ソアラ語り
両親をここに呼んだ時はマシに見えたかもしれませんが、未だに仲が良いほうではありません。
生まれつきの白髪とブルーグレイの瞳は両親も周りの人たちも、受け入れ難かったようです。
誰も俺が望む対応をしてくれないと、フラストレーションが溜まっていきました。
そんなむしゃくしゃしていた時に不良の人たちとケンカになりました。得物の扱いは得意だったので初めてのケンカにしてはいい勝負をして、見た目が派手だったこともあって気に入られて、つるむようになりました。
自覚はありませんでしたが、非行に走ったんです。
世の中が気に食わないようなやつらばかりで、居心地がよかった……。
そのうち、先輩たちから女の子を紹介されました。俺みたいな濁った目をしていたのに、俺のこの見た目を綺麗だと言ってくれた表情が可愛く見えました。
嬉しかったんです……。
初めて彼女というものができて、それはもう浮かれてました。
手を握るだけでもドキドキしていたのに、もっと、もっとと欲が出て……、彼女も拒まなかったんです。
お互いに、何かがちょっとだけ埋まったような気になって、結構、頻繁に関係を持ちました。
俺が14歳になったばかりの頃、彼女を孕ませてしまいました。
『赤ちゃんって……え? 冗談やめろよ』
『……ほんとだよ』
俺はめちゃくちゃ混乱しました。
まだ全然、自分のことをガキだと思っていたのに、子どもはデキてしまうものなのかと。
『……無理、だよ……だって俺らまだガキじゃん』
『私は……産みたいよ』
『金も掛かるだろ⁉ 親にも、なんて言ったら……⁉』
産むにしても産まないにしても、どうしたって親の手を借りなければいけないことは分かりました。俺たちは親と上手く行ってないから非行に走ったのに、頼りにするべきは親だけです。
自分はガキなんだと思い知らされる事実でした。
当然、産むことは反対されました。俺の両親にも、彼女の両親にも。
男である俺のほうが悪人にされて、彼女の両親から誹りを受けました。彼女の母親は、彼女を産む前に流産を経験していたそうです。
『堕胎させればなかったことにできるなんて思わないで!! 一生……残るの! 心に!! 自分の子どもを殺してしまうつらさがあなたに分かる⁉ 娘が無事に産まれてきてくれた喜びが、あなたに分かるの⁉』
彼女は、母親に愛されていたんだと気付いて泣いていました。
俺は……これは取り返しが付かないことなんだと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
俺の両親はひたすら謝って、俺に対しては怒りだったり呆れだったり、……泣かれました。
『全部、周りのソアラへの見方が悪いと思っていたのに……私が育て方を間違えたんだ……。アルビノに産んでしまったのも、全部私の所為……っ』
すべてが母の所為だと思ったことはなかった。
けどその言葉は俺自身を否定して聞こえました。その時は頭が真っ白だったけど、あとで冷静になって思い返してみると、俺は哀しかったんです。
彼女は堕胎手術を受けたようです。
両家揃っての話し合いから彼女に逢わせてもらえなかったし、それ以来両親はこの話題を避けていたので本当のところは分かりません。
つるんでいた不良グループのリーダーとも話して、……殴られました。
『……済みません。折角紹介してもらったのにこんなことになって……』
『俺に謝ってもしょうがねぇだろうが!』
『……』
『自分が好きになった女くらい哀しませんじゃねぇよ。……その辛気臭ぇツラなんとかできねぇならもう俺たちの前に顔見せんじゃねぇ』
『……はい。ありがとうございました』
『……チッ。何に対する礼だか分かんねぇな』
グループを抜ける時は大体半殺しの目に遭うのが普通です。リーダー直々の追放は仲間たちにそれをさせない為だと分かりました。
それから真っ当に学校に行って、暫くして勇者の紋章が浮かび上がったんです。
正直、俺に似合わな過ぎる肩書きに自嘲しました。
魔王を封印したらまた日常に戻る……そう思ってました。
『お前……今までの勇者とは違う』
『……? 勇者に似つかわしくないという点は俺も思うところですが』
『そうではない……。お前が、欲しい。相対するだけで胸が高鳴っている。煩わしいはずなのにお前ともっと話していたい。お前を知りたい……ソアラ、私はお前に恋をしたようだ』
(恋……? こんな綺麗な人がガキの俺なんかに……?)
冗談や演技には見えない。
本気だと気付くと、アルカナさんに充てられたように顔が熱くなって、初めて恋に堕ちた感覚を覚えました。
『表情はよく見えんが、耳が赤いな。髪によく映える』
『……』
アルカナさんに好意を持ってもらえて嬉しかったし、凄く、ドキドキしました。でも、こんな過去があると知られたら、嫌われてしまうんじゃないかと思うと、怖くて、すぐに答えを出せなかったんです。
魔王と勇者でなければ次期魔王は生まれないとアルカナさんから聞いて、きっと俺が断ればまた何百年……もしかしたらそれ以上に代替わりの相手が見つからないかもしれない。それに、哀しませてしまうかも……そう思いました。
今度こそ、大切な人を哀しませたくない。
この話しも、するかどうかも迷いました。まだガキな俺がアルカナさんに応えちゃダメだと思ったんです。
法律的には成人したけど、俺としてはまだまだ大人とは言えない。
大人ってどういうことなのか、この3年考えました。
自分の言動に責任を持つことだと、結論付けました。
「俺は一生涯アルカナさんを愛すると誓います」
体裁上、この作品はR15と設定していますが、正直なところ10代以下にも読んでもらいたい。
性に関すること、生きづらさ、何かひとつでも心が軽くなるヒントになればいいなと思い書いています。
コンプラで厳しく制限される一方で日本の性教育が行き届いてない現実をなんとかしてほしい。
いや、なんとかしたい。
人間の3大欲求とまで云われる性欲を学ぶ機会がないどころか、子どもたちを遠ざけようとするのは間違っていると思っています。
初体験の年齢が18歳以下なのもザラだというのに。
自分の身体のこと、行為の際の相手の言動、大切にしてほしいこと、まだまだ伝え足りないので番外編を書くつもりではありますが、やはりR15設定にはしなくちゃいけないんだろうなと思います。
まだ1文字も書いてないですけど。
R18にならない程度に抑えるのも大変な気がする……。
本当に読んでもらいたいのは未成年なのに届ける手段がない。特に小説は。
とりあえず、明日で本編最終話です。
最後までお付き合いくださいませ。
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