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第27話

 1週間後の朝、トレア城ではサロモンとイサベルが朝食をとっていた。


 イサベルはこれからまた訓練が始まるのだろう、そう考えていた。


 また大鎌を持って、ダニエルに見守られながらサロモンに刃先を弾かれて終わる。


 そうしてまた革鎧に着替えようと考えていた時だった。


 サロモンが楽しそうにこう言ってきたのだ。


「女、今日はお前の村に行くぞ」


「は?」


 




 着替え終わったサロモンが一緒の馬にイサベルと共に跨ると、ダニエル達を連れてメリョス村へと走らせた。


 何故かイサベルは赤のドレス姿、訓練で使っていた大鎌はダニエルが不快な顔をしながら持っている。


 サロモンの顔はイサベルの後ろに会ってよくは見えないが……どうにも笑っているようだ。


 そして村に向かってくるのがサロモンだと分かると農作業をしていた村人たちがそれを見て一様に騒ぎ始めた。


「村の人を殺すつもり? だとしたら……」


「今日はそのつもりではない。お前が血を見たいというならそうするが?」


「結構です」


 やがて馬が村の中にまで入るとさほど月日が経っていないのにも関わらず藁ぶきの屋根や懐かしさすら覚えた。


 村人たちは少人数が出てきて形だけは恭しく礼をしているが子供達や女は家の中に入ってしまった。


 村人はイサベルの存在に気が付いているようだったがそれについて言及する者はいない。


 そうして村人の視線が集中する中、前に乗るイサベルに対しサロモンが口を開いた。


「女、降りろ」


 イサベルに手を貸しながら優しく馬から降ろすサロモン。


 その姿を見て村人は困惑していた。


「ダニエル、鎌を女にくれてやれ」


「は、はぁ……」


 ダニエルはサロモンの意図が分からないまま、背負っていた大鎌をイサベルに渡す。


 訓練で散々使い、柄に豆がつぶれて付いた血の跡がある大鎌。


 それを今渡すのはなぜなのだろうか?


 それを考えた時、イサベルの中に一つの考えがよぎり背中に冷や汗が滲む。


 ──まさか、これで村の人を殺せというつもり?


 サロモンならそんな命令も下しかねないが、そうなったら命がけで戦ってやる。


 イサベルの大鎌を持つ手に力が入るが、サロモンが次に発した言葉は予想外のものだった。


「よし、ではさっさと退散するぞ」


「え? いや……はい分かりました」


 サロモンの言葉にダニエルも困惑していた。


「さらばだ女」


 サロモンは僅かに視線をイサベルへと向けた後、馬を走らせその場を去った。


 その場に残されたのは困惑した村人と、状況を全く呑み込めないイサベルだけ。


 どうしたものかと思いながらもイサベルが次にとった行動は……


「皆……その、ただいま」


 とりあえずの挨拶だった。






 イサベルが村に戻ってきて、自分の家の中に戻ると詰めかけた村人達から農作業をそっちのけで質問攻めにされた。


 城で何があったのか? 一体何をしていたのか? 何かされなかったか? 何で帰ってきたときのほうが綺麗になっているのか?


 そうした質問を順番に答え、最終的に村人が出した結論は『分からない』だった。


 なにせ一緒に過ごしていたイサベルすら何故自分がまだ生かされているのか、そもそも自分にとって不都合になるような事を嬉々としてやったのか、一切分かっていないのだから仕方ない。


 村人たちは顔を見合わせながらひとまず納得した。


「ま、まぁイサベルが無事でよかったよ。それとすまん、あの時……1人で行かせて」


「あれは私の意志で行ったんだから、みんなは悪くないよ。そんなことより、フレデリーコ様がどうなったか知らない?」


 イサベルの言葉に、村人たちは困り顔。


「残念だけど、何も知らないな。いろんな場所に行くとは聞いていたけど」


「そう……」


 イサベルも殆どフェーデがどうなったのかは知らない。


 サロモンから少しだけ何があったのか聞いたくらいだ。


 無事なのか、はたまた負傷しているのか、それらは聞いていない。


 そうして思い詰めていると村の男衆がこう言った。


「しかしまぁあれだな。騎士様だけでなくサロモンまで惚れさせるとはイサベルも大したもんだな」


「え?」


「いや、さすがに惚れてなけりゃそんなドレス贈ったり、そもそも殺そうとしてきた奴を生かしておいたりしないだろ。一目ぼれってやつさ」


 などと軽口を言ってきた。


「サロモンはただの暴君だよ。そんなわけない」


「てことはイサベルが選ぶのはあの騎士様か。イサベル、多分苦労するぞ」


「だからそれは違うってば。怒るよ?」


 茶化されたのに少しだけ語気を荒げるイサベル。


 そうして暫くすると集まった村人の誰かが笑い、つられてイサベルも笑う。


 久しぶりだった、村の人間とこうして笑い合うのは。


 そうしてひとしきり笑い合った後、目の端に流れ出した涙を拭ってイサベルは立ち上がる。


「さぁ、皆そろそろ仕事に戻ろう」


「そのドレスで畑仕事する気か? お姫様」


「おい誰か服を貸してやれ」


 そこから暫くの時間、イサベルの呼び方がお姫様で統一された。

 


 

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