2年の夏
「立花くん」
「佐倉」
「レギュラーになったんだって?」
「田中に聞いたのか?」
「そうよ。おめでとう、ってどうしたの?あまり嬉しそうじゃないね?」
「先輩が引退して、繰り上がっただけだからな」
「それで不満なの?でも、実力でしょ?」
「うーん多少、年功序列的な?」
「例の後輩くんとかは?」
「準レギュ扱いにはなってるけど」
「立花くんより上手なんだよね?」
「ああ。俺、後輩見てて閃いたっていうか、視野が開けたっていうか、つまり俺の師匠?」
「師匠って呼んでるの?嫌がられない?」
「喜ぶだろう?」
「ふふ、師匠は悔しがってないのね」
「レギュラー取れなくて?悔しいと思うよ。でも、師匠のおかげだって言えば、文句も言えないだろうし」
「喜べてないじゃない」
「まあ、いいんだよ」
「遠征も増えるの?」
「そう!夏休みの課題を終わらせる目処が立たない!」
「まだ日にちは残っているじゃない」
「世界史と古文でバカみたいな量の課題が出された」
「あまり勧められない話だけど、手分けとかは?」
「もちろん手分け前提だけど、書き写す時間が足らない!俺、理系選択なのに!」
「それはもうなんというか・・・手伝って上げられないけれど、応援しているよ」
「そんな心のこもらない言葉でも嬉しく感じるほど、追い詰められてるんだ」
「ひどいなあ。心から応援するのに」
「佐倉は?課題とか大丈夫なのか?」
「自由研究が面倒かな?」
「自由研究とは言葉ほど自由じゃないってやつね?」
「なによそれ。そう言えば立花くん、やっぱり理系選択なのね。大学も決めてるの?進学でしょ?」
「進学だけど大学や学部はまだ。佐倉は?」
「私も。周りに法学部を薦められるけど、将来なにをするかは考え中」
「理系は?あんなに数学やったし」
「一生分やりきったね」
「おおげさな」
「1つのものを食べすぎると、その食材のアレルギーになるらしいよ?」
「はは、数学アレルギー?」
「そう。幸い、一歩手前だけどね。大学は東京?」
「私大だと東京になるかな。国公立をねらうけど、地元になるかは今後の出来次第だな」
「東京、大丈夫?怖くない?」
「父親の転勤前は都内に住んでたから」
「え?そうだったの?」
「まあ、東京って言っても広いし、色んな所があるけど、佐倉は?怖い?」
「一人暮らしするのは怖いかな。でも親戚がいるから居候とかすると思う」
「居候?言い方が古臭くないか?」
「一緒に生活させてもらうから、区分は居候だと思うよ。あ、生活費入れるから下宿かな?」
「今どきあるんだな」
「ウチの親戚では結構あるかな?お父さんもお母さんの実家に下宿してたし」
「え?ひょっとしてそれがきっかけで結婚?」
「仲良くはなったと思うけど、元々が許嫁だったから」
「え?それこそ今どきあるの?もしかして佐倉も?許嫁いるの?」
「いないわよ」
「婚約者とかは?」
「何言ってるのよ。彼氏いないっていったでしょ?」
「ああ、そうか。でも・・・」
「でも?」
「恋人はいないけど婚約者はいるって、ちょっとカッコ良くない?」
「・・・政略結婚ってことだから?」
「あ、そうなるか。いや、カッコ良いのはそこじゃなくて」
「じゃあどこ?」
「うーん、どこだろう?うーん?」
「じゃあ、説明考えてきてね。夏休みの課題」
「マジでカンベンして」
レギュラー入りを喜ぶ近藤と、それを見て嬉しい田中は、二人とも文系志望