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第13話

 イサベルは空が白み始めたのを見ながら手綱を握っていた。


 なぜ乗せてくれたのか分からなかったが、イサベルが跨るこの馬は一切迷うことなく風に揺れる草を踏み散らしながら何処かに向かっている。


 周囲に目を向けても見えてくるのはまばらに生えた木と草原だけ、近くに村もない、この馬は一体何処に向かっているのか?


「誰か居る?」

 

 夜明け前で薄暗い中、イサベルは馬が向かう先に人影を見た。


 木の下で幹に背中を預けて座る鎧姿の男……それを見てイサベルは目を見開いた。


「フレデリーコ様!」


 目的はこれなのだろう、徐々に速度を落とした馬はやがてフェーデの前で止まった。


 慌てて駆け寄るイサベル。


「血が……でも息がある。生きてる!」


 目を閉じたままであったが、確かにフェーデは息をしていた。


 傷からの出血もある程度は収まっているが、まだ完全ではない。


 何かしら手当てをしないといけない、そこでイサベルはあることを思いついた。


「何処かに……あった!」


 イサベルは地面に目を向け、しばらくして一本の草を見つけ出した。 


 鋸状の葉を付けたそれを口に含んで細かくしたあと傷口にそれをつけ、自分の服を破いて包帯代わりにした。


 この薬草は古くから傷に使うが、近くにあったお陰で助かった。


「貴方はフレデリーコ様の馬だったのね。ありがとう、案内してくれて」


 負傷した主が気がかりなのだろう、感情は読み取れないがどこか心配そうに近寄ってきた馬の頭をイサベルは優しく撫でた。


「……ここには居られない。もう一度私とフレデリーコ様を運んでくれる? お願い」


 イサベルは馬に話しかけた。


 今居る場所は隠れる所も録にない、いずれはサロモンの放った追手も向かってくるだろう。


 移動の必要があった、それもフェーデを治せる設備のある。


 イサベルは黒い鎧をつけたままの重いフェーデの身体を四苦八苦しながら馬の背に乗せ、手綱を握って再び走り出した。


 これから目指すはメリョス村、馬の扱いなど荷車を引くときに数回やったのみの彼女だがただ走らせるだけならば問題ないだろう。


「しっかりしてくださいね。大丈夫、何とかなりますから」


 




 セルバ騎士団が敗走した後、トレア城ではあることをめぐってサロモンにダニエルが抗議していた。


 その内容は、セルバ騎士団に対する追撃についてだ。


「サロモン王、なぜ追撃を命じられないのですか!? 城の前に倒れていた死体の中にフェーデの死体は無かった。奴は生きています! 放っておけばまた反乱が起きてしまう、直ちに追撃をして奴等、セルバの逆賊共を根絶やしにすべきです!」


「放っておけばいい。今日は疲れた。それよりお前も飲んだらどうだダニエル。マヌエルが持ってきた酒だが……まぁなかなかいけるぞ」


「はっはっは! 気に入っていただけて何よりです。いやしかし勝利の酒は美味なものですな!」


 片付けをティント騎士団に任せサロモンとマヌエルは松明の火が揺れるトレア城の中でチーズを肴に蜂蜜酒を飲んでいた。


 サロモンにとってこの酒は酒精が弱すぎるが、たまにはこういう酒もいいと感じている。


 だがダニエルにとってみれば酒盛りも今のサロモン達の気の抜けようも不服に過ぎる。


「サロモン様、どうかご命令ください。私が行ってまいりますとも」


 こうなったら自分だけで行こう、そう思ってダニエルは進言するがマヌエルが止めた。


 立ち上がったマヌエルはその大きな体で威圧感を与えながらダニエルを睨みつける。


「いい加減にしろダニエル、サロモン王に逆らうつもりか?」


「私はサロモン王の事をおもってだな」


 あーだこーだと埒が明かない。


 微笑みながらサロモンは言い争いを続けるダニエルとマヌエルを暫く見守っていた。


 そして今にも掴み合いをしようかというところで止めた。


「ダニエル。俺の命令は1つだ」


「はっ、何なりと」


「ウロチョロせずにここで黙って留まれ。目障りだ」


 にべもなくサロモンはそう言い放つとまた蜂蜜酒を飲み始めた。


 付き合っていられない、そう感じたダニエルは部屋の外へと出て行った。


 とはいえあくまでサロモンを守るために部屋の前に待機はするが。


「サロモン王はフェーデに対して甘すぎる。一体何を考えておいでなのだ」


 ぽつりそう漏らしたダニエル。


 金色の髪を乱暴にかき回し、石造りの壁を殴りたくなるのをぐっとこらえる。


 気に入らない、サロモンの判断に納得が出来ない。


 ダニエルは色々と考えていると、マヌエルの遠慮のない大声が聞こえてきた。


「おーいダニエル! ついでに何か酒の肴を持って来てくれ! 塩気のあるものがいいな! はっはっは!」


 サロモンもマヌエルもすっかり酒が回っていい気分になっている。


 よほど勝利が嬉しかったのだろう。


 だが今回の勝利は手放しで喜べるものではない。


 ダニエルの頭にあったのは味方の損害だ。


 ──セルバはおおよそ半分が負傷、あるいは死亡。だがそれはこっちも殆ど同じだ。しかもこちらの奇襲は成功していたにも関わらず。なのになぜあんなにも喜べる?


 ダニエルは城の窓から外を見る、草原と畑に倒れた死体たち、無論セルバの騎士達の死体があるがそれだけじゃない。


 同量程味方も倒れている。


 ──第一兵士ももっと数を揃えられただろうになぜなんだ……サロモン王の意図が読み取れん。


 ダニエルのサロモンに対する疑念は深まるばかりだった。

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