#73 心の仕え
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
「お兄ちゃんが亡くなる少し前に受けたクエストで、一時的にパーティーを組んだ男性のひとりから「結婚を前提に付き合ってほしい」って言われたの。結構年下の子だったわ」
リオと同じで童顔……美魔女だから有り得る話しだ。寧ろ年下のほうが若さという武器でノアにアタックできたんだろう。
「手を握られて……誠実そうな印象だったのよ? ……でも、無理だったの……。触られたことで嫌悪してしまって……その人がどうこうって訳じゃないの……。私はきっと、性的なことを含めた「好き」に嫌悪したのよ……。お兄ちゃんたちやリーフたちの幸せそうな顔を見るのは好きなの。でも自分に向けられたものは、ダメだった……私はそういう意味で人を好きにはなれないのよ……」
悩んでる時に追い打ちのようにリオがいなくなって、落ち込まないはずがない。やっぱり空元気なのかな……。
「ノアさんは完璧主義なところがありますし、そんな自分に欠陥みたいのを感じてるかもしれないっすけど、ダメなものはダメなままでもいいじゃないっすか。そこも含めてノアさんっすよ。もし孤独死を不安に思ってるなら城に戻ってきますか? 僕たちが看取りますよ」
「……私、なんでも受け止めてくれるリーフが好きよ。少しお兄ちゃんに似てるのよね……」
「それは光栄っすね」
「ギルド辞めて城に引き篭ろうかしら」
「僕も剣の相手がいるのは嬉しいっす」
いい友達関係だなぁああ。
私はあまり人に深く踏み入ることができない性質だから、薄っぺらな人間関係しか構築できない。こういう、深い関係になれる人を凄いと思う。
翌朝、賄いご飯を食べているとドアがノックされた。さっき食事を持ってきてくれたイースさんが戻ってくるのも変だし、誰だ? と思いつつリーフが出迎える。
「リーフ……本当に……! 素敵な女性になったな……あ、いや、お前は心は男性なんだったな……失言だった」
「……領主さま。お帰りなさいませ」
この人がイースさんと不倫してた領主……。昔やんちゃしてた雰囲気を感じさせるイケおじだわ。
それにしてもリーフは父親であってもご主人様対応が染み付いてる。なんて綺麗なお辞儀だ。
演説でのリーフのカミングアウトについてイースさんは特に何も言ってなかったけど、もしかしたらそんなのどっちでもいいって思ってるのかな。気にしなさそうだし。
「何故こんなところで朝食をとっている? 勇者になんて待遇をしてるんだまったく……」
「あ、いえ……母が気を利かせて友人たちだけでの食事にしてもらってるんで」
「イースが……それならばいい」
「帰る前に領主さまに逢えてよかった……。屋敷で雇ってくれてありがとうございました。母も、僕のことも守ってくれたお陰で今生きてます。それを言いにきました。もうここには帰ってきません。お世話になりました、……父さん」
「……リーフ」
領主の涙腺が緩んできてる。
リーフが前に語った話しから察すると、周囲へは覚醒後に親子関係を発表したみたいだし、リーフが領主をそう呼べたのは初めてなんだろう。
「屋敷に来ても、お前たちはつらいことが多かっただろう……。すべてを止め切れなかった己の不甲斐なさを呪った……こんな私に礼など要らない。寧ろ私に言わせてくれ。何も投げ出すことなく生きていてくれて、ありがとう……」
「……はいっす」
「それで……その、魔王とは、どうなんだ? 上手くやれているのか?」
急なテンプレ父親ゼリフに噴きそうになったわ。
「魔物が暴れないってことは上手くやれてはいるんだろうが……」
「……母さんが後で言いそうだし挨拶しときますか? アリスト」
「え?」
私たちへ振り返ったリーフが呼び掛けると、鞄に隠れていたアリストがリーフの服を凄い速さでよじ登る。リス俊敏過ぎ。
【リーフの父上、逢えて嬉しい】
「ま、魔物が喋った⁉」
これまたテンプレをどうも。
これが普通の反応だ。
「魔物を操ってるんすよ」
「見た目は可愛いリスなのに確かに威圧感というか……禍々しいオーラがある……本当に魔王なんだな」
【2代目のアリスト・ヴェラールだ。リーフを勇者になるまで守ってくれてありがとう。お陰でリーフと逢うことができた】
「……なんだ、礼儀正しい人じゃないか。イメージしていた魔王とは随分違う……。そういえば演説でリーフがベタ褒めしていたな」
「いやそこまではしてない……、はず」
「リーフを、よろしく頼む」
【無論だ】
リーフは両親への挨拶の為にもアリストを連れてきたのかな。
イースさんからお昼にとお弁当を持たせてもらって、私たちはパノスを後にした。
好都合にもお目が高い領主は私の服に言及してくれたので、ばっちりATTRAGEの宣伝ができた。この服で来た甲斐があったってもんよ。奥方でも誰でもいいからオーダーメイド注文してくれないかな。
ノアはブリストルのギルドで傭兵契約を解除する為に途中で別れた。
とても惜しまれるだろうな……。でも魔物が暴れなくなって傭兵としての仕事は大分減ってるらしい。ノアほどの戦力はこの平和な時代、もう必要ない。
城にノアが戻ってきて、私たちはあまり変わり映えのしない毎日を過ごした。それでも妖精の森より全然マシだ。魔法具の完成図を描いたり手伝えることもある。
そうしてリオが亡くなってから5年が経とうとした頃、ノアは寝たきりの状態になった。
私が看病……は意味が違うかもしれないけど、身の回りのお世話をした。
「このねむさ、ぎそくをつけた時とにてるわ……こんどはほんとうに、死ぬのね……」
「ノア……。何かしてほしいことあるのよ? 私に初代と同じことはできないけど、他のことなら――」
控えめなノック音が聞こえて、私はドアを開けに行った。
「……ノアは?」
「ギア。来てたのよ? 今は起きてるのよ」
「……入っても、いいかな?」
「……いいわよ」
ギアはノアを暫く見つめると、椅子に腰掛けた。
「私ももういい歳だ。ゼストたちの魔法具やクロスのお店のことを、狼たちに引き継ぐことにしたんだ……」
城の家事をしてもらう為に、ローグ一族にはレヴァンテ以外にもアルカナと契約してもらっている。
「ノア……向こうで、リオに逢えたらいいな……」
「……わたし、むかし言ったわよね。したいことがあるならするべきだって……あなたは、そんなことを言うためにこのへやに来たの?」
語気が弱くたって、ノアの直球なところは変わらない。
「……はは、カローラに叱られているようだ。……私たちの娘に生まれてくれて、ありがとう。つらい経験を沢山させてしまって、済まなかった……ノアの気持ちが、ずっと訊きたかった。私を……恨んでいるか」
「……なんの感情もわいてこないわ。あなたが気にすることはないのよ……。でも、そうね……わたしにおにいちゃんがいたことは、幸せだったわ……あなたのおかげなのか、わからないけど」
ギアはいっそ恨んでると言われたほうが心が軽くなったのかもしれない。親でいながら親として扱われないこの数十年、ギアはきっとつらかったはずだ。リオが寝たきりになった時も、リオはギアを呼ばなかった。どう思っていたのか、もう訊くことはできない。
「……それはきっと、カローラのお陰だ。君たちのお母さんは、とても明るくて、眩しいくらい前向きな人だったよ。きっと空の上でリオと一緒だ。顔なんて憶えてなくても分かるはずだ……ノアはカローラにそっくりだから」
「やだ……それは逢うのがたのしみね……」
薄く微笑むと、静かな寝息を立て始めた。
ギアはその様子を暫く眺め、やがて席を立つ。私に「ありがとう」と言い残し部屋を出た。
ノアはこのまま目を覚まさない気がする。
夜通し様子を見ていようとしたけど、眠気に勝てなくて寝てしまった。
起きた時には、既にノアの呼吸は止まっていた。
「空の上で幸せそうなリオたちの夢を見たのよ……ノアが、見せてくれたのかな……」
初代に連絡して、ノアの火葬が執り行われた。
更に19年後、次はリーフの番だった。
身の回りの世話はすべてアリストがしていたので私の出番はなく、どういう会話をしたのかはほとんど分からない。
亡くなる少し前、「リーフが呼んでる」と言うので部屋にお邪魔した時のことだ。
「フィエスタさん、なんかひさしぶりっすね」
「アリストがいるから私がやれることないのよ。何か訊いておきたいことでもあったのよ?」
「リオさんもノアさんも、さいご……立ち会ったんすよね? どんなふうに、ぼく死ぬのかなって」
「……ノアは、眠ってそのまま起きなかったのよ。きっとリーフもそうなるのよ。リオは……、初代の手を借りたのよ」
一緒に聞いていたアリストも驚いた表情を見せた。
「それって……あははっ、リオさんやるなぁ」
「? 何がなのよ?」
「え? だってじぶんが死んだあともずっとじぶんのこと考えるように仕向けたんすよ? どくせんよくハンパないっす」
え……アレそういうことだったの?
「じゃあアリストにもおねがいしようかな」
「……勘弁しろ」
「くふっ、しませんて。フィエスタさん……いろいろ話しきいてくれて、ありがとうございました。たのしかったす」
「……私もなのよ。リオの次の勇者が、リーフでよかったのよ……。最期まで存分にアリストといちゃいちゃして」
「あははっ」
リーフは両親と話してから笑うことが多くなった。心の仕えが取れたみたいに。
「また生まれかわっても、逢えたらいいっすね」
最期の別れだと分かっていても、私はリーフに笑顔を向ける。
また同じ世界に生まれ変わったとしても逢えるかは分からない。でもきっと、私に逢えなくてもリーフにとってもっと幸せな来世になる。
その権利があるくらい、この世界でリーフは頑張った。
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