第21話
夕暮れ時、イェルモ騎士団は動き出した。
荷車に乗せられるだけの武装、食糧などの物資を積み込み馬に引かせて出ていく。
先頭を行くのはフェーデとベニート、そしてベルトランだ。
フェーデの顔面はいくつもの傷が出来、一部腫れている場所すらあった。
そしてそんな姿を見てベニートは笑う。
「大丈夫ですかフェーデ様。顔が腫れていますが」
「手綱に集中してろベニート」
フェーデはイェルモ騎士団の騎士達からの不満を一身に受け殴られたのだ。
無論騎士達もフェーデが根本の原因でないことは分かってはいたがそこは騎士達も人である。
ベルトランも今回の事はそれで良しとした。
「さてフェーデよ。俺達が参戦するのは確定だが他にも仲間は要るだろう。そこはどうなんだ?」
白髪交じりの黒髪を弄りながらベルトランが問う。
「さっきも言っただろう? 各地の騎士団や傭兵に声をかけに団員を向かわせている」
「貴族連中は巻き込まないのか? 資金も、俺達が所有している食糧も少ないんだ金を吐かせる奴が居てもいいだろう?」
「巻き込めるとは思えん。今の今までサロモンに迎合してきた奴等ばかりだろう」
フェーデの頭の中に浮かぶ貴族というのはダニエル等の腰巾着や、税を吊り上げ上前をはねて儲け、国民達をなんとも思わない卑劣な連中だ。
加えてこれら貴族は先代の王からも使えている者が多いがその時から既に腐っている者の方が多い。
「引き入れるのは良くない。第一皆納得しないだろう」
フェーデの言葉に、ベルトランは笑いながら答えた。
「いいや1人だけ心当たりがあるぞ。まぁどうしようもない無能ではあるがな。そいつだけでも引き入れよう」
「無能を指揮官にするつもりか?」
「勘違いするな。あくまで指揮は俺達だ。その無能は飯と金だけ吐き出させる」
ベルトランもかなり悪どい考え方をする。
「……なんというか、騎士としていいのかそれは」
「『強者には常に勇ましくあれ』だ。誓いにもある」
「大いに同意しましょう。ベルトラン卿」
そう言って笑い合うベルトランとベニート。
2人は歳も立場も違うはずなのにどこか似ている。
「……まぁいい、それでベルトラン。その無能な貴族はどこの誰だ?」
「ここいら一帯を治める貴族、エステバン公だ」
イェルモ騎士団の城から出て、南東に馬を走らせおよそ1日。
エステバン伯爵の城はそこにあった。
城とは言っても城壁もなければ堀もない上、赤煉瓦と木の2階建て。
見張りや兵士すら数名という有り様だ。
だから当然、そんな場所に騎士団なんてものを連れていけば騒ぎにもなる。
城の前まで来たフェーデ達に唾を飛ばす勢いで叫ぶ見張りも当然の対応といえる。
「ベルトラン卿!? き、きちゃ、貴様等なんのつもりだ! こん、こんな大勢で押ち……押し掛けて!」
「落ち着け、我々は争いに来たのではない。エステバン公と話に来たのだ」
「え、エステバン公は今たち、体調がすぐれず」
いつものことだ、そう言ってベルトランを筆頭にフェーデ達は怯える兵士を押し退け城へと足を踏み入れる。
城の中は綺麗に掃除がされている、木を使った床と煉瓦の壁には埃もない。
入り口近くの台には赤い扶桑花が飾られ、廊下を歩く老婆の使用人が恭しく頭を垂れる。
……正直、落ち着いているのはこの老婆のみだ。
フェーデ達はそうしてずかずかと靴音を鳴らしながら廊下を歩いていくとある一室にたどり着いた。
人が10名も入ればいっぱいになりそうな狭い部屋にベッドが1つのみおいてある、どうやら寝室のようだ。
フェーデが見るに無人と思えるが……
「エステバン公! お姿を見せてください。ベルトランが参りました」
「居ないぞ?」
寝室に入ったフェーデ達だが、件のエステバンの姿はどこにもなかった。
あるのは服を入れる収納と窓から差し込む光に照らされたベッドのみ。
ベニートはベッドの下も見たが、居ない。
「何処に行かれたのでしょう?」
「ここだよ」
乱暴に収納を開けるベルトラン。
そこにいたのは服に混ざって身体を丸めたやや痩せぎみの男。
「ひ、ひぃっ!?」
「ひぃっ、ではありませんエステバン公。出てきてください。お話があります」
ベルトランは半ば無理矢理収納からエステバンを引きずり出し、ベッドに座らせた。
すると静かだったのが一変、エステバンは興奮気味に話し出した。
「い、一体なんの用だベルトラン! 盗賊団討伐の報酬ならもう払っただろう!?」
「違います」
「ならあれか!? また警護だなんだと言って私から金を巻き上げるつもりか!? あのときは騙されたが今度はそうはいかんぞ!」
どうやらベルトランはこのエステバンから随分と悪どい方法で金を巻き上げていたらしい。
捨てられた子犬のように震えながら、エステバンはベルトランを睨み付けている。
「今回は大事なお話です。今後の貴方の行く末すら左右する大事な、ね」
ベルトランの言葉に、エステバンは生唾を飲んだ。




