3年の春
ご褒美はフィクションです。
それ以外もフィクションですけれど。
「立花くん」
「佐倉」
「制服、新しいんだね?」
「やっとな」
「似合ってるよ」
「合ってる、だろう?」
「とうとう破けたんだ」
「いや、違う。小さくて我慢できなかったから噂を流して」
「噂?流して?」
「今年の新入生から制服のデザインが変わるっていう噂を母親の耳に入るように巷に流して、今買わないと卒業式に俺だけ違うデザインの制服になるかもしれないからって、買ってもらった」
「巷に流すってところが、策士ね」
「俺が直接言ったら、母親に本当かどうか調べられるからな」
「お母さんのことをよくわかってるのね。敵を知り己を知ればってやつ?」
「向こうにも良く知られてるから、百戦してやっと1勝って所だけどな」
「ふふ。もしかして、この1勝も実はお母さんの勝ちとか?」
「え?なんで?どうしてさ?」
「例えば、制服が変わるって噂のアイデアは、どこから?」
「どこから・・・自分で思いついたつもりだけど」
「なにか、気付かない位の小さなきっかけが有って、知らず識らずに」
「佐倉、サスペンスでも読んだのか?あるいは、俺にアイデアを出させたのは実は佐倉とか?」
「立花くんを通して、立花くんのお母さんに制服を買わせたって?そんな企みに知恵をしぼっている様じゃ、受験が危ないと思う」
「まあそうか。受験生だもんな」
「とうとう3年生だね。予備校は通うの?」
「部活引退したら、多分。引退してから考えるけど、佐倉は?」
「週末だけ通い始めたよ」
「どこ?」
「県庁の傍の」
「ああ、あそこ評判良いらしいな」
「そう。高校受験のときにも通ってたから、慣れてるし」
「あんなとこまで通ってたのか?今は一女からすぐだろうけど、地元からだと結構かかるだろう?あれ?週末だけなら一女から近くても関係ないか」
「通いなれてるから平気だよ。クルマで迎えに来てもらったりもするし」
「そりゃそうか。予備校終わるの、夜遅かったりするだろうからな。高校受験も塾じゃなくて予備校だったのか?」
「うん。予備校で一緒だった同級生も多いよ。レイナもだし。立花くんは塾だったの?」
「ああ。まあ今回は予備校にするだろうけどな」
「じゃあ、ウチどう?紹介するよ?」
「ちょっと距離あるからなぁ」
「志望校に受かったらご褒美が出るから、それで一緒に合格パーティーやろうよ」
「ずいぶん気が早いし、パーティーするほど金額でるのか?っていうか、ご褒美って紹介者にも何かあるんだろう?」
「もちろん。優秀な生徒を紹介すれば、それなりの見返りがね。志望校ランク上げればプラスワンで更にね」
「紹介させるから、俺にもキャッシュバック寄越せよ」
「立花くんは正規のご褒美がでるからいいじゃない」
「佐倉もだろう?まあ、受かるどころか受験もまだだし、取らぬ狸にならないようにしないとな」
「頑張ってね」
「応援はありがたいけど、自分もだろう?」
「私は今年から成績上がるから」
「はあ?頑張るからってこと?まわりみんな、頑張ると思うぞ」
「ふふ、今年から数学がないのよ」
「はぁ、そういうことか。だから平均成績が上がるって言う、数字のマジックね。受験科目には?」
「第一志望には数学はないわ」
「国公立じゃないのか。数学ない所を選んだんじゃないだろうな?」
「選んだところが数学不要だったのよ。」
「不要ってことはないだろうけど。そうすると学園祭の屋台?」
「確かに美味しい屋台が出るし、学食もおいしい大学だけど」
「やっぱり」
「他にも美味しい大学はあるわ」
「なんの宣言なんだか。まあ、受かってからだな」
「そうね。出願もまだ先だし。立花くんも志望校決めたの?」
「一応ね。推薦もらえるかもしれない」
「え?凄いじゃない。ずるい」
「ずるいって、そういう佐倉は?生徒会やってるならそれこそ有利じゃないの?」
「一般受験するから、内申がどれくらい影響するのか、判らないわ」
「まあ俺も、推薦をもらうためには部活でももっと活躍する必要があるしね」
「そうなの?まだまだ大変そうね」
「引退まで手を抜かずに頑張るよ」
「推薦取れなかったら、それから受験勉強?」
「いや、それだと間に合わないから、並行して勉強もするけどね。推薦もらえても落ちないとも限らないし」
「両方頑張るのか・・・二兎を追うもの」
「やなこと言うなよ」
「狸とか兎とか、カチカチ山だね」
「背中に火がつくって?」
「泥船かもよ?」
「受験生に縁起でもないこと言うなよ」
「わたしも受験生だよ。それに禁句は言ってないし」
「確かに『落ちる』とか『滑る』とか言ってないけど、なに耳塞いでるの?」
「いえ、別に」
「佐倉って、兎みたいだな」
「え?かわいいって?」
「策士だなって」
「なんでよ?」
「ちなみに俺は、兎を可愛いと思ったことは一度もない」
「うさぎとかめ」とか「因幡の白兎」とか