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#74 崩御

 この物語のテーマはジェンダーです。


 物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。

 必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。


 また、一部過激な描写を含みます。


 リーフの火葬が終わると、アリストは初代ほど落ち込みはしなかった。

 やっぱり初代に命を奪わせたのはリオの策略だったのかな……恐ろしい子。

 長生きするだろうという予想通り、初代はまだ健在だ。正確な年齢が分かんないけどリオが15歳の時20代くらいの見た目だったし、仮に25歳として10歳差だったら今は91だ。平均寿命70前後のこの世界では異例と言える長生きだ。100歳くらいまで生きるんだろうか?

 アリストが100歳まで行ったらクロスのほうが先に寿命を迎える可能性が高い。


「……で、クロスとはどうなのよ?」

「どうって?」


 妖精の時間感覚だからすっかり聞きそびれてた。もうクロス41歳だわ!


 お店は順調でオーダーメイド注文も月1くらいで入ってきている。

 16歳の頃に比べるとガタイがよくなってるけど、ロリータファッションはシルエットが綺麗に見えるように工夫して今も着ている。顔がイケメンだからかそれほど違和感はない。因みに髪は短いままだ。ポリシーか何かなの?

 髪長いほうが私の好みってだけなんだけど。


「結局、付き合ってるのよ?」

「何言ってるんだわ? クロスとは……、付き合ってるようなものなんだわ?」

「でしょ?」


 妖精で言う“付き合ってる”は一緒にいる時間が長かったり、お互いに誰よりも優先する、という程度の関係だ。それにクロスとアトラージュは当て嵌まる。


「でも確認したことないんだわ。それに人間って性欲ってものがあるんでしょ? そんなもの向けられたことないから、クロスにとってはあたしは恋人の対象じゃないってことなんだわ?」


 そうなんだよな……。

 クロスと一緒に暮らして結構経つけど、未だに掴めないというか、不思議な子だ。

 アトラージュの様子からしてお店のお客さんともそういうのなさそうだし。

 ノアみたいなアロマアセク……恋愛感情も性的欲求も抱かない人なのかな?


「ううん……人間だからって必ずしも性欲があるわけじゃないのよ? センシティブなことだからその辺訊きにくいのよ……」

「クロスなら訊けば教えてくれるんだわ?」


 確かに。自分からオープンにはしないけど隠すつもりとかはなさそう。

 行動力が凄まじいアトラージュは早速隣の部屋にいるクロスに突撃した。


「クロス、ちょっと訊きたいことがあるんだわ」

「アトラージュ、何?」

「あたしのことどう思ってるんだわ?」


 直球だけどクロスにとっては変化球この上ない。全然話し分かんないから。


「どうって?」


 それさっきアトラージュが訊き返したやつ!


「妖精としてはあたしとクロスは付き合ってるってことになるんだけど、人間だとそうはならないんだわ? クロスはあたしを性的に見たりしないんだわ」

「……な、何? なんの話し?」

「クロスって性欲はあるんだわ?」


 ズケズケ訊くなぁ……。


「……どうなんだろう? そういうことに興味が持てないからないのかもしれない。えっとつまり……アトラージュが訊きたいのは、恋愛対象として僕がアトラージュを好きかってこと?」

「そうなんだわ!」


 支離滅裂な言葉でよく理解したな。頭の良い子だ。

 妖精と同じでアセクシュアルなのかな。


「好きだよ」


 え、えぇええぇさらっと告ったぁああ⁉


「でもアトラージュが言ったように性的に見たりは、多分できない。今の関係性に満足してるから」

「私も満足なんだわ!」

「そうか……妖精は長寿だから元々性欲がないんだ」

「命の生まれ方から違うんだわ」

「僕とアトラージュは良いパートナーってことだね」

「そうなんだわ!」


 似た性的指向同士っていうのは衝突がそんなにないかもしれない。勿論それ以外の要因で別れることも多いだろうけど、このふたりにそれは心配ないかな。もう数十年一緒なんだし。

 想いを確認し合っただけで、これから何かが変わるわけでもないんだろう。




 そんな小さな変化がありつつ6年が経った頃、初代が床に臥せった。世話は狼たちが交代しながら見てくれている。

 特に初代に用もないしこのままお別れかな、と思っていたら、急に転移させられた。


「び、びっくりするのよ!」

「わるかったな、きゅうに」


 って、大分前に描いたゼスリオのバックハグいちゃ絵が飾られている⁉ いつから⁉


「ああ……あの絵は、とても気にいっている……。リオが、とても愛らしくえがかれている……」

「……私も、リオのこと好きだったから……ううん、今もずっとなのよ」

「……おれもだ。あいつはほんとうに、ひどい人間だった……そんなところも、いとしかった」


 リオが死んで30年だ。

 未だにこんなに想っているなら、魔王として何万年と生き続けてきた時よりも永く感じた30年だったかもしれない。


「……転移させるのもひと苦労なのよ? 何か話しでもあったのよ?」

「絵を……かいてほしい。リオの……そうだな、はじめて逢ったころの」

「……それなら何枚も描いてるから持ってくるのよ。ちょっと待ってて。転移は使わなくていいから」


 私は自室に行きリオだけ描いたものをざっと選んで集める。流石に18禁はやめておこう。身体に障るわ。

 初代の部屋に戻ると、紙芝居のように1枚1枚見せる。最近描いたものから順番になってるはずだから段々若くなってるはずだ。


「ああ……なつかしい。こうして見ると、おさないな……」


「……勇者になってからのリオとずっと一緒だったのに、心が、限界を迎えてるなんて私気付けなくて……きっと気付けていても何もできなかったのよ……。だから、リオを幸せにしてくれて……ありがとうなのよ」

「……おまえは、親のようなことを言うな。ギアよりもよほど親らしい」

「……私に子どもなんていたことないのよ」

「妖精なのだから、あたりまえだろう……。リオをしあわせにしたと言うよりも、おれがしあわせをもらった。リオとともにいられたのは、たかだか40年とすこしだったが……とても、かけがえのない時だった……」


 リオの前では見せていたのかもしれないけど、珍しく凄く穏やかな笑みだ。


「……ノアが亡くなった日に、夢を見たのよ。リオとノアと、ノアそっくりの母親が笑い合ってる夢……。きっとリオは、あなたと一緒に生まれ変わる為に、待ってるのよ」

「……それは、ずいぶん待たせてしまっているな……」

「あなたが自死してしまわないか見張ってるかもなのよ?」

「……ありえるな。なんどか、そう考えた時もあったが、まいかいリオのことばを思い出してふみとどまっていた……。はやく逢いたいのに、ほんとうに、ひどいやつだ……」


 言葉とは裏腹に、その眼は「愛しい」と訴えながら私の絵のリオを見つめた。

 そのままリオに言ったら、きっと「済まない」って笑うんだろう。


 初代に言われて、私が持ってきた中で1番気に入った絵をバックハグ絵と差し替えた。


 それから数日後に、初代は息を引き取った。




 アルカナが初代の火葬を行っていると、地響きのような音が聞こえた。


「な……なんです⁉ 地震……にしては揺れが続きません」

「何か来たな……近くに転移する」


 アルカナがそう言うと“何か来た”場所まで全員を転移させる。

 一応室内だから安全なのかな? 嵌め殺しの窓の外には、なんか巨大過ぎて足しか見えないんだけどなんの足⁉

 アルカナだけが外へと転移する。


【お初にお目に掛かる、現魔王よ】


 これは念話? この足の持ち主?


「話しには聞いていたが、領主のドラゴンか」

【いかにも。名はヴァーソ・アバルト】


 ドラゴン⁉ それに領主って……確かにアバルト領って言う割に魔王のファミリーネームはヴェラールだから不思議には思ってたけど。ドラゴンの領主がいたのか……。


【初代魔王が崩御されたと察知し、弔問に参った】

「そうか。感謝する」

【永きに渡り使命を全うされた初代魔王に敬意を】


「アリスト……魔王と領主ってどういう関係になるのよ?」

「関係と言うと希薄だが、魔王は魔物を統べる、領主は土地を統べる者だ。領内での諍いが激しくなると魔王は魔物を鎮め、領主は場合によっては森を一部更地にする。再生させるのも役目だから致し方ない時だけらしい」


 土地神なの? とにかく偉いドラゴンなのね。

 とはいえドラゴンも魔物の一種だから魔王の配下ではあるはず。


「私たちがここに来てから今まで、魔物が諍いを起こしたことはないと思うのですが……稀なことなんですか?」

「魔王がマイナスの感情を持つと領内の魔物も暴走しやすくなる。動物に現れる角のような供給システムはないが、体内の魔素が騒ぎ始め我を失うようだ。人間のほうから多くの魔素が供給されるとまず魔王に行くが、溢れた魔素は森に行く。濃い魔素を浴びることによって魔物たちの暴走が鎮まるようになっている」


 影響は人間の街だけじゃなかったんだ。

 ってかこんなにアリストが喋ってるの珍しい。解説は初代の役目だったからなぁ……。


【ここ暫く森には安寧が訪れている。現魔王の心の強さには感心している。願わくは使命を全うするまで穏やかに過ごされよ】

「うむ。善処している」

【2代目も間近か……。またいずれかの者が参ろう】


 アリストによると、風・炎・地・氷属性を持つドラゴン4体が持ち回りで領主をしているらしい。今は夏だから炎属性のフレイムドラゴンだ。


「父君が亡くなる前に私は封印されるかもしれん。そうなれば誰も出迎えはできん」

【そうであったか。どういう状況であれ顔は出すだろう。他の者にも伝えておこう。では、これにて】


 とても短い滞在時間だったけどドラゴンは森の奥へと帰っていった。


「南下していくドラゴンなら見たことあるけど、あんなに大きいんですね」

「領主の4体は特別巨体らしい」


 クロスの故郷ストーラはアバルト領より南にあるから通り道なんだろう。

 アバルト領の冬はなかなか寒い。フレイムドラゴンたちは南で越冬し、海の真ん中にある無人島でバカンス、は有名な話しだ。任期以外の時は他の属性のドラゴンもそれぞれにバカンスしてるのかな?


 アルカナが室内に転移で戻ってきた。


「クロスは親のいるうちに帰ったほうがよくないのよ?」


 そろそろ封印のタイミングを詰めていったほうがいい。

 クロスがこの城で死んだら次の勇者が生まれるまで亡骸を放置することになってしまう。どこかで故郷に帰らないと。


「……いえ、僕の家は……」

「? 帰りたくないんだわ?」

「……うん」

Copyright(C)2024.鷹崎友柊

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活動報告にもSS載せてますので
覗いてみてください(´ω`*)。

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