1年の冬
「立花くん」
「佐倉」
「明けましておめでとう」
「おめでとう。今年もよろしく」
「こちらこそ。もう七草も過ぎたけどね」
「新学期始まってるしな」
「冬休み、どうだった?」
「部活以外、特には」
「初詣とかは?」
「元日が休養日だったから、2年詣りした」
「夜中?」
「まあ、2年詣りだから」
「寒くなかった?」
「そりゃ寒いよ。明け方ほどじゃないけど寒い。でも毎年2年詣りに行ってるから、行かないと落ち着かないと思う」
「あー、そういう事ってあるよね」
「佐倉は?」
「普通に初詣に行ったよ。午後、暖かくなってから」
「どこの神社?」
「あ、地元じゃないの。旅行先で」
「え?元日に旅行してたの?」
「うん」
「ハワイ?」
「国内だよ。ハワイじゃないよ。ハワイに神社ってあるの?」
「いや、どうだろう。日系の人も多いって言うから、あるかも」
「そうか、そうだね」
「温泉でノンビリ?」
「温泉はあるけど、親戚と一緒だから、そんなにのんびりはできないのよ」
「そうなの?」
「本家の主催で、大晦日から2泊で」
「佐倉家の本家、太っ腹だな」
「宿泊費は各家持ちだよ。それで、大晦日の夜から元日の昼まで宴会」
「えぇ?それ、宿の人とか、大丈夫なの?」
「親戚の旅館を毎年貸し切りで、従業員の人達も一緒に参加してるし」
「貸し切りとか、できるんだ」
「料理とかも足りなかったら自分達で作って食べたりもするのよ」
「佐倉も作るの?」
「私はお餅を焼くくらいかな」
「なんだ」
「男性陣が結構やるからね」
「酒飲みながら?」
「そう。女性陣のほうが飲むだけの人、多いわ」
「にぎやかそうだな」
「結構ね。かなりね。それで、お昼食べたら初詣に行くの」
「お詣りになるのか?フラフラだろう?」
「それほどでもないわ。宴会は夜通しだけど参加は交代々々で、徹夜で飲んでる人はいないし。何年かに1度は、お賽銭に万札を入れちゃう人が出るけどね。その時のお願いなら神様に優先してもらえてるかも」
「絶対まともなお願いできてないと思うぞ」
「はは、そうかもね。万札のことを忘れてたりするし、おみくじも山ほど買ってたり、あ、そうだ、聞いた?レイナと近藤くんのこと」
「初詣のこと?偶然、会ったらしいな」
「一緒におみくじ引いて、ふたりとも大吉だったらしいじゃない?」
「へえ、そう?」
「運命的な何かだったりして」
「それって、田中はそんな雰囲気なのか?」
「うーん、どうだろう?近藤くんのマフラーが変だったとしか聞いてないから、全然かもね。近藤くんは?」
「田中が着物姿でびっくりしたって。一緒に写真撮ったって自慢してた」
「え?そうだったの?」
「田中、美人だな」
「その写真みたい!見せて!」
「いや、俺は持ってないよ。田中に見せてもらえ」
「学校着くまで待てない!近藤くんに送ってもらって!」
「新年早々、人を頼るな。自力で田中に送ってもらえ」
いまだに立花は田中に会えていないという