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第14話

 空に太陽が昇り始めた頃、イサベルとフェーデはメリョス村へとたどり着いた。


 イサベルはすぐさま自分の家にフェーデを担ぎ込み傷口を縫うために木箱を乱暴に開けて中を探る。


 そしてフェーデが装備している鎧を脱がせたり針、糸などの道具を用意したりと準備を進めているとフェーデが目を覚ました。


「ここは……」


「気が付かれましたかフレデリーコ様。ここはメリョス村、そして今居るのは私の家です」


 フェーデが目を覚ました時、真っ先に見えてきたのはカビの生えた藁ぶきの天井、周りに見えるのは土の壁と木の柱で出来た薄暗い部屋。


 藁にシーツを被せただけのベッドと道具入れ、木箱がいくつか、そして小さな木枠だけの小窓が1つだけある殺風景な部屋だった。


「イサベル……そうか君に助けられたのか。すまない、こんな結果になってしまって」


 目覚めたフェーデがイサベルの姿を視認した時、真っ先に浮かんだのは後悔の念だ。


 出撃前に啖呵をきって誓いもたててこの始末……


 情けなくて泣けてくる。


 そんな事を考えながら顔を逸らすフェーデにイサベルは何も返さなかった。


「……傷口を縫いますね。そのままじゃ治りませんから」


「お願いするよ」


 イサベルは水で湿らせた布で傷口を拭い血を落としてから真剣な眼差しで手を動かした。


 針を刺され当然痛みはあるが手際もよく正確に縫い合わせていく。


 上手だ。


「上手いな」


「なにかと生傷が絶えないものですから、上手くもなります」


 順調に縫い進め、あと2.3針といった所で村が騒がしくなってきた。


 フェーデはその声に顔を青ざめさせ、剣に手を伸ばそうとしたがイサベルが止めた。


「大丈夫、村の人の声です。追手じゃありません」


「そうか」


 やがて声がイサベルの家のすぐ近くまで聞こえてきて扉が開けられた。


 驚愕しながら入ってきたのは村の女とフェーデにとっては最も見慣れた鎧姿の騎士。


 青い瞳を見開いて嬉しさを隠しきれないベニートの姿がそこにはあった。


「イサベル!? 帰ってきてたのかい!?」


「フェーデ様! 無事だったのですね!」


 まるで何年も離れ離れになっていた親友と再会したような、そんな反応を見せるベニートと村の女だった。






 傷の手当てが終わった後、フェーデはベニートからの報告を受け、肩を大きく落とした。


 その理由はセルバ騎士団の損害だ。


「現在生き残りは北東に向かって移動しています。幸い追撃はありません」


「そうか……」


 フェーデは適当に外から持ってきた丸太を椅子代わりにして座り、口から深いため息を出しながら膝に手を付いた。


「我々が反逆者であることはバレています。サロモンも黙ってはいないでしょう。これからどうしますか?」


 ベニートは不安そうにフェーデを見る。


「仕方ない。あの手を使うか。正直やりたくなかったが」


「アレですか」


 静まり返った部屋の中、フェーデとベニートのため息だけが聞こえる。


 そしてその反応を見てイサベルも不安になり恐る恐る質問してみた。


 『アレ』とはなんぞや?と。


「その……『アレ』って何なんですか? フレデリーコ様」


 聞いてきたイサベルにフェーデは言いよどむ。


 それは話すのも嫌になるような内容だったからであり、加えて危険な策でもあったからだ。


「賛同する騎士団、傭兵、農民達を束ね大規模反乱を起こす」


 フェーデの答えにイサベルは疑問符を浮べた。


 それがなぜ駄目なのかと。


「なんでそれが『やりたくないこと』になるんですか? 一番手堅い手に聞こえるんですが……」


 イサベルの疑問に対し、ベニートが説明をする。


「理由は色々とあるのですよイサベル嬢。1つ目はどれだけの戦力が集まるか分からない点、2つ目は農民達にも被害が及ぶ点、3つ目は統率が取れず暴走する可能性が高い点、これら以外にも沢山問題点があります」


 説明を受けたイサベルは目を伏せる。


「加えて国土がとんでもなく荒れる可能性もあります。たとえばそう……畑や貯蓄している作物が焼き払われたりしたら仮にサロモンを倒せたとしてもその後が大変だ。倒せなければもっと悲惨ですが」


「そんな……」


 悲観的になるイサベル、そんな彼女にフェーデが続けた。


「だが奴を倒すのに人手がもっと要るのは間違いない。元々は我々セルバの騎士だけでやる予定だったが……それももう叶いそうにない。幸いにして同志になってくれそうな人物に心当たりはある」


「それでは……」


「まだ完全に希望の灯は消えていない。難易度は上がるがね」


 イサベルの表情が少しだけ明るくなった。


 フェーデも次にとる指針が決まりつつある。


 各地に使者を送り仲間を集め、各地を治める貴族を討ちとり地力を削いでいく。


 そして最後にサロモンを討つ。


 至極真面目にそう考えていると、ベニートが口を開いた。


「……ところでイサベル嬢、フレデリーコ様は貴方から見てどうでしょうか?」


 フェーデの思考が止まった。


「どう……とは?」


「魅力的に映りますか? それともただの老騎士?」


「ベニート、お前ちょっと来い」


 むんずと首根っこを掴んだフェーデ、そのまま家の外に引きずって行った。


「ちょっと待ってください! 待って! お願いです待って!」


 ギャーギャーとうるさい、思考の邪魔になるベニートは適当な場所に縛り付けておこう。


 そう思ったフェーデであった。

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