#69 異種族恋愛
この物語のテーマはジェンダーです。
物語の進行上の表現、オタク的表現があることをご了承の上、もし配慮が足りていないと感じる箇所がございましたらご指摘お願いいたします。
必要性のご説明や表現の修正を行わせていただきます。
また、一部過激な描写を含みます。
クロスのお店を手伝う店員としてアトラージュが名乗りを上げる。
けど妖精には人間サイズの通貨は大き過ぎる。
「お前に会計は難しいだろ」
「硬貨は重いのよ」
妖精の森では魔石内通貨、電子マネーのようなものが既にあった。妖精王とシュタインメッツ王との間で何かあったのかそれを逆輸入した形で人間の間にも広まっている。リオが生き返った時代では魔石内通貨を人間の町でも使えるようになっていたし、現金に換金もできた。
魔石内通貨が主流になりつつあるとはいえ、現金派はまだ多いのが現状だ。
セキュリティの面からも妖精のアトラージュが現金を扱うのはやめたほうがいい。
「私も魔族になるのはどうなんだわ?」
「え⁉ うーん……クロスを手伝いたいだけなんて理由じゃアルカナは了承しないと思うのよ。私の時も最初断られたのよ」
「そうなんだわ? 魔族にしてもらう条件はなんなんだわ?」
「……アルカナを嫌いにならないこと、なのよ」
「んん? そんなに嫌な人には思えないんだけど……どういうことだわ?」
アルカナがどういう考え方をしてるのか、ざっと話す。
この20年ほど一緒に暮らしてきて、ほとんど動物的な言動はしなくなった。見た目の通り大人な振る舞いもできる。
生まれたばかりの時と考え方が変わったとかは聞いていないけど、多分根底は変わらないはずだ。
「あたしは別に嫌いじゃないんだわ。そんなに魔王のこと知らないけど」
クロスとアトラージュが来て半年を過ぎた。
クロスの服作りを一緒に眺めたりはしても会話はほとんどなかっただろう。アルカナはアリストほどじゃないけど口数が少ない。口を開けば褒め言葉が出てくる。隔世遺伝かな?
「まぁ、魔王とのことは任せるわ。クロスはもうちょっと小物のバリエーションを増やせ。アクセ以外でだ」
「バリエ……分かりました」
魔王城へと帰ると、夕食の席でみんなに一連のことを話した。
「私は構わん」
「え⁉ いいのよ⁉」
私の時と全然違う⁉
「私の分け与えるスキルが役に立つのなら嬉しい」
「魔王は普通に良い人なんだわ」
「狼も誰か魔族にしたほうがいいだろうか……ひとりで客の相手は手が回らんだろう」
「休憩も回せたほうがいいよな」
あんまり休憩取ってないリオが言う……?
「お前たちの中で不老不死を受け入れる覚悟のあるものはいるか」
アルカナが狼たちに問い掛けると、真っ先に応えたのが1頭いた。
あまり近付くことはしないけど遠くからアルカナを見つめて尻尾を振ってる姿を何度か見たことがある。アヴァンシアの子どもだ。
「レヴァンテか……来い。お前もだ、アトラージュ」
私の時と同じように親指の腹を犬歯で噛み切り、血を出させた。
「私のことを嫌いになったと判断すれば契約を一方的に破棄し、即刻死んでもらう。了承できるなら飲め」
レヴァンテがゆったりと近寄ってくる間にアトラージュが飛んでいき、アルカナの指に触れた。
「あたしの願いを叶えてくれる人を嫌いになんてならないんだわ」
アルカナの血を取り込むと、左手の甲にあったクロスとの契約紋から、アルカナとの契約紋へと形が変わった。
契約紋の位置は人それぞれだけど、その人に浮かび上がる位置は同じになる。
因みに勇者の証である紋章は必ず右手の甲に現れる。相棒であるアトラージュの契約紋が反対の手の甲に現れるとかなんか素敵。
手繋いで呪文唱えたらなんか出たりしなかったかな?
続いてレヴァンテがアルカナの血を舐めた。どことなく恭しく。
アルカナはふたりに向けて掌を翳しマナを解放した。これで獣人の姿を取れるようになる。
羽織りを脱ぐとレヴァンテの背に掛けてやった。
「言葉を話せるか?」
“御意”とでも言いそうに頭(こうべ)を垂れて、一旦羽織の中に隠れた。身を起こすと獣人の姿になっていた。
「まおうさまの血をわけあたえていただき、こうえいにぞんじます」
めちゃくちゃ喋れてるー⁉ ちょっと舌っ足らず感はあるけど敬語完璧か!
言葉はどうやら本心のようで、千切れんばかりに尻尾を振っている。そして眼がきらっきらしてる。
歳は成人してるっぽいけどまだ若い男性だ。20代前半~半ばくらいかな。
「名前でいい」
「はぁっ! ありがたきしあわせ!! アルカナさまとおよびさせていただきます!!」
「うむ……まぁいいだろう」
なんかキャラ濃そうな狼だな。
「アトラージュは人間サイズになってみないのよ?」
「……、フィエスタ、ちょっと来て」
「え?」
「す、すぐ戻るんだわ!」
みんなにそう言い残してアトラージュが向かったのはクロスの部屋だ。私を連れてきたのはドアを開けてもらう為? っていうか、ここに用事なんてひとつしかないじゃない!
抽斗の中に仕舞われた服を取り出し、着替えを始めた。
着ていないと大きさが変わらないからね。
私も妖精の姿に戻って後ろを手伝った。
先に人間サイズになると、アトラージュは目を瞑って念じた。
「……私だけじゃそんなに実感ないのよ? みんなの……っていうかクロスのところに戻るのよ」
私はアトラージュを連れて食堂に戻った。真っ先に向かったのはリオの元だ。口を滑らせる前に塞ぐ。
「アトラージュ! かわ――」
「それはリオが言うべきことじゃないのよ!」
「えぇ?」
初代が無言でじっと見てくるからすぐに塞いだ手を退けた。本当に嫉妬深いんだから。
クロスは少しだけ駆け寄って、近くでアトラージュを見た。
「……やっぱり、似合ってる。……可愛い……」
クロス照れてね? 面と向かって言えてないじゃん。何これ甘酸っぱい~!
アトラージュは見る見る顔が赤くなり、口元がにやけないように変な顔になった。
「……あ、当たり前なんだわ! クロスがあたしの為に作ったんだから!」
ツンデレるアトラージュ可愛いなぁ! もう付き合っちゃえよー!
なんてノリで言えることじゃないけど。
人間と不老不死者なんて……分かってたからキザシは踏み出さなかった。
あのふたり、本当に結婚できてよかったなぁ……。
「クロスのタイプだったってことかな? 妖精の小ささだと顔の作りってよく分からないからなぁ」
「……だとしても、勇者も不老不死になれば封印を繰り返すしかなくなる。それは、俺が過ごしてきた年数を遥かに超え途方もない年月を生きることになる」
「歳を取らないと怪しまれてお店もできないしな。折角いろいろ始めてるのに」
「勇者が選ぶことだ。俺たちが生きているうちに決めるかは分からんが」
「……そうだな。幸せになる未来を選んでほしいよ」
私も見守ろう。アトラージュとはもうずっと一緒にいられるんだから。
それからリオの店を閉め、少し改装した2か月後にクロスのお店がオープンした。
アクセサリーに加え帽子やスカーフ、バッグも取り揃えトータルコーデからポイントコーデまで、とりあえず手に取ってもらいやすいように工夫されている。
小さいながら商談室もある。ここを利用してくれたらクロスのやりたいことが叶うんだけど、まずお店を口コミで広めてもらうことが最優先。オーダーメイド希望者が来店してくれることを願うばかりだ。
ギアはこの2か月の間、商業ギルドを回ったり王侯貴族相手に宣伝しに行ってくれたようだ。少しの商品と、私が描いたクロスのアイデアデッサンを持って。
なんだかんだ紙って便利なんだよね……。
魔石がスマホ並みに画像が綺麗になったりすればいいんだけど、マナを使うからか魔法はキラキラしてて鮮明さに欠ける。
とはいえ、綺麗な紙を使えば製造元が割れるので、あえて質の悪い紙を別途で作ってもらった。クロス自身でデッサンが描けるよう教えたから商談の時に活用してもらう。
スタートは上々のようだ。
お店の名前は「ATTRAGE」。
いやだから妖精の名前にするのなんでー⁉
子どもの名前を店名にするとかと同じ感じなの? アトラージュは店員だし! 店長のクロスとそういう仲って思われるじゃん絶対!
名前が決まった時のアトラージュの複雑そうだけど嬉しそうな変な顔は面白かったけど!
クロスのお店がオープンしてから数週間経った頃。
唐突にがくんと膝から崩れ落ちたリオを、傍にいた初代が咄嗟に支える。
「――リオっ⁉」
「はは……済まない。……足に、力が入らなくて……」
リオは、自力で歩けなくなった。
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