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第35話

 すっかり太陽の姿が空から消え失せた夜。


 フェーデ率いる反乱軍の攻撃は続いていた。


 投石機、弓兵による攻撃を繰り返し徐々に包囲の輪を狭めていく反乱軍達。


 トレア城の周囲は反乱軍の掲げる松明の光で明るい。


 反対にトレア城は一本の松明も見えず暗く、それはまるでサロモンのこれからを暗示しているようにも思えた。


「トレア城に動きはありません。城門も閉ざしたままです」


 フェーデのもとに偵察から帰ってきたベニートがそう伝えてきた。


 その姿は全身泥にまみれ、服には草が付けられ偽装が施されている。


 フェーデは一言ねぎらいの言葉をかけた後、視線をトレア城に移す。


 ──ここまで攻めてこないのは何故だ?


 フェーデの頭の中には1つの疑問が浮かんでいる。


 サロモンの動きの悪さだ。


 フェーデ率いる反乱軍は数こそ多いものの所詮は寄せ集め、こうして城の前に集まる前に各個撃破しておけばここまでの事にはならなかったはず。


 何もせずにずっと放置したのはなぜなのか?


 ──そもそも農民や一介の騎士の反乱など即座に命令して鎮圧すればここまで追い詰められることも無かったろうに。


 白髪交じりの髪をいじり思案を巡らせても答えは出ない。


「考えても仕方ないか……投石機と弓兵を前進させ続けてくれ。それと騎士達を城門前に集めてくれ」


「おお、いよいよですか。お任せくださいしかと伝えてきますとも」


 現在フェーデ達がいるのはトレア城の城門が正面に見える南側。


 フェーデはトレア城への突入の準備を進めていく。


 今居る反乱軍の中でも特に実戦経験、練度に優れている騎士達を集め一気に勝負を決めるために。


「さてサロモン。そっちが動かないつもりならそれでもいい。そのまま黙って死んでくれ」


 




 フェーデが突撃の準備を進める中、イサベルは松明を持ってベルトランの馬に乗り、月明かりの下でエステバンと共に反乱軍の包囲の輪の外を馬で移動していた。


 この先にトレア城からの脱出口の出口があるという話なのだが、エステバンは正直イサベルの言葉をあまり信用していない。


 イサベル曰く脱出口があるという話はサロモンから聞いたらしいがそんな大事なことをわざわざ敵になりかねない女に教えるものだろうかと疑問が残る。


「本当にこの先にトレア城からの脱出経路があるのか? 見たところ何もないが……」


 周囲を見渡しながらエステバンが呟く。


 見えてくるものといえば雨で角が取れた岩、まばらに生える木、そして青々と茂る背の低い草原だけ。


 確かにどこにも脱出経路のようなものは見えない。


「まぁ緊急用の通路なんて目立たないようにするだろうから見つけにくいのはしかたないだろう。……っと見えてきたな。多分あれだ」


 馬を進ませているとベルトランがある一点を見てそう言った。


 彼が視線を向ける先にあるのは崩れかけた井戸の跡と思われるもの。


 イサベルは馬から降りて、それに近づいていく。


「どうだイサベル。なにかあるか?」


 エステバンも馬から降りて手綱を引いてイサベルと一緒に井戸の跡を見る。


 草に囲まれ、崩れかけた井戸の淵に腐りかけた木の板で蓋をされている。


「開けてみますね」


「やってくれ」


 イサベルが井戸の蓋を取るために手をかけ、ベルトランが腰の長剣を抜く。


 準備は万端。


「ああちょっと待った」


 待ったをかけたのはエステバンだ。


「……何か?」


「虫がいるかもしれない」


「「………………」」


 呆れながらイサベルは蓋を開け、松明をかざしながら井戸の中を覗き込む。


 だが見えてくるのは暗い井戸の底だけ、雨水がたまっているだけで特に変わったものはない。


 無論脱出口のようなものも。

 

「外れだな。おお臭い、早く閉めてくれ」


 飛んできた羽虫を払いのけ、鼻をつまみながらエステバンが不快そうに言った。


 イサベルもそれに同意して閉めようとしたが……


「大当たりだ」

 

 ベルトランは口角を吊り上げて笑い、井戸に入って行く。


「おいおいベルトラン。今から城に向かって穴でも掘る気か? やめておけ」


「エステバン公、これを見てから言ってください」


 頭に疑問符を浮べながら、恐る恐る井戸の中を覗き込むエステバン。


 ベルトランはどうやら井戸の壁に手足をかけて降りているようだった。


 だが上からのぞく限りそんな窪みのようなものは見えないのだが。


「これは……」


「井戸の壁に浅く穴を掘ってはしご代わりに、そして底には……ほらあった。イサベル! 松明を持って降りてきてくれ!」


「はいっ!」


 井戸の底に着いたベルトランは壁の側にある石が積まれた場所を崩し始めるとそこから大人が匍匐前進の姿勢になってようやく入れるような穴が姿を現した。


「昔の話だ。邪教を崇拝していた馬鹿どもが弾圧から逃れるために地下に教会を作った。そしてその入り口は井戸や家の地下室に作られていた。まさか一国の王様が邪教徒と同じ手を使うとはな」


「あー……ベルトラン。見てきてくれないか? 私はこの娘と一緒にここで待ってるから」


「ああ言われなくてもそうするつもりだ。行ってくる」


 そう言い残し、ベルトランは開けられた穴の中に入っていく。


 イサベルは井戸の中からエステバンの手を借りながら這い出て、暫く見守っていた。


「イサベル、もしもベルトランが帰って来なかったら。一緒に逃げよう。彼は勇敢だった」


「情けないことを言わないでください」


 にべもない。




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