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第19話

 翌日の朝、サロモンが居る部屋にはいつもと違い2人分の食事が届けられた。


 献立は白いパンとサクランボのはちみつ漬け、ウズラに詰め物をして焼き上げたものに果物。


 不機嫌さを隠そうともしないダニエル達に見守られながら、朝食をとるサロモンとイサベル。


 といっても食べているのはサロモンだけだが。


「どうした腹が減ってるだろう? 食え」


「……どうせ毒入りでしょう」


 イサベルは不服そうにそう呟く。


 そして彼女の服は昨夜着ていたものとは全く違う。


 赤を基調としたドレス、絹と金糸を織り交ぜた豪華な代物。


 この服一着だけでイサベルは何度も破産できるほど金がかかっていることは間違いないだろう。


 だがイサベルは気に食わない。


「毒など入れるものか。それに服もくれてやった、乱暴も昨日のアレ以外はやっていない、ついでに拘束もしていない。ある程度の自由も許している。それでもまだ不服か?」


 実際サロモンの言う通り、今のイサベルは相当自由にされている。


 無論監視はあるものの、拘束もされていないしなによりサロモンの言いつけなのかフェーデから借り受けた短剣もそのままだ。


 加えて朝から何度かサロモンに攻撃しているが悉く失敗してあしらわれている。


 唯一彼女の溜飲を下げるのはダニエルの悔しさと憎しみの入り混じった顔が見られるところだろうか。


 後ろに居るダニエルにも攻撃しようと考えたがさすがに警戒されすぎていて隙が無い。


「……まぁ食わんならばそれでもいいが。食ったあと少し付き合ってもらうぞ」


「は?」

 





 食事が終わったあと、サロモンはイサベルを無理矢理連れて庭に出た。


 いくつかの武器と、木製の的が置いてあるそこは庭というよりは練習場と呼ぶほうが適切だろう。


 そしてサロモンはイサベルに向けていいはなつ。


「好きな武器を持ってかかってこい。殺す気で構わんぞ」


「なっ!?」


 サロモンの隣では青い両目を見開いてダニエルが驚いている。


 当然だろう、自分を殺しにかかってきた人間にわざわざ武器を渡してかかってこいなどと言うのだから。


「どうした? 早く選べ」


 サロモンがそう急かしてくる。


 イサベルはサロモンの方を警戒しながらも武器をかけてあるところに近づいていく。


 槍、長剣、斧、大鎌、槌、弓、弩、星棍、短剣、曲剣……


 どれもこれも錆のひとつも無い、徹底して整備されているし、細工されているような様子もない。


 迷った結果、イサベルが選んだのは大鎌だ。


 イサベルが普段使っている物よりも柄が長いものの大きく差はない。


「大鎌か、面白いかかってこい」


「その首刎ねてやる!」


 先攻をとったのはイサベルだった。


 サロモンの所へと走りながら大鎌を大きく振りかぶり首目掛けて振り抜く。


 だが当たらない。


「力任せに振るうだけなら見習いでもできる。もう少し考えて振るんだな」


「うるさいわ!」


 続けざまに2度3度、イサベルは全力で大鎌を振り続けるが……全く当たらない。


 サロモンは当たるか当たらないかぎりぎりの距離に離れ、涼し気な表情でイサベルを見るのみ。


 腰の剣すら抜いていないのを見るに完全にイサベルを舐めている。


「大鎌はそもそも内側にしか刃が付いていない。槍のように突いても効果は薄いし、そもそも避けられたら反撃が剣よりも遅れる。武器として使うにはかなりの修練がいるものだ」


 そう言いながらサロモンは振るわれた大鎌の内側に入って柄を片手で止めてきた。


「こうして内側に入ってきたら思いっきり引け、完全に敵の間合いに入られる前にな」


「ッ!」


 言いなりになるようで癪だが、サロモンの言う通りだ、イサベルは全力で刃を自分の方へと引き寄せた。


 だがサロモンの余裕の表情を崩すことはできなかった。


「鎌は盾を構えている相手にはある程度有効だ。上、横から鎌の先を突き刺したり、力があるならそのまま盾を引きはがしたりもできる」


 振るわれる大鎌を避けて、受け止めて、殺しに来た筈のイサベルに何故か武器の使い方を教えるサロモン。


 この訓練は太陽が沈み始めるまで行われたが、結局イサベルは一太刀すら浴びせることなく終わった。


 代わりに得られたのは少しばかりの大鎌の練度と、手に出来た無数の豆、そして疲労のみだった。


 





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