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第1話

 太陽の光が地上に降り注ぐのを拒むかのように、黒煙が空を覆う。


 煙の出所は藁ぶきの屋根が立ち並ぶ村、村人が住まう建物からだ。


「王の麦を納めなかった罰だ。謹んで受け止めよ」


 そう言うのは後ろに3人の取り巻きを引き連れ、血に濡れた長剣を死体が着ていた服で拭きとる男。 


 トレア王国の中心部にある農村、メリョス村で起きた出来事である。


 いくつかの家が燃やされ、見せしめに村人が何人か殺された。


 なぜこんなことになったのか?

 

 収穫された麦の量が税として納めねばならない量を下回った、ただそれだけのこと、だがたかだかそれだけのことでメリョス村の住民は殺され家には火がつけられた。


「次の分に加え今回の残りも納めろ」


「いくらなんでも無茶です! 元々限界以上の税に今回のことで人手も減って、それに我々の冬の蓄えが」


 村人を代表してある若い娘が言葉で抵抗する。


 だがそんな小さな反逆を、この男は許すはずもなく……


「誰が反論していいと言った!?」


 取り巻き達がその言葉に反応し即座に剣を抜き放つ。


 男と取り巻きが振るう鋭い鉄の剣は過たず娘の脳天を叩き割ることだろう。


 誰もがそう思っていたが意外な事が起きた。


「イサベル!!」


 近くに居た父親が娘の前に飛び出し、代わりに振るわれた剣を受けた。


 娘を庇う為の決死の行動だ。


「無事だな……イサベル」


「父さん! 父さん!!」


 一瞬何が起きたのか分からなかった娘、だが血飛沫を撒き散らしながら倒れていく父親を見て目の色を変えた。


 父親は肩から腹まで一直線に切り裂かれていた。


 そしてその傷と大量に流れる血は最早どうやっても助からないことを伝えてくれる。


「ほう娘を庇うか。なかなか泣かせてくれるな。まぁ安心しろ。すぐに後を追わせてやる」


 薄ら笑いを浮かべた男の剣が再び娘に向けられる。


 今度こそ、娘の命は絶たれる。


「おいそこの! 待て!!」


 今まさに剣が振り下ろされるその瞬間、何処からか怒号が飛んできた。


「……チッ、フェーデか」


 男が舌打ちしながら明後日の方角を見る。


 こちらに向かってやってくる騎馬が一騎……


 青い瞳と白髪交じりの黒髪を後ろで束ね、黒い革の鎧と腰に長剣を身に纏った男……


 彼の名前はフレデリーコ、通称フェーデだ。


「この人でなし共が!!」


 馬上で長剣を抜き放ちながら、剣を構え娘に群がる取り巻き達を斬りつける。


 血しぶきを地面にぶちまけながら倒れ込む取り巻き達、馬の突進とフェーデの剣になすすべもなく殺されていく。


 そんなフェーデの顔には怒りと悲しみが滲み出ていた。


 いたずらに民を傷つけ殺す吐き気を催す下衆共。


 柄を握る手に力が入る。


 ──こいつらに指示した馬鹿がいる。おそらくそいつは……


「ああルーカス!! このクソ野郎! ぶち殺してやる!!」


 殺された仲間に駆け寄り涙を流す取り巻きの1人はひとまず無視だ。


「フェーデ!! 貴様王の邪魔をするか!」


「黙れダニエル! どうせお前に命令した愚か者がいるだろう! 出せ!」


 娘を守るように間に入りながら激昂するフェーデ。


 実のところこの男……ダニエルが言うまでもなく、フェーデは彼にこんな凶行を命令した人間に大体の目星はついている。


 その人物とは……


「俺のことか? フェーデ」


「サロモン……貴様」


 まだ無事な建物から現れたのは金糸を混ぜた豪華な黒服に身を包んだ男……トレア王国の王、サロモンだ。


 丁寧に整えられた緩く波打つ濃褐色の髪に黒い瞳、既に抜き放たれた長剣と白い顔には血がたっぷりと塗られている。


 きっと家の中で誰か殺したのだろう。


「まてまてフェーデよ。俺は王だぞ? もう少し口の聞き方に気を付けたらどうだ?」


 その場に似つかわしくないゆったりとした声だった。


「サロモン! こんなことは王のすることじゃない!」


「フェーデ、お前が俺の先生だったのは随分と昔のことだ。今更説教など受けるつもりはないぞ。ただまぁ、それでも己の言葉を王に投げ掛けたいと言うのならば……」


 サロモンは長剣に付いた血を振り払い、フェーデに向けた。


「かかってくるといい。だが老いたその身で俺の剣を受けられるかな?」


「おのれ……」


 フェーデが眉根に皺を寄せ、青い瞳に怒りを滲ませながら斬りかかろうとした瞬間、思わぬことが起きた。


 サロモンが笑ったのだ。


「冗談だ! ハッハッハ! かつての恩師をこんなことで殺すものか。今日の所は引き上げるとしよう。行くぞダニエル」


「えっ? あっいや。はい。命拾いしたなフェーデ」


 そのままフェーデの隣を抜けて去ろうとする2人。


「私に背を向けるなサロモン! まだ話しは終わっていないぞ!」


 馬に乗るサロモンにそう捲し立てた。

 

「話があるのならば俺の城に来るといい。久しぶりに酒でも酌み交わそうではないか。ではな『先生』」


 馬に乗ったサロモンは怒りと恨みがこもった視線を向けてくる取り巻き達と共に去っていった。


 

 

 

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