第18話
トレア城の城門、守衛の兵士達とダニエルが見守る中イサベルは憤怒に顔を歪ませていた。
「武器を隠してサロモン王を殺そうとしていないとも限らん。安心しろ私は騎士だ。決して邪な気持ちはない」
と、イサベルの目の前に立ち、鼻息がかかるような距離でそう言い放つダニエル。
イサベルを舐めるように見るダニエルには邪な気持ちしかない。
せいぜい脱ぐのをためらってほしいところだ、ダニエルはそう考えて見守っていたが……以外にもすんなりと服を脱ぎ始めた。
小麦色の肌が見えてくるのと同時、ダニエルの心に油断が生まれた瞬間。
脱ぎかけの服の下から白刃が突き出されてきた。
「何ッ!?」
焦った声を上げるダニエル。
横に避けようとしたが回避が間に合わず、ダニエルの脇腹を短剣が抉っていく。
「待て貴様!!」
ダニエルは僅かな間委縮していたがすぐに気を取り直す。
だがその僅かな時間、イサベルは服を脱ぎ払いサロモンが居るであろう松明がかけられている部屋へと走る。
──こんな機会は二度とない、私の命と引き換えにしてでも、サロモンを殺す!
石造りの城の廊下を全力で走るイサベルが部屋の前に来た。
覗き込んで確認……違う、この部屋ではない。
背中にダニエルや守衛の兵士達の殺意を感じながらイサベルは駆ける。
どこかにそれらしい人影はないか?
どこかにサロモンの姿はないか?
いくつもある部屋を探しに探し、ついに見つけた。
呑気に椅子にふんぞり返って酒を飲んでいるサロモンの姿が見える。
「ほう?」
サロモンがイサベルを見る。
意外そうな顔をして、特に武器を出す様子もない。
──やれる!
イサベルには確信があった、いくら男で力があると言えど死に物狂いで武器をもってかかって来る人間には勝てまいと。
未だ行動も起こさず座っているだけのダニエルに何が出来ようかと。
「おのれの命と引き換えに俺を殺すというその姿勢は褒めてやるが──」
サロモンが笑う。
イサベルは全力の力を込めて短剣を突き出すが……
「がっは!?」
ダニエルは特に避けることもせず、イサベルの短剣を持った手首を掴み、背負うようにして机に投げた。
イサベルは机に背中から叩きつけられ、受け身は習ってもいないので当然取れず、あまりの痛みに呼吸が一瞬止まる。
そうしてイサベルが無力化されたあと、ようやくサロモンの部屋にダニエル達が雪崩れ込んできた。
「サロモン様! ご無事ですか!?」
「ダニエル、女とはいえ油断しすぎだぞ。まぁ少しは楽しめたから良しとするが」
焦った様子のダニエルに対しサロモンは穏やかにそう返す。
「このクソアマが……おい連れていけ! 簡単には死なせるなよ!」
激昂したダニエルが痛む脇腹を押さえながらそう守衛の兵士に指示する。
だがサロモンがそれを制した。
「いやこの女は俺が面倒を見よう。お前たちは下がってダニエルの傷の心配でもしてやるといい」
「なっ!?」
驚くダニエル達を下がらせた後、サロモンはイサベルに問う。
「女、お前の名は?」
「貴方が死ぬならば教えて差し上げます」
手首を握られたまま、イサベルは苦しそうに呻きながら、せめてもの抵抗とばかりに緑柱石のような双眸でサロモンを睨みつける。
だがそんなものサロモンにはなんの意味もない。
「強い女だな。お前は」
「手を離していただけるならばもっと私の力をご覧いただけますよ」
イサベルは机の上で仰向けになったまま、頼みの綱であろう短剣を持った手は押さえられたまま、それでも気丈に睨みつけてくる。
サロモンはそんなイサベルの事を気に入っていた。
「いい女だ。気に入ったぞ。お前は生かしておいてやる。永遠にな」
乱暴にイサベルの手を引き、無理やり立たせた。
「明日には服を用意してやろう。農民風情ではとても味わえないような食事もな」
「離せ! 殺してやる!」
半裸のままのイサベルの手を引き、サロモンは歩きだす。
その姿は長年仕えているダニエル達が見たことも無いほど喜んで見えた。




