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第22話

 寝室に老婆の使用人が人数分の椅子を持ってきた。


 エステバンはその使用人に目で助けてと訴えていたが、使用人には全く伝わっていない。


 窓から入って来る夕陽の光が部屋を照らす中、穏やかな笑顔で手を振り使用人はその場を離れた。


 部屋の入り口にはベニートが逃げ道を潰すため座り、それを確認したベルトランは話を始める。


「さて、今回のお話はここにいるフレデリーコが関わってきます」


 フレデリーコ、ベルトランの口から出てきたその言葉に首をかしげるエステバン。


 どうやら聞いたことがない名前と見える。


 フェーデもこれには納得した。


 ──まぁ確かに、エステバン卿と謁見するのはこれが初めてだが。


「……フェーデの事です。貴方もサロモン王から使者くらい来ているのでしょう?」


「何!? あのっ、む、謀反を起こしてサロモン王を暗殺しようとしたフェーデだと!? そ、それがこの男だというのか!?」


 短い悲鳴を上げながら再び収納に逃げ込もうとするエステバン。


「確かにフェーデは謀反をおこしました。ですが大義は彼にあります。サロモンの蛮行は目に余るものです」


 逃げようとするエステバンの襟首を掴んだまま、ベルトランは続けようとしたが思いのほかエステバンは力がある。


 エステバン、この男は逃げるのに全力をだしている。


「信用できるか! こうしちゃおれん。暗殺者と一緒の部屋になどいられるか! 私は自分の部屋に帰らせてもらう!」


「ここが貴方の部屋でしょう。はぁ……では話を変えましょう。私の所に騎士団の解散命令が届いているというのはご存じですか?」


「なに?」


 エステバンはその言葉を聞いた途端、逃げるのをやめてベルトランに向き直る。


 イェルモ騎士団の事は今の今まで知らなかったのだろう。


 それは驚きに満ちたエステバンの表情が物語っている。


「サロモンはフェーデが少しでも関わりのある組織を片端から取りつぶすつもりのようです。恐らく各地で同様の動きがあるはずです。そこで相談なのですが……エステバン卿、我々を支援しませんか? 賃金、食料、その他諸々。サロモンを倒した暁にはそれなりの地位もついて来ますよ」


「我々? ベルトランもフェーデに付くのか? ふざけるな! 反逆者に協力などするか! 帰れ!」


 エステバンはしっしっ、と手払いをしてきた。


「我々イェルモ騎士団はこのままでは解散、農地行きです。お願いしますエステバン卿」


「断る! 大体お前も毎度毎度私から金をせしめるために何度も何度もだましてきたくせに! 虫が良すぎるわ!」


 エステバンが全力で拒否するのを見たベルトランがめんどくさそうにため息を吐く。


 そしてフェーデとベニートが不安そうに見守る中こう言った。


「……そうですか。貴方は我々を見捨てると」


「ふん! いままでのツケが返ってきただけの事だ」


「さてさて困った。そうなると我々は解散するしかありませんが……この恨みは何処に向かうでしょうな?」


 ベルトランのわざとらしい口調に、エステバンは眉をひそめた。


「何?」


「我々が解散した後、大人しく農地に移るとでも? 野盗でも何でもやって各地を襲いに出ますよ。そして真っ先に襲われるのは、大した護衛もいない、その上城も金もある貴方だ」


 歯をかたかたといわせ始めるエステバン。


 それを見ていたフェーデは不安になった。


 こんな人間を身内に引き入れて大丈夫な物なのかと。


 目の前にいる人物はどうしようもなく頼りにならず、信用に値しない人物に見えたからだ。


 正直ベルトランがなぜ引き込もうと考えたのかもわからない。


「では我々は失礼いたしますよ。外の奴等に伝えてみましょう。『エステバン公は我々を見捨てた』と」


「ま、待て。分かった。分かったからやめてくれ」


 エステバンは半ば縋りつくような勢いでそう言った。


「ご協力いただけると?」


「ああ、もう……」


 頭を抱え暫く考え込むエステバン。


 外が暗くなり始め、使用人が蝋燭を持ってきた。


 そうしてたっぷり考えたあと、エステバンがだした結論は、肯定であった。


「……協力しよう。だが私も大したことは出来んぞ。サロモンに比べれば私の資金も物資も圧倒的に劣る。私の私兵も少ない」


「結構、それでこそこのベルトランが仕えるエステバン公だ」


「心にもないことをぬかすな。それと……そこのフェーデ」


 額に手を当てながら、エステバンはフェーデを呼ぶ。


「ベルトランにだけ喋らせるな。お前もなんとか言え」


「ご協力痛み入ります」


「ふんっ」


 恭しく礼をとるフェーデを、エステバンは鼻で笑った。

 

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