クロス語り
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
僕の家はちょっと特殊で、家系魔法と呼ばれる代々その血筋に受け継がれる魔法がありました。オーリス家のそれは、マインドコントロール。
今では裏の筋の人しか知らないことらしいけど、家系魔法を利用した家業は未だに続いています。
簡単に言えば、暗殺です。
オーリス家の子どもは暗殺の英才教育を受けます。教師は父親で、昼間は普通の学校に通っています。ある程度コントロールできるようになると裏家業の手伝いをさせられるらしいです。
らしい、というのは、僕に魔法の才がまるでなかったから。
今となっては勇者のマナ制御が邪魔をしていた所為だと分かるけど、僕は所謂落ちこぼれで、オーリスの血筋でありながら家系魔法を受け継がなかった異例の存在でした。
『お前、俺以外と関係を持ってあいつを産んだんじゃないだろうな⁉』
『な……ッ、何言ってるのよそんなわけないじゃない⁉』
『だったらなんであいつは俺と同じ魔法が使えない⁉』
『知らないわよそんなの⁉』
物心付いた頃、両親の仲は既に悪かった記憶しかありません。
父は魔法は諦め、僕に他の暗殺術を叩き込みました。体術・剣術・毒……当時は人を殺す為の術(すべ)だなんて思いもせずに学んでいました。その中でも剣術は好きで、楽しいとさえ思ってた……。
両親は仲が悪いながらも、僕に双子の弟ができました。父が魔法を使ったんでしょう。
弟たちはとても可愛かったから、僕は育児をする母の手伝いを進んでしました。
母は、父への疑念を僕に吐露したことがあります。
『あの人はクロスに……この子たちに何をさせようとしてるのかしら……。クロスは、平気? あの人に何かひどいことされたりしていない?』
『……されてないよ?』
『そう……。この子たちも、そうだといいんだけど……』
“父と同じ魔法”がなんなのか、知ったのは弟たちが拙く話せるようになってきた頃でした。
『ご飯ちゃんと食べなさい!』
『やーだ!』
『言うこと聞きなさい!』
『やッ!!』
『……そう、じゃあ、仕方ないわね……』
母は人が変わったように弟の「嫌」を受け入れたんです。怒りの感情もどこかに行き、まるで無感情で……、人間とは思えない落差でした。
『……おかあさ』
『凄いじゃないか! こんな幼い時から意のままに操れるなんて! お前は天才だっ!!』
父は歓喜して弟を抱き上げました。僕には一度もそんなふうにしたことはないのに。
その様子が異様に思えて、言葉が出てきませんでした。
もうひとりの弟も、口煩い母に魔法を使うようになりました。自分たちの言うことを聞く母が面白いらしく、弟たちは無邪気に魔法を使っていて、でも、僕にその魔法は効かなかった。それが気に食わなかったんでしょう。父も僕のことを落ちこぼれだと教えていたこともあって、次第に弟たちに見下され始めたんです。
僕は別に、それでもよかった。でも、母を見てるのがつらかった……。
『お母さん……大丈夫?』
『どうしたの? 大丈夫よ。クロスと話しているとなんだか落ち着くわ……』
『……気分が悪かったりしない?』
『最近ぼーっとすることが多くなった気がするけど……クロスが心配するようなことじゃないわ。大丈夫よ』
魔法に掛かってる間の記憶はないようで、効力が切れても暫くは意識がぼんやりしていました。
弟たちにバカにされ笑われている記憶がないことは、よかったのかもしれない。
『まっすぐ縫えてるわ上手じゃない! 私より才能あるかもしれないわね』
裏家業のお金は家に入れられてなくて、母は自分で作った服を売って家計の足しにしていました。
『うちにも女の子が生まれたら着せたんだけど……』
『僕が着るよ』
『クロスは男の子でしょ? 似合わないわよ。無理して着なくてもいいわ』
『……』
母にはそう言われたけど、僕は自分のサイズに合わせて何着か作ってこっそり着ていたんです。
服は可愛いのに、鏡に映った僕は母の言う通り似合ってはいなかった。
ある夜、父は弟たちを連れてどこかへ出掛けました。帰ってきたのは日付が変わってからでした。外で話す弟たちの声が聞こえて僕は目を覚ましたんです。
『あーっまだ興奮が治まらないよ!』
『見たかよあのアホ面! 自分で自分の首を絞めて泡噴いて』
『あれは最高だった!』
『お前たち、声のボリュームを落とせ。初めての殺人に興奮するのは分かるがな。初日にしては上出来だったぞ』
耳を疑いました。
人を殺したことも、それを嬉々として語り被害者を嘲笑うことも。
同じ人間だとは思えなかった。
同じように母も起きていたみたいで、寝室の扉が開いた音がして、僕は嫌な予感がしたけど布団を被ってやり過ごそうとしました。
それでまた声が聞こえ始めたんです。
『あなたたち……今、なんの話しをしていたの……?』
『……聞いたのか?』
『だから……なんの話しなのよ⁉』
『お前たち、こいつはもう用済みだ。遊んでいいぞ』
『じゃあ僕からだ!』
『なにを……』
『ずるいぞ! 同時にやってどっちの魔法に掛かるか勝負だ!』
何が起きてるのか想像もしたくないのに、暫くして聞こえてきた弟たちの笑い声で、否が応でも何が行われたのか理解しました。
僕は翌日の学校を仮病で休んで、家に誰もいなくなった時を見計らって荷物を纏め家を出ました。その間に手の甲に紋章が浮かんでるのに気付いて、その足でシュタインメッツへ向かったんです。
母の姿は、どこにもありませんでした。
「あの家に僕の居場所はありません……。父と弟たちとは……できればもう、会いたくない」
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