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74 : ペパーミントの躍る先


 唖然としているカルディアの目の前で、ノイは一層輝いていた。


「そうだ――川だ! 川を作ろう!」

「川って――あんた、簡単に言いますけどね!」

「カルディアならやれる! 私は信じている!」


 オルニスとノイが言い争っている姿を、カルディアは真っ白な頭で見ていた。


(そんな、わけがない)


 あの人は死んだ。


(俺のせいで、死んだ。俺が殺した)


 それも――百年も前に。


 自問自答を繰り返すカルディアを、ノイがぐるりと振り返る。


「カルディア!」

 その声だけで、カルディアの全身に鳥肌が立った。


 自身の意思とは無関係に、勝手に胸が高鳴る。

 まるで現実とは思えなかった。手のひらが震え、首から汗がすっと流れる感触までもが鮮明で、カルディアの喉仏が大きく上下する。


(……ああ、何故、自分は――)


 全神経を刺激する声と表情に、目を細める。


「わかるな? ここを中心に、大地を削るぞ! 水と土、そして土を補助する形で風の魔法を使え!」


(――気付かなかったのだろう)


 ペパーミント色の瞳が――カルディアの大好きだった強い瞳が、カルディアを奮い立たせる。


 カルディアはふらつく足に力を入れた。血が流れ落ちる腹を押さえ、手を広げる。


「わかりました――お師様」


 その小さな呟き声は、誰にも聞こえなかった。


 阿鼻叫喚が広がり、人が人を押しのけて、我先に逃げようと走り出す。大人の怒鳴り声と、子どもの泣き声がこだまする。

 そんな広場の中で、カルディアは魔法陣を編むことに集中した。彼を中心に、大きな魔法陣が浮かび上がる。それは何処までも何処までも――見えないほど大きく伸びていく。


「先生、水がっ――!」

 オルニスが叫んだ時には、既に魔法陣は完成していた。


「皆、伏せろ!!」

 周りで成り行きを見ていた領民達に、ノイが叫んだ。


 その瞬間、地面にひびが入る。ピシリと入ったひびから、島が割れていった。

 大きな地響きを立てながら、地面がずれていく。その光景は圧巻だった。

 地面全体が揺れ、まるで世界が震えているよう。地獄の門が開いていくかのような、恐ろしさすらあった。


 そして、空から巨大な水の塊が落ちてきた。





「っつう……」


 家の壁に頭を打ち付けていたノイが、痛む部分を押さえて立ち上がる。怪我をしているが、動ける程度のようだ。


 地面に薄く広がった水が、さざ波となってカルディアの頬を打つ。

 水が張った地面の上に倒れ込んだまま、片目だけでカルディアはその様子を見ていた。


 ――激しい勢いで空から落ちてきた水の衝撃は、凄まじかった。


 大地を揺るがすほどの衝撃をもたらした水が、地面に叩き付けられた衝撃で跳ね上がり、大きな波を生んだのだ。


 大半の水は割れた大地の隙間に上手く入り込み、海へと流れていったようだが、落ちてきた水の影響で生まれた波に呑まれたカルディア達は、湖から離れた場所に流されていた。


 もう首すら動かなかったが、偶然同じ場所に、ノイも流れ着いたのだろう。


「……カルディア! やったな!」


 カルディアを見つけたノイが、パッと笑顔を見せる。


 びしょ濡れのノイが、転ぶように走りながらやってくる。あちこちに怪我をしていて、立っているのもやっとという風体だ。

 カルディアは首を持ち上げて、彼女を見ていた。


「……転びますよ」


 しゃがれた声でそう言うと、ノイは本当にその場で転んだ。慌てると、すぐに転ぶ。そんなところまで全く変わっていない。


(……――まさか、俺が呼んだ? 百年前から?)


 カルディアがノイを呼び出した転移魔法が、もしかしたら時間に関与し、百年前から師匠であるあの人を呼び寄せたのかもしれない。


 彼女の魔力と時間を奪って。


(ああ……だとしたら)


 滲む視界で、カルディアは横たわったまま、拳を握りしめた。もう、片手しか上がらない。震える腕を振って、カルディアは魔法陣を編む。


「……カルディア?」


 駆け寄ってきたノイが、顔を青ざめさせる。


 彼女の周りには、彼女とカルディアを中心とした魔法陣が広がっていたからだ。


 カルディアは濡れた地面に這いつくばり、ずっと会いたかった――もう会えるとも思っていなかった人に、笑いかけた。






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イメージイラストはくろこだわに様に描いて頂きました。
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