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第33話

 穏やかな風が吹くトレア城の城内。


 石造りの部屋の中、窓の布は取り払われ、眩い光が部屋に入る。


 サロモンは風に波打つ黒褐色の髪を揺らしながら瞳を細める。


「善き日だ」


「は?」


 サロモンはいつもの石造りの部屋の中から窓の外へと目を向け、微笑みを浮かべる。


 見えるのだ、国民の姿が。


 怒りと正義に突き動かされた民の姿が。


「サロモン様! 四方から反乱軍が迫ってきています!」


 あわただしく部屋に入り報告するダニエル。


 彼の言葉に、部屋の中にいた貴族達が動揺した。


「数は2万を超え、更に増大中! 逃げましょう。もはやこれは敗北です!」


「見える範囲に迫ってきているのにどう逃げるというのだ? 馬鹿者が」


 泣きつくダニエルに、サロモンは目もくれず窓枠に腰掛け外を眺める。


「俺が目指したのは、権力に屈することなく、抗い、悪を正す、強い民で構成された国だ」


「サロモン……様?」


 怯えの表情が見え始めた貴族達に顔だけ向け、サロモンは独白する。


「長かった……ようやくだ。俺という悪に対し、国民は団結し、正義を掲げ立ち上がった。これほど歓喜することはない」


 一体サロモンは何を言っているのか。


 部屋に集まった貴族達は何も理解できずただ困惑する。


 そしてサロモンはというと、そんな貴族達など知ったことかと言わんばかりに一方的に言葉を続ける。


「父の代から貴様等豚のような貴族共は大量にいた。それを俺が処断するだけならば簡単だ。だがそれだけでは結局何も変わらない。時がたてばまた別の人間が同じことをして元に戻る。あくまで国民の手で正せるようにしなければならない」


 その言葉に、貴族達は気付く。


「ま、まさかサロモン王、貴方はこうなるようにあえて行動していたのですか?」


「そうだ。そしてこの戦いで腐敗しきった貴族共は一掃され、トレアは新しい国へと生まれ変わる。そこにお前達の居場所はないし必要ない。そしてこの俺もまた必要ない」


「に、逃げましょう! 確か城の地下に通路がある! それを使えば安全な場所まで逃げられる!」


 あわてふためいた貴族達はダニエルの案内の下、地下通路があるといわれる一階の部屋まで殺到した。


 だがそこに、彼等が希望した逃げ道はない。


「ば、馬鹿な……」


 一階の部屋には確かに地下通路へと降りるため床が取り外せるように加工された板があった。


 だがその先にあったのは石と土で完全に塞がれた行き止まり。


「逃げ道だと? そんなもの、とっくの昔にマヌエルに命じて埋め立てさせたわ」


 貴族達が後ろを振り返れば、杯を片手に笑うサロモンの姿。


「さぁ行くぞ。悪党たる俺達は、正義を掲げる者に倒されなくてはならない。だがただ殺されるだけではダメだ。あくまで全力で抗い、そのうえで死ななければならん」


「おのれ! 貴様!!」


 貴族の1人が剣を抜いて怒りのままにサロモンへと斬りかかったが、瞬時に抜き放たれた長剣によって受けられた。


「向かってくるか。それもいい。だが俺はお前達を殺さない。悪党が悪党を倒すのはダメだ」


 そう言うとサロモンはさして力を入れることも無く剣を弾き飛ばす。


 イサベルが振るってきた大鎌と比べても軽い、弾くのは容易だ。


「全く……弱いな。お前たちはいつぞや城に入れていた農民の女よりも弱い。最後の最後まで名前は言わなかったが」


「はっはっは! 最初に見たときは貴方の伴侶となられる方かと思いましたぞサロモン様」


 快活な笑い声と共に現れたのはマヌエルだ。


「誰があんな女を嫁にするか」


 絶望の表情を浮べる貴族達とは正反対に晴れ晴れした表情のマヌエルを見て、ダニエルは何かを察したのか吠えた。


「マヌエル!! 貴様はサロモンが何を考えていたのか知っていたのか!?」


「ああ知っていた。知っていたうえで俺はサロモン様をお助けしていたのだ。なにせワタクシは頭の回らない愚物でありますゆえ」


 わざとらしい演技をしながら赤毛の頭を下げるマヌエルにダニエルは震えながら下唇を嚙みしめる。


 今のダニエルにあるのはサロモンに対する怒りだけ。


 ──今の今まで媚びうって仕えていたこの俺を差し置いて、マヌエルなんぞを重用しやがってッ!!


 だがダニエルの心中など、今のサロモンが知ったことではない。


 マヌエルと共に話し合いに興じている。


「さてと、戦いの準備と行こうか。マヌエル、何か作戦はあるか?」


「わざわざ私に聞くまでもありますまい。サロモン様」


 マヌエルの茶化したような言葉に、サロモンは口角を吊り上げて笑う。


 そしてマヌエルの言う通り、ここから先の道もサロモンは考えていた。


「よし、貴様等俺についてこい」


 貴族たちに向けてそう言い放つが、当然誰も納得しない。


「ふざけるな! この期に及んで貴様についていくと思うのか!?」


「こいつをばらして農民共に投げ込んでやろう! そうすれば我々も助かるかもしれん!」


 肥え太った貴族たちは口から唾を飛ばしながら喚き散らす。


 誰もサロモンの事を信用していない。


 そんな貴族達を見てサロモンはこう言った。


「今敵に回っているのは元々は貴様等の領地に居た人間でもあるはずだが、そんな人間達が貴様等を許すと思っているのか? 今の貴様等と同じだろう?」


 状況は似ている。


 主に利用され捨てられた農民、兵士達と王に自分の目標の為に泳がされ最後に捨てられそうになっている自分達。

 

 だがそれを理解できるほど貴族達の頭は回っていないのだ。


「どうしてくれるんだ……もうおしまいだ……」


「おいおい、貴様等生きたくはないのか? 今から俺は俺の思い描いた悪党として全力で抗うつもりだ、ひょっとしたら奴等に勝てるかもしれんぞ? さぁ立て。俺と一緒に戦おうじゃないか」


 貴族たちは絶望しながらもサロモンに付いていくことを決めた。


 この後も納得できなかった一部の貴族はサロモンへと襲い掛かったが、サロモンに武器を弾かれことごとく失敗に終わった。


 彼等は死への道をひた走る。

 





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