3年の夏
「立花くん」
「佐倉」
「大会、お疲れ様」
「ああ。見に来てくれたんだってな」
「うん。レイナと一緒にね」
「せっかく応援に来てくれたのに負けちゃって、悪かったな」
「惜しかったよね」
「うーん、チャンスは有ったけど、地力が違ったからなぁ」
「でも今年が今までで一番の結果だったんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「凄いじゃない」
「いや、先輩たちが残したものがあればこそ、だし」
「それは他校も一緒でしょ?」
「まあ、そうだけど」
「それにあの大会では1回しか負けなかったんでしょ?」
「・・・全国優勝するチーム以外は、1回しか負けないぞ?」
「ふーん?そういう大会だったんだ」
「・・・トーナメント戦って知ってる?」
「勝ち抜き戦でしょ?知ってるわよ。この間の大会もそうだったじゃない?」
「・・・佐倉って、時々抜けてるよな」
「え?なんでいきなり?ヒドイ!」
「運動部のトモダチに今のやり取りを話して、トーナメント戦とは、を説明してもらって。俺がそんなにヒドイことを言ってないってわかるから」
「運動部の友達って・・・運動部の友達」
「突くな。俺以外で」
「教えてくれても良いじゃない?」
「書いたほうが分かりやすいから、学校で教えてもらえ。制服着てるし、今日も学校に行くんだろう?」
「予備校終わってから行くけど、あれ?立花くん、予備校は?」
「もう通ってるけど?」
「だよね。今日は?立花くんも制服だけど?」
「推薦の件で学校に顔を出すんだ」
「決まったの?学校推薦?」
「いや、危ないって話を聞きに行く」
「え?なんで?」
「推薦もらうのに、内申が足りなそうなんだ」
「3年2学期まで含むんでしょう?まだ大丈夫じゃない」
「推薦のための2学期の成績は前倒しでつけるらしくて、これから頑張っても2学期の正しい評価は学期末だから、推薦手続きには間に合わないらしい」
「ということは?」
「去年の夏休みの世界史と古文の課題に引っ張られている足が抜けないってわけだ」
「あらー。じゃあ、私と同じく一般受験だね」
「まだ、決まったわけじゃない」
「そうか。で、予備校はその後?」
「その後っていうか、今日は午後から」
「じゃあ一旦帰るの?」
「いや、どっかで時間潰す」
「そこは自習室で勉強するの一択でしょ?受験生なんだし」
「予備校の?まだ使ったこと無いんだ」
「自習室っていうけど、先生が待機していてくれて質問もできるから、図書館よりオススメだよ。図書館と違って席も空いてるし」
「そうするかなぁ。佐倉は?」
「予備校?午前だけど、休憩時間に来れば自習室を案内するよ?」
「いや、それは受付で聞くから大丈夫」
「そう?そうだ、お昼は予備校の近くで食べるよね?」
「うーん、コンビニかな。制服だし」
「え?制服だとお店に入らないの?」
「ラーメン屋とかでも臭いが付くだろ?」
「意外。繊細。焼き肉とかじゃなきゃ大丈夫じゃない?気にするんだ」
「昼から焼き肉食べ放題とか行きたいけど、気にするのは母親。制服買い換えてから結構チェックされる。それに意外ってなんだよ?」
「部活引退しても食べ放題なんだ?制服、キレイなままだよね。お母さんチェックか。パスタ屋はどう?食べ放題じゃないけど」
「引退したばかりだし、急に量は減らないだろう?臭いは付かないだろうけど、パスタじゃ途中で腹が空きそうだな」
「私の分を分けるから、行こうよ」
「予備校の後に学校行くんじゃないのか?」
「学校での用事は午後からでも大丈夫だから」
「なんで?俺を誘う理由は?」
「理由?」
「策士佐倉は何を企んでいるんだ?」
「企んでなんか無いよ。ランチについてるスイーツが、日替わりで3種類から選べて、どれも美味しいんだって」
「田中でも誘って行ってくれば良いじゃないか」
「呼び出して?」
「スイーツのためなら来るんじゃないか?近藤も付いて来そうだけど」
「そうか。近藤くんが居ればなんとかなるかな?近藤くんも結構食べるよね?」
「俺と同じくらいには。なんとかって?」
「そのお店、大学運動部御用達で、結構な量なのよ」
「そんな店がスイーツ?」
「昔からデザート付きだったらしいんだけど、最近、急に美味しくなったらしくて、見た目も可愛いの」
「ごつい大学生と可愛いスイーツとか、組み合わせミスだろう?」
「そんなことないよ。男性にも評判いいよ?」
「で?俺や近藤に何をさせる気?」
「男性客ばかりの店なんで入りにくいし、ご飯を残すのもあれだし。ついでにさっきのトーナメント戦の話を教えて」
「少なく盛って貰えば?トーナメント戦は自分で図を書いて、にらめ」
「小盛りはやってないのよ。大盛りは料金変わらないらしいんだけど。大量に残すのも悪いじゃない?トーナメント戦の図って何?」
「そういうことなら、まあ付き合うよ。図を口で説明するよりも、俺が書いて説明した方が早い気がしてきたし」
「ほんと?ありがとう!私の分、好きなだけ取っていいからね」
「いや、食べきらなかった分を貰えばいいから」
「大丈夫、大丈夫。その代わり、スイーツは立花くんの分も頂戴」
「は?なんで?」
「だって、パスタだよ?最初に分けないと、口をつけてからじゃ分けられないじゃない」
「そっちじゃなくて、スイーツの話だよ」
「大丈夫、パスタも美味しいから。らしいから」
「俺にもデザート食べさせろよ」
「えー。じゃあ、お代わりすれば?」
「なんでだよ」
「また今度、近藤くんとでも食べに行けばいいじゃない」
「やだよ。田中も付いてきそうじゃんか」
「まだ3人になるの、苦手なの?」
「うーん、なんとなく」
「じゃあその時は、私もご一緒するよ」
「ほんと?それなら」
「その代わり、その時もスイーツはもらうね?」
「俺、デザートが食えないじゃん?」
デザートを食べたい立花はお代わりをしたけれど、パスタを食べるので精一杯。結局スイーツを3種類とも佐倉が味わったが、割り勘だったので文句が言えない