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79 : 弟子と師匠


「うっ、あっ――ガッ……!」

 魔王に対抗して意識を保とうとしているカルディアは、苦しそうに呻いた。


「――カルディア! 浄化の魔法の、魔法陣は覚えているな!?」

 次々に繰り出される魔王の魔法への対応に追われるノイが叫ぶ。


「おぼ……え……ます……」


 彼にとっては百年も前にノイが作り出した魔法陣だが、カルディアは自身が改良した転移魔法に浄化魔法の魔法陣の一部を使っていた。


「なら、編めるな!?」

 ノイが叫べば、カルディアの体が反応した。

 だがほんの僅かに動いた体は、すぐに魔王に乗っ取られる。カルディアが編もうとした指の動きから大きく異なる魔法陣を、魔王が編む。


 ただし、その魔法は瞬時に、ノイによって相殺される。


「指を動かせ、魔力を撚れ! 魔王を、お前の手で浄化するんだ!」


 天まで届くような澄んだ声は、真っ直ぐにカルディアまで届いているようだった。ノイの声に反応したカルディアが指を動かそうとしたが――また、即座に体の制御を魔王に奪われる。


 だが、魔王の中のカルディアは諦めていなかった。


 何度も何度も、諦めずに繰り返す。ゆっくりだがカルディアは、浄化の魔法陣の片鱗を編み始めていた。


 だが、魔法陣を編み上げるにはほど遠い。

 カルディアが魔法陣を編み上げる前に、魔王が別の魔法陣を編み始め、浄化の魔法陣は一向に完成しない。


「――オルニス、私の魔法、見ていたな!?」


 ノイの傍で魔王とカルディアの攻防を見守っていたオルニスが、驚愕に目を剥く。


「……えっ!?」

「ちょっとでいい。時間を稼いでくれ、任せたぞ」

「ちょ――出来るわけないでしょう、あんなの! 規格外ですよ!」


 裏返った声で叫ぶオルニスに、ノイはしっかりと頷いた。


「お前なら出来る! 諦めるな!」

「根性論なんて一番、嫌いなんですよ!」

「馬鹿者! お前は誰だ! あの天涯(てんがい)の魔法使い・カルディアの弟子だろう!」


 オルニスはぐっと呻いた。そして心底悔しそうに「くそっ」っと呟くと、指を動かす。


 魔王が無数の火の矢を生み出す。オルニスは海水の表面を激しく風の魔法で叩き付けた。衝撃で弾けた水が雨のように降り注ぎ、矢から火を消す。


 オルニスは流石、カルディアが弟子にしているだけあった。

 無限に溢れ出る魔王の魔力を使っていたノイのように、大きな魔法陣を編み出すことは出来なかったが、スピードと効果を重視した魔法を打ち、被害を最小限に抑えようとしている。


「なんだ、筋がいいじゃないか」


 笑ってノイは、手を動かした。オルニスは大きな舌打ちをする。

 飲み込みも早ければ、機転も利く。――だが、長くは保たない。

 ノイはカルディアに向かって叫ぶ。


「カルディア! そのまま始まりから編んでいけ! 私は――終わりから編んでいく!」


 側で聞いていたオルニスが驚愕してこちらを見る。しかし、口を挟む余裕はないのか、またすぐに真剣な顔を魔王の魔法陣に向ける。


 オルニスが驚くのも無理はなかった。


 魔法に干渉できるのは、一つの魔法につき一人だけ。


 それがこれまでの、世界の常識だった。


 二人の魔法使いが――それも、逆向きに魔法陣を編むだなんて、これまでの魔法使いは誰一人、想像したことも、試したこともなかったはずだ。


 魔法陣を逆さ手に編むとなると、進む方向が変わる上、裏向きに魔力を編まなくてはならない。更には、カルディアがどれほどの魔力を用いて、どれほどの速さで魔法陣を編んでいくかも、全て完璧に計算しなくては成り立たない。


 その難易度は、計り知れなかった。

 だがノイは、明るい声で叫ぶ。


「行くぞカルディア! ――大丈夫だ。お前と私なら、出来る!」


 ノイは両手を掲げ、大きな声で歌った。



 糸巻く糸巻く くるくると 廻りて紡ぐは (いにしえ)の糸

 伸ばして引いて からからら いざ始むるぞ 魔法の旅

 トゥララ ララ……


 糸出づ糸出づ さらさらと 空舞い踊るは きらめく糸

 彩り輝きて きらきらら 天の輪潜る 魔法の扉

 トゥララ ララ……


 糸編む糸編む ちくちくと 此方(こなた)から 彼方(かなた)へと

 望むがままに ひらひらら 魔法の糸で 願い叶えん

 トゥララ ララ……



「……手習い歌」


 オルニスがぽつりと呟く。


 ノイが歌い終わる頃、師弟で編んだ魔法陣が魔王の体の周りに生み出され――世界は真っ白い光に包まれた。






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イメージイラストはくろこだわに様に描いて頂きました。
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