#09 尊し
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
森に戻ると魔蟲(まむし)退治は終わっていて、キザシたちと合流した。
「済まない、ありがとうキザシ。シエラも」
「リオさん……?」
みんなに混ざって死骸の片付けを始めたリオにキザシは声を掛けなかった。
「……フィエスタ、あいつの目、腫れてねぇか」
「……あとで話すのよ」
片付けが粗方終わると販売準備を再開させ、簡単にできるリオの料理はできるだけ売った。
「教える暇がなかったな。今晩は残党狩りの為にここでキャンプするんだけど、明日からにするか?」
「教わる時間が短くなっちゃいましたし、今晩からお願いできるのでしょうか⁉」
「うん、いいよ。でも本当に簡単なことしか教えられないからな?」
早速夕飯の準備を始め、教えてる間、私はキザシに魔王と話した内容を掻い摘んで話した。
「……今笑えてるのは荷が軽くなったからか?」
「そうかもしれない……。嘘を吐くのが下手だから、心を隠すのがこんなに上手いなんて思わなかったのよ……」
「勇者の重責か……俺も考えが浅かった。暢気とか、あいつに悪いこと言っちまったな……」
私たちがどれだけ言動に後悔しようと、リオはもう行く先を決めてしまった。それを止める権利もない。
「魔王城でこの旅は終わりってことだな」
「……」
「いつまで暗い顔してんだ。お前より100倍つらいリオが笑ってんのにおかしいだろ」
「だって私、ずっと傍にいたのに何も気付けなかったのよ……もっと何か、リオの為にできることがきっとあったはずだと思ったら……自分が情けないのよ」
「……人が人にしてやれることなんて、たかが知れてんだろ」
励ましてくれてるんだろうなこれ。分かりにくいけど。
話しながらふたりの様子を見てたけど、シエラの料理下手はかなりのものらしい。リオがあんなに焦ることあったっけ。
「フィエスタ、キザシ、味見してくれないか?」
「ちゃんと食えるもんなんだろうな?」
「うーん……」
「おい」
魔素粉(まそこ)を使うわけにもいかず、毒見は自然と私たちだ。
「……、シエラは味見したのか」
「はっ! い、いただきますっ! ……ま、不味いです……」
「……何入れたのよこれ?」
しょっぱいはしょっぱいんだけど、臭みもえぐみもあるし、吐かない程度に不味いわ。
「シエラが狩った鳥肉を使ったんだけど……下処理からダメだったみたいだな」
「初心者がジビエ使ってんじゃねぇよ」
「下処理って、なんです……?」
「おいおいおい……」
「血抜きと解体かな……俺も詳しくはないけど、シエラが狩ったものはちゃんと下処理すれば美味しくなるはずだよ。昼間はひとつも外したところを見なかったし、かなり弓の腕が良いよな」
「いえいえ! リオさんも華麗な剣裁きでしたし、売り子さんも」
「それやめろ。キザシだ」
「は! 失礼いたしました! キザシさんも治癒と攻撃どっちもできるなんて凄いです!」
褒め合戦になっているわ。リオと気が合いそうな子。
「凄いよな、オールラウンダーなんだ」
「ですです! 私なんて好きこそものの上手なれというか、弓しかやってこなかったので……他のことが、めっきりできなくてですね……」
「料理以外も?」
「はぁ……所謂女子力というものが皆無でして」
「女子力……?」
300年前にはなかった単語だわ。
「炊事・家事・洗濯、おしゃれとか身嗜みを疎かにしてきた所為か成人したというのに恋人のひとりもなく……」
え? 今なんて言った?
同じように引っ掛かったキザシが言葉を遮る。
「ちょっと待て、お前今何歳だ?」
「うぇ? 二十歳ですが……?」
「6つも上かよ……」
「キザシさんは見た目に気を遣ってらっしゃいますよね⁉ その髪とかどうやるのですかっ⁉」
「……気を遣ってるわけじゃねぇんだけど」
「あの……弟子は取ってますか⁉」
「取ってるわけねぇだろ!」
「……っく、っあははは」
噴き出したリオの声に私とキザシははっとした。
「リオさん笑うなんてひどいです! 私いろんな人にいろんなこと教わりたいのです!」
「あはは、済まない、何も、弟子入りすることは……ふふふ」
こんなに声を上げて笑ったことなんて、今まで。
私に視線を投げるキザシに何のサインも出せない。そのこと自体でキザシは私の心情を推し量ったようだった。
こんな形でリオの笑い声を聞いてしまったら、自分がしてきたこと、見てきたことはなんだったの。
自分の無力さに、悔しく泣きそうになる。
「普通に教えてもらえばいいよ。女子力? とかよく分からないけど、シエラが挙げたことは性別に関係ないんじゃないかな。俺も料理できるし、キザシも身嗜みちゃんとしてるし。今のままじゃダメだと気付いて変わろうと行動できるなら、シエラにも身に着けられるよ。得手不得手はあると思うけど」
「それは料理のこと言ってんのか?」
「……これからだよ、うん、教えるの頑張る……」
「ほわ……リオさんなんだか私より全然大人です……」
「……そうかな」
「はいっ! 自分の考えをちゃんと持ってると言いますか……しかもその考えを人の為に伝えられるなんて、素敵です!」
「ありがとう……。そろそろ料理作り直そうか。今度は買ってきた肉で」
「ご指導お願いいたします!」
「俺ちょっとその辺見回りしてくるわ。フィエスタも来い」
「済まないキザシ、頼んだ」
焚き火の火が見えなくなるまで歩き、辺りは手に持った灯りと夜空の僅かな月と星の光だけ。
すぐ傍の闇からいつ魔物か魔蟲が出てくるか分からない。キザシの索敵用の式はあちこちに置いているけれどそれを感知できるのはキザシだけだ。
「お前、あんまり顔に出すなよ」
「何をなのよ……?」
「あいつの様子がおかしいのは少し一緒にいただけの俺でも分かる。何もないのに突然泣き出しても不思議じゃねぇ不安定さだ。お前が心配するのも無理はねぇけど、見ようによっちゃリオを憐れんでるようにも見える」
「っそんなんじゃないのよ!」
「俺じゃねぇよ、リオがどう捉えるかの問題だ。すぐに封印っつー選択をしなかったのは、お前の為でもあるんだろ? ……受け入れた魔王は潔いわ。その選択は間違ってないって示してやれよ。あいつは多分、まだ迷ってる」
「なんで……そう思うのよ?」
「今更自分可愛さで動けるやつか……? お前はリオを信じ過ぎだ」
信じ過ぎ……? 解放されたいと泣いたことを真に受けるなって?
リオを疑ったことなんてなかった。でも私が見てきたリオは本来のリオじゃないかもしれない。さっき声を上げて笑ったほうがそうなのかも。
私は勇者になってからのリオしか知らない。
「魔王を前にして封印できるかも怪しいもんだ……あいつが魔王に脈ありなら尚更な」
好きなら一緒にいたいって思うのが普通。直接逢えば離れ難くなるかしら。
魔王に答えを出したいって、リオはずっと言ってた。
「確かに、そのほうがリオらしいのよ……。キザシの人を見る目は凄いのよ。尊敬する」
「お前らは人のこと凄い凄いって……語彙力貧弱過ぎんだろ」
「何、照れてるのよー?」
「は? 違ぇし」
睨まれたわ。本当に違うみたい。
でもキザシをパーティーに誘って良かったって、心から思うのよ。
一応ちゃんと見回りして戻ると、美味しいご飯が出来上がっていた。
「これほとんどお前が作っただろ」
「最初はやってるとこ見せるだけでもいいかなって……」
「勉強になりました!」
とても幸せそうな顔で頬張ってて可愛いわ。
「今更だけどさ、俺がパーティー入ったのリオの飯目当てなんだけど?」
「そっ、そうだったよな……。済まない独断してしまって」
「私もリオさんのパーティー入りたいです……っ!」
リオのご飯でみんな胃袋を掴まれていく。分かるけど、シエラを仲間にするわけにはいかない。
「料理がマシになったら考えてやるよ」
ちょっとキザシさん?
「キザシさんも作らない側なのに態度が大きいです!」
「俺簡単なのなら普通に作れるし」
え? そうなの? 初耳なんですけど。
「なんと⁉ で、でもリーダーはリオさんなのではっ⁉」
「リーダーっつったらそうかもしれねぇけど、リオとは仲間っつーか友達だし」
「……」
ぽかんとしたリオの視線に気付いてキザシは眉間に皺を寄せた。
「あ? 思ってたの俺だけかよ」
「いや……うん」
「うんて」
「でも……友達のほうがいいな」
「……だろ?」
なんていうか、もう、尊し……。
リオたんよかったね……。
「では私もお友達にしてくださいっ!」
尊いふたりの間によく割って入れたな。
「お前は俺たちの弟子だろ」
「ふえ⁉ だって弟子は取らないって言いました!」
「俺もシエラとは師弟関係より友達になりたいな」
「リっリオ、私はなのよ⁉」
「え? フィエスタは違うな。俺の最初の仲間だし……最後の仲間だ」
最初で最後……なんて魅惑的なポジション!!
「リオ……っすき!」
「はは、ありがとう。俺も好きだよ」
推しが天使過ぎてツライ……!!
キザシが冷めた目でこっち見てるけど全然気にならない!
「シエラはずっとソロなのか?」
「あー、いえ。解体士さんと一緒だったのですが、身重になりまして……」
「みおも……あ、妊娠したのか。おめでたいな」
「はいっ。……いつの間にか別のパーティーの狩人さんとそういう仲になってたらしく……。私ひとりで狩りは続けたものの、リオさんに教えてもらうまで下処理を知らなかった為に、全然売れなくて困っていたのです」
「そうか……。俺たち移動販売しながらちょっと遠くまで行く予定なんだ。シエラが付いてくるのは……」
リオがちらっと私とキザシに視線を送ってきたので、ふたりして頷いた。
「難しいかな」
「遠征でしたら得意ですよ! 全然大丈夫です!」
そういう話しじゃないんだけど……。
案外押しの強い子だからリオが折れそうな気がする。でもなんて言って断ればいいの。私もあんまり言葉は上手くないし。
「……魔王が復活してる噂あるだろ?」
え? キザシ? その入り大丈夫?
「へ? ですね。だから今日も魔物と魔蟲が現れたのだと……」
「俺たちちょっと魔王城行くんだわ」
本当のこと言ったー。
「ふぁ……ほ、ほほほほ本気ですか⁉」
「マジマジ。だから付いてくるのやめたほうがいいぜ」
「まさか戦いに⁉ 無謀です! 勇者が封印を施すしか手がないと伝説ではありますよ⁉」
「大丈夫、こいつ勇者だから」
指を差されたリオはびっくりしながらも、黙って成り行きを見ることにしたらしい。
「え? え? 本当……です? 私をパーティーに入れない為の嘘ではなく……?」
「こいつが最初に名乗っただろ? それでも付いてきたいってんなら俺は止めねぇよ」
「リオ・フィールダーさん……ご本人?」
驚愕顔のシエラにリオは少し困ったように笑った。
「た、確かに剣裁きは素晴らしかったですが……わ、私、勇者さんとお友達になったのですか⁉」
びっくりするところがなんか違う。
「危険は……ないと思うけど、怖いなら一緒に来ないほうがいいよ」
「恐怖心があったら邪魔だからな?」
「まぁ、な」
軽口を叩いてるけどこの状況どうするのよ。
正直訳分かんないから。300年前の勇者が歳も取らずここにいるなんて。
「よ、よく事情は分かりませんが、お友達としてリオさんを放っておけません!」
「あ? リオだけかよ」
「恐怖心がないわけではないですが……いざという時は私が守ります! 私、大人なので!」
頼もしいこと言ってるのに、説得力に欠けるのは何故かしら。
「外見も中身も大人に見えねぇんだよなぁ……。リオ、どうするよ」
問われてキザシに顔を向けたリオは、柔らかく微笑んだ。
「俺はいい友達を持ったよ」
「そりゃどーも」
「あれ? 今の私への言葉ではないのですか?」
「は? 俺だろ」
「ふたりだよ」