残っている。

 嬉しい、それと同時に不安が襲いかかる。がっかりされないだろうか。玄関につながる扉の横に置かれたボックスを見つめる。中にはマスクが入っている。この状況下になって、誰もがみんな、靴を履くくらい当たり前のように、外にいるときはつけるようになった。私もその一人であり、一方で他の人は受けない恩恵を受けていもいた。不美人が美人になる魔法、なぜか私にだけマスクはその効力を発揮する。

 私は、遥貴さんの前で一度もマスクを外さないようにしていたのだった。

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