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#76 最後の青い炎

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。


 本当に暗殺者……いや、暗殺技術を教えられた子だったんだ。

 そんなことを聞いてしまったら、もう何も言えない。クロスの好きな最期を迎えさせてあげたい。


「ねぇ、もしクロスがアルカナを封印せずに死んだらどうなるんだわ?」


 唐突な問いにも関わらずアリストがさらりと答えた。


「恐らく何年後かにまた新たな勇者が生まれるだろう」

「じゃあ封印はしてもしなくてもいいんだわ。あたしはクロスにずっとここにいてほしいんだわ」

「アトラージュ……」

「私は構わん。そうしてくれたほうが父君の死に目に逢える」

「じゃあ決定なんだわ!」

「ありがとうございます……」


 安心したような、アトラージュに感謝しているようなはにかんだ笑顔だった。




 クロスが60歳になるとお店を閉めた。

 もう誰も使わなくなったお店兼シェアハウスは、1階も住めるよう改装し、全部屋シェアハウスとして貸し出しを始めた。カヴァーリという大きな街が近いとはいえ立地は悪い。けど景観は良いから短期賃貸可にして貸別荘みたいな扱いのほうが需要があるかもしれない。


 キザシたちとは、ちゃんとしたお別れはできなかった。

 元々知り合いが死ぬという哀しみを味わわない為に決めたことだけど、もう逢えないんだと思うとやっぱり寂しい。


 クロスは老眼になってから服を作るのが大変だったようで、手縫いしてるとよく指を刺していたらしい。

 なので専ら絵を描くようになり、私が水彩絵の具での塗り方も教えて楽しそうな隠居生活を送っていた。


 寝たきりになっても、アトラージュとのお喋りが変わらず楽しそうだった。


「ぼく、勇者にえらばれてほんとうによかった……いえを出ても行きさきがあったこともだけど、アトラージュに逢えたことがいちばんの奇跡だった。ぼくにかわいいって言ってくれて、ほんとうにうれしかったんだ……」


 この子はいつも可愛いことを言う。


「可愛いものは可愛いんだわ。なんでみんながクロスの可愛さを分かんないのか不思議だったんだわ」

「……ぼくとさいごまでいっしょにいてくれて、ありがとう」

「あたしも嬉しいんだわ……。クロス以上に好きになる人なんて、きっといないんだわ」


 アトラージュの言葉が涙で濡れ始める。


「ないてくれて、ありがとう……さいしょでさいごの、ぼくのすきなひと」

「クロス……っ、死んだら嫌なんだわ……!」

「ごめんね……ずっとそばにいられなくて……。フィエスタさん、アトラージュを、よろしくおねがいします」


 私はしっかりと頷いて見せた。


「クロス……」

「アトラージュ……きみだって、かわいいんだよ。じぶんを、すきになって。ぼくはきみのおかげで「こんなじぶんでもいいんだ」って、思えたんだ……きみに、すくわれたんだ」

「……っ」


 アトラージュは寝ているクロスに覆い被さり、抱き締めた。


「……ありがとう、アトラージュ」


 クロスはひと筋涙を零して瞼を下ろす。


「……ねぇ、フィエスタ、クロスの鼓動が……どんどん弱まっていくんだわ……クロス……死なないで……っ」


 私は何も言葉を掛けられなかった。


 泣き疲れて寝てしまったアトラージュにブランケットを掛けて、部屋を出る。

 翌朝になってクロスの部屋へ様子を見に行くと、アルカナがいるだけだった。


「……おはようなのよ」

「おはようフィエスタ。今朝方クロスの気配が消えたから見に来たが……今鍛錬場の棺に転移させたところだ」

「そう……なのよ。アトラージュには逢ったのよ?」

「ああ……気落ちしていた。人間の大きさになる気力がないようだった」


 契約で主と同じ姿を取れるようになっても、油断すると元の姿に戻ってしまう。寝てる間に戻ってることがよくある。

 普段気を張ってるわけじゃないけど、やっぱり元の姿のほうが楽な感じがする。


 アリストとシエラを呼ぶと火葬を行った。

 アトラージュは魔石で呼んだけど来なかった。

 ひとりで泣いてるんだろうか……。クロスに頼まれたけど、私に何ができるんだろう……。


「フィエスタ、アトラージュは見張り台にいる」

「……ありがとうなのよ、アルカナ」


 螺旋階段を登るより早いと思って頂上まで飛んで向かう。

 朝日を見るように、妖精の姿でアトラージュはいた。


「火葬……終わっちゃったのよ」

「……あれは人間の儀式なんだわ。クロスが焼かれるところなんて……見たくないんだわ」


 死ぬと光になる妖精とは弔い方が違う。光が大樹へ迷わず戻れるように祈るのが妖精の作法だ。でも人間は大樹へは戻らないから、この作法が当て嵌まらない。

 だからとりあえず天に近いこの場所に来たのかな。


「……勇者リオのこと、スケコマシなんて言ったけど、撤回するんだわ……」

「……え?」

「いろんな経験をくれた人が死んだら、何百年と塞ぐ気持ちが今なら分かるんだわ……」


 あ、そういうこと。急に何かと思った。


「……妖精の森にいたんじゃ絶対に見られなかったアトラージュがいっぱい見られたのよ。良い出逢いだったのよ」

「良い出逢いだったんだわ……。勇者は妖精にとって、特別な存在なんだわ……。連続で勇者と契約したフィエスタの悪口が広まるわけなんだわ」


 分かってたことだからそれ自体はもうどうでもいいんだけど、アトラージュってひと言多いのよね。


「……人間って本当に、短命なんだわ」


 クロスは勇者のマナを纏っていたお陰か、平均寿命より長生きして享年78歳だった。

 リオは正確には寿命ではなかったけど、享年57歳。一緒にいられた時間は、とても短かった。




 その数か月後、アリストが寝たきりになった。

 魔王でいた期間が短かったのが影響してるのか分からないけど、もう100歳を越えているはずだ。杖でも歩き回れていたのが不思議なくらい。

 たまに廊下で立ったまま寝てるのを見掛けて器用だなと思った。勿論、転倒したら危ないからすぐ狼たちを呼んで運んでもらったけど。


「アリスト、起きてるのよ?」

「……ああ、ひまをしていたところだ」

「リーフの絵飾ろうかなって思って。初代からもリオの絵描いてって頼まれたから需要あるかと思ったのよ」

「それはいいな……見たい」

「じゃあ選んでなのよ」


 初代の時と同じように紙芝居のように見せていく。


「これは……」

「気に入ったのあったのよ?」


 反応があった絵を見てみる。

 パノス領主の屋敷で見たメイド服を着せた、若かりし頃の想像リーフだった。凄い不服そうな顔をさせている。


「絵というものはおもしろいな……。見たことのないすがたも見られる」

「これにするのよ?」

「いや、リーフにおこられそうだ。やめておく」

「目に浮かぶのよ」


 飾る絵はよく笑うようになった頃に描いた笑顔のものだった。


「リーフは……言うといやがるだろうと思って言わなかったが、くったくなく笑うかおがかわいかった。シワがふえても、いつまでも子どものようだった……。よくかけている」

「ありがとうなのよ」

「わるい、もうねむい……」

「分かったのよ。おやすみなのよ」


 アリストはその半月後に息を引き取った。


 もう大分前から火葬場と化している鍛錬場の真ん中に、アリストが入れられた棺が置いてある。

 そこへアルカナが炎魔法を放つ。

 初代がリオを葬ってから、この炎は青色で統一されている。

 そしてまた、領主のドラゴンが弔問に来た。今は冬だからアイスドラゴンだ。

 次に領主と逢うことはもうない。アルカナが勇者と恋に堕ちて4代目を生んだとしても、私は先に光となって死ぬ。

 もうこの城には、魔王と魔族しかいない。ちょっと前まで……は妖精の感覚だけど、あんなに人がいたのに。


 転移で食堂に飛ばしてもらうと、シエラが朝食の準備に厨房へ向かう。アルカナもついていったようだ。

 出来上がりを食堂で待とうとも思ったけど、温室でのんびりしてようかな、と思い直す。

 通り道である厨房を通り過ぎようとした……ら。


「……っ」


 ん? なんか目の端で捉えた影が重なっていたような……。

 こっそり中を覗くと、アルカナの背に縋り付いてるのはシエラ……だよね? って、てかこの淫靡な音は!!

 めっちゃキスしてるじゃあぁああん⁉

 いつからそういう仲にぃいいぃい⁉


 シエラが私に気付いて、焦ったようにアルカナの背をタップした。


「あるかな、さ……、み、見られてっ」

「ん? ああ……」


 私の気配は分かってたよね⁉ だけど止めなかったんだよね⁉


「ご、ごめんなのよ……覗くつもりじゃ……で、でも、いつから……?」


 動揺でどもりまくるわ。

 シエラがばつが悪そうにしているのを見て、アルカナが代わりに答えた。


「お前からリオの最期を聞いたあとだったか……お前を抱き締めた時心が安らいだ。それをシエラにも頼むと受け入れてくれた。それからだ」


 受け入……どこまで⁉

 60年以上前からとか全然気付かなかったんですけど……⁉


「……ま、まぁ合意なら私がとやかく言うことじゃないのよ……。でも、もうちょっとひと目の付かないとこでお願いするのよ……」

「分かった」

「あ……あの! ちゃんと、分かってます! アルカナさんのお気持ちを優先させること……だから、その時までは……どうか」


 アルカナに本命がいないのに愛人関係だってこと?

 好きな人に触られて嬉しい気持ちは分からなくはないけど……不健全というか、誠実じゃない。


「とやかく言いたくはないけど、好きだって気持ちを抑えるのはいい加減やめるのよ! アルカナだってそのほうが嬉しいのよ! 同情だとか罪悪感だとかそんな感情は捨ててアルカナを一途に愛して、「私だけを愛してほしい」くらい言ってのけてくれないと応援しにくいじゃない⁉」


 ――はっ! ついカッとなる癖が……!


「……おう、えん」

「……ごめんなのよ、つい。……ずっと前、アルカナは「勇者と恋に堕ちるかも分からないのに心配するなんて不毛だ」って言ってたのよ。本当にそうだと思うから、アルカナに選ばれ続けるようにシエラが頑張ればいいことなのよ。その為にも、卑屈になるのはやめて」

「……私、こんな関係はやめるべきだと言われるものとばかり……」

「言われてやめられるものなのよ? だってアルカナに求められてるんでしょ? シエラに拒めるわけないのよ」

「あう……それはそうです」

「――って、いろいろ言ったけど今更性格を変えろなんて難しいって分かってるのよ。時間はたっぷりあるし、変わろうと思うところから始めるのよ」

「……はいっ」


 完全に邪魔しちゃったけど「ご飯できたら呼んで」と言い残して厨房を出た。


「フィエスタはいいやつだ……」

「素敵な友達なのです……」


 カッとしちゃったのが恥ずかしくなるからやめて……!!


〔フィエスタ、感謝する。何かもやもやとしていた原因が、少し分かった〕


 念話でアルカナの声が届いた。

 やっぱり態と関係をバラしたんだ。

 シエラの態度にもやもやしててもマイナスの感情に傾かなかったのは、感情のコントロールが上手いからだ。

 褒め言葉なのか微妙なところだけど、アルカナは良い魔王だ。


「シエラのことどう想ってるのか、近いうち聞かせて」

〔ああ……〕

Copyright(C)2024.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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