第32話
翌朝、反乱軍は再び進軍を開始した。
背の低い草を踏みならし皆が目指すのは反乱軍との次の合流地点、そしてそこは終着点でもあるトレア城だ。
目的地までは今日中に着くだろう、あとは目の前にある小高い丘を1つ超えれば見えてくる。
「いよいよですな」
隣ではベニートが誇らしげに胸を張りながら前を見据える。
ベルトランやエステバン、そのほかの人間も皆引き締まった顔をしている。
そしてそれはフェーデも同じだ。
自然と手綱を握る手にも力が籠る。
脳裏に浮かぶはサロモンの顔、願うは全てのトレア王国民の安寧。
それを目指してフェーデ達は歩みを進める。
青々とした草の茂る丘を登り、そして見えた。
「諸君。いよいよだ。ぬかるなよ」
フェーデも思わず生唾を飲む、丘を見下ろした先にあるのはサロモンが居るトレア城。
幾重にも堀と柵が張り巡らされ、弓兵を多数配置しているようだ。
「急ごしらえだが随分としっかりした防御だな。これは突破するのにかなり手間がかかるぞ」
「赤い旗が見えますな……細かいところまでは見えませんが、恐らくはティント騎士団かと」
「本当に勝てるんだろうなフェーデよ」
翻る旗とその近くに見える大勢の兵士の姿を見て、思わず委縮してしまう兵士達も居た。
だがフェーデは、そんな彼らに向けて笑いかけた。
「諸君、国の為に立ち上がったのは我々だけではない。見ろ。我々にはこんなにも頼もしい仲間が付いている」
フェーデが手を伸ばし示す。
その先に見えるのは多種多様な装備と身分の兵士達が集まった反乱軍の同志たち。
北から、南から、西から、各地に散らばっていたセルバ騎士団の騎士達が仲間を率いて中央部に集まってきている。
その数はトレア城を……サロモンを守る兵士達の倍以上はあるだろう。
歓喜と希望に満ちた視線を送る中、フェーデは切り出した。
「さて作戦だが……それは彼等と共に考えようか」
トレア城周辺に集結した全反乱軍はサロモン、貴族達率いる王国軍の所有する投石機類の射程外で包囲したあと陣を張った。
両陣営にらみ合いが開始されたのである。
「さて、まずはお礼申し上げる。志を共にする同志たちよ」
そう頭を下げるフェーデ。
包囲が完成した後、フェーデは各方面の反乱軍をまとめてきた指揮官を集め作戦会議を開いていた。
適当な板を地面に置いて、手作りの地図を広げ、これから次の動きについての話し合いをするところだ。
それぞれサロモンや、領主に対して不満のある者達の集まり。
仲間意識は強い。
「かつて誓いの騎士と謳われていたフレデリーコ卿が反乱を起こしたなどと聞いたときは驚きましたよ。人とは分からないものですなぁ」
そうとぼけた口調で言う老人は北のプラード傭兵団の団長、カミロ。
まるで海狸のような顔をした彼だが、元々は義賊。
貴族達相手に大立ち回りをしたこともある、所謂『遣り手』だ。
「俺は別にフェーデ、アンタの考えに乗った訳じゃない。ただサロモンが気に食わねぇから殺すだけだ」
「おお、こわやこわや」
続いて南部のコリナ騎士団の若き団長オスカルと西のリィオ騎士団の老いた団長レオナルド。
それぞれが7千余りの戦力を連れてきてくれた。
頼もしい仲間達だ。
だがいつまでもお互いの顔を眺めているわけにもいかない。
話を進めよう、そう考えてフェーデは口を開いた。
「さて、現在我々はトレア城を包囲している訳だが……いつまでもこのままではいかない。食糧に限りはあるし補給も追い付かないだろう」
現在フェーデ達反乱軍が所有している食糧等の備蓄はおよそ2週間分、近くの農村から買う、徴収するにしても限界がある。
「こっちの方が数は多いんだ。力攻めで短期決戦に持ち込むって手も──」
「それはやめておいた方が賢明じゃろうて」
「なんでだよ」
オスカルの提示した力攻め、つまりは突撃して制圧する案を否定するのはレオナルド。
そんなレオナルドはいくつかの銅貨を地図の上に置き、説明を始めた。
「城の周囲は全部柵と掘で囲まれとる。撤去しようと近付いたら弓兵で狩られるわい。おまけにバリスタ、小型の投石機もある。盾を構えて進んでもぶち抜かれるわい」
「おいおい、さっきも言ったが数はこっちのが多いんだぜ? 多少の犠牲は承知の上で突撃したほうがいいだろ?」
血気盛んなオスカルと、それとは対照的に冷静なレオナルド。
このままでは喧嘩になりそうな雰囲気だ。
「落ち着こう。2人の言い分はよく分かるがここで喧嘩してもどうにもならない」
こうやって間に入ったフェーデ。
「だったらフェーデさん、アンタはどうする予定なんだ?」
「よくぞ聞いてくれた。私の策は……」
こうして作戦会議は進んでいった。




