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第24話

 窓の外は既に暗く、曇り空。


 サロモンが楽しみにしているいつもの星は一切見えない。


 変わりに見えるのは、部屋の中にいる肥えた貴族達とダニエルのみ、イサベルは部屋の外に出した。


 そして残った貴族達の1人が笑いながら話し始めた。


「聞きましたぞ。フェーデめが謀反を起こしたと。そしてサロモン王はそれを叩きのめし、敗走に追い込んだとも」


「まさに神話に語られる英雄が如し。トレアの栄光の象徴ですな! ははははは!」


 口々に美辞麗句を並べてくる貴族達、サロモンはそんな貴族達に対して上機嫌に葡萄酒を配る。


 そしてダニエルもその酒宴に加わった。


「さて乾杯といこう」


 一同が杯を合わせ小気味良い音を立てたあと、一気に中の葡萄酒を呷る。


「さて、サロモン王。此度はいかなる御用ですかな? フェーデの一件でしょうか?」


「ああそうだ。あの男はまだ生きている可能性が高い。一応捜索は続けておけ。それとここに集まったお前達にもう1つ命令だ」


「なんなりと」


 空になった杯を机に置いてサロモンの話を聞く太った貴族達。


「お前達の兵士をここに集めろ」


「は、はぁ。兵士をですか」


 貴族達も予想はしていた。


 謀反を起こされたあと警戒したサロモンが兵士を集めるなどと言いだすのではないかと。


 自分の身が可愛くて守りに入ろうということなのだろう。


「ひとまず各自歩兵を2000程、食糧などの物資、武装も持たせてこちらに送れ」


 なんでもないことのように言い放つサロモンに貴族達は心の中で舌打ちをした。


 兵士2000に加えそれを維持するための物資まで、一体どれだけ金がかかるか分かったものじゃない。


 自分の金は絶対に手をつけたくない貴族達からしてみれば大きな損失になる。


 そう考えた貴族の1人が食い下がる。


「しかしサロモン王。ここにいる者の兵士のみで合計8000、それだけの兵士を集める必要などありますまい。たかがフェーデという逆賊一匹なのですから」


「お前の意見など俺は聞かん。 俺は今、命令を下した。あとはお前達がそれを遂行するだけだ」


 なんとも自分勝手な言い草だが従うほかない。


 断れば何を言われるか分かったものではないから。


「……分かりました。至急手配致しましょう」


「ああそうしろ。今日は休んでいくといい。ではな」


 サロモンはそれだけ言い残すと杯を置いて部屋の外へと出ていった。


 残されたのは貴族達と、ダニエルのみ。


 話をしていたサロモンが抜け、気まずい雰囲気が流れる中、1人の貴族がダニエルに話しかけた。


「ダニエル殿、貴方も兵士を?」


「私は城の守りに既に出していますので、そのようなことは」


「王の側でずっといられるとは、これほどの名誉はないな」


 貴族はそう言うが、内心馬鹿にしているのだろう。


 サロモンの腰巾着は楽でいいと、ダニエルも貴族たちがそんな事を考えているのは分っている。


 分かっているからこそ気分が悪くなる。


「まぁ、今日の所は一旦お開きにしよう。明日の朝出発だ」


「ではお部屋に案内します」


 貴族達は立ち上がるのに息を切らし、先に行くダニエルの後を大儀そうに付いて行く。


 ──醜い豚共が。


 ダニエルは豚飼いになった気分だった。


 やたらと豪華な服を着た豚が4匹、ダニエルの後をついて回る。


 サロモンやダニエル、なんならマヌエルすらもこれだけの肉は付いていない。


「こちらです。ごゆっくり」


 客の為の部屋へと案内し終わるとダニエルは外へと早足で歩いていった。


 ──気分が悪い。






 ダニエルがトレア城の外へ出て庭に向かうと、僅かに出た月をながめながらサロモンとイサベルが適当な丸太を椅子にして座っていた。


 サロモンはなにやらイサベルと話をしているようだが……


「ではな、俺はもう寝る」


 そう言ったサロモンは立ち上がり、ダニエルには一瞥すらくれず立ち去った。


 一体何を話していたのか?


「お前、一体何を喋ってた?」


 ダニエルはいまだ月を見ているイサベルに話しかける。


「星を使って方角を確かめる方法と、あの貴族達の話」


「そうか……」


 どうやらサロモンはまた『教師』の真似事をしていたようだ。


「……お前、さっきの貴族達をどう思った?」


「人のお金で肥えた豚」


 イサベルが遠慮なくそう毒づくと、ダニエルはくすりと笑った。


「ははは……そうかそうか。なるほどな」


「何が可笑しいの?」


「いやいい。忘れろ」


 不思議なものだ。


 ダニエルが先程まで抱いていた不快感がたかだか村娘の一言で解消された。


「……さて、部屋に戻るぞ。明日もどうせ訓練だ」


「貴方の首を狩る日も近くなるわね」


 小麦色の肌と緑柱石のような瞳をしたイサベル。


 普段なら小生意気、いや無礼な村娘だ。


 だがこの時ばかりは、ダニエルもイサベルの事が愛らしいと感じた。

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