1年の夏
「立花くん」
「佐倉」
「おはよう、久しぶりね」
「久しぶり」
「相変わらず、早いのね。いつもこの時間?」
「当番がないときはね」
「部活、夏休みも毎日なの?」
「休養日はあるよ」
「ふぅん」
「用事がある日は、言っとけば休めるし」
「家族で出掛けたり、あるものね」
「家族で?ナイナイ」
「そう?」
「そうそう。佐倉は?夏休み、どこか行くの?」
「家族で旅行に行くけど、それ以外は部活と生徒会で、後はお祭りくらいかしら?」
「お祭りって、花火大会?」
「ええ。立花くんは?行くの?部活?」
「その日は午前だけ。顧問が午後から会場を巡回するって」
「そう。部活の人たちと行くの?」
「部活っていうか、クラスの奴らと行く予定。近藤タケシって覚えてる?」
「2年で一緒だった近藤くん?覚えてるわよ」
「とかと。近藤は部活も一緒だけど、後は別中のただのクラスメイトが二人」
「わたしはレイナと、田中レイナと約束してるの」
「田中レイナ?」
「ほら、背が高くて、髪が長くて、美人で」
「美人?」
「美人よー。一女の制服を着るとまた美人度が上がるのよ」
「ふーん」
「忘れちゃったの?」
「え?俺、知ってる人?」
「3年で一緒だったじゃない。席だって近かったはず」
「うーん・・・」
「覚えてないの?」
「正直、3年で誰が一緒だったか、記憶にない」
「え?どうして?」
「うーん、受験のことしか考えてなかったからなぁ」
「信じらんない。もしかして私のことも覚えてない?」
「え?覚えてるよ?覚えてるじゃん・・・なんのこと?」
「3年で一緒だったこと」
「え?佐倉も?」
「やっぱり」
「あ、佐倉は2年で一緒だったとばかり」
「確かに2年でも一緒だったけど」
「だよな!俺、クラス中仲が良かった2年の事は思い出にあって、女子の顔とかも覚えてるんだけど」
「まあ、泊りがけで海にもスキーにも行ったし」
「それこそ花火大会に先生の実家の屋上借りて、女子はみんな浴衣着て」
「そうそう、山田先生が良くしてくれたからね」
「ヤマちゃん、元気かな?」
「転勤先でも相変わらずみたいよ」
「そうなの?」
「うん。従妹の話だと、生徒を連れて遊びに行ったりしてるって」
「それって内緒じゃないの?」
「内緒だろうけど、私達の時だって他のクラスの子も知ってたし」
「まあ、親や兄弟から秘密が漏れるか」
「山田先生が3年生を担任しなかったのも、受験前に遊びに連れて行っちゃうからかもしれないって、噂があったじゃない?」
「うーん、あながち否定できないもんな」
「またみんなで会いたいな。学校で集まれば一緒に花火を見に行けるかな?」
「それもなぁ、彼女とかいるやつは来ないだろうし、彼女じゃなくても狙っているコと花火大会に行く計画のやつもいるだろうし」
「まあ、そうよね」
「佐倉は?そういうのないの?」
「彼氏?ウチは女子校だし、悪い?」
「いや、悪くないよ。怒るなよ」
「花火大会はレイナと、後は従姉妹が一緒かもしれないけど、女だけよね」
「男はいないのか?」
「兄や男の従兄は県外に出てたり結婚してたりするからね」
「いや、そういう意味じゃ、いや、そういう意味か?」
「なあに?立花くんは?彼女いないの?」
「同じく、花火大会には男同士で行く予定だし」
「会場では数え切れないほどの出会いがあるものね」
「ああいうのは擦れ違いって言うんだ」
「ふふ、確かに。まあ、頑張ってね」
「そっちもな」
「向こうで会ったりしてね」
「あの人出で?ナイナイ」
「そう?あっ!じゃあ、賭けようか?」
「何を?」
「向こうで会ったら、奢って」
「俺、バイトもしてないから、小遣い厳しいんだけど」
「りんご飴とかチョコバナナでいいよ」
「うーん、それくらいなら」
「会わなかったら、私が奢るよ」
「でも、チョコバナナとかじゃなぁ」
「フランクフルトでもケバブでも」
「ちょっと待って?」
「なに?」
「会わないのに、どうやって奢ってもらうんだ?」
「あっ、バレちゃった?」
「良い先生」がいると、普通の先生は大変