第20話
サロモンとイサベルが訓練をしている最中、フェーデとベニートは北東の騎士団、イェルモ騎士団のもとへと足を運んだ。
荒れ地にぽつんと立っている茶色い煉瓦造りの城の前で2人を待ち構えていた団長のベルトラン卿は2人をみるなり渋い顔をしていたのが気にはなったが。
門の前で立っているベルトランは鎧姿で、兜を取って白髪混じりの髪をなびかせていた。
何故こんな場所で待っているのか全く分からないがフェーデは構わず馬から降りて親しげに話しかける。
「久しぶりだベルトラン。今日は話があって──」
「サロモンを討つのか?」
ベルトランはそう言ってきた。
既にどこからか話を聞いているらしい。
「……話が早くて助かる」
「中に入れフェーデ。話はそこで」
ベルトランに案内されるままに、フェーデは城の中へと入って行った。
城の中には鎧姿の騎士たちが居るが、どうにも殺気だって見える。
フェーデとベニートにその怒りが向けられているわけではないが居心地が悪いのは間違いない。
「ここだ」
ベルトランに促されるまま、フェーデ達は煉瓦の部屋に入る。
部屋の中には胡桃の木で出来た大きな机が1つと、同じく胡桃で作られた椅子が乱雑にいくつか置かれていた。
他には特に何もない殺風景なその部屋の中で、ベルトランは最初に口を開いた。
「さて、詳しい話を聞かせてもらえるか? 事によってはフェーデ、お前を斬る」
フェーデはベルトランに全てを話した。
その結果、現在ベルトランは机に突っ伏して頭を抱えている。
延々とこのままなのでは?そう考えたフェーデは口を開いてベルトランに話をするよう促してみることにした。
「ベルトラン、せめて何か言ってくれ」
その言葉にベルトランは顔を上げた。
二日酔いに悩まされる酒飲みのような風貌だ。
「恐らく速攻で勝負を決めたかったのだろうが、ものの見事に失敗しているな……お陰でこの始末か」
頭が痛い、ベルトランはそう付け加える。
そしてこの言葉はフェーデにも刺さった。
「他を巻き込むわけにはいかなかったからな。あくまで小規模で実行する手筈だった」
「だったら話し合いなどせずその場で叩き斬れば良かったんだ。サロモンはもうお前の知るサロモンではない」
言われて項垂れるフェーデ。
返す言葉もない。
「それで今度は仲間を集めると言っていたな。あれだが……」
「手を組んでくれないか? 今の私にはベルトラン、お前の力が必要だ」
「正直、首を突っ込むのはごめん被りたい。だがその話には乗るつもりだ」
そう言われフェーデは違和感を覚えた。
ごめん被る?
どう言うことか?
「ベルトラン、嫌なら断る道もあるのに何故乗る?」
「お前のせいだフェーデ。お前が事を起こしたからそうするしかないのだ」
恨みの籠った視線と声をフェーデに送りながら、ベルトランは続ける。
「お前がここに来る前、サロモンから使者が来た。そしてこう命令してきた。『イェルモ騎士団は解体、団員は全て農地へと移り鍬を持て。断るならば皆殺しにする』とな」
何故そんなことをイェルモ騎士団に命令する必要があったのか。
ベルトランはさらに続けた。
「フェーデ、お前と交流がある者は全てこうしていると言われた。反逆者のお前をサロモンは許さないんだろう」
「馬鹿な、私とイェルモ騎士団はほぼ協力などしたことがない。せいぜい私とお前が個人的に交流しているくらいだろう」
「馬鹿でもなんでも、お前が理由なのに違いはない。どうしてくれる? サロモンが指定した農地はただの荒野だ。食糧も建物も何もない。行き着く末は飢え死にか野垂れ死にだ。それも俺の騎士団員全員が」
フェーデは何も知らなかった。
だがそうならば今のイェルモ騎士団のこの状態にも納得がいく。
「皆が殺気だっているのはそういうことか」
「ああ、どうせ死ぬならサロモンに目にもの見せてやると言っている。逃げる者も大勢出た。無論お前を恨む者もな」
「…………」
「協力はする。だがその前に、お前を恨んでいる騎士達を落ち着かせてくれ。いいな?」
そう言うとベルトランが顎で部屋の入り口を差す。
入り口に待ち構えていたのは、棍棒や鍛練用の木剣を手に殺気だっているイェルモ騎士団の騎士達。
「……ベニート」
「私は手伝いませんよ」
「そうか……」




