第29話
反乱軍が快進撃を続ける中、サロモンはトレア城に押しかけてきた貴族たちの相手をしていた。
真昼間の城の周囲、そこには貴族たちが連れてきた兵士達が居て、挙句の果てには自分の城から持ってきたと思われる財産を荷車に乗せ、城ではなく荷車を後生大事に守らせている。
それを一度見に行った後、サロモンは城の庭で剣の訓練をしていた。
「さて、反乱軍の様子はどうだ? 始末したか?」
サロモンは黙って訓練を見ているだけの貴族にそう問うた。
「反乱軍は私の私兵達が跡形もなく始末してくれるはずです。奴らは所詮寄せ集め、数だけ勝っても我々には敵いますまい」
「そうか」
とどのつまり私兵に全部投げて逃げてきたわけである。
いざとなればここにいる兵士達だけ連れて隣国にでも落ち延びる算段なのだろう。
「ところでサロモン王。先程から剣の鍛練をずっと続けておいでですが、疲労は……」
「ほう? お前は俺がこの程度の訓練でへばる人間と思っているのか?」
サロモンは眺めているばかりの貴族をその黒い瞳で睨み付けた。
失言だったと気付いたのだろう、貴族は慌てて頭を垂れ謝罪の言葉を述べ始める。
「し、失言でした。いやしかし見事な腕前、人の胴を3つ並べても切り捨てられるでしょうな」
「もういい、黙れ。お前は城の守りでもしていろ」
「はっ、承知いたしました」
安心したような表情を浮べながら去って行く貴族と入れ替わりになるようにダニエルとマヌエルがそろってサロモンの所へとやってきた。
ダニエルは特にいつもと変わらない格好なのに対し、マヌエルは鉄の鎧を着込み、髪と同じ赤い色の外套を翻している。
2人のうち、最初に声を上げたのはダニエル、そしてマヌエルも続く。
「サロモン様、北で発生した反乱ですが規模がどんどん拡大しています。手に負えないような状態だとか」
「西も東も同じような状態だそうです。応援の依頼が来ていますが……どうされましょう?」
2人の言葉に、サロモンは溜息をつきながらこう答えた。
「お前たちは揃いも揃って……特にマヌエル、お前は分っていて言っているな? なおの事質が悪い」
「ハッハッハッハ! さすがはサロモン様、俺の思考などお見通しか」
快活に笑うマヌエルとは対照的に、ダニエルの表情は曇る一方。
「ダニエル。お前にも言っておくがな、反乱の鎮圧などはその地を治める領主の仕事だ。それが出来ぬというのならいっそ死ねばよい」
「しかし……このままでは」
「まぁお前の言いたいことも分からなくはない。今現在こちらに向かって進軍してきているわけだからな。備えはしておこうではないか」
この日から、サロモンは来る決戦に備えて準備を始めた。
トレア城の城壁周辺に堀を掘り、柵を張り巡らせ、櫓を形成。
他にも投石機、バリスタ等の固定兵器も数機配備。
マヌエル率いるティント騎士団総勢1千名が総出で事に当たった結果、短期間での要塞化に成功した。
戦力はティント騎士団に加え、各貴族が少ないながら引き連れてきた騎士団、私兵、傭兵の類も参加。
総勢およそ9千名以上の軍が出来上がった。
同時刻、メリョス村。
昼間の井戸に集まる村人たちは皆不安そうな顔をしていて、城の方向へと向かっていく兵士達に怯えていた。
「どんどん集まってるよイサベル。どうする?」
藁を運びながら村の女はサロモンの居るトレア城に向かって進軍する兵士の姿を見て怯えた声でイサベルに話しかける。
そしてイサベルはというと……大鎌で草を刈り表面上は真面目に仕事をしていた。
だが裏では鳥の羽や枝を用いて矢を作り、他の村人と一緒になって槍を作っていたのだ。
いずれこのメリョス村も戦場になるであろうと想定してのこと。
「夜になったら逃げるかな」
「逃げるって言ったって何処に逃げるのさ」
「東。ひょっとしたらフレデリーコ様と合流できるかもしれないから」
その言葉に村の女は賛同した。
イサベルの思惑がどうであれ、このメリョス村がいずれ戦争に巻き込まれるのは間違いない。
かといって戦うだけの力は無い。
なら逃げるのはいい考え、乗っておくにこしたことはない。
「そうと決まれば早速皆に伝えてこないと。荷物の準備だ」
「あくまで家の中でまとめてね。積み込みは直前にやるから」




